45.順調なパーティー活動?

「本日もお疲れさまでした。凄いですね、ゴブリンの巣の掃討を三つもやり遂げるなんて。早々にEランクにも上がった栄光の乙女英傑さんたちは期待の新人ですね」


 清算が済み、受付嬢はにこやかにそんなことを言った。


「いや、もう……満身創痍で」

「キツイんです……」


 それを受け答えをするセシルとフィアナは今にも倒れそうなくらいに体を震わせて死んだ目をしていた。


「そ、そうなんですね……。これなら、すぐにDランクに上がれそうですね。今後も色んなクエストを受けてくださいね」


 営業スマイルを浮かべて、話はそれで終わった。さて、じゃあ宿屋に帰るか。歩き出そうとすると、二人に手を捕まれる。


「ねぇ、ちょっとそこで休ませて……もう歩けない」

「体が重くて重くて……少し休ませてください」

「は? 何を弱音を吐いているの? 魔王を討伐するんだったら、こんなことでへこたれてどうする?」

「都合良く魔王討伐の話を出さないでくださいー……。ちょっとだけ、ちょっとだけ休んでいきましょうよー」

「あー、無理ー。立てないー」

「寄りかかるな! 暑苦しい!」


 二人が抱き着いてきて寄りかかってきた。あー、ウザイ。流石にこのまま宿屋に帰ることはできない。


「はぁ……ちょっとだけだぞ」


 ◇


「うー、ユイは鬼よ。毎日毎日、一人でゴブリンの巣の掃討をさせるなんて」

「休みなしですよ。全然休んでません。休みを希望します!」


 テーブル席に移動をすると、二人はテーブルに突っ伏して恨み節を零した。あのテストからしばらく経った私たちはまだゴブリンの巣の掃討のクエスト受けていた。というか、受け続けていた。


 あの二人の戦いを見て、私はまだ二人が力不足だと感じた。二人はとてもよくやったと思っているようだが、私の目から見たらまだまだだ。だから、二人を鍛えるためにもゴブリンの巣の掃討を一人でやってもらっていた。


 もちろん、私もゴブリンの巣の掃討のクエストを一人でこなしている。私は全然疲れていないのに、対照的に二人はぐったりとしている。私と一緒にいるんだから、同じ水準まで強くなってもらわないと困る。


「私と一緒にいたいなら、強くないと意味がない。私は弱い奴とは組まない。別にパーティーを解散してもいい」

「うぅ、パーティー解散を匂わせるのは止めてください。私たちはその言葉に弱いんですー……」

「ユイみたいに強くなれば、パーティー解散はないわ。そう言われたら、頑張るしかないじゃない」

「……別に諦めてもいいんだよ」

「私は諦めませんから!」

「私もよ!」


 ふー、諦めれば楽になるのに。どうして苦痛な道を選ぶのか訳が分からない。私はこんなに冷たいのに、一緒にいたい理由が見つけられない。


「諦めないけれど……このまま疲れたままだと戦闘に支障をきたすわ。そうなったら、まともに戦えないと思うの」

「そうですよ。疲れが残ったままだと、十分な戦闘ができません。そうなると、体を鍛えるどころではなくなります」

「……それもそうか。なら、明日は一日休む?」

「本当!? 本当に休めるのね!?」

「休みキターッ!」


 二人の言う事ももっともだ。疲れた体を動かしても、獲られる経験値は少ない。だったら体調を万全にして、しっかりと戦う方が身になるだろう。休むことをいうと、途端に二人は元気になる。


 ……まだそんな元気が残っているなら、もう二三日は戦えたんじゃ。ちょっと、甘かったか?


