62.ネクロマンサーの目的は?

「二人に聞いて欲しい話しがある」


 食堂で席に座りながらそんなことを言うと、二人は不思議そうな顔をした。


「珍しいですね。ユイさんから話題を提供してくれるなんて」

「そうよね。それで、どんな話しなの?」

「ネクロマンサーの事」


 その名を口にすると、二人の表情が引き締まった。


「私たちはネクロマンサーが出現した後の森に行って捜索をした」

「そうね。でも、ネクロマンサーには出会わなかったわ」

「ネクロマンサーは同じ森に二日といないものなのでしょうか?」

「私の予想では、ネクロマンサーは色んな森を渡り歩いて、倒されたゴブリンをアンデッド化して集めているんだと思う」


 ネクロマンサーがいたはずの森にはアンデッド化したゴブリンと出会う機会が殆どなかった。原因はきっとネクロマンサーにあると考えたほうが自然だ。


「でも、ネクロマンサーがアンデッド化したゴブリンを集めているんだったら、集めたゴブリンはどこに行ったの? いつも数体しか連れていないって言ってなかった?」

「なぜ、ネクロマンサーがいつも数体のゴブリンしか連れていないかは分からない。集めたゴブリンをどこかに集めている可能性があるという話しだ」

「集めたゴブリンですか……。そんなに集めているのでしたら、もう見つかっているはずじゃないですか? 今は色んな森に沢山の冒険者が出入りしているのですから、大勢のゴブリンが居れば分かるはずです」

「そう、そこが問題。ネクロマンサーは集めたゴブリンをどこにやったかってこと」


 今、周辺の森には初心者冒険者がネクロマンサーを探して捜索をしている。沢山の冒険者が出入りしているのに、集めたと思われるアンデッド化したゴブリンの集団が見つからないのは不可解だ。


「集めたゴブリンが沢山いるんだったら、すぐに見つかると思うんだけどなぁ。隠すって言っても、どこに隠しているかも分からないじゃない」

「隠す場所もないですからねー。あちこちに分散して隠すっていう手もありますけれど……戦力を分散しても良いことはありませんよ?」

「きっと巧妙に隠されていると思う。その場所が特定できればいいんだけど、全てを調べる訳にはいかない」

「隠すとしたら何体になるのかしらね。三十体から五十体くらいじゃない? もう、この時点で森に居たらすぐに見つかるとは思うけど」

「じゃあ、それ以下を隠しているってことですか? それだったら、ゴブリンの巣をアンデッド化したほうが効率が良くありません?」


 森の中にいるアンデッド化したゴブリンが減っているのは確かだ。でも、減った分のゴブリンがどこにいったかが分からない。森の中に隠せば他の初心者冒険者が見つけているはずだし、形跡があれば誰かが報告しているはずだ。


「本当にネクロマンサーがアンデッド化したゴブリンを集めているんだったら、大変なことだと思うけど。現状で分かることは少ないわね。ユイの森の中のアンデッド化したゴブリンが減ったことぐらいしか分かってないわ」

「明日、ネクロマンサーだけじゃなくてそっちの方面の捜索もしますか? 一緒に捜索すれば手間のないですし、ユイさんの不安も無くなると思いますし」

「……私はネクロマンサーを探すのを止めた方が良いと思う。あまり、良い予感はしない」

「今さら、そんなこと言ってもやめられないわよ。多数決で決めたことだし、ネクロマンサーを追うのは決定よ」

「困難にブチ当たって、それを乗り越える……これはいい経験になるはずです。これからも冒険者を続けるのであれば、こんな困難乗り越えないとこの先やっていけませんよ」


 不安を煽ってみたけれど、二人はこのクエストに前向きな姿勢を崩さない。根本的な考え方の違いが、こうもあからさまに出られると大変だ。


「明日はネクロマンサーが出現していない場所を探しましょ。もしかしたら、いるかもしれないし」

「ですね。後を追うよりも、先回りしたほうが出会う確率も高くなるかもしれません」


 二人を止めるのは難しそうだ。なんとか危険を回避する方法はないだろうか?


