65.戦後処理
バン! と、勢い良く冒険者ギルドの扉を開けた。一緒に戦った人たちを引きつれて、私たちは真っ先に受付に向かう。そして、私たちの前に座っていた受付嬢は驚いた表情で話しかけてくる。
「みなさんお揃いでどうしたんですか?」
「これを……」
驚く受付嬢に一つの黒い石を渡す。受付嬢はそれを受け取って調べると、ハッと何かに気づいた。
「これは……ネクロマンサーになった者が死んだ際に落とすものですね」
「そうだ。ここにいるメンバーでネクロマンサーを倒した」
「そ、そうなのですね。随分と人数が多いようですが……一体何が起こったんですか?」
「これを見て欲しい」
私が顔を傾けて合図をすると、他のメンバーは持っていた袋をいくつかカウンターに出した。受付嬢は不思議そうな顔をしながら、その袋の中身を見た。
その中にはぎっちりと詰まったゴブリンの討伐証明である耳が大量に入っていた。
「えっ……どうして、こんなに沢山の討伐証明が?」
どの袋を開けてもゴブリンの耳が入っていて、その量の多さに受付嬢はとても驚いた顔をした。だから、分かりやすいように説明してやる。
「ここにある討伐証明はネクロマンサーが引きつれていたアンデッド化したゴブリンのもの」
「ネクロマンサーが引きつれていたんですね。……こ、こんなに大量にですか?」
「そう。ネクロマンサーは千体のゴブリンを引き連れていた」
私の言葉に受付嬢も、その近くて聞いていた職員も驚いた表情になった。他の職員たちがその真実を確認するために集まってきて、袋の中を確認し始めた。
「こんなに沢山のゴブリンの耳が……本当に千体なんじゃないか?」
「じゃあ、この冒険者たちは千体のゴブリンと戦ったっていうことなの?」
「嘘でしょ……だって、みんな初心者冒険者の出で立ちをしているわ」
職員の人たちは私たちの姿を見て驚いている。明らかに初心者冒険者の風貌をしているのに、そんな冒険者たちが千体のゴブリンと戦えるはずがないと思っているらしい。
すると、職員の話を聞いていたメンバーが声を上げる。
「アンデッドのゴブリンを浄化したのは、ここにいるユイさんよ。私たちは浄化魔法の発動に力を貸しただけ」
「まさか、千体のゴブリンがいるとは思わなかったな。死ぬかと思ったぜ」
「ここに討伐証明があるので、信じてくれますよね?」
メンバーの話を聞いた職員の視線が私に向く。多分、こんな小さな子が浄化魔法で千体のアンデッドを無力化したことの懐疑的なのだろう。
ここからは、話しの本題だ。
「冒険者ギルドは今回のネクロマンサーの討伐は初心者冒険者でも戦えると思ってクエストを出した。でも、実際は初心者冒険者には重荷の状況だった。このことについて上層部に訴えたい。一体、どんな判断をして初心者冒険者にクエストを出したのか」
魔法の下僕と言われているネクロマンサー。その事を注視しないで、ゴブリンだから初心者でも大丈夫だろう……と初心者冒険者向けにクエストを出したことは悪手だった。
そのせいで初心者冒険者が大量に死ぬところだった。これは冒険者ギルドの判断が間違っていたことに変わりない。だから、私たちはこの意思決定した上層部を訴えようとした。
「このクエストは明らかに上級の冒険者が対応するべきクエストだった。この冒険者ギルドはどうなっている?」
私たちは厳しい表情で職員の人たちと対峙した。どんな反応が帰ってくるか心配だったけど、職員の人たちはみんな表情を引き締めて応えてくれる。
「確かに、これだけのアンデッド化したゴブリンを引きつれていたら、このクエストは上級者向けの冒険者のクエストだったでしょう」
「ゴブリンのネクロマンサーだと侮ったせいで、初心者冒険者が大量に死んでしまう可能性があったと思います」
「このことは厳密に上層部に伝えます。まずは、あなたたちが無事に帰還してくれた事が一番の朗報です」
どの職員の人も私たちの訴えをまともに受けてくれた。後は、この話が上層部にいってどんな返答があるかだけど……どうなることやら。
◇
数日後、冒険者ギルドに一枚の紙が貼られた。それは今回のネクロマンサーのクエストについてだ。
その内容を見て見ると、ネクロマンサーの発見が遅れたことにより、僕のアンデッドが爆発的に増えたこと。それにより、初心者冒険者たちでは対応できない量の敵を生み出してしまったこと。
今回のアンデッドの大量発生は初心者冒険者の怠慢が引き起こした結果だ、そんな事が張り紙には書かれてあった。
「あの張り紙は酷いわね。ここの冒険者ギルドは一体どうなっているのかしら」
「ユイさんが居たからいいものの、居なかったら今頃凄い被害が出ていたかもしれません」
張り紙を見た私たちは冒険者ギルド内にある席に着いて、その事を話し合っていた。
「きっと、上層部は自分たちの非を認めていないんだろう。だから、あんな事を言えるんだ」
「最初から上級冒険者に向けてクエストを発行していれば、こんな事にはならなかったのにね」
「まるで初心者冒険者を馬鹿にしているような感じです。あの、張り紙は嫌な張り紙です」
まぁ、このクエストが出た時から嫌な予感はしていたが……結局こうなったか。今後、ここの冒険者ギルドを拠点にして動くのは危険があるな。だったら、考えることは一つだ。
「だったら、パーティーは解散だね」
「どうして、そういう話になるの!?」
「なんで、そんな話しになるんですか!?」
私が呟いた言葉に二人とも驚いたように席を立ち上がった。
「もしかして、ユイの忠告に従わなかったから!? だから、パーティーを解散するっていうのね!」
「ユイさんの話を聞かなかったのが悪かったのですか!?」
「そういう意味で言っているんじゃない」
この二人は話を聞く前に暴走する癖があるな……。
「この冒険者ギルドを利用するのは止めようと考えてる。上層部に問題がある冒険者ギルドの下で冒険者稼業なんてできないから」
「確かに……今回の件で不信に思ったわね」
「判断が悪い冒険者ギルドの下では働きたくないですしね」
「だから、私はここの冒険者ギルドを離れようと思う。だから、二人とはお別れをしようと思う」
私がパーティーの解散を口に出したのは、私がこの王都から離れる事を決めたからだ。こんな冒険者ギルドの下にいたら、命がいくつあっても足りないだろう。それに顔なじみも増えて、やりにくくなってきたところだ。
その事を話すと二人はあからさまにホッとした表情になった。
「なんだ……拠点を移すからパーティーを解散しようと考えていたのね」
「そう言う事なら早く言ってくださいよー」
「話を聞く前に暴走してた癖に」
「まぁまぁ。ユイがその気なら、私だってこの町を離れるわ。ユイとは今後も仲良くしたいって思っているしね」
「私もついていきます! このパーティーはとても良いパーティーだと思うので、続けていきたいです」
はぁ……分かってはいたけれど、この二人もついてくることになるのか。折角、離れられるいい機会だと思っていたのに。
「足を引っ張るなら置いていくから」
「ユイの隣を許してくれるなら、どんな逆境でも乗り越えてみせるわ!」
「もう落ちこぼれなんて言わせません! 相棒と感じてくれるくらいに頑張ります!」
二人の張り切りようは凄い。これは何を言っても無駄だな。本当に嫌になったら、一人で姿を眩ませればいいし……今はいいか。
「はい! 行きたい場所があります!」
「フィリスが仕切るのか……」
「とりあえず、聞いてみましょう」
すると、元気よくフィリスが手を上げた。一体、どこに行きたいっていうんだ。
「ネクロマンサーが言っていた、不死王が消えた方角に行きたいです」
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