「久しぶりの休み……何しようかしら」

「食べ歩き、食べ歩きしましょうよ!」

「いいわね、それ! ユイももちろん行くでしょ?」

「私は用事があるから、別行動にする」

「用事ってなんですか?」

「これ」


 二人の前に、首からぶら下げた十字架を差し出す。


「それって何ですか?」

「魂の浄化を計測する道具」

「あー、神官が持っているアレね。確か魂の浄化をすると教会からお金が貰えるっていう奴だったわね」

「まだ一回も精算してないから、教会に行こうかと思って」

「まだ行っていないって、かなりの量になったんじゃないですか?」


 そう、まだ一度も魂の浄化の精算に行っていなかった。休みにするんだったら、この際に行ってしまおうと考えた。


「興味あるわね。みんなで行かない?」

「行きたいです! 興味あります」

「は? 鬱陶しい。私一人で行ってくる。休日なんだから、一人で行動させて」

「休日だからこそ、一緒に行動するわよ!」

「友情を育むんですね、分かります!」


 ダメだ、全然話を聞いてくれない。こうなったら、朝早くに宿屋を出て行ってこっそりと行ってこよう。


 ◇


 翌朝、日が昇ると同時に起きた。二人は疲れているのかぐっすりと寝ている。その間に服を着替えて外出の準備をすると外に出て行った。


 一人で行動するのは久しぶりだ、静かでいい。朝早かったからか、外はまだ人が疎らだ。この方が歩きやすくていい。


 町の中を警戒もせずに歩ける日がくるとはな。前の世界ではゾンビが徘徊していたし、こうして悠々自適に歩ける日が来るなんて思ってもみなかった。


 少しずつ、この世界の常識に染まっていくようだ。あれだけゾンビに警戒していた日がなくなるとはな……ここまで生きてきたかいがあったな。


 前の世界の事を考えながら歩いていると、目の前に大きな教会が見えてきた。これがこの地区にある教会か……ん? こんなに朝早いのに、人の出入りがある。もう、中に入ってもいいってことか?


 人が出入りしている扉に近づいて開ける。すると、こじんまりとした受付があって、数は少ないが人が既にいた。その人たちは受付の人と言葉を交わすと、さらに奥の扉に入っていく。


 その様子をボーッと眺めていると声がかかってきた。


「おはようございます。もしかして、朝の礼拝ですか?」


 話しかけてきたのは受付の女性。法衣を纏っていて、神官にも見える。


「いや、違う」

「そうなんですね。てっきり、初めての礼拝の人かなっと思いました。朝の礼拝は心が洗われて、とても気持ちがいいのでオススメですよ」

「祈りならお守りを使ってするからいい」

「あー、なるほど。そのタイプでしたか。そのやり方は神を身近に感じられていいですよね。あ、すいません……つい雑談をしてしまいました。本日のご用命はなんですか?」

「これを……」


 少しの会話をした後に十字架を見せると、女性は目を見開いて驚く。


「あら、その年で外の神官業を?」

「……これでも十二」

「そうだったの。随分と小さいから、まだ十歳くらいだと思っちゃったわ。立派な神官さんだったのね」


 はぁ……小さいから年齢が低く見られるのが嫌だ。その私の嫌悪を感じたのか、女性は申し訳なさそうに笑った。


「ふふっ、嫌な思いをさせちゃってごめんなさい。今から、魂の測定するわね」


 女性はその十字架を機械の中に入れた。機械は音と光を出して十字架の中に記録されたものを読み取っていく。しばらすると、音と光が止んだ。


「はい、終わったわ。判定はE評価ね。数は多いけど、どれも弱い魔物のものだったから、そんなに高くない評価になったわ」

「そんなことまで分かるんだ」

「そうね。どんな魂を浄化したか分からないと、色々と大変でしょ? じゃあ、E評価は五万オールになるわ」


 あれだけ魂の浄化をして五万オールか……思ったより少なかったな。アンデッドだけを倒して生きていけると思ったが、世の中そんなに甘くなさそうだ。これなら、クエストもやらないと生活ができない。


「もしかして、冒険者の初心者かしら?」

「……そうだけど、どうして分かった?」

「この結果が出るのは大体初心者が多いからね。今は評価が良くなくてガッカリしちゃうと思うけど、魔物が強くなってきたら簡単に評価は上がるわ。だから、めげずに魂の浄化を続けてね」


 ガッカリしていたのがバレた? ……そんなに分かりやすい態度だったのか。気を付けないと、漬け込まれる。


「もし良かったら、朝の礼拝していく? 今は人が少ないから、やりやすくていいわよ」

「……ちょっと覗いていく」

「じゃあ、奥の扉から礼拝堂に入ってね」


 ……祈りは好きだ、心が洗われる。いつもはお守りを握って祈っていたけれど、こういう場所での祈りもやっぱり気になる。


 祈りをした後は朝食を食べに行こう。久しぶりの一人の食事だ、静かな時間を過ごせそうだ。その後は……そうだ、本屋巡りをして漫画やラノベがないか探してみよう。この世界には私が読んだことのない漫画もラノベもあるはずだ。


 今日は久しぶりに良い休日になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る