第5話 アイテムボックス
「まずは着替えてこい。その姿じゃどこにいけないだろ? 動きやすくて長袖長ズボンにしてきてくれ」
「うん。わかった」
外は異世界にやってきたような別世界ではあるが、ナオと出会ったことで、一人ではないという不思議な安心感を自分でも感じている。
ナオと結んだ奴隷契約。それによって、自分が優位に立っている。そのことがどこかで心に余裕を与えているのかもしれない。
「着替えてきたよ!」
金髪のゆるふわなロング髪に、なかなかに大きな胸元はダボっとしたパーカーによって隠されていた。下は動きやすいジャージをチョイスして、普段着や部屋着と言った感じだ。
制服から、普段着に変わっただけで、ギャルっぽさが減った気がする。それにゴブリンに襲われて汚れていた顔は、洗ってきたのか化粧を落ちて幼い顔をしていた。
「落ち着いたな」
「うん。動いて汗掻いたら化粧も落ちちゃうから、薄くしてきたよ」
奴隷契約が成立したことで、俺と曽根奈緒の間には新たな「主従関係」が築かれた。もっとも、今のナオのスキルやステータスでは、この荒廃した世界でまともに戦力にならない。
「さて、とりあえずナオの能力をもう少し見直してみるか。お前がどんな力を持ってるのか、ちゃんと把握しないとな」
「はい! よろしくお願いします!」
随分と素直になったもんだ。
俺はナオのステータスウィンドウをもう一度開かせた。目の前に浮かび上がる青白い光の文字列が、奈緒さんの現状を示している。
レベル:1
ジョブ:ハウスキーパー
固有スキル:家事全般
特殊スキル:拠点内の安全性向上、回復効果付与
装備:パーカー、ジャージ
体力:5/5
魔力:5/5
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:10
魔法攻撃力:5
魔法防御力:5
運:10
スキルポイント:10
ステータスポイント:100
「……で、この『ステータスポイント』ってのは、自分の能力値を上げるために使えるんだ。お前も持ってるだろ、100ポイント」
「うん、持ってるけど、これどうやって使うの? 押せばいいの?」
ナオは興味津々といった様子で指を動かす。
「適当に設定すると後悔するかもしれないから、とりあえず説明を聞け」
「は〜い」
奴隷契約を結んだからか、最初よりも親密度が増した気がする。
どこかオドオドとして、人に流されやすいタイプに思えるが、人懐っこいと言えば聞こえがいい。そんなナオの態度に振り回されるが、悪い気はしない。
それも奴隷契約に何かしら付属効果があるのか? まだまだ検証の余地があるな。
「ねぇ……どうやって振ればいいの?」
「……そうだな。最初は教えるから、今後は自分で出来るようになれよ」
「は〜い」
俺は少し考えた後で、ナオのジョブである『ハウスキーパー』は戦闘向きではない。だが、拠点を強化する特殊スキルがある以上、変わったこの世界では絶対に必要になる。
生き延びるためには役立つはずだ。とりあえず、その特性を最大限に活かす方向で調整するのが良さそうだな。
「まずは体力と耐久だな。いくら『ハウスキーパー』が戦闘向きじゃないっていっても、死んじまったら意味がない。最低でも体力と耐久は10以上には振っておきたい」
「体力と耐久ね……でも、それにこればっかり上げたら、他のところが弱くなっちゃうんじゃない?」
どうやらゲームを知らなくてもそういうことはわかるようだな。
「生き延びるためにはまず防御だ。それが終わったら、次に器用さと逃げ足を活かす方向に振るべきだな。ナオの器用さは最初から10もある。他より高いってことは、ハウスキーパーに重要ってことだと思う。あとは魔法だな」
「えっ!? 魔法が使えるようになるの?」
「多分な。適性があればだと思うが」
魔法という言葉に反応を示した。どうやらファンタジーな能力には興味があるようだ。
「じゃあ、体力に20、耐久に20、器用に30くらい振ってみる?」
「極端だが、悪くはない。残りは運と魔力に少し回しておくといい。『拠点内の安全性向上』とか『回復効果付与』ってのは、多分魔力を使うだろうからな」
「わかった! やってみる!」
相談しながら割り振りを決めて、嬉しそうに指を動かしていく。
ステータスウィンドウに反映され、彼女の能力値が変化した。
レベル:1
ジョブ:ハウスキーパー
固有スキル:家事全般
特殊スキル:拠点内の安全性向上、回復効果付与
装備:パーカー、ジャージ
体力:25/25
魔力:20/20
筋力:6
耐久:21
敏捷:11
器用:20
魔法攻撃力:10
魔法防御力:10
運:20
スキルポイント:10
ステータスポイント:0
「こんな感じ?」
言っていないのに、魔力攻撃力などに割り振ったのは魔法が使えるという話をしたからだろう。
「まぁ、そんなもんだろ。筋力よりも、耐久を多めにして、あとはバランスよく割り振れているな」
「へへ、私もやればできるじゃん」
嬉しそうに笑う顔は、こちらの毒気も抜かれる。
「ナオの固定ジョブは戦闘用じゃない。だから、無理に戦おうとするんじゃなくて。あくまで拠点防衛やサポート役だ。それを忘れるなよ」
「うん、わかった! ……でも、なんかスキルポイントってのもあるけど、これって何?」
「次はそれだな……」
俺は奈緒のスキルリストを確認する。彼女の固有スキルである「家事全般」に関連するスキルが並んでいるようだった。
スキルリスト
・家事全般(炊事洗濯に関するスキル)
・装備(装備している武器に関するスキル)
・ハウスキーパー固有(ハウスキーパーに関する魔法スキル)
「へぇ〜これが私が覚えられるスキル? ってこと?」
「ああ、そのスキルリストをタップすると、付随するスキルが現れる。ポイントを消費して、覚えられるって仕様になっている。現状は家事全般の基本スキルを所持しているみたいだ」
家事全般をタップしてもらう。
・炊事:レベル1(クッキング)
・洗濯:レベル1(クリーニング)
・掃除:レベル1(クリーン)
・収納:レベル1(アイテムボックス)
拠点確保
・曽根奈緒が拠点として認識している範囲を拠点にできる。
・拠点を確保すると、モンスターの侵入制限、回復効果向上付与。
「凄い能力だな」
「家の中にいれば私って最強?」
「まぁ最強ではないが、拠点確保ができれば、かなり重要でレアスキルであることは間違いないな」
「レアか〜」
何やら嬉しそうにクネクネとしている。
こんな物騒な世の中で、安全性の確保ができるのは大きい。
「これも今の世の中では便利だな。病院いらずだ」
「へへ、私って凄い?」
「ああ、めちゃくちゃ凄い」
「もっもう、そんな真面目に言われると照れるって。でも、あんがと」
ナオは確かに戦闘向きじゃない。だけど、彼女がいれば生き残る確率は格段に高くなる。
「ナオの場合、拠点確保が一番重要みたいだな」
「そっか……拠点か、この家じゃダメなの?」
「ダメじゃないが、正直わからない。この建物はいつ崩壊してもおかしくない。外に出てわかったと思うが、すでに上の階は崩壊している。ここもいつ崩れるのかわからない」
「う〜、確かに!」
少しでも地震や、近くで爆発でもあれば崩壊は早いだろうな。
「習得してほしいスキルが一つある」
「何?」
俺はスキルリストを見せてもらって、身震いした。
「この収納を強化してほしい」
「収納? 地味じゃない?」
「いや、今後絶対に必要になる。もしも、これをとってくれるなら、奈緒さんのことは俺が命をかけて絶対に守る!」
「そっ、そこまでいうなら取るけど。なんなのこれ?」
収納強化のスキルポイントは、8も消費する。
だが、今の段階でこれが取れたのは大きい。
ラノベによく手でくるスキル:アイテムボックス! その容量や内容を強化できる。
『収納強化』
・曽我奈緒の魔力量に応じて、異空間にアイテムを収納できる。
・強化されたことで空間固定して、入れたままの状態を維持できるようになりました。
・アイテムはなんでも入れることができる。生物は入れることができない。
《スキル『収納強化』を習得しました》
「よし、君のことは必ず俺が守る!」
「うっ、うん。なんか照れるね。男の人に守るとか言われるのって」
よくわからないが、奈緒さんは照れている。
そんなことはどうでもいいが、アイテムボックス持ちを奴隷にできたのは、俺にとって最大の朗報だ。
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