53.クエスト前の話し合い

「まさか、こんなちびっ子に簡単に投げ飛ばされるなんて思わなかった!」


 席に着いて落ち着いたところで、ジェイスが笑いながらそう言った。さっきから、人のことをちびっ子っていうのは腹立つ。


「ユイは背は小さいけど、これでも十二だし、本当に強いのよ。だから、見くびらないで欲しいわ」

「本当に強いんですから。だから、安心してください」

「そんなこと言ってもよ、まだ戦っている姿を見たことがないから信じられないが」

「……だったら、戦ってやろうか?」

「まぁまぁ、ユイ。落ち着いて」

「ここは戦う場面じゃないですよ」


 ギロリと睨みつけたら、二人に窘めされた。人を見た目だけで判断する奴は嫌いだ。一度分からせてやらないと……。


「自己紹介がまだだったわね。私はセシル、魔導師よ。鎧を着ているのが勇者候補のフィリス。それで話題の人はユイ。こう見えても職業は聖女なのよ」

「こんなにちっさいのに上位職なのか!? それはたまげた」


 私が聖女と知ると、ジェイスたちは分かりやすく驚いた。だけど、ちっさいは余計じゃないか?


「じゃあ、こっちを紹介するぜ。俺は勇者候補のジェイス。隣にいる男が槍使いのセル。反対側にいる女の子が弓使いのオビリア。オビリアの隣にいる女の子は魔導師のリリスだ」


