64.全力
「ユイさんの全力の浄化魔法……一体どれだけの力があるんですか?」
「多分、今いるアンデッドは沈静化できると思う」
「ユイにはそれだけの力があるのね……」
二人は驚いた様子で私を見た。難しい顔をしていたが、二人は顔を見合わせて強く頷く。
「ユイさんならやれるような気がします。私はユイさんの力を信じます」
「ユイの全力って見たことないけど……きっと凄い事をやってくれるはずよね」
二人とも私が全力の浄化魔法を唱えることに賛成をしてくれた。
「だったら、私たちがユイさんを守ります。絶対に手を出させたりしません」
「私もよ。祝詞を唱えている時は、そっちに集中して。絶対に守ってあげるから」
覚悟が決まったかのように二人は言った。全力の浄化魔法には祝詞を唱える時間が必要だ、その時間はどうしても無防備になってしまう。その間の事は二人が補ってくれるみたいだ。
正直、まだ信用していない部分がある。だから、二人に自分の命を預けるようで不安が残っている。だけど、私がやらなくて他の誰がこの状況を好転させることができるのだろうか。
「……二人に任せる」
ここは二人を信用してみよう。
「ゴブリンだと侮ったお前たちが悪い! お前たちを殺した後は、私のアンデッド軍団に加えてやるからな!」
ネクロマンサーが声を上げると、周囲にいたアンデッド化したゴブリンたちがこちらに近づいてくる。その数に圧倒された冒険者たちは戸惑い、絶望をしていた。
その時、フィリスとセシルが前に立ちはだかった。
「みなさんにお願いがあります。このアンデッドたちを倒すために、力を貸してください」
「この子の浄化魔法でアンデッドを倒すわ。その間、この子を守って欲しいの」
二人の言葉に周囲の冒険者たちは驚きの顔になった。
「こんなに沢山のアンデッドを浄化できると思っているのか!?」
「できます。ユイさんにはそのための力が備わっているんです」
「こんな小さな子に何ができるっていうのよ!」
「少なくとも、ここの誰よりも頼りになる存在なの。分かったなら、私たちのいう通りにして。絶対に大丈夫だから、この子を守って!」
フィリスとセシルの言葉に冒険者たちは戸惑った様子だった。だけど、その中で二人に追随する人たちがいた。竜牙隊のメンバーだ。
「そいつはすげぇ強い奴だ! 俺たちはその言葉を信用するぜ!」
「この状況で冗談を言うほど余裕があるわけないだろ。だったら、信じる」
「どうにかできるっていうなら、それに乗っかるっきゃないっしょ!」
「……それしかない」
竜牙隊のメンバーが声を揃えると、他の冒険者たちは顔色を変えた。
「くっそー! 信じるからな! 信じるから、どうにかしてくれ!」
「見ず知らずの人に命を預けるのは嫌だけど、仕方がないから預けてやるわよ!」
「それしかないなら、それにかける!」
他の冒険者たちは私を守るように武器を構えた。これなら、祝詞を唱えるのに時間が稼げる。
「ユイさん、これで大丈夫ですよね。絶対に守りますから」
「任せたわよ、ユイ。あなたが最後の希望よ」
二人の言葉がくすぐったい。仕方がない、その信用に応えてあげよう。
「何をごちゃごちゃと! ここがお前らの墓場だー!」
ネクロマンサーが声を上げると、アンデッドたちは一斉に飛び掛かってきた。アンデッドのことは他の人に任せて、私は自分の事に集中だ。
地面に両膝を付き、胸元で手を組んで瞑想する。心を無にして、雑念を消す。自分に何もなくなったことを感じたら、ゆっくりと祝詞を唱えていく。
「創世の神パルメテスの愛し子なる我の言葉を聞き届け、我が身に降りかかる厄災を払い給え」
「うおぉぉっ!」
「やられてたまるものかー!」
「……何がなんでも守ります!」
全神経を祝詞に集中させる。心からの祈りを、心からの望みを。すると、私の魔力が溢れだし、聖魔法に変換されていく。まだ足りない、もっと必要だ。
「天地を貫く聖なる光よ、我が前に現れよ。迷える魂を救い、あるべきところに帰せ。ここは地の上、帰るべきは天の上。その魂が帰する道を示せ」
「漲る魔力よ、我が意のままに舞い踊り、敵をなぎ倒す力となれ。ウインドブロウ!」
「絶対に押し負けねぇぞぉぉっ!!」
「まだまだ、まだまだやれる!」
祝詞を唱えれば唱えるほど、聖魔法が大きくなっていく。その力を体にため込んで、その時を待つ。
「解放せし我の力が導き手になりて、祈りを受け取り給え。魂よ、浄化せよ!」
手を空に向けて伸ばすと、手から浄化魔法が飛び出していく。光が一瞬にして辺りを包み込み、目を開けられないほどの光が放たれた。その光は遠くまで広がり、アンデッドたちを包み込む。
すると、あんなに騒がしかった音がピタリと病んだ。意識を外に向けると、アンデッドたちはみんな立ち止まっている。浄化魔法は効いたのか?
