第11話 選択
「助けてください!」
立ち去ろうとする俺たちに声を発するルリ。
だが、どうしても嫌な予感がして返事ができない。
「今、学園には多くの生徒がいるんだ。教師もいて、だけど私たちはこんななりだから仲間に入れてもらえなくて……助けてください。力を手に入れるまででいいです」
ルリの発言に、選択を迫られている。
ナオはルリの発言に対して完全に足を止めて、三人の不良達も期待するような眼差しを俺に向けている。
さて、どうしたものか? 奴隷の契約を結べば俺に危害を加えることはできない。
だけど、果たしてこの人数を連れ歩くことは、本当に正解なのか? 全ての責任を負う覚悟が俺にあるのか?
「一人だけだ」
「えっ?」
「お前達の中の一人だけ、強力してやる。全員を強化して、こちらが襲われることを考えるなら、一人だけなら倒せる」
俺は人を信じない。
社畜時代に、仲間などいなかった。クソみたいな人間ばかりを見てきた。
人はどうしても優劣をつけたがる。学園という大勢のいる場所に行けば、カーストが生まれて上位の下位に分けようとしてくる。
そんなことをしているだけ無駄だ。
俺が欲しいのは、俺が支配する環境だけだ。
「わかった。なら、私を強くしてよ」
「お前が?」
「うん。確かにこいつらの方がゲームのやり方を知っているかもしれない。だけど、女の私は一番弱い。弱い私が強くなる方が戦力としていいでしょ?」
一番まともな考えだ。女であるルリなら、倒すことも難しくない。
男達を強くして反発されたら面倒だ。
「わかった。ナオ」
「うっ、うん」
ナオも納得したようだ。
俺は三人を拘束する。男子高校生三人の亀甲縛りなど見ても嬉しくはないが、これはルリにとっての人質だ。
「あんたって徹底しているね」
「もしも、俺に嘘をついてすでにジョブを手にしていて、俺たちを騙そうとしているなら、先に拘束していれば、それもできないだろ?」
嫌な勘は今も働いている。だけど、気分的に人を見殺しにするよりはマシだ。
「外に出るぞ。魔物を倒す」
「ああ」
俺はルリとナオを連れて外に出た。
「……ここならモンスターがいそうだな。」
コンビニを出た俺たちは、瓦礫が散乱する通りへと向かっていた。
ナオは不安げに周囲を見渡し、ルリは一歩下がって俺の背中を追う。俺は先頭で鞭を構えながら、警戒を怠らない。
「タイチさん、本当にルリちゃんを助けるの?」
ナオが小声で囁く。どうやら何かをナオも感じているようだ。
「一応な、だが信用はしていない。奴隷契約がある以上、最悪は俺が支配下に置けば裏切りの心配は減る」
俺はそう言いながらも、気を緩めることなく前を見据えた。
「ふふっ、なんだかんだ言って優しいだね」
ナオが軽口を叩く。その口調にどこか挑発的な響きがある。
「勘違いするな。ただの自己防衛だ」
俺は短く言い放つと、周囲の異様な静けさに耳を澄ませた。
不意に、遠くから聞こえる低い唸り声。
「来るぞ……構えろ!」
俺が声を上げた瞬間、通りの瓦礫の向こうから黒い影が現れた。それはゴブリンより一回り大きな、野獣のようなモンスターだった。
「な、なんだあれ……」
ルリが息を呑む。モンスターは見てきただろうが、戦っていない者には恐怖の対象だろう。
「ワーウルフか何かか? ま、なんでもいい。やるだけだ!」
狼の顔に、人間の体を持つモンスターを、俺は鞭を振りかざし一歩前に出る。
ワーウルフのようなモンスターがこちらに向かって突進してくる。俺は鞭を振り下ろし、その前脚を狙った。
バチン! 鋭い音と共に、モンスターの動きが一瞬止まる。
「おおっ、効いてる!」
ルリが叫ぶが、油断は禁物だ。
ワーウルフはすぐに体勢を立て直し、低い唸り声を上げながら再び突進してきた。俺は瓦礫を盾にしてかわしつつ、振り返ってルリに指示を出す。
「ルリ、後ろに下がって見てろ。これが戦いだ!」
「……っ、わかった!」
俺は再び鞭を振るい、今度はモンスターの顔面を狙った。
バチン! 鞭が命中し、モンスターは怯んだが、それでもすぐに反撃を試みる。
「タイチさん、後ろ!」
ナオの声で反射的に飛び退くと、ワーウルフの爪が地面を抉る。
「くっ……タフだな!」
俺は舌打ちしながら、間合いを取り直した。
モンスターの攻撃をかわしつつ、再び鞭を振るう。今度はモンスターの足元を絡め取るように叩き込むと、奴はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。
「今だ……!」
俺はとどめを刺すべく、全力で鞭を振り下ろした。バチン! 衝撃音が響く。
弱ったワーウルフを亀甲縛りする。
「ルリ! 倒せ!」
俺は荒い息を吐きながら、モンスターにトドメを刺すように、ルリに指示を出す。
ルリは、瓦礫でワーウルフを殴って倒した。その体は徐々に霧のように消え、魔石と光る毛皮が残された。
「やった! やったよ!」
ルリが歓声を上げる。ナオが駆け寄り、俺を見上げた。その瞳には純粋な尊敬の色が浮かんでいる。
だけど、そんな視線を向けられるような人間じゃない。
「へぇ……本当に強いんだね、アンタ」
ルリも感心したように呟くが、その目にはどこか計算高い光が宿っている。
「どうだ? ジョブは手に入ったか?」
「ああ、手に入れたよ。ありがとうね。《誘惑》」
「うっ?!」
油断したわけじゃない。だけど、俺は油断した。
嫌な予感はこういうことだったんだ。
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