第6話 スキル検証

 ナオのスキルとステータスを整えて、後は外に出るだけではあるが、ここでスキルの検証をしておきたい。


 外に出てしまえば、次はいつ落ち着いて話ができるのかもわからない。ここで能力の特性や限界を把握しておかなければ、この異常な世界で生き延びることは難しい。


「まずは、俺の『奴隷契約』がどう作用してるのか確かめたい。ナオ、少しだけ付き合ってくれ」

「タイチさん、それはいいけど……なんかまだこの『奴隷』って響きに慣れないんだけど?」

「それは……まぁ、慣れてくれ。今はこのスキルが生き残る鍵だ」


 俺は奴隷契約のステータスを確認するためにウィンドウを開いた。


 契約が成立したことで、奈緒の能力値にどう変化があるのか気になっていた。


《奴隷契約効果:全能力値+1》


「……なるほど、俺のスキルの効果でナオの全能力値がプラス1されるのか」

「全能力ってことは……筋力とか魔力とか、全部?」

「ああ、文字通り全部だ。ただ、今の状態だと『+1』ってだけだから、大した影響はないかもしれない。だけど、俺のスキルが成長すれば、この効果も強くなる可能性がある」


 ナオは興味深そうに自身のステータスウィンドウを再確認する。


「ほんとだ……筋力とかの横に+1って追加されている。これってタイチさんのスキルのおかげなの?」

「ああ、そうみたいだな。これから先、俺がもっと強くなれば、この+1が+10や+20になるかもしれないな」

「おー! それならすごいじゃん! でも、今は地味だね」

「うるさい」


 俺は少し肩をすくめた。確かに、今の段階では効果が小さい。


 だけど、この奴隷契約が持つ可能性は無限大だ。


「次はナオの『収納増加』のスキルを試してみよう。異空間に物を入れられるってのは、この状況ではめちゃくちゃ便利だぞ」

「うん、でもこれってどうやるの? 説明には、現状の魔力では六畳一間分って書いてあるけど……」


 彼女が半信半疑な顔をしながら呟く。


「とりあえず、ナオの家で、奈緒さんが必要だと思う物を入れてみるのはどうだ? 女性だから、服とか化粧品とか必要だろ?」

「あっ、それいいね。やってみる!」


 ナオは早速、奥の部屋にいって手当たり次第に、収納を試みる。彼女の腕に光の腕輪が出現して、そこに収まるようだ。


 俺が使う『拘束の縄』と同じで、魔法で腕輪を作り出している感じだな。


「うわ〜凄っ!」

「えっと、入ってもいいのか?」


 俺は女性の部屋なので、入るのを躊躇って問いかけた。


「いいよ〜。てか、今は何もないよ」

「えっ?」


 中に入ると確かに何もない。ガランとした洋間が広がっていた。


「えっと、タンスとかベッドは?」

「うん。全部入れた。机と洋服タンス、それにベッドに本棚。全部入ったよ」


 それは凄い! やっぱりアイテムボックスはチートだ。


 ナオから搾取して、俺が使うスキルに相応しい。ただ、これが俺が搾取した際に、ナオから消滅するのか、それとも二人とも同時に使えるのか、検証もしないとな。


「多分、これが『収納』の入り口だと思うよ。箒を出して」


 光の輪にナオが願うと、手元に箒が現れた。


「どこから?!」

「ふふ、凄いっしょ。中に入ってる物もリストで見えるんだよ。超便利じゃん」


 彼女が見せてくれた画面のリストはビッシリと書かれていて、この部屋にあった物が詰まっていた。


「えっと、何かあった時のために余分な物は出して、スペースを作っていてくれるか?」

「え〜仕方ないなぁ。なら机はいいかな。もう学校に行かなくてもいいでしょ?」

「あっ、ああ。学校って状況じゃないからな」

「だよね〜」


 ナオが机や教科書、学校に関係する物を排出する。


 部屋の一角が学校関連の物で埋め尽くされた。排出する時も光の輪から出てきた。その動きはスムーズで、ほとんどタイムラグがなかった。


「すごいな……これなら持ち運びに困らないし、重い荷物も関係ない。ナオのスキルはマジで便利だぞ」

「でしょ! 私、結構役に立つじゃん!」

「ああ、『収納強化』を持ってるおかげで、大量の荷物が運べるのはありがたい。これからもよろしく頼む」

「うん、任せて!」


 ナオは自信満々に胸を張る。その表情に少し安心しながらも、俺は彼女のスキルの範囲や限界も把握しておきたかった。


「それで、『六畳一間』っていうのはどれくらいの容量なんだ?」

「えっと……、机を出して学校の物を出したから今は大丈夫だけど、さっきまではこれ以上入れると、『容量オーバー』って出てたよ」


 ナオが試しに荷物を入れてみたところ、ウィンドウに「容量オーバー」の警告が表示された。現在の魔力量では、六畳一間分のスペースが限界のようだ。


「容量を増やすには、ナオの魔力をもっと上げる必要がありそうだな」

「そっか。でも、これだけでも結構便利だね!」


 ナオが満足そうに微笑む。俺も彼女の収納スキルを確認して、改めてその有用性に感心した。


「このスキルがあれば、食料や水をストックしておけるし、武器や道具も無駄なく持ち運べる。戦闘の後にドロップ品を拾うのにも役立つだろうな」


 今後のことを考えれば、かなり有用であることは間違いない。


「うん、でも今の容量だとすぐいっぱいになっちゃいそうだね。仕方ないから本棚も出そう。漫画は絶対に持っていきたいやつだけにして。こんなもんかな」


 ナオの絶対に必要な物だけに絞ってもらったことで、容量は半分ほど空きができた。ベッドと洋服箪笥は必要ということで、そのままにしてある。


「これからどうなっていくのかわからないが、よろしく頼む」

「うん。タイチさんが私を守ってくれるんでしょ?」

「ああ、それは約束する!」

「ありがとう。これでお父さんが生きてくれていたらな」


 不意にナオが見せた表情を俺は忘れられそうにない。ナオは決して頭は良くないかもしれない。だけど、賢い子だと思う。


 教えればちゃんと理解する。それに状況もわかってきている。


「わかっているよ。外の様子とか、さっきの緑の小鬼、ゴブリンだっけ? あんなのがうろついていて、人が死んでるって」


 ナオはゲームの知識はなくても、世界がパニック状態で、人の命が危ういと理解している。


「だけど、私にとっては唯一の家族なんだ。死んでいてもちゃんと弔ってあげたい! お願いします。私をお父さんに会わせてください!」


 正直に言えば、面倒だ。そんなことをする義理もない。


 だけど、今の現状で生き残るためには、ナオの助けが俺にもいる。


 何よりも、この世界で生きることしか目的にない俺にとって、ナオの目標は一つの目安としていいかもしれない。


 ただ、闇雲に外に出るよりも、目的を持って行動する。


「……わかった。ナオのお父さんを探そう」

「いいの!」

「待て!」

「うっ!」


 喜んで抱きつこうとするナオを静止する。


「どうして止めるかな? 喜びを表現しているだけなのに」

「大袈裟だ」

「俺はこの世界で生き残りたい。君はこんな世界でもお父さんに会いたい。目的はそれでいいか?」


 もう一度お互いの目的を確認する。


「うん。それでいい! 私たち、結構いいコンビじゃない?」

「……まあ、ナオが俺の指示にちゃんと従ってくれればな」

「うわ、それめっちゃ上から目線じゃない?」

「君は俺の奴隷だろ? 俺はご主人様だからな」

「引くわ〜。奴隷ってなんか卑猥」


 ナオが不満そうに口を尖らせるが、俺は笑って受け流した。


 この状況下では、どんなスキルも無駄にはできない。それにナオのスキルは今後絶対に必要になる。


 俺たちはまだ生き延びるためのスタート地点に立ったばかりだが、これからさらに能力を磨いていく必要がある。


 生きる目的を持つのは悪いことじゃない。

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