46.新しいクエスト
「いつもゴブリン討伐ありがとうございます。栄光の乙女英傑さんの活躍にはいつも助けられています。お陰で山の様にあったゴブリンの巣の掃討クエストが大分減りました」
ゴブリンの巣の掃討が終わって冒険者ギルドに戻ってきたら、にこやかな受付嬢にそう言って迎い入れられた。
「ゴブリンの巣の掃討は初心者には難しいのに、報酬が初心者向け程度にしかないので受けてくれる人が少ないんですよね。みんな安全を取って普通の討伐に切り替えてしまいますのでクエストを受けてくださって大変助かります。厳しい戦いを乗り越えられた顔つきをしてますね」
受付嬢が私たちの顔を見てそんな事を言った。私はいつも通りの無表情だけど、二人の表情や態度が精悍な様子だ。先日まで疲れて動けない、と駄々を捏ねていたのに……。
「この程度、なんてことないです。なんだったら、どんどんクエストを回してくださっても平気です」
「私たちだけでゴブリンの巣の掃討を請け負ってもいいくらいよ」
「わぁ、なんだか頼もしいですね。先日の様子とは打って変わって、一体何があったんですか?」
キリッとした表情で二人が語ると、受付嬢は営業スマイルのまま訪ねてきた。それを聞いた二人はカウンターに手をバン! と叩きつけて、身を乗り出した。
「ユイさんと一緒に休日を満喫しようと思ったのに、一人でいなくなっちゃったんですよー! てっきり、パーティーを抜けたんじゃないかって凄く心配だったんです!」
「もう、生きた心地がしなかったわよ! 朝起きたら、いなくなってたんですもの! 私たちの態度が悪かったのかな、ってすっごく不安に思ったのよ!」
「は、はぁ……」
「そりゃあ、ちょっとユイさんに頼っていた部分があったのは事実なんですけど……それが嫌になったのかなって思うと、後悔の念に押し潰されそうでした! だから、そんな後悔がないようにと態度を改めたんです!」
「もう、あんな思いをするのは嫌なの! だから、そんな隙を見せないように普段から気を配るようにしようと思ったのよ。でも、でもね……すっごく疲れて死にそうなの!」
「た、大変ですね……」
一人で休日を満喫したあの後、宿屋に戻ると死にそうなほどに暗い顔をした二人がいた。どうやら、私が出て行ったのかもと思っていたらしく落ち込んでいたらしい。私の姿を見るや否や、大号泣で抱き着かれてうざかった。
まぁ、そんなことがあって二人とも思うところがあったらしい。日々の態度を改めたみたいだ。うるさくなくなってとても良い。だけど、私は絆されないからな。
「今の私たちは頼れるパーティー仲間です。ちょっとのことじゃ、へこたれませんよ!」
「どんなクエストでも余裕でこなしていけるわ!」
「そうでしたか、とても頼りになります。そんな栄光の乙女英傑さんにピッタリなクエストが出たんですよね」
ふーん、通りで受付嬢がお喋り立った理由が分かった。私たちに新しいクエストを受けさせるためか。
「こちらのクエストなんですけれど、読んでくれませんか?」
そう言って、一枚の紙を差し出された。セシルがそれを受け取って、フィリスと一緒に紙を覗き込む。
「瘴気の浄化?」
「はい。近くの森に瘴気が発生したみたいなんです。その瘴気を浄化するクエストですね。栄光の乙女英傑さんには聖女がいらっしゃいますので、浄化は問題なくできると思います」
「ユイはどう思う?」
「まだ瘴気の浄化は経験したことがない。でも、聖魔法があればできると思う」
様々ある神官の仕事の一つ、瘴気の浄化。瘴気とは悪しき力のある霧のようなもの。人体や自然に影響を与えたり、魔物を強化したりする。そのクエストが舞い込んできたみたいだ。
「その瘴気が初心者が通う森で発生したみたいなんです。このまま放置すると、初心者の冒険者に被害が出るでしょう。その被害が広がる前に瘴気を浄化していただきたいのです」
「私たちも初心者みたいなものだけど、受けても大丈夫なの?」
「本当はもう少し上位の冒険者に依頼した方がいいのですが、報酬額が初心者向け程度しかありません。きっと初心者よりも上位な冒険者たちには見向きもされないでしょう。だから、初心者であってその中で強いパーティーと言ったら栄光の乙女英傑さんしかいないと思います」
報酬額は八万オール。初心者にしては高い方だけど、上位冒険者にはちょっと足りないくらいの金額だ。このクエストは募集が来るまで貼りだすよりは、適任のパーティーに勧めた方が被害が広がらなくていいな。
「瘴気を浴びた魔物は強くなりますが、今回の瘴気はそれほど濃くないと報告を受けております。その程度だったら、魔物の強さは二倍から三倍くらいに留まっていると思います」
「二倍から三倍か……いけそうな感じはしますよね。どうせ、いるのはゴブリンでしょうし」
「瘴気が出始めてまだ数日しか経っていませんので、対応が早ければ早いほどやりやすいクエストになってます。いかがでしょう? 瘴気の浄化のクエストを受けてみませんか?」
「だって。どうする、ユイ。このクエストはあなたが主力になる内容だから、ユイが決めていいわ」
確かにそうだ、瘴気の浄化は聖女の私にしかできない。それにしても二倍から三倍の強さか……まぁ、私は平気だろうけれど、二人がついてこれるかな? これは心配じゃない、戦力になるかどうかを考えているだけだ。
「二人がやれそうだと考えていたら受けてもいい」
「私はできると思います! ゴブリンの巣の掃討も危ないシーンとか無かったですし、自分の今の実力を試してみたいです」
「私も大丈夫だわ。強くなったとしても所詮はゴブリン、いつも通りに対応したら倒せると思うの」
「……じゃあ、このクエストを受ける」
「ありがとうございます。今、手続きしますね」
嬉しそうな顔をした受付嬢は書類に何かを書き足した。それから、私たちに紙を差し出してくる。
「では、これが瘴気が見つかった場所が書かれている地図です。瘴気の原因が動いていなければ、その中心辺りに瘴気の原因と思われるものがあると思います」
「瘴気が移動する?」
「はい。瘴気の原因が小さなものであった場合、それを持ち去る魔物がいるんですよね。自分たちが強くなる素ですから、近くに置いておきたいんだと思います」
「えー、そういう場合どうすればいいんですか? 場所が変わったりしたら、見つけられませんよ」
「瘴気は神官や聖女には敏感に感じるものだと聞いてます。なので、瘴気が移動してもその後を追えるはずですよ」
そういえば、授業でもそんな事を言ってたっけ。神官や聖女には瘴気の気配が分かるって。そう言う事なら、私にも分かるはずだ。後は実戦あるのみか。
「ユイさん、やれそうですか?」
「大丈夫」
「なら、次のクエストは瘴気の浄化ね。いつもとは違うクエストだから、張り切っちゃうわ」
「早ければ早いほど、瘴気にまみれる魔物が少ないと思いますので、明日の早い時間から行動するのがいいでしょう。いい結果の報告、お待ちしておりますね」
私たちは瘴気の浄化クエストを受けた。瘴気の浄化なんて初めて受けるけど、今後もありそうなクエストだ。今の内に経験を積んでおいた方が役に立つだろう。
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