61.ネクロマンサーの捜索
結局、私たちはネクロマンサーの討伐クエストに参加することになった。多数決で決められてしまったけれど、私はこの結果に納得がいっていない。
魔王の下僕の脅威を全く考えていない賛成票に効力はないと思っているからだ。目先の利益しか見えていない決断は危険だ。前の世界でもそれで下手をした人たちが沢山いた。
やはり、ここは慎重になって動くべきだと思う。少しでもネクロマンサーに繋がる情報を手に入れて、どれくらい厄介な相手なのか知る必要がありそうだ。
そのためにも、捜索中でも何か情報が手に入ればいいんだけど……。
「あ、また居ましたね。初心者冒険者」
「これで三組目ね。あの様子だと、ネクロマンサーを見つけたようには見えないけど」
声がして、我に返った。二人が見ている方向を見ると、奥の方に初心者冒険者と思われるパーティーの姿がある。
「やっぱり、みんな探しているんですね」
「まぁ、あのクエストは初心者冒険者には良いクエストだったからね。誰だって受けると思うわ」
「こんなに沢山の初心者冒険者が動いているのでしたら、競争は激しそうですね」
この森にも初心者冒険者が沢山入り込んでいるみたいだ。みんな、周辺に出没したネクロマンサーを捜索しているみたいだ。ゴブリンのネクロマンサーと聞いて、自分たちでも倒せると思ったのだろう。
冒険者ギルドでも賛否が分かれたクエストだというのに、みんな能天気すぎないか? そんなに名声が欲しいものなのか? 私が冒険者として考え方が外れているせいか?
「あっ、またユイさん難しい顔してますね。まだ、このクエストを受ける事に反対なんですか?」
「だって、魔王の下僕と言われている存在なんだ。みんながそんなに警戒しないのかが分からない」
「警戒って言われても……闇魔法が使えるだけのゴブリンでしょ? それを倒すだけで、初心者冒険者には滅多に入らない名声が手に入るんだもの。みんな、狙うわよ」
「そんなに名声が必要なのか? 命の方が大事じゃないか」
「冒険者は命がけの職業です。その覚悟があるからこそ、冒険者になったんです。覚悟の上で名声を求めてクエストを受けているんです」
私の考えはどちらかというと冒険者よりではない。元の世界の生き方が基盤になっているため、どうしても名声よりも命の方が重いという考え方に縛られている。
冒険者になった今なら、そっちの考え方に染まったほうがいいのか? いや、でも命の方が重いに決まっている。別に私は名声が欲しくて冒険者をやっているわけじゃない。ただ、ここで生きていくための手段として冒険者を選んだだけに過ぎない。
「ユイは元の世界の考え方が強く残っているから、簡単にはこっちの世界の冒険者の考え方ができないのね」
「……良く分かったね」
「そりゃあ、近くで見てきたんだしね。ふふっ、少しは仲良くなれた証拠かしら?」
「……別に仲良くなってない」
「えっ、なんですか二人して! 私を除け者にしないでください! 私も仲良しですよね!」
「うるさい」
フィリスが絡んできて面倒なことになった。適当にあしらうと、見つけた冒険者の方を向く。その冒険者たちは反対側の方に進んで、その姿は森の中に隠れた。
「じゃあ、ネクロマンサーの捜索を続けるわよ。あの冒険者たちが行っていない場所に向かいましょう」
「ですね。じゃあ、あっち側に行きましょう」
「魔物も出るんだから、注意を払え」
私たちはネクロマンサーの捜索を再開して、森の中を歩き回った。出会うのはどれも普通のゴブリンだけで、ネクロマンサーらしきゴブリンとは遭遇出来なかった。
何も収穫がないまま冒険者ギルドに戻ると、いつもより活気があるように感じられた。中では人だかりができていて、そこでみんな盛り上がっているようだ。
なんだろう? と、思って聞き耳を立ててみると、ネクロマンサーを見つけた話しで盛り上がっているところだった。私たちは思わず、その人だかりの中へと入っていく。
「ネクロマンサーが見つけたって本当ですか!?」
「おぉ! 見つけたぜ! だけど、奴はアンデッド化したゴブリンを置いて黒い霧になって逃げたんだよ。だから、倒せなかったんだ」
「見つけたのはどこの森なの?」
「えーっと、ここの森だったかな?」
