第5話 ハウスキーパー
ナオの家に向かうことにした。食料だけでも調達できれば当面はいいだろう。
俺は彼女のジョブについて少しでも情報を得ようと試みることにした。
俺の固有ジョブ『奴隷商人』のような、特殊なジョブを彼女も手に入れた。
『ハウスキーパー』が、どんな風に役に立つかどうかは未知数だが、この非常時に、どんな力でも利用しないとやっていけない。
何よりも奴隷搾取のためにも情報は欲しい。
「なあ、ナオ。さっき『ハウスキーパー』のジョブを手に入れたと言っていたけど、それはどんなジョブかわかるか?」
「え? そんなのわからないよ。そもそも、ハウスキーパーって家を守る的な人のこと?」
うん。こいつはバカだ。それは間違いない。
「アホか、ジョブってことは職業だろうが。ハウスキーパーは、家事全般を代行して行う職業だ」
「そうなんですか? お手伝いさん的な?」
「まぁ間違ってはいないな……普通の意味ではな。でもこの世界ではジョブってのが戦闘にも関わってるみたいだし、ちゃんと調べておいたほうがいいだろ?」
ギャルは首を傾げながら俺を見上げる。
「どうやって調べるの?」
「……お前、ステータスウィンドウは表示されないのか?」
「ステータス……? ウィンドウ? なにそれ」
どうやらこの女、基本的な仕組みすら理解していないらしい。
「ナオ、さっきモンスターを倒しただろ? その時に青白い文字が浮かび上がらなかったか?」
「なんか出てたと思う。『ハウスキーパー』ってのも、そこで聞こえたよ。でも、消えちゃったよ?」
「消えたって……お前、それもう一回出せるから。『ステータスオープン』って言ってみろ」
ナオは不思議そうな顔で俺を見る。
「恥ずかしい?」
「いいからやれ!」
半ば怒鳴るように促すと、ナオは恥ずかしそうにしぶしぶ口を開いた。
「すてーたすおーぷん……?」
レベル:1
ジョブ:ハウスキーパー
固有スキル:家事全般
特殊スキル:拠点内の安全性向上、回復効果付与
装備:破れた学生服
体力:5/5
魔力:5/5
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:10
魔法攻撃力:5
魔法防御力:5
運:10
スキルポイント:10
ステータスポイント:100
ステータスが出たことを確認して、俺は改めてホッとする。
最低でも、固有ジョブは手に入れた。彼女の目の前に青白い光の文字が浮かび上がった。どうやら俺の言った通りにやったらしい。
「え、マジで出たんだけど! なにこれ、スゴ!」
「ほらな。これがお前のステータスだ。曽根奈緒」
「本当なんだよね?」
まだ疑っているナオの態度は呆れるが、ステータスは他人にも見えるようだな。ナオのレベルは1だ。
どうやら俺とスキルポイントやステータスポイントは同じようだ。
「俺のステータスだ。俺の名前は、佐渡太一。年齢は二十七歳。今日から無職だ」
無職という響きはいい。本当に社畜から解放されたんだと思える。
「なんで、無職のとこだけ嬉しそうなの?」
「それは俺という人間を構築するのに大事な部分だから教えられない」
「そっか、タイチさんも色々あるんだね」
「タイチさん?」
「うん。私もナオって呼ばれてるから、タイチさんでいいでしょ?」
「ああ、それは構わない」
女子から名前で呼ばれるなんて、いつぶりだろう? ちょっと驚いた。俺は童貞ではない。一度だけ彼女ができたことがあった。
大学時代のことだ。だけど、こんな風に名前で呼ばれるという記憶が全くない。
「うん。改めてよろしくお願いします。本当に奴隷商人ってジョブなんだね」
「奴隷商人はわかるのか?」
「うん。少女漫画にも出てきたことがあるから、異世界で奴隷を売り買いする人だよね?」
「ああ、俺もそういう認識だ」
ゲームとしてのステータスの知識はないが、漫画を読んでステータスの記憶はあるってことか? 案外、説明は難しくないのかもな。
「これってどうすればいいんですか?」
「指で押せば動くぞ。例えば『ジョブ』の部分を押せば詳細が出るはずだ。スマホと同じだ」
「ああ、そういうこと? えっと、ここ?」
ナオが『ジョブ』の部分に指を触れると、確かに文字が動き、彼女のジョブ説明が表示された。
ジョブ:ハウスキーパー
・炊事洗濯など家事の能力が向上する。
・拠点防衛が可能。
固有スキル:家事能力
・料理
・裁縫
・洗濯
・掃除
・収納
家事に関する能力が向上する。
特殊スキル:拠点内の安全性向上、回復効果の付与
・拠点を作って自分のハウスにできる。
・拠点を確保すると、防御と回復を拠点で行えるようになる。
短い説明だが、その説明を見て眉をひそめた。戦闘系のジョブではなさそうだが、拠点を守る役割としては重要そうだ。
「……戦えそうには見えないな」
「えっ、私って役に立たないってこと?!」
「いや、そうじゃないな。むしろ、こんな世界だからこそ、ナオの能力は貴重であり、かなりレアだと思う」
「レア? 私がレアなの?」
なぜか、嬉しそうなナオの顔に不思議な気分になる。
「レアなのは事実だが、戦闘系じゃない。生き残るのは難しいから、油断はできないけどな」
「そっか……でも、タイチさんが守ってくれるんでしょ?」
「えっ?」
「私はタイチさんの奴隷だもんね?」
「まぁそうだな。有効な固有ジョブだ。俺はナオを大事にする。それと絶対に守るよ」
奴隷に宣言することなのかわからないが、ナオが嬉しそうに笑っているからいいだろう。奴隷に嫌われるよりも有効な関係を結んでいる方が、俺としての望みを叶えやすい。
「ここが家だよ」
「ああ、入ろう」
たった数歩で辿り着ける距離を話しすぎたな。
家の中へ招き入れられる。父親と二人暮らしだと言っていた。一人暮らしの俺の家とは違う女性の匂いがする。
緊急時でなければ、絶対に関わり合いになることはない存在だろう。
そんな風に感じる家の匂いだった。
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