第4話 奴隷第一号
改めて俺は金髪ギャルに視線を向ける。
亀甲縛りされて、俺の言葉に反応する姿は見ていてあきない。
何よりも、彼女は縛られた状態のまま涙目で俺を見上げている。
その顔がイイ! こいつは素晴らしい逸材になるに違いない。常々思っていた。妄想が幻覚とは、自分の脳が望む光景であり、だが、それを上司や同僚の男にしても決して面白いはずがない。
所詮は、自分の支配欲を満たすだけだ。
それはそれで間違ってはいないが、動画で支配されることに快感を表す女性の顔はとても綺麗だった。
「あっ、あの! 奴隷どういうことですか……?!」
怯えた瞳で俺を見る。魔物に襲われ、亀甲縛りで縛られ、奴隷になれと宣言される。普通に考えてあり得ない状況だ。
いや、もうこの世界があり得ない状況になっているんだ。
ギャル自身が、「ハウスキーパー」という固有ジョブを受けたと告げた。
だが、彼女自身はまだ理解が追いついていないのだろう。なら、今なら丸めこめるかもしれない。
震える声で問いかけてくる彼女。俺はその怯えた表情を見て、少し笑みを浮かべた。
「お前、さっきまで襲われてたんだぞ? このままあんな魔物やモンスターがいる世界で生きていけるのか?」
「うっ!」
ゴブリンに襲われたことを思い出したのだろう。さらに泣きそうな顔が歪む。
「俺がお前を助けてやるよ。もちろん、奴隷になると誓うならな」
「い、いや……でも、ドレイって……」
再び小声でつぶやく彼女に、俺は膝をついて視線を合わせる。彼女は顔を背けるが、逃げ場はない。
「なぁ、お前、名前は?」
「えっ? 名前……ですか?」
「そうだよ。普通に会話してんだから、名前ぐらい聞くだろ? 俺は佐渡太一。二十七歳。元々は会社員だったが、この世界は変貌して生き残ることも困難になった。だけど、お前を気に入ったから生き残る手伝いをしたい。どうだ?」
彼女は戸惑いながらも小さく答えた。
「……ナオ……です。
どうやら自己紹介をさせたことで、自分の置かれている状況を整理できたようだ。
「ナオか、じゃあナオ。さっきお前が助かったのも、ゴブリンを倒せたのも全部俺のおかげだ。分かるよな?」
「は、はい……」
「つまりだ、お前は俺に感謝しなきゃいけないんだよ。だから、俺の『協力者』として、これから一緒にやっていこうって話だ」
あえて、奴隷という言葉を使わないで、協力者と言い換える。
そう言うと、ナオは困惑した表情を浮かべながらも、首を小さく縦に振った。
「協力者……?」
「そうだ。俺はお前に無理に何かをさせるつもりはない。ただ、この変わっちまった世界で生き延びるには、お互い助け合うしかないだろ?」
言葉だけなら優しいように聞こえるが、俺の中で浮かぶのは明確な支配欲だ。彼女を「協力者」として置くことで、支配の快感を得られる――そう考えると、自然と口元が緩んだ。
「じゃあ、縄を解いてやるよ」
俺は軽く手を振り、拘束の魔法を解除する。ナオはその場に崩れ落ち、震える手で自分の体を抱きしめた。
「だいじょうぶだ。お前はもう大丈夫だよ」
俺の声に、ナオはかすかに頷く。まだ完全に安心しきった様子ではないが、少なくとも俺が敵ではないと理解したようだ。
「それでさ、ナオ。お前、さっき『何が起きてるのかわからない』って言ってたよな?」
「うん……だって、急にこんなことになって……」
「分かった。じゃあ、俺が説明してやる」
俺は腰を下ろし、ナオに視線を合わせながら話を続ける。
「まず、この世界はもう『普通』じゃなくなった。お前も見ただろ? あの黒い塔とかモンスターとか、それに声も聞いただろ?」
「うん……」
「あいつらを倒せば力を得られる。さっき、お前が聞いた声が言ってただろ? 『固有ジョブ』とかなんとか」
ナオは恐る恐る頷く。
「お前のジョブは『ハウスキーパー』だ。俺のジョブは『奴隷商人』って言ってな奴隷として契約した奴の力を一部使えるって能力なんだ」
「だから奴隷?」
「ああ、俺の奴隷は今いない。だけど、ナオがなってくれれば俺はナオを守ってやれる。それにナオを強くもできる。お互いとって悪い話じゃないだろ?」
俺は腰に下げた鞭を見せつけるように持ち上げた。
「俺はこれでゴブリンもオークも倒せる。お前はどうだ?」
「わ、私は……何も……」
ナオは自信なさげにうつむく。
「お前のジョブが何に使えるかは、俺にも分からない。だけど、この世界で力を得た以上、それを使わなきゃ生き残れないんだ」
ナオは不安そうに唇を噛んだ。俺は笑みを浮かべながら彼女を見つめる。
「なぁ、ナオ。お前、生き残りたくないのか?」
「……ううん! 生きたい!」
即答するナオは言葉を発した直後に、また戸惑った顔を見せる。
「でも……」
「だったら、俺に協力するのが選択肢として、一番早いぞ」
「……他に方法は?」
「あるな」
「えっ?」
「一人でなんとか生き残ればいい。俺は勝手にする」
「あっ!」
俺も自分で言っていてわかったことがある。こんな変わった世界で、信用だけではダメなんだ。相手が信用できないなら一緒にいるだけ無駄だ。
絶対に争いになる。
だけど、奴隷契約を結ぶことで、一方的ではあるが主従契約を結んで、俺は彼女を信頼できる。
「みっ、見捨てないで!」
俺が考え事をして、言葉を発しなくなると、それを不安に感じのたか、ナオが涙目で俺の服を掴んできた。
「なんでもします。奴隷契約もします! だから」
自分でも気づいていなかったが、黙ったことでナオの不安を煽ってしまっていたようだ。
「分かった……」
俺は静かにナオの前に選択肢を提示する。
「奴隷契約に承認するか、しないか、選んでくれ」
ナオは最後まで悩んでいたが、承認を選択した。
奴隷第一号と契約完了だ。
「とりあえず、食料と寝床を探さないとな。その前にナオはどこに行こうとしていたんだ? 外にいた理由を教えてくれ」
ナオは不安げな表情を浮かべながらも、俺の質問に答えた。
「えっと、お父さんが帰ってきてなくて、お父さんを探そうと思って」
「お父さん?」
「うん。お父さん夜の仕事をしていて、いつもなら帰ってくる時間に帰ってこなくて……」
「そうか、だけど、その格好じゃ探しに行けないよな。まずは着替えからだ。家は?」
上半身下着姿でいることに改めて気づいた様子で、ナオが今更ながら胸を隠すが、なかなかにボリュームがある胸は亀甲縛りの際には強調されていた。
「エッチです!」
「奴隷だからな。もっと凄いことをするかもだぞ」
俺がそうやって告げてやると、見た目はギャルで慣れていそうなのに、顔を真っ赤にして恥ずかしがる姿は可愛かった。
「まずは、ナオの家で着替えだ。案内してくれ」
「う〜大丈夫かな?」
「ほら、急げ、建物が崩れるかもしれないぞ!」
「はっ、はい!」
改めて外に出て気づいた。上の階はオークの一撃で吹き飛んでいた。
よくそんなことができるオークを倒せたものだ。
「こっちです」
「ああ」
どうやらナオは同じ階の住民だったようだ。
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