第一幕 開かれた扉 4:本とボタン
本を借りた日から数日。私は大学の勉強とバイトに追われていた。本を読もうと思っても、家に帰ってもすぐに寝てしまい、まだあの本を読めていない。今日も疲れた。帰るとすぐに、ベットに自分の身を放り投げた。ベットに横になりながら、大学のことやバイトのことに思いを馳せた。そうしているうちに、だんだんと瞼が重くなっていくのを感じ、気がついた時には深い眠りについていた。ぼやりと、急に目の前が明るくなった。真っ白な空間で、周りには何もない。ただ存在するのは立っている私と、宙に浮いている本があるだけ。すると、どこからともなく、声聞こえた。耳を澄ませると、その声はどうやら、目の前の本から聞こえるようだ。私は一歩また一歩と本に近づき、その手に取った。やっぱり、この本から声が聞こえる。その本はかなり埃をかぶっていて、また、なぜだか分からないけれど、その本を見なければならないと私の心の内がそう叫んでいた。私は、その直感を信じて、勢いよく埃を手で払いのけた。そして、目を凝らして見ると、本はあの「童話集」ではないか。私は、驚きに包まれ、愕然とした。なぜこんなところにこの本があるんだろう。なぜあんなにも埃を被っていたんだろう。私が借りたこの本は、こんなにも埃を被っていなかったはずなのに。不思議に思いながらも私は、意を決して本を開いてみた。すると、あの頃の私達が笑っている記憶の欠片が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。??:〜〜〜なんだ。これはね、僕と璃羽だけの秘密。ハッ!!!
私は勢いよく目を開けた。気がつくと、少し息が荒くなっていた。私はあのまま寝ていたのか。でも、さっき、見た夢。またあの少年が出てきた。ほんと、どれだけ私はあの頃が恋しいのだろう。残像を追いかけているにしか過ぎないのに。と思い出に浸るように私は、天井を見ていた。そして、あの本を、まだ借りた袋に入ったままの状態にしていたことを思い出した。私は、起き上がって袋を探した。あの本も、確か夢に出てきたはず。なんてことを考えながら。そして、袋を見つけ、あの本を取り出そうとした瞬間。体のバランスを崩し、側にあったクマのぬいぐるみにぶつかった。そして、その衝撃で、ぬいぐるみごと本を床に落としてしまった。あー。もう。私は何をやっているんだか。あんなにも寝ていたのに、まだ疲れが取れていないなんて。と頭を抱え散らばった床に目を移した。片付けよう。そう思って、クマのぬいぐるみを拾い上げた。すると、落としたときに紐が切れたのか、コロリとボタンが転がった。また、あの少年だ。なんなんだろう。最近、いつにも増して、彼の存在が大きくなっているような気がする。その、言いようのない想いを断ち切るかのようにボタンを拾い、その手で本を拾おうとした。そのとき、突如としてパァーーっと眩しい光が全身を包み込み、私は本に吸い込まれるようにして、落ちていった。
……………………………………
ザクッザクッ、ジャリ、ポツ、ポツポツ、シャーッ、ザァー、ツー、ポタん。んん?これは土の匂い?そして、ちょっと冷たくて濡れているような感じがしなくもない。しかも、何かに当たっている感じもする。徐々に意識が戻り、視界が開けてきた。ん?なんだろう。目の前で、何かが動いている。それが人だと分かったとき、私は飛び起き、慌ててあたりを見渡した。そして、私は、恐る恐る言葉を発した。
「ここはどこ?」
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