59.ネクロマンサーの出没

 今日も私たちはゴブリンの巣の掃討をして冒険者ギルドに戻ってきた。だけど、そこには顔なじみになってしまった竜牙隊が先に戻ってきていた。


「よぉ! お前らは今帰ってきたばかりか? 今日はしっかりと連係できたのか?」

「くぅー、それは嫌味かしら! 今日も個別のゴブリンの巣の掃討だったわよ!」

「悔しくないんですからね! 上手く連係し合っている、あなたたちが羨ましいとか全然思ってないんですからね!」


 ジェイスが気さくに話しかけてくると、セシルとフィリスは対抗して声を上げた。まだこの二人は連係を取れていないことが気になっている。さっさと諦めればいいのに……。


「なぁ、ユイ。一人で対処できるからって、連係取れないのはまずいんじゃないか?」


 すると、ジェイスが口を挟んできた。面倒ごとに首を突っ込んでくるなんて、やめて欲しい。


「別に……。仲良くするつもりはないから。このパーティーは仕方なく入っているだけだし」

「そうなのか?」

「私は引き留められている側でそこの二人が強引に引き留めているだけ。私はいつでもパーティーから離脱してもいいと思っている」

「ユイー、そんなこと言わないでー!」

「最近大人しくなったと思ったら、そんな事をまだ考えていたんですかー!?」

「こんな風に鬱陶しくなるから、言わないでいるだけ」


 この事を話すと途端に二人が煩くなる。だから、言わないでいたのに……。重いため息を吐いていると、身近にいたジェイスがそれを見て笑った。


「へー、そうなのか! なんだかんだでバランスの取れたパーティーだな!」

「……どこをどう見て、そんな感想になる?」

「いや、なんか直感でそう思ったんだよ。それに普通のパーティーじゃないから面白い!」

「はぁ……そんな感想はいらない」


 何が面白いだ。こっちは二人に振り回されて、大変な思いをしているというのに。いい加減、二人も私に愛想をつかせてくれないかな。


「ユイは絶対にパーティーを離脱しちゃダメよ! 逃げたら追いかけるからね!」

「私を見捨てないでくださいー! ユイさんがいないとダメなんですー!」

「……はぁ」


 二人は私にしがみ付いて離さない。これをいうといつも豹変するから言わないでいたのに、ジェイスの奴のせいで……。


「そういえば、お前たち。新しいクエストは見たか?」

「新しいクエスト?」

「ほら、あそこに人だかりが出来ているだろう? そのクエストだよ。良いクエストだから見てきたほうがいいぞ」


 ジェイスが指を差した壁にはクエストボードがあり、沢山のクエストが貼られていた。その中の一つに人が集まっているように見える。人をこんなにも惹きつける理由はなんだ? 不思議に思った私は、クエストボードに近づきクエストを見た。


「……ネクロマンサーの出没?」


 その名前、どこかで聞いたことがある。どこだったっけ……。


「ネクロマンサーって言えば、不死王の下僕ですよね」

「へー、不死王の下僕がこの辺に出たのね」


 そうだ、初めの時に話していた。魔王討伐の話になって、それからアンデッドを倒すには不死王を倒さなくちゃいけないと教えられた。その不死王の下僕としてネクロマンサーがいるって話しだ。


 じゃあ、近くに不死王の下僕、ネクロマンサーが出没したってことか。


「えーっと……近辺の森にネクロマンサーと見られるゴブリンが出没したみたいですね。ゴブリンでもネクロマンサーになれるんですね」

「それって、普通の魔物が不死王の力なんかでネクロマンサーになっちゃったっていうこと?」

「魔王のガイドブック見ますね」


 そういったフィリスはマジックバッグの中から魔王のガイドブックを取り出して、ページを開く。


「えーっと、ネクロマンサー……あった、これですね。各地に出没したネクロマンサーについて。ネクロマンサーは不死王がなんらかの力を使い、生きている者をネクロマンサーに変えている。と、書かれてますね」

「ふーん。適当にゴブリンを選んでネクロマンサーにするなんて、不死王は見る目がないのね」

「もっと強い魔物をネクロマンサーにしないんですね。それとも、気分でネクロマンサーに変えているんでしょうか?」

「下僕は強い方が良いのにね。なんで、ゴブリンにしたのかしら?」


 どんなことがあって、不死王がゴブリンなんかをネクロマンサーにしたのかは分からない。自分の下僕にするんだったら、強い魔物の方がいいのは確かだ。何か理由があってゴブリンにしたんだろうか?


「あっ、このクエスト私たちでもできるみたいよ。なんでも、ネクロマンサーのゴブリンはアンデッド化したゴブリンを数体引きつれているだけみたい」

「数体のゴブリンですか……それだったら私たちでも戦うのは可能ですね」

「それに、そのネクロマンサーのゴブリンは姿を見せてもすぐに逃げ出すって書いてあるわ。脅威がないのね」


 アンデッド化したゴブリンを数体引きつれたネクロマンサーのゴブリン。そのままの意味で捉えると弱い集団のように思えてくる。当の本人は逃げ回っているようだし、これは脅威がないって思われても仕方がない。


 だけど、魔王の下僕だ。脅威がないなんてことはない。この世界の魔王がどんな存在なのか、まだ計りかねているが……漫画やラノベでは人類を滅ぼす力を持った者だ。そんな者の下僕だから、注意を払っておいた方が良い。


「もっと、他の情報がない?」

「それでしたら、受付嬢の人に話を聞いてみましょう。ここに書かれていない情報を持っているかもしれません」

「なら、聞こう」


 私たちは空いている受付に行って、受付嬢に話しかけた。


「すいません、ネクロマンサーのゴブリン討伐について詳しいことを教えてくれないかしら」

「あぁ、栄光の乙女英傑さんもあのクエストをご覧になったのですね。そうですね、あそこに書かれていない部分で教えられることは……」


 話しかけると、受付嬢はにこやかに対応して他に情報がないか考えてくれた。


「どうやら、そのネクロマンサーは以前から活動していたみたいですね。前々から逃げるゴブリンがいるって冒険初心者の間では噂になっていたみたいです」

「じゃあ、突発的に出てきたんじゃないのね。でも、どうしてそのゴブリンがネクロマンサーだと気づいたの?」

「初心者よりも上級な冒険者がそのゴブリンを確認して分かったんです。ネクロマンサーは闇魔法を使うから、それでそのゴブリンがネクロマンサーだと気づいたみたいです」


 ネクロマンサーは闇魔法が使えるようになっているのか。普通のゴブリンだと思って戦ったら、痛い目に合うところだった。


「ネクロマンサーのゴブリンの討伐は栄光の乙女英傑さんでも受ける事ができますので、もしよろしかったら受けてみてください」

「……魔王の下僕のゴブリンと戦うのは難しいんじゃないか? まだ、私たちは初心者冒険者だ」


 厳しい口調でいうと受付嬢の人の笑顔が凍り付いた。そして、少し気まずそうな表情に変わると、こっそりと話しかけてくる。


「……気になりますよね。実は今回の件は上の人たちが強行して決めたことだと聞いてます。なんでも、ゴブリンなら初心者冒険者にでも対処ができると思ったみたいです」

「理由は?」

「……初心者冒険者が対処したほうが報酬が安く済むからです。本来なら五十万コール以上は報酬として支払われるべきなんですけど、今回の報酬は二十万コールになっています」

「上級者にしては安いけど、初心者にしては高い金額か。それで初心者冒険者を釣って、討伐させようと」

「その通りです。例えゴブリンだとしても、相手は魔王の下僕ですから……個人的な感情を言うと心配です」


 とても言いにくそうにしている受付嬢の様子を見ると、ゴブリンのネクロマンサーを甘く見ているのは現場の事を知らない冒険者ギルドの上層部ということになる。


 その甘い考えに初心者冒険者が巻き込まれようとしている。


「報酬額が安いので、結局は初心者冒険者くらいしか受けないんですよね」

「被害が出てからでは遅いと思うけど」

「……多分、被害が出なければ儲けもの……と考えているかもしれません」

「ここのギルドの上層部は腐っているな」


 どこにでもそんな人物はいるもんだ。呆れていると、その受付嬢はとても言いにくそうにでも真剣は表情をした。


「正直言って受けては欲しくないんですが……栄光の乙女英傑さんには是非受けてもらいたいです」

「私たちに死ねっていうの?」

「そういうつもりはありません。ですが、上級者の冒険者さんたちが受けない報酬額の今、頼れる人たちはとても少ないです。力の足りない冒険者さんたちが犠牲になる前に、討伐して欲しいです」


 両手を胸で組んで、こちらに懇願してきた。そんな事を聞かされて、受ける訳が……。


「私たち栄光の乙女英傑に任せてください!」


 私の意思とは反してフィリスが大きな声を上げた。こいつ……話を聞いてなかったのか?

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