48.瘴気の原因の行方
「ユイさん、場所はどこですか!?」
「地図によると、前方左の方だけど……気配は前方右から感じる」
「ということは、瘴気の原因が移動したってこと? じゃあ、気を付けないといけないわね。魔物が移動させたっていうことでしょ? そこには魔物がいるはずよ」
森の中を走りながら、瘴気の原因の気配を探る。地図で示された場所の方に瘴気の気配は感じなかった。これは悪い予感が当たっていると言ってもいいだろう。
「……あっち。瘴気の気配が強くなっている」
指を差した方向に進んでいく。
「でも、さっき話していたパーティーが瘴気の原因の場所にいるんでしょうか? 場所、分かりませんよね?」
「近づいたら霧で分かるからそれで探しているんじゃない?」
「……もう一つ、方法がある。そのパーティーに神官がいたら、気配を探って瘴気の原因に近づける」
「あぁ、そのパーティーに神官がいたらそうですね」
力試しを目的にしているのだったら、場所の特定ができないと話にならない。ということは、場所を特定できる人がいると考えたほうが自然だ。特定できる人……そのパーティーには神官がいる可能性が高い。
ここは初心者が集う森と聞いた。今時期の初心者パーティーだと、一緒の養成学校を卒業したメンバーの可能性がある。そのことを考えると、若干の焦りが出てくる。
……もう、関係のない人らだったはずなのに、どうしてこうも気になるのか分からない。他人なんてどうでもいいと思っていたのに、この考えが鬱陶しく思う。
そんな考えに浸っていると、前方からゴブリンの声が聞こえた。やけに興奮している声で、こんな声を聞くのは初めてだ。その声は段々とこちらに近づいているようだ。
「ゴブリンと接敵します!」
「いつもとは気配が違うわ。きっと瘴気に当てられたゴブリンのようね。みんな、気を付けて」
「言われるまでもない」
武器を構えてその場で待つと、木々の隙間を縫うようにゴブリンが走ってやってきた。数は……五体か。
「グギャーッ!」
「ギギャーッ!」
私たちを視認するといつもよりも素早い動きで一斉に飛び掛かってくる。
「始めは任せて! 漲る魔力よ、我が意のままに舞い踊り、敵をなぎ倒す力となれ。ウインドブロウ!」
強い風圧が巻き起こり、一斉に飛び掛かってきたゴブリンを弾き飛ばした。弾き飛ばされたゴブリンはその体を強く地面に叩きつけられる。
「今の内ですね!」
「……潰す」
衝撃を受けてすぐに動き出せないゴブリンを狙う。地面に横たわっているゴブリンの頭めがけてメイスを振った。骨の砕ける音が響く。素早く、他のゴブリンの頭も叩き潰した。
「ギャギャー!」
「一体、打ち漏らしました!」
そちらを見ると、ゴブリンは鋭い剣幕でフィリスに襲い掛かっていた。素早い身のこなし、重い一撃……瘴気を浴びたゴブリンはいつも以上に強くなっている。
「グギャーッ!」
「くっ、中々攻撃が当たらない!」
「任せて! 溢れだす魔力よ、我が意志に従い、敵を切り裂く風の刃とならん。ウインドカッター!」
フィリスとゴブリンが競り合いをしている所にセシルの風魔法が飛んでいった。風の刃は的確にゴブリンの体を捉え、その体を八つ裂きにされて倒れた。
「ありがとうございます。いつもと様子が違うので、手間取りました」
「凶暴性が増している感じがしたわね。いつもと同じ戦い方じゃダメかも」
確かに、いつもと同じ戦い方をしていたらジリ貧になってしまう。いつも以上に積極的に倒しに行かないと、危ない場面が増えるかもしれない。
「先を急ぎましょう。先に行ったパーティーが気がかりです」
「そうね。本当に強いなら心配ないんだけど、そうじゃない場合もあるしね」
先行したパーティーがどうなろうと知ったことではない。ないが……養成学校のメンバーがいる可能性があるから気になる。ただ、気になるという事だけで別にどうこうしようと思っている訳じゃない。
ゴブリンたちに祈りを捧げ終えると、私たちは森の奥へと進んでいった。
◇
「見てください。周りに紫色の霧が薄っすら見えませんか?」
「見えるわ。これが瘴気なのね。そうでしょ、ユイ」
「……みたいだ」
森の奥に進むと、薄っすらとした紫色の霧が辺りを包み込んでいるのが見えた。この嫌な感じ……これが瘴気か。初めて見るが、体がざわついて落ち着かない。
ここで瘴気の浄化をして、霧を晴らすのもいいだろう。だが、原因となっている瘴気の素をどうにかしないと霧は増え続ける一方だ。周りの霧をどうにかするよりも、今は元凶をどうにかする方が先決だ。
「この奥……霧が濃くなっているみたいです」
「……聞いて。この奥から沢山のゴブリンの声が聞こえてくるわ」
「見てください! 見慣れたゴブリンの住処が見えます!」
「ちっ……どうやら、瘴気の原因を持ち出したのはゴブリンの住処の住人ってことか」
これは面倒くさいことになった。ゴブリンの住処に瘴気の原因を移動したとなると、そこに住むゴブリンたちが凶暴化しているということだ。住処のゴブリンは二十体以上はいる。それが全部凶暴化か……。
住処にどんどん近づいていくと、妙な騒がしさに気づいた。まるで、何かと争っているようなそんな声だ。……いや、良く聞いてみるとゴブリンの笑い声の方が大きいような気がする。
「なんだか、不気味な声ですね。背筋がゾッとします」
「木陰に隠れて、住処を確認しましょう」
「そうですね。飛び込んでいくのは危険です」
私たちは木陰に身を隠して、住処の中を確認した。ゴブリンたちが一か所に集まって、何かをしているように見える。よく見ると、殴る蹴るをしていたり、武器を振るっているように見える。
一体何をしているんだ? そのまま様子を眺めていると、ゴブリンが地面に手を伸ばして何かを引き上げた。その引き上げたものを見て、目を見張った。
血まみれの人の顔が出てきた。
「ひ、人です! 人がやられています!」
「もしかして、あれが先走ったパーティーなのかしら」
「まだ、生きてますよね! 早く助けに行きましょう!」
ゴブリンたちに集られている人たちはまだ微かに動いている様子だった。それを見た、フィリスが慌てて声を上げたが、このまま行くのはまずい。
「このまま行ったら、ゴブリンに袋叩きに合うからダメ」
「でも、早く助けないと死んじゃいますよ!」
「まずは数を減らす。セシルと私の魔法を使って。セシルはこの距離から魔法を当てられる?」
「なんとかいけそうよ」
「じゃあ、魔法を放つよ」
木陰から出ると、セシルは杖を私は手を構えた。
「神よ、聖なる力によって悪しき者を倒す無数の矢を与え給え」
「溢れだす魔力よ、我が意志に従い、敵を切り裂く風の刃とならん。ウインドカッター!」
私の手が光り、無数の光の矢が勢いよく放たれた。それと同時にセシルの風の刃も飛んでいく。物凄い速さで向かっていった光の矢と風の刃。それらは粋がっていたゴブリンの体を貫いた。
「グギャーッ!」
「ギャーッ!」
「グガッ!」
無数の光の矢に貫かれ、強靭な風の刃で切り裂かれる。その場にいた、十体近くのゴブリンが一瞬にして絶命した。
「はぁぁっ!」
それを見ていたフィリスが飛び出していった。素早くその場に駆けつけると、残っていたゴブリンに向かって双剣を持って回転する。
「剣技『一刀両断』!」
残ったゴブリンに剣技が炸裂した。剣先に触れたゴブリンの体が一瞬にして切り離され、物言わぬ肉の塊になって地面の上に散らばる。
これで、そこに立っているゴブリンはいない。私たちは急いで駆け寄り、フィリスは倒れた人たちに声をかける。
「もう大丈夫ですよ! 息、してますか!?」
「……た、助かった……のか?」
声をかけられた人は息絶え絶えに答えた。相当ダメージはあるものの、息があるだけ良かったか。
「良かった。まだ、生きていたみたいですね」
「た、助けて……くれっ……」
「だから、もう大丈夫ですよ」
「ち、違う……一人、連れていかれたんだっ」
その人は顔を歪ませて、声を絞り出した。その言葉に嫌な予感がする。この場にいるのは、男性冒険者ばかりだ。そして、敵はゴブリン。あの洞窟で見た光景が頭の中で蘇った。
「女の子の……神官が、連れていかれたんだっ。その子を、助けてくれっ」
「この場は任せる」
「ユイッ!?」
その言葉を聞いた瞬間、体が自然と動き出した。ゴブリンが乱暴を働く前に、見つけないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます