54.連係を取りたいらしい
翌日、待ち合わせ場所で合流すると大規模のゴブリンの巣へと向かっていった。その道中、竜牙隊のメンバーはとても楽しそうに会話をしていた。そんな和気あいあいの雰囲気をジト目で見ていたのが、セシルとフィリスだ。
「私たちもあんな風に話し合いながら歩くべきよ。ほら、ユイ。もっと楽しそうにして!」
「……なんで、私が」
「ユイさんが笑えば、和気あいあいとした雰囲気になります。竜牙隊に負けていられません!」
「雰囲気で負けるってどういうこと?」
二人が竜牙隊を意識しすぎていて、変な絡み方をしてきてうざい。今まで道中に向かう時は二人で喋っていて、時々こちらに話題を振る程度だったのに……。今は私に集中攻撃をしているみたいだ。
「はぁ、はぁっ。こ、ここは……ぜひ、ユイの前の世界の話をっ」
「ゾンビと戦って生きていた。はい、終わり」
「それ以上の事を知りたいのに、ユイが全然話してくれないー!」
「よしよし、セシルさん元気出して。もう、ユイさん! セシルさんをいじめちゃダメですよ、病んじゃうじゃないですか!」
「病んじゃう、私……ヤンデレに生まれ変わっちゃうっ!」
は? 頭がおかしくなった?
いつもは一線を置いて接してくれていたのに、竜牙隊がいるせいで余計に交流を持とうとしてくる。比べる対象がいるだけでこんなにも豹変するとは思わなかった。強引にでもこのクエストを断れば良かった。
その間でも竜牙隊のメンバーは楽しそうに会話をしている。時々、お互いの体を押し合ってじゃれ合いもみられる。まるで、漫画で見たような光景だ。
まぁ、別にそうなりたくはないが……二人の熱い視線が竜牙隊に注がれる。そんなにやりたいなら二人だけでやって欲しい。まさか、私を巻き込むつもりじゃないだろうな。
「あれ、いいですね! やりたいです! 私たちもじゃれ合いましょうよー!」
「いいわね。やりましょう」
すると、二人が私の両隣に来る。まさか……。
「ユイも素直になって、じゃれ合いましょうよー」
軽く肩を押される。
「友情を育んで、パーティーの力にしましょう!」
今度は反対側の肩を押される。
「ほらほらほらー、仲良しこよしよ!」
「私たちの仲の良さも見せつけるのです!」
二人に体をくっ付けられ、板挟みに合う。ギューギューに押されて苦しいし、鎧が痛い! や、やめろっ……!
「うるさい! いい加減にして!」
強引に二人の体を手で押して体を離す。だけど、すぐに力で押し返してくる。ぐっ……こういう時だけ力が強いっ!
「観念にして私たちとじゃれ合うのよっ」
「仲良くなるチャンスですよっ」
「そんな気はないっ」
両隣から二人が体を押してくるが、私の手でそれを押し返す。そんな攻防を繰り広げていると――
「ゴブリンだ!」
竜牙隊から声が上がった。途端に場に緊張感が増す。私たちの目の前に現れたのは三体のゴブリン。こちらの様子を窺っていて、攻撃するチャンスを狙っているみたいだ。
「任せて!」
一番早く動いたのは弓使いのオビリアだ。弓矢を番え、すぐに何本も射出した。弓矢は真っすぐゴブリンを飛び、その体に刺さる。その攻撃にゴブリンが怯んだ。
「よっしゃ、行くぞ!」
「おう!」
そこに勇者候補のジェイスと槍使いのセルが飛び出していく。怯んでいるゴブリンに向かって剣と槍を振るうと、一撃でゴブリンを仕留めた。そして、その間に詠唱をしていたリリスの魔法が飛ぶ。
「ストーンバレット!」
無数の石がゴブリンに向かって飛び、石はゴブリンの体を貫いた。四人が協力して、あっという間にゴブリンを屠ってしまった。
「みんな、ナイスだったぜ!」
「いい連係だった」
「当たり前っしょ! 私たちにかかれば、こんなもんよ!」
「……上手くできたっ」
呆気ない戦闘終了に竜牙隊の明るい声が響いた。みんなで集まって、お互いの健闘を称えてハイタッチをする。その姿は清々しくて見ていて気持ちがいい……が、私はどうでもいい。
でも、二人は違うようだ。そんな様子を羨ましそうに見て、とても悔しそうに顔を歪めた。
「私も、私も……ハイタッチがしたいです!」
「三人でイェーイとかやってみたい!」
「……二人で勝手にやれば?」
「三人じゃないと意味がないんですよ! 分かります? ねぇ、分かりますかー!?」
「ユイが入ってくれないと、めちゃくちゃ寂しいのよ! だから、一緒にやりましょ? ね、ね?」
「興味ないね」
二人に掴まれてガクガク揺さぶられるが、興味がなくてやる気がない。漫画やラノベではあった光景だったけど、自分がやるのは想像が付かなかった。
そんな所にジェイスが近寄ってきた。
「おいおい、お前ら。そんな調子で本当に大丈夫か? 今回のゴブリンは凄い数がいるんだぞ!」
「な、何を言っているんですか。私たちは絶好調ですよ。友情パワー全開です!」
「わ、私たちだって、連係が取れるんだから! 見くびらないで欲しいわ!」
「本当か? まぁ、もし無理そうなら頼ってくれても構わないからな。なんてったって、俺たちには絆の力があるからな!」
「「……ぐぬぬっ」」
無邪気な顔して二人の心を抉る言葉を吐いたジェイス。好き勝手に言い残すと、自分のパーティーの下に戻っていった。残された二人はとても悔しそうに目を強く瞑っていた。
「あんな顔で……あんな顔で……ユイさんに同じセリフを言って欲しかった!」
「誰が言うか!」
「キラキラした笑顔で私たち親友だから何も心配しないで! って、励まして欲しい!」
「誰が親友だ!」
本当にこいつらは好き勝手なことばっかり考えるから困る! 散々仲良くする気は無いって言っているのに、どうして仲良くなることばかり考えるんだ。
鬱陶しい二人を置いて、私はさっさと先に進んだ。
◇
森の中を進んでいくと、少し開けたところが見えてきた。そこには見慣れたゴブリンの住処が造られている。だけど、いつもとは規模が違う。百体以上ものゴブリンが住んでいる場所とあって、その住処はとても大きかった。
私たちは木の陰に隠れて、その様子を窺っていた。
「あれが目的の場所か。いつもよりゴブリンが多くて、緊張するぜ。みんな、戦う準備はいいか?」
「もちろんだ、いつでも行ける」
「まずはどう戦っていく? 影に潜んでいくか、突然前に現れるか……」
「戦略、大事」
「おい。お前たちはいつもどう戦っている?」
木の影に隠れながら、私たちは作戦を立て始めた。
「私たちはいつもはぐれたゴブリンを倒しつつ、住処に近づいて行っているわね」
「いきなり行くのは危険だと体験したので、それはやらないでいます」
「そうか、だったらいきなり前に出て行くことは止めよう。今回は協力し合わないと、倒せない数になっているからな。お互いのパーティーがあまり離れないようにしたい」
「どちらかが突出しないように気を付ければいいのね」
「そんな感じだ。近くで戦っていれば、いざという時に手助けもできるだろう。そうやって、協力し合ってゴブリンの数を減らしていこうか」
相手は数で押し寄せてくるんだ、こちらも集まって対処したほうがいいだろう。孤立すると、群がるゴブリンが多くなって処理しきれなくなるから。
ということは、今回は手数が多ければ優位になりそうだ。
「支援魔法をかける」
「いつもの防御魔法ですか?」
「今回は攻撃支援魔法」
「そんなものもあるのね。じゃあ、お願いしようかしら」
手数が多くなるような支援魔法はある。手を胸で組み、二人の前で祈る。
「神よ、聖なる力の輝きの導きにより、眠れし力を目覚めさせ給え」
祝詞を唱えると、二人の体が光で輝き出す。しばらく輝き出すと、光は次第に収束していく。
「あ、なんか力が漲ってくるようです。これはどんな風に強くなる魔法なんですか?」
「フィリスは力や速度が上がって、セシルは詠唱の速度上げて負荷を軽くする」
「そんな便利な魔法があったの!?」
「聖魔法は支援魔法も充実しているから」
本当に聖魔法は便利な魔法だ。攻撃も防御もできて、支援や回復もできる。属性の力がない分、汎用性に特化した魔法だろう。
「これで最低限の協力はした。後は個々が力を発揮するだけ」
「……思ってた、協力と違います。連係、連係の攻撃がしたいんです!」
「そうよ、お互いの動きに合わせて、最適な攻撃を繰り出すヤツがやりたいのよ!」
「馬鹿か。そんなことがいきなりできるわけないだろ。いい加減、無駄な夢から冷めろ」
私の言葉に二人はまたぐぬぬっと悔しそうな顔をした。……そんな連係をしなくても、二人はしっかりと戦えているのにな。
「準備はできたか? さぁ、行くぞ!」
その声に私たちは木の影から飛び出していった。討伐開始だ。
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