56.実力(1)
ゴブリンの住処の中に飛び込んでいくと、そこには警戒していたゴブリンたちが待ち受けていた。誰もが臨戦態勢で戦意が高く、今すぐにでも襲い掛かってきそうだ。
「そっち側のゴブリンは任せる」
そう言って、竜牙隊のメンバーは私たちに背を向けて、私たちの反対側にいるゴブリンたちと対峙した。ということは、私たちは目の前のゴブリンと戦うことになるのか。
改めて目の前のゴブリンを見てやる。十体以上ものゴブリンがそこにはいて、みんな私たちの様子を窺っている。下卑た笑みを浮かべて攻撃するタイミングを見計らっているのが気持ち悪い。
ゴブリンはまだまだいる。早く目の前のゴブリンたちを倒さないと、次々と新手が来てしまう。そうなる前に、早く片づけたいのだが……。
「ここの連係は何がいいのでしょうか?」
「誰を主軸にするかよね」
まだこの二人は連係について考えていた。本当にいい加減にして欲しい。私はもう一度、二人の耳を引っ張った。
「いい加減にして。連係とか何も考えないで、戦闘に集中する」
「いててっ。で、ですが……こんなに数が多くては、連係を取らないと相手をするには難しいのでは?」
「数が多いから、連係を取ったほうが安全じゃないの?」
「はぁ……今までどんな戦い方をしてきたか思い出して」
本当に馬鹿だ、今までの戦ってきた経験を全く考慮に入れていない。
「今まで一人で複数とのゴブリンと戦ってきた。数は今までよりも多いけれど、複数と戦う経験は積んでいる。今まで通り戦えば、何の問題もない」
「複数の敵と戦ってきましたが、複数の味方と戦った経験がありません。どう動いていいか分からないのです」
「味方がどんな動きをするのか分からないのに、自分がどんな動きをすればいいのか分からないじゃない」
「……よく思い出して。私たちは一人が戦っている間に、その人の戦い方を見てきた。だから、メンバー同士の動きは頭の中に入っているはず」
相手の動きは分かっているはずだ。どんな動きをして、どんな攻撃をするのか分かっている。すでに、私たちはお互いに戦闘パターンをじっくりと見せ合っているのだ。
「相手の動きを思い出しながら、自分の動きを考えればいい。覚えているでしょ? それぞれの動きや攻撃パターンを」
「……言われてみれば、分かります。ユイさんの動きも、セシルさんの動きも」
「私も分かるわ、みんなの動き」
「だったら、これ以上言わなくても分かるでしょ。後は動くだけでいい」
ここまで言わないと分からないなんて、世話が焼ける。そんな話をしている内に集まっているゴブリンの数は増えていた。二十体くらいはいるだろうか? 一度にこんなに相手をするのは初めてだ。
でも、不思議と落ち着いている。別にフィリスやセシルと一緒に戦うからという理由じゃない。きっと、これは違う。前の世界でもこんなにゾンビに囲まれても、平気で居られたから。
「グギャーッ!」
とうとう、しびれを切らしたゴブリンたちが襲い掛かってきた。それと同時に、セシルのいつもより早い詠唱が聞こえてくる。
「溢れだす魔力よ、我が意志に従い、敵を切り裂く風の刃とならん。ウインドカッター!」
早口で言い切った詠唱を終わると、風の刃が複数飛んでいった。飛び出してきたゴブリンたちの体を切り裂き、数体のゴブリンが地面に倒れる。
「はぁぁっ!」
すると、すぐにフィリスが動いた。向かってくるゴブリンたちと距離を詰め、双剣で素早く切り捨てた。いつもよりも速く重い攻撃にゴブリンは一撃で絶命して、次々と地面の上に倒れていく。
一方で私に向かってくるゴブリンたちもいる。武器をチラつかせて、じわじわと距離を詰めてきた。小さいからって馬鹿にしているのか? イラッとした私はその距離を詰めた。
素早い動きで一瞬で距離を詰めると、特大のメイスを振るう。豪快に振るうと三体のゴブリンを同時に叩き潰し、力強く振り下ろすと二体のゴブリンが叩き潰された。
メイスの動きが止まった頃を見計らい、他のゴブリンたちが襲い掛かってきた。
「ウインドカッター!」
突然詠唱が聞こえて、私の後ろから風の刃が飛んできた。風の刃は襲い掛かってきたゴブリンに当たると、その体を切り刻む。……良いタイミングだった。
すぐ近くではフィリスが五体のゴブリンと対峙していたが、囲まれても本人は落ち着いている様子だった。
「剣技『一刀両断』!」
素早く体を回転させ、双剣で円を描く。その剣先に当たったゴブリンは体を真っ二つに切られ、肉塊となって地面に転がった。
私たち三人が戦えば圧倒的な殲滅力がある。いつも個人で複数と戦っていたから、その戦い方が体に染みついているし、メンバーの戦い方をずっと見てきたからどう動けばいいのかも自然と想像できた。
だから、一緒に戦っても何も問題はない。ゴブリンの数が多くても、特に問題なく屠ることができていた。
「……連係らしい連係を取っていないのに、あっという間に二十体のゴブリンを倒すことができたわね」
「三人が一緒に戦えば、こんなにもすぐに倒せるものなんですね」
「竜牙隊のような連係は取れないけれど、私たちには私たちなりの戦い方がある。それを実戦すれば、何も問題はない」
地面に転がったゴブリンたちの亡骸を見て、二人は驚いた様子だった。でも、私は当然だと思った。一人で二十体以上ものゴブリンと戦ってきたんだから、これくらいはできる。
「これで分かった? 無理に連係を取らなくても、戦えるってこと」
「はい……。でも、連係は取りたかったですね。仲間って感じがして、とても好きですから」
「ふふっ、私はユイと連係を取ったわよ」
「あっ! セシルさんだけズルい! 私もユイさんと連係を取る!」
連係を取らなくても平気だって言ったのに、まだ連係に拘っているのか。これは何を言っても無駄だな。無視しようと思ったのに、さらに絡んでくる。
「でも、ユイが私たちのことをよく見てくれているのが分かったわ。ユイは私たちの実力を認めているから、そんな事が言えるのね」
「そういえば、そうですね。なるほど……ユイさんはちゃんと私たちの事を見ていてくれていたんですね。なんだか、嬉しい気持ちです」
「……うるさい。ただ、必要があったからだから」
「ふふっ、ユイなりに私たちの事を思ってくれているんだなって実感しちゃった」
「それは嬉しいですね! 私たちの間に友情が育まれていたって事ですか!」
「……来るよ」
そんなことを話している間にも、離れたところからゴブリンが駆けつけてくる。そのゴブリンたちは私たちの姿を見ると一瞬怯んだが、仲間が集まってくると気が大きくなるのか戦意を高めた。
「どんどん来ますね。これ以上数が増える前に、手早く数を減らしましょう」
「だね。ホブゴブリンもいることだし、まずは弱くて鬱陶しいゴブリンを倒すわよ」
「余計なことは考えないで、いつも通りに動いてくれ」
それぞれ武器を構えるとゴブリンと対峙する。ちゃんとした連係を取らなくても戦えることが分かったんだ、しっかりと働いてもらわないと困る。
余計な考えを頭から取り出すと、目の前のゴブリンを戦う事だけを考えた。
◇
飛び掛かってきたゴブリンたちを特大のメイスで叩きのめす。骨が砕ける音が響き、そのゴブリンたちは地面に叩きつけられて動かなくなった。
周囲を見渡すとセシルが風魔法でゴブリンを切り刻み、フィリスが双剣でゴブリンを貫いていた。その周りに立っているゴブリンはもういない。
あれからゴブリンたちの強襲はあったが、問題なく対処できた。それぞれがちゃんと動いたお陰で、数は多くても危なげなくゴブリンを捌けた。
「ふー、これであらかたのゴブリンは倒しましたね」
「竜牙隊の方はまだ戦っているわ。助太刀したほうがいいかしら?」
「数は多いが問題なく対処出来ていると思う。ゴブリンたちを倒すのも時間の問題から、別に手助けする必要はない」
「ユイさんは厳しいですね」
「声かけるくらいはさせて頂戴」
これくらいのゴブリンをパーティーだけで捌けないのは困る。そう思って無視しようと思ったが、セシルが気を利かせた。
「こっちはあらかた倒したけど、そっちは大丈夫かしら! 手助けしようか?」
「なんとか大丈夫だから、手助けはいらない! 新手が来たら、そっちで先に対応してくれたら助かる!」
「分かったわ!」
それぐらいやってもらわないと困る。しかし新手か……次の新手というと想像がつく。すると、こちらに近づいてくる一団が見えてきた。
その一団は低い声を出して、ゆっくりとこちらに向かってきていた。ゴブリンよりも背丈が高く、恰幅のいい体格をしている。ホブゴブリンの集団だ。
「新手の対応って……ホブゴブリンじゃないですか! 二十体以上もいますよ!」
「そ、そんなにいたの!?」
こんなに多くのホブゴブリンと戦うのは初めてだ。いつもは一体や二体だった。いきなり、桁違いのホブゴブリンと戦うことになるのか……。
だが、やるしかない。この二十体以上ものホブゴブリン、全てを屠ってやる。
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