第一幕 開かれた扉 2:憂鬱

私は篠宮(しのみや)璃羽(りう)。

都内の大学に進学している大学生だ。

そう。私は何の変哲もない、ありきたりの平凡な大学生。

昔から言われている「大学生は、人生のバカンス」という言葉は、私にとって、まるでユートピアか何かと勘違いをしている大人のたわごとでしかないと思っている。そして、今の私は、色鮮やかなバカンスには程遠い。大学に行って、家に帰っての繰り返し。大学がないときには、バイトに明け暮れ、遊ぶ時間なんて毛頭ない。はっきり言って、私の人生詰んでいるとしか思えない。

そんなこと言ったって、友達と遊ぶ時間くらいはあるだろうと思う人もいるだろう。でも、私には友達が何なのかがわからない。私が経験してきた友達というものは、その場の持て余した話相手にしか過ぎないからだ。そんな、つかの間のくだらない話の相手に対して忖度だ、嫉妬だ、なんだのと、群れるほうがバカバカしいと感じている。


私は人が全員、顔の仮面をつけ、手足があるだけの、透明人間だと思っている。みんな本音を隠し、本当のことを語らない。どれが本当でどれが嘘か見分けがつかず、信じれば裏切られる。それも、こんな心持ちなのも私だけじゃない。行きかう人々みな、私みたいな人間不信で、常に何かにおびえているように私は見える。それは、地位かもしれないし、金銭かもしれない、あるいは、信頼でもあるかもしれない。

うつむきがちな姿勢で、覇気のない表情の人々がいる世の中で、私もそのうちの1人に数えられているのだろうと、歩いていた足を止め、空虚な空を見つめた。


そんな私には、世界が酷く、くすんで見える。子どもの頃、真っ赤に染まっていた東京タワーは、今となっては赤黒く汚い色に、あの子からもらった黄金に光輝いていたボタンも、今の私の目には、黄土色に変色し錆付いたものになってしまった。


なんのために、生きているのだろう。

なんのために、こんなにも一生懸命になっているのだろう。


ただ、私の中にあるのは、言いようのない焦燥感と、先の見えない不安、そして世の中に対しての絶望感。それだけだ。この先、私はどうすればいいのだろうか。

このまま一生寝ていれば、あの頃の、あたたかな日々に戻れるのだろうか。

そんなことを思いながら、明日の試験の勉強をするために大学の図書館に来ていた。

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