52.協力クエスト
今日も今日とて、ゴブリンの巣の掃討クエストを完了して冒険者ギルドへと戻ってきた。二人を鍛えるために始めたゴブリンの巣の掃討だけど、その成果は出てきている。
二人とも一対数十の戦いに慣れてきて、危ないシーンがなくなってきた。その一撃は確実にゴブリンを仕留め、先の戦いを見通せるまでになってきた。私と同格、とまでは言わないが、戦闘中の動きは各段に良くなっている。
そのお陰か、無駄な動きがなくなって疲れ果てることもなくなった。あんなに愚痴を言っていたのに、今では戦闘後に雑談を楽しむくらいには体力も気力も残っているようだ。
「今日もゴブリンの巣の掃討、お疲れさまでした。報酬は口座に振り込んでおきました。残りの端数はこちらになります」
いつものように受付でクエスト完了の手続きをとる。三人で割り切れない部分は現金で貰い、それを適当に三等分して各々の財布に入れた。
「実は栄光の乙女英傑さんにお願いしたいクエストがあるんです」
「また? 今度はどんなクエスト?」
「はい、こちらになるんですけれど……」
そう言って、受付嬢は一枚の紙を差し出してきた。そこに書かれてある文字はゴブリンの巣の掃討。いつもと変わりない、と思っていたが……。
「大規模のゴブリンの巣の掃討?」
「はい。まだできて間もないんですが、百体以上のゴブリンがいる住処が発見されました」
「百体以上ですか。今までとは桁が違いますね」
「その住処で確認されているのはゴブリンとホブゴブリンだけで、それ以上の上位体は発見されていません。その程度なら上位の冒険者に頼めなくて、初心者の方が適当だという判断が下されたんです」
今までのゴブリンの巣は二十数体くらいの物ばかりだった。だけど、これは桁が違う。いきなり三倍以上もの数のゴブリンたちを相手にしなくてはいけない、大変なクエストだ。それを初心者に? この冒険者ギルドの頭は大丈夫なのか?
「ゴブリンだけじゃなくて、ホブゴブリンまで。しかも、百体以上もいるなんて……。とてもじゃないけど、これは初心者には手に負えない案件よ」
「はい、私もそう思っています。だから、今回のクエストは一つのパーティーに依頼するのは危険だと判断しました。なので、このクエストはパーティー同士が協力して成し遂げるクエストになります」
「他のパーティーと手を組んで、大規模のゴブリンの巣を掃討するクエストですか」
他のパーティーと一緒だって? なんだか、面倒くさそうなクエストだ。
「すでに一つのパーティーにはお願いして、引き受けていただきました。なので、あと一パーティーが必要なのです。そこで、最近ゴブリンの巣の掃討を請け負っている栄光の乙女英傑さんが適任だと思いました」
「じゃあ、二パーティーで百体以上のゴブリンを相手にすることになるのね」
「うーん、ちょっと厳しくないですか? いつもは三十体以下の相手ですし」
「このクエストで出すことができるのは二十万オールまでなんです。もし三つのパーティーにお願いをすると、配分が減ってしまうんですよね」
お金を取って二パーティーでやるか、それとも安全を取って二パーティー以上を希望するか……。断然、安全を取ったほうがいいと思うが……私一人でも対応できそうなクエストだな。
「引き受けてくださったパーティーは二パーティーで十分だとおっしゃっていたのですが。もし、栄光の乙女英傑さんがこのクエストを受けるのでしたら、三パーティー以上の方がいいですか?」
「むっ、それだとなんだか負けた気になるわね。いつもより討伐数は多くなっちゃうけど、ギリギリいけそうな数ではあるわ」
「私たちだって強くなっているんですから、きっとできますよ。このクエスト、受けましょう!」
なんで、そこで対抗心を燃やすんだ。ま、でも……それくらいはできてもらわないと困る。
「では、このクエストを受けてくださるんですね。ありがとうございます。では、まずはパーティー同士の顔合わせをしましょう。明日の午前十時頃に受付にお越しください」
「分かったわ。その頃になったら、ここに来るわ」
話はそれで終わった。私たちは受付から離れて、冒険者ギルドを出て行く。
「今度のクエストは数が今まで以上に多いから、気を付けないとね」
「……ちょっと待ってください。それも重要ですが、もっと重要なことがあります」
「えっ、何?」
「今回のクエストで私たち三人が一緒に戦うことになるんじゃないんですか!」
「あ、そういえばそうね。ということは、協力プレイっていうのがとうとうできるのね!」
今までゴブリンの巣の掃討は一人ずつやってもらっていた。でも、今回のクエストはそうはいかない。自然と三人が協力し合わなければならないだろう。……やっぱり、面倒なクエストだ。
「ようやくパーティー戦闘らしいことができます。私たちの力が合わさると、どんな力を発揮できるか楽しみですね!」
「きっと、凄い力を発揮してくれるに違いないわ! 今からイメージトレーニングよ!」
「夕食を食べながら、各自の動きを確認しましょう。どうやって、協力するのかも話し合いが必要ですね。うー、ワクワクしてきました!」
三人で協力できると知った二人のテンションが高い。協力して戦うのがそんなにいいとは思えない。自由に動けなくて、その分行動に制限がついてしまうので協力は苦手だ。
「一緒に戦うパーティーのことも気になりますね。一体、どんな人たちでしょうか?」
「会ってみないと分からないけど、いい人だったらいいわね。ユイはどう思う?」
「絡むのが面倒」
「そんなことを言ったらダメですよ。今回は協力クエストなんですから、そこはちゃんとしてくださいね」
「今回は独りよがりなことをしちゃダメよ。敵の数も多いんだし、しっかりと協力して乗り越えるわよ」
なんで、私が叱られないとダメなんだ。他人の力なんて当てにしたら痛い目に合うというのに……。やっぱり、協力するのは苦手だ。
◇
翌日、時間に合わせて冒険者ギルドへとやってきた。
「栄光の乙女英傑よ。今日は一緒にクエストをするパーティーと顔合わせに来たんだけど……」
「それでしたら、もう一つのパーティーは来てますよ。ご案内いたします」
受付嬢がカウンターから出てくると、テーブル席が並ぶところまで案内してくれる。歩いた先に席に着いている人たちがいた。
「お待たせしました、こちらが栄光の乙女英傑さんです。それで、こちらが竜牙隊のみなさんです」
席に着いていたのは四人。男性が二人、女性が二人。全員十代後半に見える。受付嬢はそれだけを言うと、すぐにいなくなった。すると、竜牙隊の一人の男性が立ち上がってきた。
「俺が竜牙隊のリーダー、ジェイスだ。そっちのリーダーは誰だ?」
「リーダーは……いないわね。しいて言うなら、ユイがリーダーかしら?」
えっ、私がリーダー? 面倒くさい役柄を押し付けるな。私の心の声なんて届かず、セシルは私を指差した。すると、ジェイスは私を見てギョッと驚いた。
「えっ、ちっさ」
イラッとした。
「いや、こんなちびっ子がリーダーなんてありえないだろう?」
「でも、この中で一番強いし、頭もいいし、私たち二人はユイに付き従っているからね。主格だと思うけど」
「こ、こんなちびっ子が? いやいや、あはは! 冗談はよしてくれよ! まだまだ、親のお守りが必要に見えるぜ!」
ジェイスは私に近づくと、ポンポンと頭を軽く叩いてきた。まるで、子供をあやすかのような仕草に私の怒りがこみ上げる。
「なぁ、ちびっ子もそう思うだろう? お前も何か言ってやったらどうだ?」
笑いながら、私の頭をグリグリと撫でまわす。その鬱陶しい手を握ると、思いっきり引っ張ってジェイスを背負い投げをする。ドンッ! という大きな音を立てて、ジェイスが背中から床に叩きつけた。
「弱そうに見えて、悪かったね」
この人たちとは上手く協力できなさそうだ。
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