 ◇


 その日の夜、二人が寝静まった後に中庭にあるベンチに座ってネクロマンサーの事を一人で考える。二人と話してもいい案が出てこない、そういう時は一人で考えるに限る。


「絶対にアンデッド化したゴブリンはネクロマンサーが集めているに違いない」


 私はそう確信している。だって、ネクロマンサーが見つかる時はいつも数体のアンデッド化したゴブリンを引き連れていた。見つかった後、そのゴブリンたちを殿にして逃げ出したとしても、次見つかった時はまた同じように数体のゴブリンたちと一緒にいる。


 これは、ネクロマンサーが倒されたゴブリンを探してアンデッド化しているからに違いない。そのゴブリンを集めて、どこかに隠しているとしたら……。


 一体どれだけのゴブリンを隠している? それをどこに隠している? この辺が良く分からない。それが分かったら対策が取れるというのに、圧倒的に情報が足りない。


 後、ネクロマンサーの目的が分からない。ゴブリンを集めて、一体何をする気なんだ? 考えられるのは敵対している私たちに向けて、攻撃行動を取る事くらいか。


 何を考えているか分からないが、おそらく私たちみたいな人間を攻撃するために戦力を集めているところじゃないか? そうだとしたら、初心者冒険者がターゲットになる可能性がある。


 集めたゴブリンで初心者冒険者を襲い、その亡骸をまたアンデッド化して操る。そうしている内に戦力はどんどん膨らんでいくはずだ。その膨らんだ戦力を使って、大きな獲物に変えて狩っていく。


 今の冒険者ギルドはネクロマンサーを脅威とは思っていないから、何かが起こってもすぐに上級の冒険者に依頼することはしないだろう。その間にも、どんどん被害が増えて、敵は強大になっていく。


 そうなる前に手を打たないと大変なことになる。ということは、早くネクロマンサーを見つけて討伐しないといけない。本当なら戦うのを避けるべきだけど、放置するのも危ないな。


 となれば、ネクロマンサーと接触してその時が来たら、大勢のアンデッドとの戦闘になる。浄化魔法の出番だ。今の私が本気を出したら、一体どれくらいの範囲の浄化魔法が使えるだろうか?


 聖女に選ばれたのだから、規格外の力が出ればいいのだけれど……。この力を使って、大勢のアンデッドが現れても対処できるようにしよう。準備はしておかないとね。


 ◇


 翌日、私たちはまだネクロマンサーが出現していない森にやってきた。私たちと同じ考えの初心者冒険者が他にもいたせいか、その森にはちらほらと他のパーティーの姿がある。


「他にも探しているパーティーがいますね。これは競争になりますよ」

「他を出し抜いて、どうにか私たちで見つけたいわね」

「とりあえず、人がいなさそうなところに移動しましょう」


 二人が積極的に先導していき、その後ろを私がついていく。森のあちこちを歩き回り、ネクロマンサーがいないか虱潰しに探し始める。


 探し始めて一時間以上経った時、遠くから人が騒いでいる気配がした。一体何があったんだ? 私たちは足を止めて、そちらの方を向いた。


 すると、そっちの方から黒い霧のようなものが飛んできたのが見えた。その霧は私たちの前で止まり、次第にその形を変えていく。


 現れたのはマントを羽織ったゴブリンだった。


「あっ! もしかして、ネクロマンサーですか!?」

「えっ、ど、どうしよう!」


 突然現れたネクロマンサーに二人は戸惑っていた。わたわたとしている間にネクロマンサーはマントを翻した。ジッと観察すると、そのネクロマンサーが笑ったのが見える。


 余裕そうな笑みだ。本当にこいつが逃げ回っていたネクロマンサーなのか? そう思っていると、ネクロマンサーはまた黒い霧に変化して森の中を進んでいく。


「あっ! 逃げますよ!」

「追いかけよう!」

「あっ、ちょっと! 二人とも!」


 二人は黒い霧が進んだ方向に走って行ってしまった。

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