33.パーティー解散?
「クエストお疲れさまでした。討伐はゴブリン二十六体、アンデッド化したオークが一体ですね。それと、事後処理の浄化魔法も施行済みということですね。クエスト達成報酬三万オール、クエスト外のアンデッド化のオークの討伐料が三千オール、事後処理の浄化魔法が二千オールとなります。しめて四万五千オールをお支払いします」
受付嬢はそう言って、お金を差し出してきた。それに対応していたセシルが口を開く。
「じゃあ、一万五千オールずつそれぞれの口座に振り込んでください」
「分かりました。一万五千オールずつをそれぞれの口座に振り込みますね」
「ありがとうございます」
「ゴブリン関係の依頼は沢山残っていますので、ぜひ明日以降も受けて頂けると助かります。では、お疲れさまでした」
最後に営業スマイルをした受付嬢に向かってセシルも営業スマイルで対応する。話が終わると私たちは受付から離れていった。
「ゴブリン関係は報酬が少ないのが痛いところよね。でも、ユイがいるから別途の報酬があるのはいいわね。事後処理の浄化魔法でお金が貰えるし、教会に行っても魂を浄化した報酬が貰えるから」
「神官……いいえ、聖女の職って恵まれてますね! やっぱり、パーティーには必要不可欠な存在です」
まさか、冒険者ギルドでも浄化魔法の行使でお金が貰えるとは思わなかった。クエストの報酬、事後処理の報酬、魂の浄化の報酬。聖女という職は他の職業よりも儲かるらしい。
「最初はランクが低いから、ゴブリンの依頼をこなしてランクを上げなくちゃいけないわね。そうじゃないと、ランクの高いクエストは受けられないから」
「まだFランクですものね。ランクが低いままだと、やりたいクエストも受けられませんから頑張りましょう!」
「やりたいクエストって?」
「もちろん、ネクロマンサー討伐のクエストです! 不死王に辿りつくためには、ネクロマンサーから情報を集めないといけませんからね。一つもクエストを見逃さないためにも、早くランクを上げましょう」
フィリスはまだ諦めてなかったのか、魔王討伐。私はそんなこと望んでいないのに、どうして勝手に決めるんだ。ため息を吐くが、それは二人には届かない。
「しばらくはゴブリン討伐のクエストをしてランクを上げましょう。それとも、薬草採取の方がいい?」
「いいえ、ゴブリン討伐にしましょう! クエストをしながら、少しずつ自らを鍛えていくのです! なんだか、今日一日で強くなったような気がします!」
「そんなにすぐには強くならないわよ。でも、パーティーの初戦にしては上手くいったんじゃない? ユイもそう思うでしょ?」
「……は?」
こいつは本気でそう思っているのか? 怒りを滲ませた表情で睨むと、二人はどうしてそんな態度になるのか分からず不思議そうな顔をしていた。
「本当に上手くいったと思っているの?」
「えっ、だって……順調にゴブリンを討伐したし、アンデッド化したオークまで倒したし」
「大きな怪我もなくて済みましたしね。苦戦らしい苦戦はしなかったと思います」
結果だけ見ればクエストは成功していただろう。だけど、問題は内容だ。
「二人は何ができていた? 片手で数える程度のゴブリンしか倒してない。それで活躍したと思っているの?」
「うっ、それはそうだけど……」
「私はゴブリンを一体しか倒せませんでした!」
「分かっているなら、上手くいったなんて良く言えたね。ほとんどのゴブリンは私が倒したし、アンデッド化したオークも私が倒した。正直言って、二人がいた意味ある?」
厳しい口調でいうと、セシルは萎縮してフィリスは自信満々に胸を張った。セシルは分かっているけれど、フィリスはあんまり分かっていないみたいだ。
「このパーティーはいらない。だから、私はパーティーを抜ける」
「えっ!?」
「そ、そんなっ!!」
その場を離れようとした瞬間、二人は私の腕を掴んだ。セシルは必死な形相として、フィリスは今にも泣きそうな顔をしている。
「今回はあんまり活躍できなかったけど、次からはもっと活躍してみせるから! そんな事を言わないで!」
「お願いですー! 見捨てないでくださいー! もっと、頑張りますからっ……見捨てないでくださいー!」
