41.テスト後のひと悶着
「ゴブリンの巣の掃討完了、お疲れさまでした。二か所分の報酬として九万オールのお支払いになります」
受付嬢が笑顔で対応する。早く対応すればいいのに、その言葉に感動したセシルとフィアナは感慨深く余韻に浸っていた。
「掃討完了……その言葉を聞きたかったわっ」
「私たち、成し遂げたんですね……」
「あ、あの……報酬はいかがしますか?」
「ギリギリだった、本当にギリギリだったわ。魔法を唱えられないと負けを意味していたから、詠唱を絞り出したのよ。その辛さと言ったら……」
「ゴブリンに囲まれた時は自分の愚かな行動を悔いました。もっと、考えて行動していれば良かった。ゴブリンに飛び掛かられた時は本当にどうしようかとっ……」
「もしもーし! お話を聞いてください!」
「……報酬は二等分にして二人の口座に振り込んで」
「わ、分かりました。では、お疲れさまでした」
二人は強い達成感を感じで自分の世界に入ってしまった。仕方なく私が対処すると、それで対応は終わった。なのに、二人は感動したままその場を動かずにいた。
面倒な冒険者を前にして、受付嬢の態度も変わっていく。笑顔で怒っていて、その視線が私に向く。
「ここは他の冒険者の邪魔になりますので、あちらの方に行ってください」
「……なんでまた私が。ほら、行くよ」
二人に声をかけるが、感動していてそれどころじゃない。全く、本当にこいつらと来たら……迷惑しかかけないんだから。
仕方なく二人の襟元を掴むと、ずるずるとテーブル席があるところまで引っ張ってきた。それから二人を席に着かせると、自分も席に着いて落ち着く。
「詠唱がどんどん辛くなって、体がいうことを効かなくなって……挫けそうになったけど。私は成し遂げたわっ」
「ゴブリンたちに集られながらも、少しずつ切り崩していくのは苦労しました。でも! 私はやり遂げたんです!」
「……いつまでやってる?」
「今までで一番辛い戦いだったわ。魔術師養成学校の時の訓練なんかと比べようがないほどにっ……」
「私がここまでやれたのを、今まで私を笑っていた人たちに見せてやりたいです。私は、私はっ……」
「……パーティー解散する」
「なんでそんなこというのよ!」
「なんでそんなこというんですか!」
はぁ、こう言わないと現実に戻って来れないなんて……重傷だな。二人の態度に呆れて頬杖をつく。
「正直言って、二人はまだまだ力不足。本当はもっと上手にやって欲しかった」
「えっ……ユイはあれ以上を求めていたの?」
「でもでも、テストは合格ですよね!」
「約束は約束だから、合格にするけど……」
「やったわ!」
「やりましたね!」
話の途中なのに、二人は元気にハイタッチをした。二人のテンションについていけない……。
「だけど、私に比べたらまだまだ力不足。この先が不安になるくらいにね」
「大丈夫よ! クエスト中にはユイ一人に活躍させないから!」
「今の私には双剣があります。ユイさん一人に活躍なんてさせませんよ!」
「意気込みはいいけど、本当に実力があるかは懐疑的。私の目から見て、今の二人の実力では私の足を引っ張っる。今はパーティーを解散しないけど、実力が追いついてこなかったらパーティーの解散もある」
「えぇ!? 今回でパーティー解散の危機は去ったんじゃないの!?」
「そんなー!」
先ほどまでの喜びの雰囲気が一掃され、二人は絶望に頭を抱えた。呑気なものだ、実力差があるんだから当然だろう。
「本当は私一人の予定だった。その方が煩わしくないからだ。二人とのパーティー結成は予定外っていうことを忘れないで。私はいつだってパーティーを解散してもいいと思っている」
「そんな……まだ絆されていないだなんて! てっきり、もう仲間だよラブって思ってくれていると思ったのにー!」
「なぜ、なぜなんですか! 今までの流れからしたら、大切な仲間を見つけた! って、なるところじゃないんですかー!?」
「……はぁ。そんな事を考えていたの? 今までのテストは少しの間一緒にいる権利を得られる程度のもの。そのテストを受けたからずっと一緒にいるだなんて思わないで欲しい」
