18.騎士団詰所と地球式感謝?

 あれから、みんなに揉みくちゃに感謝されながらも私たちはなんとか王都に戻って来れた。冒険者たちが持ってきていた馬車に気絶した冒険者を乗せて。そして、その足で騎士団の詰所までやってきた。


 騎士団の詰所に入ると受付があり、そこにシュリムが声をかける。


「犯罪者を捉えたのですが、話を聞いてもらえませんか?」

「犯罪者ですか? どんな犯罪でしょう?」

「実は我々は神官養成学校の者なのですが、冒険者たちに奴隷として攫われそうになったのです」

「そんなことが! 詳しく話を伺います!」


 受付の人が動き出すと、騎士団内は騒がしくなる。奥の方から事情を聞いた騎士の人たちが現れて、外へと出ていった。すると、馬車の中に放置していた冒険者たちを担ぎあげて、騎士団詰所の中へと移動させる。


 その間、私たちは邪魔にならないように壁際で突っ立っていた。しばらくすると、冒険者を全て運び終えたのか、受付の人がシュリムに話しかけてくる。


「とりあえず、犯罪者は牢の中に入れました。早速、お話を聞きたいと思います。とりあえず、全員に簡単に話を聞きます。その後、詳しい話ができる人には追加で話をさせてもらいますね」

「あの、この子と一緒に話をさせてもらえませんか?」


 シュリムは私の傍に寄るとそんな事を言い出した。受付の人はしばらく考えた後、頷く。


「どうやら、その子は重要な話ができる子みたいですね。では、あなたたち二人は小部屋で話を聞きます。こちらへどうぞ」


 私たちは受付の人に案内されて、部屋へと入っていった。部屋はテーブルとイスが置いてあり、私たちはイスに座るように促された。すると、部屋に別の人が入ってきた。鎧を纏った騎士だ。


「二人の話は副隊長の私が努めよう。あとは、任せておけ」

「はい、よろしくお願いします」


 受付の人は部屋から去り、副団長と言った人は私たちの前へと座った。


「改めて無事でいてくれて本当に良かった。じゃあ、経緯を聞いてもいいか」

「それは私からお話しますね」


 シュリムは事の成り行きを丁寧に話した。冒険者を雇って実習に行っていたこと、そこで起こったこと、そして私一人でその冒険者を退治したことを。


「なるほど、その子が一人で冒険者を退治してくれたのか。それは凄いな。何か戦う術を持っている子なのか?」

「この子があれほどに戦えるとは思いませんでした。ユイさん、あなたはどうしてそんな力を持っていたのでしょう?」

「私は前の世界でゾンビと戦っていた。だから、戦う経験はある」

「前の世界?」

「あぁ、この子は異世界転移者なのです」

「異世界転移者! そうか、なら特別な力があっても不思議ではない」


 副団長は異世界転移者だと知ると納得した様子だった。異世界転移者ってそんなに特別な力を持っている人が多いのか? でも、これで変に追及されないで済みそうだ。


「なるほど、大体の事情は分かった。とりあえず、今日はここまでにしよう。また、後日呼び出しがあるかもしれないが、その時は素直に従ってくれたら助かる。とにかく、無事でなりよりだった。ユイ、みんなを守ってくれてありがとな」

「私は別に……ただ敵がいたから倒しただけ」

「はっはっはっ、素直じゃないな! だが、お前がいなかったら大事な神官見習いたちが連れ去られてしまうところだった。みんなを救ってくれた救世主には変わりはない」


 むすっとした顔で対応するが、副団長はそんなことは気にせずに上機嫌に話しかけてくる。なんだか、調子が狂う。いや、この異世界に来てからずっと調子が狂っている。


「ユイさんがいてくれて本当に良かったです。私だけではどうしようもできなかったことでしょう。本当にありがとうございます」

「だから、私はただ敵を……」

「素直じゃありませんね。まぁ、今はそういうことにしておきますか」


 シュリムにも感謝されて、なんだか居心地が悪い。私はただ自分の身にふりかかった火の粉を振り払っただけだ。決してみんなのためじゃない。そういっているのに、全く聞く耳を持ってくれない。


 話が終わると私たちは部屋を出て、外に出た。すると、もう事情聴取を終えた神官見習いたちがワッとなって集まってきた。


「お話、終わったんですか?」

「はい、今のところは終わりました。もしかしたら、また呼び出されるかもしれませんが」

「そっかー、ようやく戻れるのかー」

「みなさん、お疲れ様です。さぁ、養成学校に戻りましょう」

「そうそう! 早く戻ろう! やりたいこともあるし!」


 そんなみんなの様子を眺めていると、そのみんながこっちを見てくる。にやにやしながら何かを企んでいるみたいに。一体なんなんだ……良くないことでも考えているんじゃないだろうか。


「楽しみだね! 早く戻ろう!」

「そうそう、こんなところにいたらできないもんね!」

「……ちょっと待って。なんで私の両腕を掴むの?」

「まぁまぁ、いいからいいから」

「よくない。離せ!」

「さぁ、行こう!」


 なんで、私の両腕に抱き着くんだ! いいから、離れろ!


 ◇


 養成学校に着く頃には日が暮れていた。そのまま私たちは食堂へとなだれ込み、食事を食べ終えた後――


「じゃあ、ユイの感謝祭を開催する!」


 その一声にみんながワーッとなって盛り上がった。何か企んでいると思ったら、そんなことだったのか。くだらない……私には関係のないことだ。


「興味がない。だから、離して」


 私の両脇には神官見習いがいて、がっしりと両腕を掴まれている。


「そういうと思ってたよ。絶対に逃がさないよ」

「なんてったって、みんなを助けてくれた救世主なんだから。主役にはいてもらわないとね」

「そんなこと、望んでない。主役がそういうんだから、この会は解散だ」

「そんなことを言って、本当は照れているんでしょー?」

「照れてない! なんなんだ、私にどうして欲しいんだ!」

「ユイには私たちの感謝を知っておいて貰いたいんだよ」


 身をよじって逃げようとするが、両腕をがっちりと抱きかかえられているため逃げ出せない。どうして、こういう時にそんなバカ力が発揮できるんだ。


「じゃあ、みんな集まって!」

「な、何をする!?」

「何って、ユイのいた世界じゃこういうことをやっていたんでしょ? 本に書いてあったよ」

「私は知らない!」


 私を囲むようにみんなが集まると、私の体を簡単に持ち上げた。みんなの頭の上、私の体はそこまで持ち上げられる。一体、これはなんなんだ!?


「じゃあ、みんな! 胴上げ、よろしく!」


 その掛け声が響くと、下になっていた手が私の体を宙に押し上げた。まるで、下から放り出されるような感じで私は何度も宙を舞った。


「ユイー、ほんとうにありがとう!」

「ユイのお陰で助かったぜ!」

「わっしょい! わっしょい!」

「わっ、やめっ! こんなことをされても、嬉しくない!」

「お祝い事には胴上げやってるって本にも書いてあったし!」

「もっと、高く上げろー!」


 これがお祝い事にやることなのか!? 全然楽しくないし、お祝いされている気にもならない!


 何もできずに宙を舞っていると、下から突き上げる力が強くなって私はもっと高く舞った。


「いいから、下ろせー!」


 私の叫びはみんなの声にかきけされた。

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