第10話 友人と奴隷

 事情を聞けば、狭山瑠璃サヤマルリは、曽根奈央の学友であり、妖艶系ヤンキーは、気弱系ギャルとはタイプは違うが、同じクラスだったという。


 そして、俺を襲ってきた三人組はその妖艶系ヤンキ、ルリの手下だそうだ。


 現在、その豊満な体に釣られて、言うことを聞いているように見えるけどな。


 まぁ変わった世界でガキたちが盛っていようとも、俺にはなんの関係もない。


「それで? なんで俺たちを襲った?」

「はぁ〜、そんなの手っ取り早いからだよ。コンビニには水はあるが食料はすでに空っぽだから、食料が手に入るなら、なんでもいいって手っ取り早く来たやつを罠に嵌めただけ。なんか文句ある?」


 なかなかに肝の座った女であることは間違いない。


 だが、相手が悪かったというわけだ。


「でっ? お前たちはモンスターを倒したのか?」

「はっ? そんなことするわけないじゃん」


 ルリは顔と胸はいいが態度がデカい。いや、胸もデカいが正直好きなタイプではない。


「そうか、ナオ。いくぞ」

「えっ? いいの?」

「ああ、こいつらが生きようが死のうがどうでもいい」

「ちょっと待ちなよ! あんただって、ナオの体目当てで近づいたんでしょ? 人のことそんな風に言えんのかよ」


 どうやらこちらの関係を勘違いしているらしい。いや、勘違いでもないか、奴隷として使役しているわけだからな。


「あっ? だからなんだ? それがお前になんの関係がある?」

「あ〜しのダチをおっさんなんかにやるかって話。ナオ。ウチらとこに来なよ。あ〜らといればいいじゃん」


 ナオを仲間に引き入れようとしているルリ。その後ろで三人の男たちはニヤニヤとした顔でこちらを見ている。


「えっ? えっ? でも」

「それともなに? あ〜しらよりもそのオッサンがいいの?」


 ナオに凄いんでいうことを聞かせようとするルリ。


 この世界が変わっていなければ、この二人の関係を俺が気にすることはなかったと思う。だが、気弱なギャルと強気なヤンキー姉さん。


 世界が普通なら、面倒見のいいヤンキー姉さんに引っ張られて、ナオもそこそこに学園生活が送れていたのかもしれない。


 だけど、今は違う。


 このまま着いていけば、必ず食い物にされるだろう。


 ルリが、その強気な態度で他を押さえても、いつか歯止めは効かなくなる。


「ナオ、お前が決めていいぞ」

「えっ? タイチさん?」


 だからこそ、俺はあえてナオに選ばせることにした。


 俺たちの信頼関係はたった二日か三日一緒にいただけだ。そして、彼らの付き合いは俺にはわからない。


 ここで無理やり俺がナオに着いてこいと行っても遺恨を残すだけだ。

 

 俺は誰かの人生を背負いたいと思っているわけじゃない。ナオのことも便利な奴隷だと思っているだけだ。


「ほら、その男だって、ナオのこと足手纏いって思ってるんじゃない? だから、ナオに決めさせて自分は知らないって言っているんだよ」


 ルリはここぞとばかりに攻勢に出る。


 それがいいのか、悪いのか知らないが、押しに良いわナオなら有効に働くこともあるだろう。


「……ねぇルリちゃん」

「何?」

「ルリちゃんが助けて欲しいなら、私は助けてあげたい。だけど、それはきっとタイチさんの力を借りないといけない。だから、お願い。助けて欲しいなら、助けてって言った方がいいと思うよ」


 ここに来て、初めて風向きが変わる。


 ナオがルリを心配するように声をかける。


「なに? ナオ、あんたこのおっさんに無理やりやられた? だから気を遣っているの?」

「なっ、何をやられるの? タイチさんは悪い人じゃないよ」


 いや、俺は自分は悪い人だと思っているぞ。出会ってすぐにナオを奴隷にしたからな。まぁナオが命の危機に瀕して、選択ができない状態だったしな。


 案外、ルリの言っていることは間違ってはいない。


「ふ〜ん、ねぇタイチだっけ? あんた強いよね? 私が相手してあげるから、助けてよ」


 ナオが求めていたような助けを求めるような言い分ではないだろう。だが、このルリという女性らしい言い方に俺は笑ってしまう。


「何を助けろと? 食料なら分けてやってもいいが、お前らじゃすぐに死ぬだろ」

「はぁ?! 誰が死ぬんだよ!」

「別にどうでもいい。そうだな。例えば、お前たちの誰かが凄い力を手に入れたら、裏切らない保証はないよな?」

「何? 凄い力って?」

「例えばだって言っただろ?」


 こいつらに力を与えても碌なことにはならないと思う。


 だけど、俺よりも若いというだけで生きる権利はあるように思えた。


 上司や先輩に虐げられた俺は、そういう奴らまで助けたいとは思わない。ナオを助けた理由も自分よりも年下で、素直だったからだ。


「別に裏切るとか裏切らないとかないし」

「そうか、ならヒントをやる。モンスターを殺せ」

「はぁ?! さっきからなんなの?」

「おい、男子共、お前らはゲームぐらいやったことあるだろ?」

 

 俺が問いかけると、三人の内、二人が頷いた。


「ゲームと同じだ。モンスターを倒したら強くなってレベルを上げられる。お前だけの力が手に入れられるぞ。ただ、それを守るために使え。最初は力を手に入れて嬉しいかもしれないが、後で絶対に後悔することになる。仲間を大切にしろ」


 不良たちは絆を大切にする。かもしれないので、教えてやる。


「ナオ、俺から言えるのはそれだけだ。それ以上は何も与えない」

「うっ、うん」

「ナオ!」

「ごめんね。ルリちゃん。私はタイチさんと行くよ。お父さんに会わしてもらうって誓ったから」


 どうやらナオの選択は俺に着いてくるようだ。


 奴隷解除も視野に入れていたが、そんなことにならないようだ。


「待って!」


 だが、そんな俺たちをルリが止める。


「まだ何か?」

「助けてください!」


 それまでとは違う態度で、ルリが助けを求めた。


 それが嘘か誠か俺には判断ができない。


 だが、嫌な予感だけがしていた。

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