34.圧倒的破壊力

 テストをするため、私たちは町の外にある森の中にやってきた。木の影に隠れながら覗き見ると、そこには粗末な家が立ち並んだ場所がある。そこでは数十体のゴブリンが生活していた。


「テストってゴブリン討伐のことね」

「一人何体倒すとかですか?」


 テストはゴブリン討伐だ。だけど、内容は違う。


「テストの内容は……一人でゴブリンの巣の掃討ができること」

「えっ、一人で?」

「そんな、嘘ですよね!」


 私が出したテストを聞いた二人は顔色を悪くした。それもそうだ、こんなに沢山いるゴブリンと戦うには冒険者ランクが一つや二つも足りないくらい難しいことだからだ。


 それを駆け出しの冒険者がやるのは、相当実力がないと難しい。明らかに実力と見合っていないテストを聞いて二人は焦る。


「今の私たちの実力じゃ無理よ! せめて、十体くらいとかに……」

「こんなに沢山のゴブリンの討伐はできません! 攻撃が当たる前にやられてしまいます!」

「いいや、ゴブリンの巣の掃討が絶対条件。それくらいの実力がなければ、パーティーを組んでいる意味がない。これでも大分オマケをしているつもり」

「ゴブリンの巣の掃討がオマケつきだなんて……」

「もっとオマケしてくれてもいいじゃないですかー!」


 二人はとても不服そうだ。だって、実力に見合ったテストじゃないのだから、そう感じるのも無理はない。だけど、譲る気はない。それだけ私たちの間には実力の差があるし、それがある中で一緒になんかいられない。


「私と一緒にいたいと思うなら、まず実力差をどうにかして。このままじゃ、前のゴブリンの巣の掃討みたいに私一人で活躍することになる。それだと、パーティーを組んでいる意味がない」

「確かにそうだけど……」

「ユイさんはゴブリンの巣を一人で掃討できるくらいに実力があるってことですか?」

「もちろん、一人で掃討できる。だから、それを証明してみせる。ここで見てて」


 私は木の影から姿を現して、ゴブリンの集落に歩いていった。集落に近づくとゴブリンはこちらに気づいて、騒ぎ出して周りに敵が来たことを知らせる。


 すると、粗末な家の中や周囲の物陰から武器を持ったゴブリンたちが姿を現した。こちらを見てニタニタと気持ちの悪い笑顔を浮かべて様子を窺っている。


 集まってくるゴブリンの数は十じゃきかない。二十、いや三十はいそうだ。こんな数を一人で相手をするのは前の世界以来だ。


 食糧を確保するために、その場にいるゾンビを掃討したことは一度や二度じゃない。戦わなければ生きていけなかったから、戦って戦って戦い抜いた。その経験は身に沁みついている。


 だから、こんな状況はピンチでもなんでもない。いつもの戦闘風景だ。


 腕輪に魔力を通して、メイスを出現させる。ここは広い場所なので、存分にメイスを振れるだろう。最大の二メートルのメイスにした。この大きさを使うのは初めてだ。


 巨大なメイスを見てゴブリンたちは一瞬たじろいだ。だが、すぐに笑い声を上げて私を笑う。きっと、こんな小さな体で大きな武器を扱う事ができないだろう、そう思ったに違いない。


 油断しているなら、それでいい。ゾンビとは違い感情があるから、それも計算に入れなきゃいけないのが面倒だけど。


「神よ、無垢なる魂をお送りします」


 先に祝詞を唱え、メイスに浄化魔法を付与する。これをすることにより、死んだ後のゴブリンたちに一々祝詞を唱えなくて済む。


「グギャッ!」


 一体のゴブリンが声を上げると、十数体のゴブリンが一斉に動いた。武器を構えて真っすぐこちらに突っ込んでくる。分かりやすくて助かる。私はメイスを持ち上げると、タイミングを計らう。


 ゴブリンがメイスの間合いに入った! 巨大なメイスを木の棒を扱うように軽々と動かす。横に一閃、豪快に振り切ると三体のゴブリンが粉砕された。


 すぐに、メイスを反対方向に振った。豪快な風切り音を鳴らした後、骨が砕け散る音が響く。そこでようやくゴブリンたちが焦り出す。だけど、走り出した体は急には止まれない。


 圧倒的なリーチ差がある中、ゴブリンたちは私に攻撃を仕掛けるどころか近づけずにいる。今度は高く持ち上げると、ゴブリンたちの頭めがけて百キロ以上もあるメイスを振り下ろす。


 防ぐすべのないゴブリンたちはメイスによって押しつぶされた。木の棒を振るように軽々とメイスを持ち上げ、立ち向かってきた最後のゴブリンたちに再び豪快にメイスを叩きつけた。


 これで、さっき立ち向かってきたゴブリンたちは全部潰した。残りは十数体だ。メイスの圧倒的な破壊力とリーチ差であっという間に十数体のゴブリンを討伐することができた。


 私の目の前にはメイスによって粉砕され、潰されたゴブリンの死体が地面を覆うように倒れている。その光景を黙って見ていた残りのゴブリンたちは言葉を失った。


 目の前の無残な光景に呆気に取られているのなら、今がチャンス。巨大なメイスを担ぎながら、驚異的なダッシュをして呆然としているゴブリンたちとの距離を詰めた。


 ゴブリンたちは、あっ……とこちらに気づいたようだが、もう遅い。メイスの間合いに入った瞬間、豪快にメイスを振り切った。圧倒的な破壊力を受けたゴブリンたちは粉砕された。


 もう、私のやりたい放題だった。現状を理解できないゴブリンは突っ立っている中、私は一方的な蹂躙をする。メイスを一振りすれば、二三体のゴブリンが粉砕され、地面を汚す。


 休みなく連続でメイスを振るうと、あっという間に立っているゴブリンの姿が消える。その光景を見ていた残りのゴブリンはようやく我に返り、背中を向けて逃げ出そうとした。


 だが、遅い。距離を一瞬で詰めて、豪快にメイスを叩きつけた。二体のゴブリンが地面の上に潰されたが、それに構っている暇はない。背中を見せて逃げ出すゴブリンの背を追い、メイスを横一閃に振り切った。


 粉砕されて飛ばされたゴブリンは粗末な家を破壊する。それを横目に見て、前を逃げるゴブリンたちを追う。離れていた距離は身体強化された体の前には無きに等しい。一瞬で距離を詰めると、また豪快にメイスを振るった。


 粉砕されて弾き飛ばされるゴブリンたち。メイスを振るたびに骨が砕ける音が響き、ゴブリンたちは悲鳴を上げれずに一瞬で絶命する。圧倒的な力量差にゴブリンたちはみな粉砕されて地面を汚した。


 立っているゴブリンはもういない。耳を澄ましてみてもゴブリンの声は聞こえない。だが、それでいないと判断するほど私は甘くない。


 粗末な家の中を一つずつ確認していく。見落としがないように丁寧にじっくりと。すると、物陰に潜んでいる背中が見えた。問答無用でメイスを叩きつけて、その場で押し潰す。


 もしかしたら、前見たいに人間が捕まっているかもしれない。赤ちゃんゴブリンや子供ゴブリンが残っているかもしれない。一体も残さないように、入念に粗末な家を回った。


 また、ゴブリンを見つける。粗末な布に包まって、モノ言わぬ塊になったつもりだろうが……足が見えている。怯えて隠れているゴブリンを前にしても感情は動かない。敵がいるんだから、倒さないと意味がない。


 メイスを大きく振りかぶると、家ごとそのゴブリンを押し潰す。ゴブリンは悲鳴も上げられぬまま絶命し、地面を汚した。


「これで最後か……」


 ゴブリン……ゾンビに比べたら呆気なく終わった。武器のお陰もあるのだろうが、それにしても脆すぎる。これなら五十いても、百いても変わらない。


 ふと、顔を上げると森の中から呆然とこちらを見ている二人の姿が見えた。私の戦いぶりを見て驚いているようだ。その二人に近づき、声をかける。


「どう? 二人が足手まといだって分かった?」

「くっ、確かに……今のままではユイさんの足を引っ張ります」

「一人でここまでやれちゃうのは、ちょっと凄すぎ」

「私と一緒にいたいなら、一人でここまでやれないと役立たずだから。無理だったら諦めな」


 二人に諦めるようにいうと、呆然としていた表情が引き締まる。


「……いえ、やらせてください。このパーティーを解散されると、行き場がないです。だから、死に物狂いでやってやります」

「私もやらせて。ユイと一緒にいる条件がそれなら、私は必ず達成してみせるわ」

「……そう、諦めたらいいのに。じゃあ、改めて条件を言う。一か月以内で一人でゴブリンの巣の掃討ができること。それが私の出すテスト」


 その固い意思も一か月経てばどんな風に変わるかな?

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