おとぎ話の世界で君ともう一度

@roku_66

第一幕 開かれた扉 1:微かな記憶

??:ね。璃羽。ちょっと手出して。


ガサゴソ。


??:はい………。これ、あげる。


璃羽:???。これ?なあに?


??:これは、第二ボタンって言うんだ。

   そしてこれはね、僕のここ(心)にある大切な気持ち。


璃羽:???大切な…気持ち?


私は、その意味がなんだか分からなかったけれど、とても心がくすぐったくなって、嬉しくなったような気がする。


??:そう。これは璃羽と僕との秘密。璃羽は守れる?


璃羽:うん!守れるよ!


??:そっか。それじゃ。いくね。


その瞬間、ぼやぼやと滲むように、薄れていく。


待って!いかないで!


………………………


ビビビッ!!!ビビビッ!!!


私はゆっくり目を開けた。目覚ましが鳴ったみたいだ。

まだ、まどろみの中なのか、頭がはっきりとしない。

だんだんと窓の外から聞こえてくる、鳥のさえずり、車のガソリンを燃やす音。少し手をうごかしたと同時に感じる、布団の中で少し汗ばむ体、閉めたカーテンの隙間から覗く眩しい光。私は、朝が来たのだと分かった。私は、重い身体を引きずるように、部屋中に響く目覚ましを投げやりに止めた。


そうか、あれは夢か。またあの夢を見ていた。


そう思って起きあがり、目をこすると、袖が濡れた。


ああ。私はあの朧げな夢の中で、泣いていたんだ。あたたかくて、柔らかな陽だまりのようなあの空間に。今よりずっと、景色が色づいていたあの頃に。


まだ、微かに残っている、優しすぎるような声とあのとき軽く触れた温もり。そして、包みこまれたような落ち着く匂い。私は、自分の手を見つめ、ぎゅっと握りしめた。


完全に目が覚めた頃、私は、ふと疑問に思った。


そういえば、あれは誰だったのだろう。あのボタンをくれた少年は。


私は、唯一部屋の中にある、クマのぬいぐるみに目をやった。ぬいぐるみの首から下げている”それ”はカーテンの隙間からこぼれる日差しによってキラリと光を放っている。

私は、布団から足を下ろし、勢いよくカーテンを開けた。先ほど見た夢を、記憶の奥へと追いやるように。

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