とりあえず、テストには合格したからパーティーを解散しないでおいているけれど、それはずっとの話じゃない。パーティーメンバーとしてお荷物になる存在だったら、容赦なく切り捨てるつもりだ。
二人ともずっとこのパーティーメンバーで居られると思ったのだろう、かなりショックを受けた顔をしている。どうして、今までの活動で絆されていると思っていたんだか……。
「嫌なら他のところに行けばいい」
「嫌よ! だって、ユイみたいな地球人がいないじゃない!」
「別に他の地球人でもいいんじゃない? 優しくしてくれるかもよ」
「今更、他の地球人の所へなんていけないわ! ユイと出会ったんだから、しがみ付いてでもついていくわ!」
セシルは面倒くさい。地球マニアで地球人に固執しているから、私の下を離れようとはしない。やっぱり、他の地球人を探して擦り付けたほうがいいか? きっと、憧れの人に優しくされたら簡単についていきそうだ。
「フィリスも他のパーティーに移ってもいい。双剣で攻撃が当たるようになったんだから、他のパーティーでも受け入れてくれるだろう?」
「そんなこと言わないでください! 私はこのパーティーがいいです!」
「このパーティーの何がいいか分からない。きっと、他に良いパーティーが見つかると思う」
本当に分からない。私の様に冷たい人間がいるのに、なんで好き好んでこのパーティーにいたいと思うんだろう? フィリスのテンションに合うパーティーが他にいると思うんだけど……。
すると、フィリスは俯いた後に真剣な顔を上げた。
「ユイさんは大剣を使って攻撃が当たらないと分かった後も態度を変えませんでした。それどころか、すぐに私をパーティーから追放しようとはしませんでした。他のみんなは縋りつく私を無理やり引き離して、強引にパーティーから追い出したのに……ユイさんはそれをしませんでした」
「……私もその人たちと似たような考えだと思うけど」
「いいえ、違います。ユイさんはパーティーを解散したいと思ってますが、私たちの意思を尊重してくれました。あの人たちとは全然違います。そんなユイさんがいるから、私はこのパーティーにいたいんです」
こんな冷たい人間がいるパーティーがいい? 私のどこが良かったのか、全然分からない。きっと、私のことを良く知らないからそんなことが言えるんだ。
「私は他人を信用することができない。だから、思っているような仲良しごっこはしないよ」
二人を睨みつけるようにいうが、二人は動じていない。真剣な表情をして、二人で顔を見合わせて強く頷いた。
「大丈夫です。だって、これから友情を育めばいいのですから!」
「そうよ! 信用するのは、友情を育んでからにしたらいいのよ!」
「全然人の話聞いてないな! 信用できないって言っているのに、どうして仲良くなろうとするんだ!」
「だって、それ……盛大なフリじゃないですか! だったら、その期待に応えるのが仲間っていうものですよ!」
「信用は勝ち取るものでしょ! これからじっくりたっぷり時間をかけて、ユイを絆していくわよ!」
ダメだこいつら、全然人の話を聞いていない! 私はそんなつもりはないのに、どうしてそこまで勘違いができるんだ!
「パーティー解散が無くなった今、これを祝って何かをするべきよ! 何か良いものはないか、スマホで調べてみるわ!」
「熱い友情を育む何かにしてください! これをやれば、一発逆転っていうヤツですよ!」
「そんなことを調べても、私は絶対にやらないから!」
物凄い勢いでセシルがスマホを使っている。一体何を見つけるつもりなんだ。
「これだわ! 交流も図れるし、きっと熱い展開になるはずよ!」
バッ! とスマホの画面を私たちに向けた。そこには台とラケットと小さなボールが映っている。これは見たことがある……というか、一人でやってみたことがあったもの。
「……卓球?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます