40.テスト(2)(フィリス視点)

「私が家の名声を取り戻して見せます!」


 そう言って、私は家を飛び出した。要職から外されて、没落しかけたストロングウォード家の栄光を取り戻すために、真の勇者になることを誓って勇者養成学校に飛び入りした。


 そこで私は現実を知ることになる。私は優しい家族に守られた、不出来な人間だったことを思い知らされた。体力と力は誰よりもあるのに、肝心の攻撃が当たらない。みんなから笑い者にされた。


 それでもめげずに訓練を続けて、ギリギリで合格して卒業した。これから真の勇者になる道が始まるんだ、そう期待に胸を高まらせていた。だけど、ここでも私に厳しい現実が襲い掛かる。


 攻撃が当たらない私はパーティーから見放された。何度も何度もパーティーを追放されるだけじゃなく、攻撃が当たらない勇者候補として噂を流されて、誰も私の相手をしてくれなくなった。


 どうしようもなくなった私はマジックバッグを利用して、パーティーに入れてもらうことになった。だけど、そこでも攻撃が当たらない前衛はいらないと追放されてしまう。もう、誰も私の相手をしてくれなくなった。


 そんな時に私は出会った、ユイに。私が攻撃が当たらない前衛だと知っても、問答無用で追放なんてすることはなく、チャンスをくれた。それが、私にとってとても嬉しかった。


 その気持ちに報いたいと思った。だから私は、家族の絆でもある大剣を捨てた。そして、手に入れたのは双剣。これが私の道を切り開いてくれる武器になった。


 私はこの双剣で自分の居場所を守ってみせる!


 ◇


「今度のゴブリンの巣はあそこ」


 森の中で木陰に隠れながら、ゴブリンの巣を確認する。セシルさんが戦ったゴブリンの巣と同様の規模だ。これが私が戦う場所……自然とやる気が満ちてくる。


「フィリス、絶対に勝つ気持ちで行くのよ。あなただったらできるわ」

「はい、絶対に勝ってきます。ユイさんからも何か一言ください」

「……頑張れば」

「はい、頑張ってきます!」


 二人と話すと勇気が出てくる。その勇気を持って立ち上がると、深呼吸をした。大丈夫、私ならやれる。このテストに合格して、私は二人と一緒にいるんだ。


 双剣を鞘から抜くと、隠れもせずに真っすぐとゴブリンの住処に近づいていく。


「馬鹿! それじゃあ、丸見えじゃない! もっと、隠れて!」

「助言は禁止」

「くぅ……フィリス、お願いだから慎重に行ってよ!」


 後ろの声で私を応援する声が聞こえる。私はセシルみたいに頭を使って戦うのは苦手だ。人よりあるのは力と体力くらいなもの。だから、私は力と体力に頼って戦うことにする。


 住処に近づいていくと、当たりをうろついていたゴブリンがこちらに気づいた。


「グギャーッ!」


 すると、そのゴブリンはすぐに声を上げた。きっと、仲間に敵が来たことを伝えているのだろう。これで私が近づいてきていることはゴブリンたちに知られてしまった。ここからは、力と力のぶつかり合いだ。


 住処をうろついていた二体のゴブリンは武器を持って、私に向かってきた。石斧を振り上げて、飛び掛かってくる。振り下ろされた石斧を双剣で受け止めた。体を一歩引くと、双剣の先をゴブリンの喉元に突き立てる。


 双剣はゴブリンたちの喉元に突き刺さり、絶命して地面に倒れた。


 攻撃が当たる! 双剣なら、私はやれる! だから、自信を持って飛び込んでいけ!


 住処の中に私は飛び込んでいった。すると、すぐに他のゴブリンたちと対峙した。三体だ。私の姿を見ると、一斉に駆け出してくる。私も負けじとゴブリンたちとの距離を詰める。


 ゴブリンたちは次々と襲い掛かってきた。だけど、ゴブリンたちの武器は鎧に当たり、痛みは来ない。今度は私の番だ。近寄ってきたゴブリンたちに向かって、次々と剣を突き立てた。


 もろいゴブリンの体は簡単に剣が通り抜ける。簡単に一撃で仕留めることができた。これなら、ゴブリンの巣の掃討ができるかもしれない。さらにやる気が漲る。


「グギャーッ!」

「ギャギャッ!」

「むっ。どんどん来ますね」


 また二体のゴブリンが現れた。武器を持ってこちらに駆けつけてくる。私もゴブリンとの距離を詰めるために駆け寄った。そして、今度はゴブリンが攻撃するよりも早く双剣を振るう。


「剣技『一刀両断』!」


 ゴブリンの首元目掛けて、双剣を横一閃に払う。次の瞬間、ゴブリンの頭が飛ばされて地面の上に転がった。


「よし! どんどんかかって来てください!」


 今回も上手くいった! そう思って周りを見てみると、すでに私は住処の中心までやってきていた。住処から複数のゴブリンたちが出てきて、ニタニタとこちらを見て笑っている。


 そのゴブリンたちがどんどん数を増やしていく。住処の物陰から現れたり、住処の中から現れたり……とにかく数が多い。その数……二十には届くだろうか?


 私の周りはゴブリンで埋め尽くされてしまった。


「……これはちょっと出すぎてしまいましたか?」


 一度では相手できないほどの数が出てきて、冷や汗が流れる。この数を一気に相手どる事ができるだろうか? 私の心は次第に焦り始める。


 そんな私の心を見透かすように、ゴブリンたちは私を指さして笑った。一人で来た馬鹿だと笑っていた。それが悔しい。勇者養成学校の時みたいにみんなに笑われていたことを思い出させるから、嫌だ。


 私の中でフツフツとした怒りがこみ上げてくる。その怒りのまま、声を張り上げた。


「あなたたちなんか、ちっとも怖くありません! 全員、倒させていただきます! さぁ、かかってきなさい!」


 自分を奮い立たせた。その雄たけびのような声でゴブリンたちは黙り、そしてこちらを睨みつけてきた。ゆっくりと動いたと思ったら、ゴブリンたちは一斉に襲い掛かってくる。


「ああぁっ!!」


 その勢いに負けじと声を上げて、迎え撃つ。全方向からゴブリンが飛び掛かってきた。これは剣技のチャンスだ!


「剣技『一刀両断』!」


 双剣を横に構えて、勢いよく回った。剣に触れたゴブリンたちはその体を両断され、肉片となって地面に転がる。これで六体だ、残り十四体!


 波状攻撃のように次のゴブリンが来た。私の剣は間に合わず、ゴブリンたちは私の体に飛び掛かった。そして、足や腰に抱き着いてくる。その隙に違うゴブリンたちが攻撃を仕掛けてくる。


 しかし、ゴブリンたちの攻撃は鎧によって阻まれる。金属を叩く音が聞こえるだけで、体には全くダメージがない。相手が鎧への攻撃に夢中になっている今、体に抱き着いているゴブリンに剣を突き刺した。


 ようやく、体から離れたゴブリンたち。残りは十一体。ここで、ゴブリンたちは距離を取って私を観察した。どうやら、鎧に阻まれて攻撃が通じない事に気づいたらしい。どうすればいいか考えているようだ。


 そんな暇は与えない! 考えているゴブリンに駆け寄り、双剣を振るった。胸を切り裂くと、ゴブリンがその場で崩れ落ちた。残り十体。


 その時、だ。


「グギャーッ!」


 ゴブリンの声がすると、ゴブリンたちは一斉に私に飛び掛かってきた。足、腰、腕、肩。色んな所にしがみ付いてきてとても重い。早く剥がさないと……そう思っていると、膝裏に痛みが走った。


 そこは金属の鎧がついていないところ。まさか、鎧を纏っていないところを攻撃してきた!? それを自覚した瞬間、冷や汗が流れ落ちた。


 ゴブリンたちは鎧の隙をついて、ナイフを突き立ててきたのだ。


「そ、そうはさせません!」


 体を激しく振ると、二体のゴブリンが体から引き離された。すかさず、地面に倒れたゴブリンに向かって双剣を突き立てる。残り八体。


 だが、まだ体にしがみ付いているゴブリンがいる。ナイフを鎧の隙間に入れて、体を突き刺してきた。足、腰、腕、肩。ゴブリンたちは執拗にナイフを突き立てて、押し当ててきた。


「くぅっ!! このっ……離れてください!」


 体が重い、体が痛い。泣きそうになる痛みに耐えて、双剣を握りしめた。足にしがみ付いている、ゴブリンたちの頭に剣を突き立てる。残り六体。


 痛みで体が震えてきた、早くしないとっ!それぞれの腕にしがみ付いているゴブリンたちに向かって、交互に双剣を突き立てた。絶命したゴブリンはずるりと地面に落ちていった。残り四体。


「ぐぅぅっ!」


 ゴブリンたちが傷口を広げる。子供程度の力しかないのに、肉を切り裂く程度の力はある。痛くて、痛くて逃げ出しそうになる。それを根性で押しとどめ、戦うことを諦めない。


 腰にしがみ付いて、ナイフを突き立てているゴブリンに向かって双剣を突き立てた。一撃で絶命したゴブリンから力が抜け、地面の上に倒れる。残り二体。


 肩にしがみ付いたゴブリンたちは首元にナイフを何度も突き立てている。浅い一撃だが、とても痛い。その痛みに耐え、ゴブリンの首を掴んで、自慢の力で投げ飛ばした。


 地面に叩きつけられたゴブリンたち。すぐに双剣を持つと、一気に距離を詰めた。そして、起き上がるゴブリンの顔目掛けて双剣を突き立てる。


 双剣を勢いよく抜くと、ゴブリンたちは地面に打ち捨てられた。すぐに周囲を確認する。立っているゴブリンは? 生きているゴブリンは? 痛みに耐えて見てみると、立っているのは私しかいない。


 地面には切り捨てられたゴブリンが無数に倒れている。これを私一人でやったの? 本当に? これは夢じゃない? そう思うが、体に走る痛みがこれが現実だと教えてくれた。


 ということは、私はやり遂げた。ゴブリンの巣の掃討を一人でやり遂げたんだ!


「やった……やった……やっっったぁぁぁっ!!」


 これで、私は、二人と一緒にいられる! もう一人じゃないんだ!

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