黙って待っていると、立っていたアンデッドたちは次々に倒れていった。どうやら、ちゃんと浄化魔法は広範囲に効いていたみたいだ。
「嘘だろ……アンデッドたちが倒れていく」
「あの光、全部が浄化魔法だっていうの? 信じられない!」
「俺たちは助かったのか……?」
みんな、倒れていくアンデッドを見て呆然としていた。まだ現実が受け入れられないのか、目を丸くしている。だけど、私の浄化魔法は効いた。気づいたら立っているアンデッドは誰もいなくなった。
「本当に浄化魔法でこれだけのアンデッドを倒したのか!?」
「夢を見ているんじゃないよな……」
「やった、助かった……助かったんだ!」
ようやく状況を飲み込めた冒険者たちは歓喜で沸いた。誰もが生きていることを喜び合っている。その様子を見て、私も実感が湧いてきた。その時、体に衝撃が走った。セシルとフィリスが抱き着いてきたのだ。
「流石よユイ! やってくれると思っていたわ!」
「凄い事をやってのけましたね! 流石はユイさんです!」
「……分かったから、離れて」
二人ともとても喜んでいる様子だった。まぁ、助かったんだしそういう反応をするのは分かる。だけど、私に抱き着くのは止めて欲しい。
そういえば、ネクロマンサーはどうなった? 視線を変えてみると、ネクロマンサーがいたところに黒い大きな球ができていた。もしかして、ネクロマンサーはこの中に隠れて、さっきの浄化魔法をやり過ごした?
浄化魔法を退ける力があるなんて……だったら他にも力を隠しているに違いない。注意していかないと、返り討ちに合うな。
「ネクロマンサーは……あそこか! とっつかまえてやる!」
「……注意して。何をしてくるか分からない。私が先頭を行く」
「そ、そうか?」
私がいきり立つ冒険者を抑え、先頭になって黒い球に近づく。私の後ろには他の冒険者がついてきて、何かあった時には飛び出していきそうな感じだった。
何かあった時にはすぐに対処できるように、心の中で祈りを捧げる。そうして近づいた時……黒い球がフッと消えた。
「ダーククラッシュ!」
詠唱が聞こえて、咄嗟に防御魔法を発動させた。前面に防御魔法が展開されると、黒い爆発が起こる。間一髪、防御魔法が間に合ったみたいだ。目の前が黒い煙で覆われる。
「は、はははっ! どうだ、私の闇魔法は! アンデッドがいなくたって、お前たちを殺すことができるんだ!」
どうやら、向こうにはこちらの姿がまだ確認できていないらしい。私たちを倒したと思って、高笑いをしている。そのまま待っていると黒い煙が晴れ、その向こう側にはこちらを驚愕した顔で見ているネクロマンサーの姿があった。
「なっ、なっ、なんでいる!?」
「悪いけど、防御魔法を唱えさせてもらった」
「詠唱は無かったはずだが!?」
「あいにく、私は祝詞が無くても魔法が発動できるんでね」
「な、なんだと!? だったら、何故あの時は詠唱を唱えていたんだ!」
そこまで詳しく教える必要はないだろう。ビビり散らかすネクロマンサーは腰が抜けて、その場に倒れてしまった。
「じゃあ、覚悟はいい?」
腕輪からメイスを取り出すと、それをネクロマンサーに向けた。
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