「あー、うるさい。私はパーティーを抜ける」
「いやいや、そんなこと言わないで! 折角地球人に出会えたのに、ここでお別れなんてしたくないわ!」
「私っ、落ちこぼれだからっ、このパーティーが無くなるとっ、どこも受け入れてくれませんっ!」
「あんたたち二人はお荷物だ。だから、いらない」
「いらないなんて言わないでー! 私はユイが必要なのー! もっと必要とされる仲間になるから、チャンスを頂戴!」
「うわーん! 今はまだお荷物ですが、絶対に役に立つ仲間になりますからー! 見捨てないでー!」
必死に縋りつく二人は受付の前で大声を張り上げる。私はそんな二人を剥がそうとするが、二人が凄い力でしがみついてくるから剥がせない。
くそっ、本当に面倒な人たちとパーティーを組んでしまったみたいだ。これなら、こっそりと抜け出したほうが良かったかもしれない。
その時、私たちの前に受付嬢が立ちはだかった。受付嬢は凄みのある笑顔を浮かべて、テーブル席がある方を指差す。
「ここは他の冒険者に迷惑になりますので、お話合いはあちらでお願いします」
「いや、私はそんなつもりじゃ……」
「あちらでっ! お願いします」
「……分かった」
またこの展開か……!
◇
テーブル席に移動した私たち。私を逃がさないように二人は今も私の腕を掴んでいる。セシルはとても不安そうな顔をして、フィリスは泣きながら涙を擦っている。
「はぁ……逃げないから腕を離して」
「本当? 本当に逃げない? 逃げたら、飛びつくから」
「私は足にしがみつきます~!」
「……分かった分かった」
仕方がない、ここは適当に約束しておこう。だけど、私の意思は変わらない。
「正直言って、二人はまるで役に立たなかった。そんな人たちとパーティーを続けるのは無理。私はパーティーを抜けたい」
「わ、私はもっとできたわ! 次の私の働きを見て欲しい!」
「力を持っていて、初めから発揮しないのが問題。それに、セシルは地球人としての私の力に頼りきっている場面が何度かあった。頼るのにも限度がある。そんな人を仲間だとは思いたくはない」
「それは……地球人って神の力を授かった人なんでしょ? だから、凄い力があるって思ったら、その力を見たくなっちゃって……。あれはわざとなの!」
「質が悪い。自分の欲望を満たすために、仲間を一人で戦わせようとしたの? それでよくパーティーを組もうとしたね。一人で戦わせるのなら、パーティーの意味がない」
厳しい口調で訴えかけると、セシルは反省したようにしょぼくれた。
「あと、フィリス。本当に役立たず。大剣がまるでゴブリンに当たっていなかった。良くそれで勇者養成学校を卒業できたね」
「うぅ、そうなんです。私……攻撃があんまり当たらなくて、それで落ちこぼれって言われて。本当は落第寸前だったのですが、試験の時は上手くいったので卒業できました」
「自分で分かっているのに、どうして武器を変えようとしない?」
「大剣を使うのは我が家の教訓だからです! 兄も父も祖父も、代々みんな大剣を使ってきました。だから、家の名声を高めるためには大剣を使って活躍しなくてはいけません!」
「あっそ。でも、それは私に関係ない。ろくに攻撃が当たらない奴と一緒に組めると思う?」
こちらにも厳しい口調で訴えると、フィリスは泣きそうに顔を歪めた。それでも、私は話を続ける。
「私は一人でやっていきたかった。それに無理やり入ってきたのは二人の勝手。二人の勝手に巻き込まれるのはごめんなのに、その上で戦闘で頼られても困る。存在意義がない二人とは組めない」
強い口調でいうと、二人は固く口を結んだ。これで分かってくれて、パーティーを解散になるのがいいんだけど……。
「分かったわ。ちゃんとした、存在意義を示す。だから、もう一度チャンスを頂戴」
「わ、私も示します! だから、見捨てないでください!」
そうなると思った。だから、その後の言葉も用意できた。
「じゃあ、私が言うテストに合格してみせて」
このテストを受けさせて、不合格にする。そうしたら、きっぱりとパーティーが解散できるだろう。
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