47.瘴気の浄化クエスト

 翌朝、早めに王都を出た私たちは地図を見て目的地を目指して歩いていた。


「この方角だと……あそこの森じゃないですか?」

「そうね。初めて行く森になるわね」


 方角を確かめながら周囲を見渡すと、一か所の森を見つけた。地図をもう一度確認するが、あの場所で間違いなさそうだ。


「瘴気が出ているっていうから、物凄いまがまがしいと思ってましたが……普通ですね」

「今回は瘴気が薄いからなんじゃない? きっと、近づかないと分からないのよ。ユイは何か感じる?」

「見た感じ、あの森に嫌な気がありそうな……そんな感じしかない」


 目的の森を見て、嫌な気配を感じることができた。でも、それはとても薄いもので注意深くならないと分からない程度のものだ。これが瘴気を感じるということなのだろうか?


「じゃあ、近づいただけで瘴気に当てられた魔物が出てくることはないんですね」

「瘴気はあの森の奥にある気がする。だから、森の外側に近いところでは瘴気に当てられた魔物はいない」

「奥に行くまで、その脅威はないって思っていた方がいいのね」


 森の中がどんな風に変わっているのか分からない。決めつける方が危ないのかもしれない。だったら、森に入った時から脅威に対して注意を払った方がいいかも。


「とにかく、森の中に入ったら注意を怠らないこと。いつどこで瘴気に当てられた魔物が出てくるか分からない」

「分かりました。剣を鞘から抜いておきます」

「私も杖を構えておくわ」


 森に入る前に注意を払う。私も一メートルのメイスを発現させて、いつでも殴られるように用意した。


「じゃあ、入るよ」


 そして、私たちは森の中に入っていった。


 ◇


 森の中は順調に進んでいた。時々、ゴブリンが襲ってくるが、どれも普通のゴブリンだけで瘴気に当てられた感じはしない。


 それに、この森には人の気配も感じた。どうやら、あちこちで魔物討伐が行われているみたいだ。


「冒険者ギルドはこの森を立ち入り禁止にしなかったんでしょうか? あちこちで、戦った形跡が残っています」

「一応張り紙はしているし、注意喚起くらいはしているでしょ。それでもその情報を知らなかったり、知っていても無視していたりしていると思うわ。悲しいけれど、これが現実よ」

「ホント、馬鹿が多い」


 自分の身を守れるのは自分だけだ。その為なら、色んな所から情報を手に入れるべきだし、注意を払わないといけない。そんな事すらできない人たちが冒険者だなんて呆れる。それとも初心者だから、そういう経験がないせいか?


 どっちにしろ、この状況は信じられない。危険があったらそれが避けるのが常識だ。前の世界では注意を怠ることが死に直結していたから、過剰な注意を払っていたものだ。この世界の冒険者はぬるすぎる。


「どうします? 注意をしていきますか?」

「そんな必要はない。何か起こっても自業自得だ」

「分からなくて来ているんなら教えてあげたいけど……」

「知らない奴も情報の入手を怠った非がある。そいつらも何かあっても自業自得だ」

「まぁ、確かにそうよねぇ」


 そんな奴らに構っている暇はない。こっちはクエストを受けて来ているんだから、それだけを考えて進めばいい。周りを気にせずに奥に向かって歩いている時だ、近くから悲鳴が聞こえた。


「えっ!? な、何!?」

「こっちから聞こえました。行きましょう!」

「あっ、勝手に行くな!」

「気になるから行きましょう!」

「セシルまで……ちっ」


 私たちは今クエスト中なんだぞ。周りに気を使っている暇はないというのに……。先に行った二人を追って、私も走り出した。


 しばらく走っていると、地面に座り込んだ人たちが見えた。その人たちは乱暴に武器を振り回しているが、そこにゴブリンが飛び掛かる。その人たちは武器を捨てて、素手でゴブリンたちを掴んで攻撃を凌いでいた。


