55.戦闘開始

 ゴブリンの住処に近づくと、住処の周りをうろついていたゴブリンが目に入っていく。まずは、周りにいるゴブリンを排除していくのがいいだろう。


 腕輪をメイスに変形させると、ゴブリンに向かっていく。近づくとゴブリンはこちらに気づいたが、突然の奇襲に驚いているみたいだ。その隙に一撃を……。


 そう思った時、私の目の前にフィリスが飛び込んできた。


「ここは連係で仕留めましょう! まずは私が牽制をして、ゴブリンの注意を引き付けます。その間にお二人はトドメを刺してください!」


 鼻息を荒くして私たちに向かって訴えてきた。まだ、そんなことを言っているのか? 何か言い返そうと思っていると、セシルが声を上げる。


「牽制だったら、私の魔法の方がいいと思うわ。風の魔法で驚かせて、隙を作るの。その間に二人がトドメを刺せばいいわ」


 フィリスの言葉に対抗するように言ってきた。正直、どうでもいい。そんなことよりも早くゴブリンを倒さないと、仲間を呼ばれてしまう。


「セシルさんの風魔法の牽制ですか……それも良いですね。でも、魔法は連発すると大変ですから、使いどころが……」

「使うタイミングが難しいのよね。連発をしたら、魔法を使うのが辛くなるし……。一定時間を置いて使うのがいいんだけど」

「だったら、交互に攻撃をするっていう手もありかもしれませんよ。それだったら、魔法の唱えるためのクールタイムもありますし」

「それもいい考えね。でも、それじゃあ私を軸にして戦闘を考えなきゃいけないから……。やっぱり、軸は一番強いユイを軸に考えた方がいいと思うのよね」


 ゴブリンが目の前にいるのに、この二人は連係について語りだした。今はそんなことをしている場合じゃないのに。


「グギャーッ!」


 そうこうしている間にゴブリンは声を上げて、他のゴブリンに私たちがいることを知らせた。この二人のせいで、先制攻撃が失敗したじゃないか。


 隣を見て見ると、竜牙隊のメンバーが住処の近くでうろついていたゴブリンを倒したところだった。向こうは上手くいっているのに、こっちは何もできていない。


「ここは、私たちがサポートに回って、ユイさんを主力にして……」

「ユイに大暴れしてもらって、それで困惑しているところを私たちでトドメを刺すっていうのもいいわね」


 私の前にいる二人が邪魔だ。その先にゴブリンがいるのに、近づけない。仕方なくその二人を避けてゴブリンに近づこうとすると、二人の手が私の肩を掴んだ。


「ちょっと待ってください。今、連係を考えています」

「ユイは勝手に動いちゃダメよ」

「何を言っているんだ? もう戦闘は始まっているんだ。早く倒さないと、ゴブリンが集まってくる」

「いやいや、ゴブリンが沢山いるんですから、ちゃんとした連係を考えて行動しないと大変なことになります」

「ここでちゃんとした連係を取らないと、竜牙隊に遅れを取ってしまうわ」

「よく見て見ろ、もう遅れを取っているんだ!」


 順調にゴブリンを倒していく竜牙隊。二人の目にはそれが入ってきていないのか?


「グギャギャッ!」

「グギャッ!」

「ギャーッ!」


 そうこうしている間に、先ほどのゴブリンが読んだと思われるゴブリンが次々に現れる。くっ……早く対処しなかったから、ゴブリンが集まってきてしまった。


「おい、ゴブリンが集まってきている」

「なっ! いつの間に!」

「まだ、連係を考えていないのに!」

「馬鹿か。数が多いんだ、早く討伐をしないと」


 ゴブリンが集まってきている光景を見て、二人は驚いた顔をした。すぐに武器を構える二人だったが、相手も臨戦態勢でいつでも攻撃を仕掛けられる態勢を取っている。


 強引に突破するか? でも、今日は防御魔法を使っていない。強引に行って怪我をして痛い目を見るのは嫌だ。上手に敵を分けられればいいのだが、この二人にそれができるの?


「ここは私が突破します!」

「私の魔法で蹴散らすわ!」


 すると、二人が同時に前に出た。ハッとした表情をする二人はお互いを見て、言い争いをする。


「いいえ、ここは私がやります!」

「私の魔法のほうがいいと思うわ!」

「双剣の方が早く処理できると思います!」

「魔法の方が威力が高いわよ!」


 お互いに引かないで言い合っている。その様子に戦う気満々だったゴブリンたちの戦意が削がれていく。それどころか、こちらを指差して笑い始める。攻撃を仕掛けてこないのは助かるけれど、馬鹿にされている気分だ。


「ここは、私がやります!」

「いいえ、私よ!」

「私が適任です!」

「私の魔法が効果的よ!」


 この二人はいつまでやっているんだ! こうなったら……!


「私がやる!」


 二人の間に割って入ると、二人は驚いた顔をした。


「「どうぞ、どうぞ!」」

「うっ……」


 これ……どこかで見たことのある展開だ! きっと漫画かラノベで書いてあったものだと思うんだけど、それと同じことができて嬉し……違う違う! そんなことを考えている暇はない!


「グギャーッ!」


 そこにゴブリンたちが襲い掛かってきた。粗末な武器をチラつかせて、こちらに駆け寄ってくる。この二人がこの調子なら対応は無理か? そう思っていた時、二人の体が動いた。


「ちょっと、今は相談中なので襲い掛からないでください!」

「そうよ! まだ話し合いの途中よ!」


 襲い掛かってきたゴブリンたちに向かってフィリスは流れるような動作で剣をふるい、セシルは風魔法でゴブリンたちを切り刻んだ。そして、私の所に来たゴブリンたちはメイスの圧力に負けて押し潰された。


「よし、これで連係の話ができます。やっぱり、誰かを主軸にして考えたほうが……」

「そうね、話の続きができるわ。誰を主軸にするかよね……どんな戦い方がいいかしら」


 ゴブリンをあっという間に倒したというのに、二人はまた連係の話に戻ってしまった。……さっき、まともに連係を取らずにゴブリンを倒したのに、まだ連係に拘るのか?


 その間にも竜牙隊のメンバーは周囲にいたゴブリンを倒し終わり、住処の中に進もうとしていた。足並みを揃えないと危ないな……。私は真剣に話し合っている二人の耳を引っ張った。


「いたたっ、ユイさんやめてください!」

「いたいっ! 何、どうしたのユイ!」

「いいから、先に行くよ。話している暇はない」

「そんな! まだカッコいい連携の仕方を話しているのに! もうちょっと待ってください!」

「連係を取れればきっと上手くいくはずなのよ! それこそ、竜牙隊よりももっと上手に!」


 この二人は……まだそんな事を言っているのか。


「さっきの戦い方を見ていなかったのか? 私たちはあれで十分だ」

「だって、あれは連係を取ってないじゃないですかー! あれは、違うんです!」

「お互いの力を十分に発揮するには、連係が必要なのよー!」

「連係を取るのが重要なんかじゃない! ゴブリンを倒すことが重要なんだ!」

「いーやーだー! 連係を取るんです! 友情パワーを見せつけるんですー!」

「私たちも仲良しごっこをするのよー! 私たちが仲良しなところを見せるんだからー!」

「一体何を張り合っているんだ! ゴブリンを倒すことに集中しろ!」


 竜牙隊を見てからこの二人がおかしくなった。一々連係を取らなくてもゴブリンを倒せる力があるというのに、なんでそれに気づかない。今はゴブリンを倒すことが先決なのに……。


「おい! 周りのゴブリンを倒し終わったから、住処の中心に行くぞ!」


 離れた位置からジェイスが声をかけてくる。面倒だが、足並みを揃えないといけない。先に住処の中へ行く竜牙隊を追って、私たちも住処の中心へと向かった。

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