75.アーケードゲーム

「いらっしゃいませー。こちらのお席へどうぞ」


 お店に入ると店員の誘導に従って席に着いた。時刻は夕方過ぎ、夕食の時間だ。


「今日のスケルトンナイト戦で神経使いましたから、お腹がペコペコです。今日は沢山食べますよ」

「私も同じだわ。報酬も手に入ったし、今日は豪勢にいきましょう」


 メニュー表をテーブルの上に広げて、食べたいものを探す。


「私はステーキが三枚乗ったものとセットにします!」

「食べるわねー。私はステーキとセットとデザート三つにするわ」

「あー、その手がありましたか! ユイさんはどうします?」

「ステーキ二枚とセットとデザートでいい」

「なら、決まりですね。すいませーん!」


 みんなお腹が減っているからなのか、ステーキを頼んでいた。それだけ、今日の戦闘が激しかったんだろう。私もいつもよりは動いたような気がする。


「注文が終わりました。後は料理が来るまで待ちますか」


 そう言ってメニューを閉まった時、私の目の前にあるテーブルが何かおかしかった。一角だけ材質が違うようなテーブルで、よく見れば手前には何かのレバーのようなものが添えられていた。


「あっ、それアーケードゲームね」


 セシルがそんなことを言った。アーケードゲームってなんだ?


「分かってない顔しているなー。それはお金を入れると、色んなゲームを体験できるんだよ。テーブル型もあるんだねー」

「ゲームって聞いたことがあります。画面の中で絵が動いて色んな事をするんですよね」

「まー、そんな感じかな。大体敵がいて、それを倒す感じのゲームが多いかな」


 これがゲームというものか。前の世界にもあったけれど、やったことはないな。ゾンビが蔓延って、電源を使うものは使えなくなったし。だから、暇を潰すなら電源が必要ない漫画やラノベが最適だった。


 そうか、この世界には電源があるんだから、こういうものが普及していてもおかしくはない。ゲーム……話しには聞いているけれど、どんなものかは体験してみないと分からないな。


 やってみたい。財布からお金を取り出すと、コインの入口にそのお金を入れた。すると、ガラスの下に備え付けられていた画面が起動する。しばらく待っていると、文字が浮かび上がってきた。


「姫騎士と魔王城?」

「あー、それは横スクロールアクションゲームね。敵を倒して、ゴールまで行くのが目的のゲームね」

「セシルさんは詳しいんですね」

「そりゃあ、地球マニアだからね。地球で流行ったものは大体分かるし、現実にあれば自分でもやったことがあるから」


 横スクロールアクションゲーム? なんだその呪文みたいな言葉は。すると、画面が切り替わった。左端に女性のキャラが剣を持って立っている。その周りは木が沢山生えている絵が書かれてあった。


「なんていうか、カクカクした絵ですね」

「それはドット絵って言って、四角い小さな点を使って絵を表現しているんだよ。ほら、ゲームが始まったから操作しなくっちゃ」


 ドット絵か、なんかこういう絵もいいな。っと、操作をしなくちゃ。レバーを動かせば、キャラが動くのか。このボタンは……ジャンプ。じゃあ、このボタンは? ……攻撃か。


「そうそう、そんな風にキャラを動かして右端にあるゴールまで行くのよ」


 なるほど、そんな風に進めるのか。レバーを動かして右に進むと、後ろの絵も動いて行った。すると、右端から丸くて青いものが横移動でやってくる。


「あ、それが敵のスライムね。剣を当てれば消えるわよ」


 そのスライムは左に移動したり、右に移動したりと忙しない。


「それと、敵に当たったらライフが減るから気を付けて。ライフがゼロになったらゲームオーバーよ。ライフは五つあるみたいだから、五回まで攻撃を受けられるわ」

「へー、制限があるんですね。ユイさん、頑張ってください!」


 だったら、敵に当たらないようにして剣で倒せばいいのか。レバーを操作して、スライムに近づいて……。こいつ、逃げるな。


「あっ!」


 急に方向転換をしてきて、当たってしまった。やられた効果音が響いて、キャラクターが点滅している。


「あー、まだ操作に慣れてないから一撃食らっちゃったわね」

「横にしか移動していないのに、難しそうですね。急にこっちに来て、回避できませんでしたよ」

「それを予測しながらやっていくのよ。何度もやって慣れなくちゃいけないわ」


 これが初めてのゲームだから、全く操作に慣れていない。でも、簡単に諦める訳にはいかない。なんとかスライムを倒して、先に進まないと。まずは、スライムの動きを観察だ。


 スライムは左に行ったり、右に行ったり、横にしか移動をしない。でも、移動距離が疎らで毎回移動する距離は変わっている。スライムに近づけば、自然と近寄って来るんだから、その時に剣を振ればいいんじゃないか?


 よし、やってみよう。ギリギリまでスライムに近づき、こちらに寄ってくるのを待つ。すると、右に行っていたスライムが左に移動してきた。その先にはキャラクターがいる。そして、近づいてきたらタイミングよく剣を振る!


 効果音が鳴り、スライムは点滅しながら消えていった。


「やりましたね! スライム討伐です!」

「そうそう、そんな感じで敵を倒していくの」


 ようやく、先に進める。レバーを倒して右に進むと、今度は上の方から何かが出てきた。それは蜘蛛の形をしていて、地上までは降りてこない。


 一体何をする気だ? じっと見ていると、口が動いて白い物を吐き出してきた。それは真っすぐキャラクターに向かっていき、それに当たる。すると、効果音が鳴り、キャラクターが点滅する。気がつけば、またライフが減っていた。


「えー、今の攻撃だったんですか?」

「あれは受け取らないで、避けるのが正解だったわ。ほら、次の攻撃も来るから避けなきゃ」


 そんな攻撃もあるのか、初めてだから良く分からない。すると、その蜘蛛はまた口から白い物を吐き出してきた。それを、レバー操作だけで避ける。すると、画面から白い物がなくなった。


「ホラ、蜘蛛を倒さないと断続的に攻撃を食らうわよ」

「ユイさん、早く蜘蛛を倒すんです!」


 ずっと、攻撃を食らうのは面倒だ。早く倒して、安寧を手に入れたい。だけど、蜘蛛は上の方にいる。こういう時はジャンプのボタンを押すのか。


 ジャンプのボタンを押すとキャラクターは真っすぐ上にジャンプした。次にジャンプをした後にレバーを倒すと、レバーを倒した方向にジャンプした。なるほど、こうなるのか。


 だったら、蜘蛛に向かってジャンプをして……。


「あーっ! ジャンプをして蜘蛛に当たっちゃいましたよ!」

「ジャンプと距離の調整が難しいわよね」


 ……しまった、ミスをしてしまった。これで残りのライフは三だ。そうこうしている間に、蜘蛛の攻撃が飛んできた。慌ててレバーを倒して、白い物を避ける。


 今度は慎重に……蜘蛛の真下から少し離れたところに行き、そこでジャンプのボタンを押す。上まで行くと、攻撃のボタンを押す。垂直飛びからの攻撃、それは蜘蛛に当たり点滅して消えていった。


「蜘蛛も撃破ですね! さぁ、先に進みましょう」

「序盤でライフが三なのはきついけど、今後の動きに期待ってところね」


 この先、一体どんな敵が待ち受けているのか……。注意しながら進んでいくと、画面の端に緑色の物体が出てきた。この突き出した特徴的な鼻は……ゴブリン。


 現れたゴブリンの敵キャラ。どんな動きをするのか見ていると、そのゴブリンがジャンプをして動き出した。


「ゴブリンがジャンプしてます! 本物のゴブリンはこんな動きなんてしませんよ!」

「ゲームなんだから、そんな細かいところは気にしない方がいいわ」

「なんか、イメージと違っていて驚きです」


 ジャンプをするゴブリンか……厄介そうだ。そのまま近づいていくと、ゴブリンもこちらに近づいてきた。攻撃を仕掛けて……そう思っていると、真上にゴブリンがやってきて……。


「あー、そんなところにゴブリンが! どうしましょう、残りライフ一ですよ!」

「ジャンプする敵って攻撃を当てにくいのよね。相手の動きをよく見て、回避しながら攻撃ね」


 相手の動きが予想しづらくて、残りライフ一になってしまった。くそっ、この動き……複雑で分からない。右行ったり、左に来たり……どっちかにしてくれ!


 レバーを動かしてキャラクターを近づかさせたり、離したりした。中々近づけない……。


「そんなことをしていたら、またジャンプ攻撃を食らいますよ。こちらからも攻撃を仕掛けないといけません!」

「タイミングが重要よ。ちゃんとよく見て、レバーを操作してボタンを押す!」


 ゴブリンの動きを見て、ここで移動して、剣を振る! あっ、あと一マス分足りなかった! すぐに逃げて……!


「あー! またゴブリンのジャンプ攻撃が!」

「あーあ、ゲームオーバーになっちゃったわね」

「……難しかった」

「あのゴブリンの動きは予測できませんよー! あっち行ったり、こっちに来たりで、どのタイミングで動いていいか分かりませんでした」

「まーね、ジャンプして動く敵キャラって対応が難しいからね。こういうゲームに慣れていないと、攻撃を当てるだけでも一苦労かも」


 序盤で沢山ダメージを負ったのが悪かったな。もっとスムーズに倒せていれば、ゴブリンのところで終わらなかった。悔しいから、もう一度だ。コインをまた入口に入れた。


「おっ、またやるんですね! 次こそはゴールを目指しましょう!」

「二回目は上手くいくといいわね」


 もう一度チャレンジだ。

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