 そこに、私たちが飛び込んだ。


「助太刀します!」


 すぐにセシルが動いた。冒険者に襲い掛かっているゴブリンの首を狙って、双剣を振るった。一振り、二振りするとゴブリンたちの首は切れて一瞬で絶命した。


「あっちにもいるわね。溢れだす魔力よ、我が意志に従い、敵を切り裂く風の刃とならん。ウインドカッター!」


 突っ立っていたゴブリンに向けて、セシルが風魔法を放った。鋭い風の刃は飛んで、ゴブリンの体を切り裂いた。これで周りにはいなくなった? そう思った時、木陰からゴブリンが飛び掛かってきた。


「グギャーッ!」


 いつもよりも動きが早い。ナイフを振るってくるが、それを避けて脳天にメイスを叩きこんだ。骨が砕ける音がして、ゴブリンはそこで命尽きた。


 また周囲を注意深く見回る。だけど、辺りはしんと静まり返っていてゴブリンがいる気配はしなかった。どうやら、今はこれで終わったらしい。


「周りにゴブリンたちはいないようですね。あなたたち、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……助かった」

「うぅ、怖かったよぉ……」

「いってぇっ……あのままだったらどうなっていたか」

「怪我はしているようだけど、無事で良かったわ。今日始めた感じではないわね」


 男が二人に女が一人の三人パーティーみたいだ。体のあちこちにゴブリンのナイフで傷つけられたであろう傷が沢山付いていた。


「あのゴブリンたち、いつもとは違ったんだ。動きは速いし、力は強いし。もう、ビックリして……」

「いつもとは違うゴブリンでまともに戦えなかったの……」

「なんだったんだ、アレは。ゴブリンじゃなかったっていうのかよ」


 三人ともまだ混乱しているようだ。話を聞く限り、あのゴブリンたちは瘴気に当てられて凶暴化したゴブリンだと見ていい。ということは、ここは森の奥地か。


「冒険者ギルドから瘴気が発生しているっていう話を聞いてませんか?」

「えっ、瘴気? この三日間、冒険者ギルドに寄らなかったから分からない……。町でブラブラしてたから」

「情報収集不足でこうなったみたいね。今、この森には瘴気が出ているみたいなの。その影響でゴブリンが凶暴化しているのよ」

「そんな……知らなかったわ……」

「凶暴化しているって知っていたら、狩場を変えたのに……」

「……情報収取しないほうが悪い。こうなったのも自業自得だ」

「何っ!?」

「ユ、ユイ! ここは落ち着いてー」


 だって、情報収取を怠ったこいつらが悪いに決まっている。戦いはいつ死ぬか分からない状況になるかもしれない。それを念頭において行動しなければ自分の命が危ないというのに……。


 誰かに期待して、行動をしないのも悪い。結局は自分の身は自分で守らないといけない。そんな手段がないのなら、外に出る方が間違っている。生死をかけた戦いはそんなに甘いものじゃない。


「私たちまだ初心者で、何をどうしたらいいのか分からなかったの……」

「初心者なら初心者らしく用心するのが鉄則じゃないの?」

「それを言われるのは痛いな……。最近、調子が良くて……そういうの怠っていたかも」


 自分たちの過ちに築いて、そのパーティーは項垂れた。ふーん、反省はできるんだね。でも、反省ができただけではだめだ。結局はその後の考えが行動が自分の生死を分けるのだから。


「あなたたちには、今この森で戦うのは重荷でしょう。違う森で戦った方がいいですよ」

「でも、君たちも同じなんじゃ……」

「私たちは冒険者ギルドからクエストを貰ったの。この瘴気の問題を解決しに来たのよ」

「そうだったのね。だったら、私たちは他の森に移動しましょう。問題が解決するまでこの森に近づかない方がいいわ」

「……だったら、あいつらはどうなんだ?」

「あいつら?」


 気になるワードが出てきた。


「この森で出会った他のパーティーなんだけど、なんか森の奥を目指しているって言ってたんだよな。そこで力試しをするって言ってた」

「それは、大変です! 多分、奥には瘴気の根源があるんですよ!」

「もしかして、それを知ってわざと行ったってこと!?」

「た、多分……」


 へー、力試しね。相当自分の力に自信があるみたいだけど、どうなのか? 本当に力があるタイプなのか、それとも自意識過剰のタイプなのか……。


 倒したゴブリンに祈りを終えると、私たちは急いで森の奥地へと向かっていった。

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