58.三人四脚

「おいおい、すげーな! お前らだけで、ホブゴブリンたちをやっつけたのか!?」


 二人が騒いで落ち着いた頃、ようやく竜牙隊のメンバーがこちらにやってきた。竜牙隊は地面に転がったホブゴブリンたちを見て驚いて目を丸くしている。


「俺らよりも連係が取れてなかったのに、どういうことだ?」

「開始直後の戦いはグダグダだったと記憶しているが。どうなって、こうなったんだ?」

「信じらんなーい! あんたたちってそんなに強かったわけ?」

「……力、持ってた?」


 竜牙隊のその反応に二人が反応する。


「まぁ、これくらいは可能よね。だって、今まで一人で複数のゴブリンと戦ってきたから。それがホブゴブリンに変わったところで、引けを取らないわ」

「連係を取れなくても、個々に力がありますからね。それを十分に発揮できた結果です。まぁ、少しは連係を取りましたけど」


 ……なんでこの二人が偉そうに言うんだ。まあ、それだけ自信に繋がったのならいいか。今度は一人でホブゴブリンたちと戦わせるのも悪くない。


「連係も大した事ないわね。時間がかかるんだったら、個々の力を発揮すればいいのよ」

「個々の力を発揮することで、それだけでもちゃんとした連係になっているのですよ」


 ちゃんとした連係は取れなかったけど、個々が活躍したお陰で自然と連係を取れていたような気がする。自分の仕事ができていたからこそ、ホブゴブリンを討伐できたんだろう。


 もっとしっかり連係を取れれば、もっと簡単にホブゴブリンを討伐することができた。でも、そこまで仲良くするつもりはないし、今の形が最善なのかもしれない。


 ちょっと偉そうな二人を見て、竜牙隊は少しだけ悔しそうな顔をした。


「俺がもう少し早く動いていれば……」

「それを言うなら、俺もだ。次を見ながら動いていれば、もっと早く倒せただろう」

「そんなこと言わないでよ! 私の牽制がもっと上手に働いていたら、二人の動きも良くなってたよ!」

「私の魔法……当たりが悪かったから」


 悪かったのは自分だと、竜牙隊のメンバーは口を揃えた。分かっていながら動けなかったのは、本人にその力がなかっただけ。だから、結果が全てだ。


「みんなはよくやってくれたと思うぜ。あの時は援護をしてくれて助かったぜ」

「何言ってるんだ、当たり前だろう? お前はいつも無茶ばかりするからな」

「うー、ごめんね! 私の弓矢がちゃんと頭に刺さっていれば、もっと早く倒せたのにー!」

「……ううん。……魔法、当たらなかった」


 今度はメンバー同士でお互いを励まし合った。とても仲がいい様子で、見ていて胸やけがする。こんなに仲良しこよしで、いざという時にちゃんと動けるのか?


 冷ややかな目で見ていると、隣にいた二人から妙な気配がして見た。二人ともとても悔しそうな顔をして竜牙隊のメンバーを見ている。……変なことを考えるなよ。


「わ、私たちだって! 私の魔法はいいタイミングで発動したよね?」

「私の双剣もいいタイミングで入りましたよね?」


 二人は少し焦った様子で私に近づき、肩に手を置いた。うざかったので、その手を払う。


「全然」

「そうよね、良かっ……全然!? えっ、ちょっ、それ……マジで言っているの?」

「私的には良い感じだと思ったのに、違うんですか!?」

「動きが遅い、判断が遅い、攻撃が弱い」

「そ、そんなぁ……。ユイから合格点を貰えると思ったのに、全然だなんて~……」

「あれ以上の動きをしろっていうことですか!? ユイさん、もうちょっと優しくしてください!」


 二人の動きにはまだ甘えが残っている。あれで満足されちゃ、困る。ごちゃごちゃとこちらがうるさい間に、竜牙隊のメンバーからはいい雰囲気が漂ってきた。


「お前もよくやったよ。お前がいないと、俺は自由に動けないしな!」

「ふっ、お前がはちゃめちゃに暴れてくれるから、後始末が大変だ」

「みんなが仕留めそこなった魔物を討伐してくれるから、本当に安心して動けるよ。ありがと!」

「みんなの力、一つにする……強い」


 お互いを褒めて、励まし合っている。一人はみんなのため、みんなは一人のため。そんな風に感じた。どうして、そんな考えができるのか分からない。自身に力がなければどうしようもできないのに。


 竜牙隊はそんな和やかな空気で仲間の大切さを分かち合っている。一方、こちらの二人はそんな竜牙隊を見てとても悔しそうにしていた。


「なんか、負けた気がするわ……」

「ぐぬぬ、負けません……私は負けを認めません! 私たちだって友情を育んできたんですから、あれ以上の事ができますよね!? まずは勝利の抱擁から!」

「うざい」

「すぐに拒否しないでください! セシルさん、何か……私たちでもできる友情を確認できるものはありませんか!?」

「友情の確認……パーティーとしての絆を示す……はっ! 丁度いいのがあるわ!」


 また、面倒なことを考え始めた。セシルはマジックバッグを漁ると、二本の布を取り出した。いつの間にそんなものを買っていたんだ?


「地球の競技で二人三脚っていうんだけど。二人の足首を布で結んで、一緒に走るっていうものよ。息が合って足が揃わないと前に進めない、まさにパーティーとしての連係が必要になってくるのよ」

「足を結ぶ……それはかなりの連係が必要になってきますね。私たちの連係の凄さを証明するのに、いい案だと思います」


 二人三脚か……。そういえば、友達とグルメの高校生編の体育祭の時に出てきたな。一緒に走るメンバーと練習を積んで本番に挑んで、一位を取った話だった。その後にその子と美味しいグルメを食べたっけ。何を食べて……。


「よし、結んだわ」

「はっ。いつの間にか足が結ばれている」

「これで、私たちは一心同体です! 絆のあるパーティーです!」


 思い出している内に足を結ばれてしまった。しかも、私が二人に間に挟まるようになっている。


「三人だから、これは三人四脚よ。これで、私たちのほうが連係が取れていることを見せびらかすのよ!」

「どうして、これが連係を取れているって思うんだ!? 馬鹿か!?」

「こんな制約があるなかで自由に動けることを示せば、きっと竜牙隊の人たちも驚くでしょう。私たちの方が強いってことを知らしめてやりましょう!」

「こんなんで、強さが分かるか!」


 足を結んで歩くだけで、誰がそんなことを思うか! 竜牙隊の雰囲気に当てられて、気でもおかしくなったか!?


「ちょっと、竜牙隊! 私たちだって、あなたたちよりも連係が上手く取れているのよ!」

「これを見てください。あなたたちはこの状態でまともに歩くことができますか!?」


 突然、二人は竜牙隊に突っかかる。そして、それぞれが足を上げて前に歩き出そうとした。だが、二人の足があべこべに動いたため、布で結ばれた私の足があべこべに動いて、前に倒れた。


「いたた……おい! 急に歩くな!」

「ユイも協力してちゃんと歩いて」

「ユイさんも息を合わせてください」

「真ん中にいる私が息を合わせることなんてできないだろう!? 二人の足が動くから、私の足が動くんだ!」


 こいつらは本当に馬鹿だ! 足ががっちりと結ばれている状態で強引に歩いてみろ、結ばれている私の足が勝手に動くから立っていられない!


「次は大丈夫です! さぁ、私たちの連係を見せつけるのです!」

「そうよ。私たちの方が凄いって知らしめるべきよ!」

「何を勝手なことを……」


 どうして、こんなどうでもいいことに熱くなるんだ! その情熱は戦いの時に注げばいいのに、どうでもいいことに注ぐなんて……本当に馬鹿だ!


 すると、また二人が動き出す。二人の足が同時に浮かび、私の両足が同時に浮くことになった。当然、立っていられなくなった私は後ろへと倒れて頭を打ってしまう。


「だから、勝手に動くなって言ってるだろう!?」

「おかしいわ……こんなことになるなんて」

「私の想像では、三人が一緒に歩いている光景が広がるのに……どうしてこんなことになってしまったんですか」

「息があってないからだろう!? 連係すらまともにとっていないんだから、こんなことがすぐにできるわけ……」

「そんなはずはないわ! 普段の私たちだって息がピッタリなんだから!」

「友情は育っているはずなんです! だから、それを十分に発揮すればできるんです!」

「妙な自信を付けるな!」


 この二人に何を言っても無駄だ。できないことをできると思い込んでいる。だが、このまま放置すれば真ん中にいる私が大変な目に合ってしまう。どうにかして、二人を諦めさせないと。


「普段から別に仲良くないだろう。ただのパーティーメンバーとして接しているだけだ。そんな中で足を揃えて歩けるわけがない」


 突き放すように冷たい言葉を投げかけた。そう、ただのパーティーメンバーでそれ以上ではない。ただ仕事を一緒にするだけの存在にそれ以上の事を求めるな!


「えっ、普段も仲が良いわよね? ユイが冷たいのも、慕ってくれているからなのよね?」

「どうして、そういう考えができるんだ!」

「素のユイさんが出ているんですから、心を分かち合った仲になっていると思うんですよね」

「言わないと分からないだろう!?」

「ほらほら、そういうところ!」

「ユイさんってば素直じゃないんですから~!」

「あー、どうしてこいつらは人の話をちゃんと聞いてくれないんだ!」


 本当に馬鹿の馬鹿で馬鹿だ! 人の話を理解してくれない!


「はい、せーの!」

「はい!」

「動くなっ……!」


 また、急に動き出した。相変わらず足は揃わず、真ん中にいた私の足が同時に動き、前に倒れて顔面を強打してしまう。顔面に痛みが広がると、フツフツと怒りがこみ上げてくる。


 こいつらのいいように使われてたまるか! 強引に立ち上がった、私は身体強化の魔法をかけた。


「また、失敗しちゃ……って!?」

「わわっ、ユイさん!?」


 二人の足を強引に引きづるように歩き始めた。好き勝手に歩き回るのだが、二人は私のように転ばない。何故だ、何故二人は転ばないんだ!?


「あっ、良い感じに歩けているんじゃない?」

「ですね! これを求めてました!」

「やっぱり、私たちは連係が取れるパーティーなのよ!」

「ユイさんが率先して動いてくれたお陰ですね! やっぱり、ユイさんはこのパーティーにはいなくてはならない存在です!」


 そんな……。引きづってやろうと思っていたのに、三人でちゃんと歩けるようになるなんて……嘘だ!


 私一人が絶望を感じる中、二人はとても上機嫌に肩を組んで仲良く歩き続けた。

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