 この男が勇者候補? 男の勇者候補にはいい思い出がない。この男もあの男と似たような匂いがする。


「いやー、一人は聖魔法を唱えられる人がいて助かったぜ! 俺たちのパーティーには神官がいないからな」

「神官は人気だからな。勧誘に遅れると、気が付いたらみんな勧誘済みだった、ということがある」

「ちょっと、男子ー。聖魔法の人がいるからって、無茶しすぎないでよね。リリスもそう思うでしょ?」

「……そう」


 竜牙隊の人が好き勝手に喋っている。こうやって、大人数でガヤガヤするのは好かない。早く必要なことを喋って解散したい。


「どうだ? ちびっ子、このクエストが終わったら俺たちのパーティーに入らないか?」

「ちょっと、人の推しを勝手に勧誘しないでくれる! 絶対にそっちのパーティーには入れないからね!」

「ユイさんがいなくなると、このパーティーは崩壊してしまいます! 絶対に行かないでくださいね!」


 ジェイスの一声に二人は私を掴んで抗議の声を上げた。はぁ……面倒なことを言わないで欲しい。


「さっさと話しを進めて。それで、何を話せばいい?」

「今日は顔合わせができればと思っていたんだ。あとは雑談だな。一緒に戦う前にお互いの事を知っておいた方がいいだろう?」

「だったら、話すことはない。あとは本番になって、それぞれの力を発揮するまでだ。じゃあ、これで」

「お、おいおい! いくら何でも端的すぎるだろ。もうちょっと話そうぜ!」


 席を立って離れようとすると、呼び止められる。正直、何を話せばいいのか分からない。何も話すことはないのに、この場にいることが苦痛だ。


「ほら、話すことあるだろ。パーティーとしてどんな風に戦うのとか。それを知っていると、協力する時のためになるだろう? な、みんなもそう思うだろう?」

「まぁ、相手のことを知るのはいいことだ。相手がどんな動きをするのか知っていると、動きやすい面はある」

「私は後衛だしー、前衛の人たちの動きを見て攻撃するから、そういう話は聞きたいな。っていうか、あんたたちはどんな風に連係とっているのよ」

「……連係大事」


 竜牙隊の話に私たちは顔を見合わせた。


「私たち、全然連携して戦えていないからなー。どんな風にって言われたら、どう答えていいか分からないわ」

「連係取ったのって、あのクエストのひと戦闘くらいでしたよね。あれは上手くできたと思います」

「え、え~……あんた達って普段どうやって戦っているのー?」

「まぁ、私たちは個々の戦闘力を上げることを最優先にしてたから」

「ズバリ、一人でゴブリンの巣を掃討してました」

「な、なんじゃそりゃぁ!」


 私たちの話を聞いて竜牙隊の人たちは驚愕した。


「そんなのパーティーでいる意味ないだろ!」

「パーティーなんだから、協力し合うのが普通じゃないか?」

「ちょっとドン引きー……」

「パーティーの意味、ない……」


 そんなことを言っても、強さに差がありすぎて協力し合うどころじゃないと思う。セシルとフィリス同士なら上手くいくとは思うけど、私とだったら無理だと思う。


「そんな……私たちパーティーじゃなかったってこと?」

「今までの戦いで友情は育まれていなかったってことですか?」

「……パーティー解散」

「しないわよ! 絶対に!」

「これから……これからです! 私たちのパーティー活動は!」


 パーティーでいる意味がないと思うんだけど、二人はそうじゃないらしい。私は一人の方が慣れているからやりやすいんだけど。どうしても、二人が離れてくれない。


「それに比べて俺たちはちゃんと連係を取って戦っているからな。パーティーとしては絆が深い」

「まだ初心者パーティーだけどな。ちゃんと、信頼し合って戦えていると思う」

「いやー、一人で戦うなんて無理だわー。よく、パーティーがもっているね。そっちの方が不思議だわ~」

「パーティーの良さ、全然発揮できてないっ」


 竜牙隊の人たちはパーティーの絆の深さを自慢げに語っていた。それを見せられた、セシルとフィリスは悔しそうにぐぬぬっとして唇を噛んでいる。


「本当にお前ら、今回のクエスト大丈夫なのか? 数が多いから、ちゃんと連係取れないとヤバイぞ」

「もし、危険そうなら手伝いをしてやろうか? 無理なら早めに言ってほしい」

「そうよ、実力不足ならはっきりと言って欲しいわ! それだったら、力を貸してあげなくもないけどね」

「力不足、言わないのはダメ……」


 目の前のパーティーはキラキラしているように見える。メンバー同士が信頼し合って、自分の命を相手に預けられる。漫画やラノベで見た、熱い展開によくあるパターンだ。


「クエストの時、絆の強さを見せてやるよ!」


 ◇


「私っ……悔しいです! 理想を見せつけられた感じがして、惨めな気持ちになりました! 私も、私も……あんなことが言いたかったー!」

「私たち……個々で強くなることしか考えていなかったわ。パーティーでいるのに、パーティーの戦い方を全然してこなかった。次のクエスト、上手くできるかしら」


 宿屋に戻って来ると、フィリスは悔しそうに叫び、セシルは落ち込んだように呟いた。二人とも、パーティーとしての戦いをしてこなかったことに焦りを感じているみたいだ。


「……誰かを当てにした戦い方なんて、上手くいかない。個々に力がなければ、戦えるものも戦えない」

「ユイさんの言っていることは分かります。ですが、それ以上にパーティーとしての戦い方に魅力を感じているのです! お互いの背を預けられる仲って最高じゃないですか!」

「私たちだって、絆を築けていれば! そうしたら、自然とパーティーらしい戦い方ができるのに! どうして、今まで個人の戦い方に重きを置いていたのー!」


 二人がうるさすぎる。今更ごちゃごちゃ言っても無駄なのに。こんな調子でクエストなんて受けられるのか?


「はぁ……だったらこのクエストは止めておく?」

「それはダメです。私たちのパーティー力というものを見せつけるためにも、やるべきです!」

「そうよ、私たちの絆の強さを見せつければいいのよ!」

「……それで痛い目をみても知らないよ」


 協力するのがそんなにいいとは思えない。人は都合が悪くなると平気で裏切るし、簡単に人を見捨てる。結局最後は自分の力しか頼れない状況になるはずだ。


「変なことを考えないほうがいい。結局、頼れるのは自分の力だから」

「いいえ、頼れるのは仲間です! 仲間との絆はとても頼りになるものです!」

「いざという時に頼りになるのは仲間の力よ! 私は信じているわ!」

「……私は信じられない」


 どうして、そんなに仲間の力を頼るのか? それは自分に力がないと言っているようなものじゃないのか? 力がないと自覚しているんだったら、戦いになんか出ない方がいいのに……。


 答えの見えない問題を考えていると、フィリスもセシルも真剣な顔つきになった。


「私は信じています。ユイさんことも、セシルさんことも。だから、頼りにしているんです。これって健全なことだと思うんですよね。まだ過ごした時間は少ないかもしれませんが、私は二人の人となりを見てそう思っています」

「私もよ。きっと、危険が迫ったら仲間の誰かがなんとかしてくれるって思ってる。仲間もそう思ってくれているんだったら、私だってその期待を裏切れない。何かがあったら全力で助けるだけよ」


 どうして、そう簡単に信じるとか言えるのか謎だ。自分の事を他人に委ねるのが怖くないんだろうか? それに、今まで冷たく突き放していただけの私を信じるって……信じられない。


 でも、二人の目はとても真剣で嘘をついているようには見えなかった。

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