セシルが地図を出すとその人は見つけた森を指差した。
「ネクロマンサーは話しで聞いた通り、戦闘する意思が感じられなかったぞ。俺たちが姿を現すと、すぐに逃げ出したんだ」
「攻撃もされてない?」
「全然されなかったな。置いてかれたアンデッド化したゴブリンに足止めを食らって、追うどころじゃなかったのが痛いな」
私たちの質問に応えたその人はすぐに違う人の質問に答え始めた。人だかりから抜け出た私たちは相談し合う。
「この森にいるみたいね。明日、行ってみましょう」
「まだ、いるかもしれませんしね」
「……危険じゃない?」
「何言っているのよ。冒険者を見てすぐに逃げ出すネクロマンサーが危険な訳ないじゃない。それに、また数体のアンデッド化したゴブリンしか引きつれてないのよ」
「いつも戦っていたゴブリンの巣の掃討よりも数が少ないですから、私たちだって戦えます」
ネクロマンサーに戦う意思がないことは分かった。初心者冒険者を見てすぐに逃げ出すくらいだから、脅威はそんなに高くない。だけど、闇魔法を使っていないのが気にかかる。
まだ、私たちはネクロマンサーの実力を知らない。力を隠しているから、やっぱり脅威はある。せめて、ネクロマンサーと戦った人がいれば情報が手に入るのに……。
そして、翌日。私たちはネクロマンサーが見つかった森にやってきた。もしかしたら、まだネクロマンサーがいるかもしれない。その期待を胸に森の中を捜索し始めた。
すると、昨日よりも初心者冒険者と出会う割合が高いことに気づく。どうやら、同じ考えをする人が他にもいたようで、森の中では様々なパーティーが動き回っていた。
これじゃあ、他の誰かが先に見つけるかもしれない。その焦りもあって、二人は足早に森の中を捜索を進めている。だけど、その日はその森でネクロマンサーを見つけることができなかった。
「結局、見つかりませんでしたね。もう、この森にはいなくなったんでしょうか?」
「そうね。見つかったっていう声も聞こえなかったし。もしかしたら、他の森に移ってしまったのかも」
帰り際、そんな話をしながら冒険者ギルドへと向かった。だけど、その帰り道で私はある違和感を覚えた。いつもとは違う何かを感じたのだ。でも、それがなんなのか分からない。でも、いつもとは違う何かが確かにあった。
だけど、状況には変化があった。冒険者ギルドに戻ると、また昨日と同じような賑わいがあったのだ。私たちは人だかりの中に入って話を聞くと、なんと他の森でネクロマンサーが出現していたらしい。
その森で見つけたネクロマンサーは数体のアンデッド化したゴブリンを引きつれていたらしい。初心者冒険者に見つかると、ゴブリンたちを殿にして、黒い霧になってすぐに逃げ出したみたいだ。
どうやら、二人の予想は当たっていたみたいだ。
「なるほど、違う森に移動してたから見つからなかったのね」
「明日はどうします? 違う森を探しますか? それとも、ネクロマンサーが見つかった森を探しますか?」
「そうね……もう一度、ネクロマンサーが見つかった森を探してみましょう」
こうして、私たちはまたネクロマンサーが見つかった森を捜索することが決まった。
翌日、ネクロマンサーが見つかった森に行ってみると、また初心者冒険者のパーティーが沢山いることに気づいた。やっぱり、みんな考えることは同じのようだ。
二人は周りのパーティーに負けじと意欲的に捜索をした。だけど、結局その日もネクロマンサーは見つからなかった。二人がガックリと肩を落として帰路につく。
その最中、私はここでも覚えた違和感のことを考えていた。いつもとは違う何かがある。それを帰りながらずっと考えていた。一体何が違うんだ……そのことをずっと考えていたら、ふとそれがなんなのか気づいた。
森で出会うアンデッド化したゴブリンとの遭遇率が低いことだ。それはネクロマンサーがいなくなった後の森の特徴。いつもは数体のアンデッド化したゴブリンしか連れていないのに、それ以上のアンデッド化したゴブリンの数がいなくなっている。
もしかして、ネクロマンサーはアンデッド化したゴブリンを集めているのか?
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