31.アンデッドオーク
不気味に佇むオーク。フラフラと頼りなさげに体を揺らしていても、その手にはしっかりと棍棒が握られている。この洞窟内で一番大きな存在はみんなの注目を集めていた。
「どうやら、オークのアンデッドをゴブリンが飼っていたみたいね。アンデッドは生前の行動を繰り返すけれど、そこに自分の意思はない。だから、ゴブリンの思うようにオークが動いていたのね」
「こ、こんなのがいるなんて聞いてませんよ~。今の私たちにオークは手に余る敵です!」
「確かに、こんなに大きな相手をするのは無謀よね。しかも、アンデッドだから痛覚はない。怯まない敵と戦うのは、苦戦を強いられるわ」
二人が焦っている姿を見て、ゴブリンたちは大喜びで手を叩いて喜んだ。洞窟内にゴブリンたちの笑い声が響き、とても居心地が悪い。
「うぅ、笑われてます。私たちがオークに敵わないって思っているんでしょうか」
「怯んだ姿を見せたの、失敗だったわね。向こうが勢いづいちゃったわ」
「ま、負けません! どうにかしてオークを倒して、ゴブリンも倒して、クエスト成功させるんです!」
フィリスが闘志を漲らせて大剣を構えた。それに合わせて、セシルも杖を構える。
「そうね、負けてられないわ。でも、大丈夫。こっちには対アンデッドの力があるから平気よ」
「それは……あっ!」
「そう、こちらにはアンデッドを浄化させる力のある聖女がいるんですもの!」
二人は勢いよくこちらを振り向いた。そう、私だ。
「ユイならあのアンデッドオークを浄化させて倒すことができるわ」
「そうですね! ユイさんの浄化魔法があれば、勝てます!」
私専門の魔物が現れた。二人に現実の厳しさを教える機会が無くなってしまった! 折角、パーティー解散の口実を手に入れようとしたのに、これじゃあ失敗だ!
思わずため息が出そうになるが堪える。こうなってしまっては仕方がない、私が前に出て倒さないといけないだろう。今はパーティー解散の口実の件は置いておいて、この状況を打開するために動く。
「仕方がないから、私がアンデッドオークと戦う。二人はゴブリンの横やりが入らないように、ゴブリンをお願い」
「分かったわ。地球人の力、見せてもらうわよ! きっと、凄い力があるんでしょうね!」
「ユイさんの聖女パワーを見せつけてやってください!」
オークの前に移動をすると、その巨大さが分かる。私の身長の倍近くもある体。肉厚で並みの攻撃は通らなそうだ。手足が太く、腕力と脚力があるのが見て取れる。こんな巨体を相手にするのは久しぶりだ。
前の世界で出会ったプロレスラーの暴走ゾンビ、あれを思い出す。強靭な肉体が物凄い力と速度で襲ってきた時は命の危険を感じたほどだ。かなり不利な相手だったけど、私は勝った。だから、今回も負けるはずがない。
本当は二メートルくらいのメイスが使いたかったが、洞窟内でそれは危険だ。仕方がなく一メートルのメイスにして、それを握りしめた。
すると、ゴブリンたちはオークと尻を蹴とばして、前に出す。オークの死んだ目が私を見る。途端にオークの様子が変わった。それは獲物を得たように獰猛になる。
「ブボォォッ!」
声を上げて、棍棒を振り上げた。力任せに棍棒を振って襲い掛かってくる。棍棒を振ると鈍い風切り音がなり、力強さを物語った。その棍棒を後ろに飛んで避ける。だが、そんなのお構いなしとばかりに、オークは連続で棍棒を振るってきた。
掠るだけで体が吹き飛びそうになるほどの威力。それをギリギリで避けるのは心臓に悪い。だけど、このままやられっぱなしじゃダメだ。タイミングを見計らって、棍棒が振られた瞬間に私も渾身の一振りを放った。
棍棒とメイスがぶつかり、その衝撃で棍棒を持っていた手を弾き飛ばした。その勢いに大きく仰け反るオーク。ここがチャンスだ。手をかざし、祝詞なしに浄化魔法を発動させた。
「ブボッ!?」
すると、オークの顔が醜く歪む。その瞬間、オークは仰け反った体を強引に元に戻し、弾き飛ばされた棍棒を振るってきた。速い! 私は咄嗟に手を引っ込ませ、後ろにジャンプした。
間一髪、棍棒は鈍い風切り音だけ鳴らした。改めてオークと距離を取り、様子を窺う。オークの顔は醜く歪み、興奮しているように見える。どうやら、浄化魔法に反応したみたいだ。
なるほど、自分が浄化されると思って焦ったのか? アンデッドに意思はないと言われているけれど、自分の存在を脅かす力の前では危機感を覚えるらしい。前の世界のゾンビに似ているようで、この世界のゾンビは全く別物の生き物だ。
攻撃して怯ませることはできない。隙が作りづらい相手にどう戦うか。普通の攻撃が効かずに浄化魔法しか効かないのであれば、浄化魔法をメインにして戦えばいい。
だけど、魔法を放とうとするといきり立って邪魔をしてくる。浄化魔法を使う時は無防備になるから危険だ。無謀にならないようにするためには……。そうだ、メイスに浄化魔法を乗せて直接叩けば無防備じゃない。
作戦は決まった、後は実行するのみ。浄化魔法の存在を知り。いきり立つオーク。私が一歩踏み出すと、オークは激しく反応した。
「ブボォォォッ!」
棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。後ろには壁がある、これ以上は下がれない。だったら、やることは一つ。オークの攻撃を弾き飛ばす!
巨体から繰り出される棍棒は大きな風切り音を出して豪快に振り下ろされる。その棍棒に向かって、全力でメイスを叩きこむ。
ガンッ!!
棍棒を跳ね返した。その衝撃でオークは一歩、後ろに下がる。その分、距離を詰めるとまたメイスを振るう。オークは強引に体を戻し、渾身の一振りを繰り出す。
ガンッ!!
メイスが棍棒を弾く。その衝撃でオークは仰け反って、一歩後ろに下がった。やるならここだ!
「神よ、無垢なる魂をお送りします」
祝詞を唱えると、強い浄化魔法が発動する。その浄化魔法をメイスに乗せると――
「ブボォォオオッ!!」
オークが激しく激昂をして、棍棒を両手で握りしめた。全身の力を籠めた強烈な棍棒が落ちてくる。負けじと身体強化の魔法を強め、私も渾身の一振りを振った。
ガンッッッ!!
棍棒とメイスの力がぶつかり合い――棍棒が吹き飛ばされた。これならいける! その場で高くジャンプをすると、オークの頭に向かってメイスを叩きつけた。
その瞬間、浄化魔法がオークの体に走る。
「ブッ……!」
オークの体が痙攣して止まった。だが、まだ倒れない。地面に着地した私は、再び浄化魔法を籠めてメイスを体に向かって振るう。
「神よ、無垢なる魂をお送りしますっ!」
オークの体にメイスが叩きこまれ、浄化魔法が流れた。
「ブボォッ!!」
ひときわ大きな声を上げた。その体はフラつき、後ろへと倒れていった。洞窟内にオークが倒れた音が響くと、静寂に包まれた。誰もがこちらを注目して、状況を把握しようとする。
倒れたオークはピクリともしない。私は近づいて確認すると、オークの目が白目を向いていた。動いていた時の濁った眼はしていない。
アンデッドオークは浄化された。私の勝利だ。
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