第7話 いざ、外へ
「ねぇ、タイチさんってさ」
「うん?」
先ほどの奴隷は卑猥という発言をした後から、何やら警戒した視線を俺に向けてくる。
「女に興味ないの?」
「はっ?」
「だってさ、私ってさ可愛いじゃん?」
自分で言うのか? 俺は改めて曽根奈緒を見る。
ゆるふやな金髪を肩を超えるぐらいまで伸ばして、胸元は女子高生にしては豊かである。身長は160センチに届かないぐらいだろうか? 18歳のピチピチギャル(死語)だ。
「まぁ、そうだな。今改めて見たが、可愛いと思うぞ」
「そう、それ!」
「あん?」
「可愛いと思うぞって、普通はさ、こういう危機敵状況で、可愛い女子と二人になったら襲わない?」
「はっ? 何言ってんの?」
頭でもおかしくなったか? それを女子から言うとか、襲ってほしいと言っているようなもんだぞ。先ほどからこういう方面に関して、彼女のバカな発言が気になる。
「……だって、おかしいじゃん」
「何がだ?」
「タイチさんって、ちょっとぶっきらぼうでしょ?」
「まぁ、自覚はある」
「それなのに、命を助けてくれて、色々と教えてくれて、ありがたいって思う。本当にありがとうございます!」
いきなりお礼を言われた。頭を下げて、感謝を告げられるとちょっと照れる。
「だけど、奴隷にされたりしてるわけには、こういう時の男って下心があるじゃん。すぐにやらせろとか」
「ちょっと頭痛がしてきた」
「だって、私の周りの男子ってそんな奴らばっかだから」
「ロクな奴がいねぇな」
いきなりとんでもない話をぶっ込んでくるナオに、どう対処すればいいんだ?
「だからさ、タイチさんが望むなら、キスぐらいならしてもいいかなって。守ってもらうのに何もお礼しないってダメじゃん!」
なるほど、彼女は彼女なりに自分が差し出せる物を考えた。その結果がこの話だったわけだ。
だから、俺は彼女の頬をつねる事にした。
「イハイ! ナニシュルの!」
つねられてジタバタを暴れる姿は可愛い。そんなナオを見て、俺の心の溜飲が下がる。
「もう! いきなり頬つねるとか、ヒドくない?」
「俺は……女を徹底的に責めるのが好きなんだ」
「えっ?! やっぱりヤバい人じゃん??」
「ハァ〜、自らの快楽よりも、徹底的にイジメて、責めて、恍惚に頬を歪める姿を見るのが好きだ」
自分の性癖を暴露するとか、俺も頭がおかしいと思う。だが、これが一番手っ取り早い。
実際は、動画の女性でしか見たことがない。だけど、俺の気持ちを受け止めてくれる女性に出会うのが夢でもある。
「えっ? 変態じゃん!」
ナオの言葉に、心は動かない。上司や同僚から受けた罵声に比べれば、罵声にも聞こえない。
「ああ、そうだ。ただの可愛い恋愛になんか興味はない。相手が望んでいないのに、無理やり泣き叫ぶ姿を見るのは一興かもしれないが、結局は相手も望んでするのが一番楽しい。そういう運命の相手を探してるんだよ」
自分でも屈折していると思う。
だけど、こんな世界だからこそ、理想の女性に巡り会えたら、それは奇跡なんじゃないかと思える。
「意外にロマンチストなんだね。ふふ」
なぜか嬉しそうな顔をする。表情がコロコロと変わるやつだ。
「よくわかんないけど、私はダメってこと?」
「ダメじゃないさ。さっきのつねられた顔は良かったぞ」
「む〜、それは答えになってないと思う」
なんでそこで頬を膨らませるのかわからないな。身の安全が確保できたと思えばいいのに。
「そんなことより、そろそろ昼時だ。準備の続きをしよう。お前も父親に会いたいんだろ?」
「お前じゃないし、ナオだし!」
プリプリと頬を膨らませる姿は可愛くはある。だが、望んでもいない女を無理やり襲っても面白さは半減する。
攻めと受けは互いが求め合っているからこそいいんだ。
俺は準備に戻って、家の中を見渡しながら、ナオに指示を出した。
「まずは、この家にある食料を全部収納していくぞ。これから何があるかわからないからな。可能な限り持ち運べるようにしておきたい」
「うん、わかった!」
ナオは軽快な足取りでキッチンに向かい、冷蔵庫や棚を開けて中身を確認し始めた。俺も手伝おうと後を追う。
冷蔵庫には野菜や卵、冷凍庫には肉や冷凍食品が詰まっている。俺の家とは違ってまとものな食事があってよかった。
棚にはインスタント食品や缶詰、調味料類も揃っていた。
「これ全部入るかな? 六畳一間の容量ってそんなに大きくないでしょ?」
「やってみるしかないだろ。食料が不足したら終わりだからな。どれくらいの容量を占めるのかも含めて試してみよう」
ナオが手をかざして「収納!」と声を上げると、目の前の食料がふわりと浮かび上がり、空間に吸い込まれるように消えていった。
完璧に魔法だな。
「……入った!」
「本当に全部入ったのか?」
ナオが手を広げ、収納内の状況を確認しているらしい。
「うん、冷蔵庫の中身、棚の物も全部入ったよ。それに保存の効果もあるみたい」
「それはありがたいな。食料は優先的にナオに頼むと思う」
俺が頼むと口にするとナオは不思議そうな顔をする。
「タイチさんって不思議な人だね」
「不思議?」
「うん。ぶっきらぼうでサディストみたい時もあれば、凄く優しくて私に頼むとか言ってくれるし」
「何に反応しているのか知らないが、俺の人生は奴隷のようだった。ただの社畜だ」
「社畜?」
嫌な記憶はいつでも思い出せる。だからこそ、今が楽しいとも思えた。ナオが首を傾げて俺を見上げる。俺はそれ以上何かをいうつもりはない。
「次は、家事に使う道具も全部収納してくれ」
「道具って、どんな物?」
「鍋、フライパン、包丁、まな板、あと掃除用具もな。奈緒のスキルがあるから、きっとどこかで役立つはずだ」
ナオは再び収納を発動させ、キッチンから鍋やフライパンを次々と収納していく。掃除機に洗濯機、ほうきやモップも同様に吸い込まれ、収納空間に消えていくのが見て取れる。
「ねぇ、タイチさん。この収納、めっちゃ便利だね! だけど限界みたい」
「そうか、ナオのスキルは重要なんだ。俺一人じゃここまでできないからな」
俺が少し持ち上げるような口調で言うと、ナオは得意げに胸を張った。
「ふふ、やっぱり私、凄いよね!」
「調子に乗るなよ。まだ終わってねぇんだから」
家中を回りながら使えそうなものを集めていると、奥の部屋に目が留まった。畳敷きの部屋には小さな仏壇が置かれており、薄暗い空間の中でひときわ目立っていた。
「……これは?」
俺が仏壇に近づくと、ナオも後ろから顔を覗かせた。
「あ、うちのお母さんの仏壇だよ」
「……お母さん?」
ナオは少し表情を曇らせた。仏壇の中央には遺影が飾られている。優しそうな女性の笑顔が写っていた。
「お母さん、3年前に亡くなったの。病気で……」
ナオの声は少し震えていた。彼女のこれまでの明るい態度の裏に、こんな過去が隠されていたとは思わなかった。
「そうだったのか……すまん」
「ううん、気にしないで。お父さんと二人で頑張ってきたし、きっと今もどこかでお父さんが無事だって信じてるから」
彼女の決意に満ちた表情を見て、俺も余計なことは言わないでおこうと思った。
「遺影と蝋燭だけ持って行くか? それだけでも大事にしたいだろ」
「え? いいの?」
「ああ、必要な物は全部持ち出すんだろ? 母親の形見だって同じことだ」
ナオは少し考えた後、頷いた。そして仏壇から遺影と蝋燭を丁寧に取り出し、自分の手で収納した。
「……ありがとう、タイチさん」
「礼なんていらねぇよ。よし、これで準備は終わりだな。外に出るぞ」
「うん!」
家を出ると、外の空気はまだ不穏だった。サイレンの音は遠ざかっていたが、ところどころに黒煙が上がり、瓦礫の山が目に入る。遠くではモンスターの咆哮が響いている。
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