15.怪しい冒険者の正体
この町、正式には王都というらしいが、この場所は高い塀に囲まれている。人々は塀の中に住んでいるお陰で、魔物に襲われない平穏な日常を送れる。だが、外に出ると平穏ではなくなる。
塀の外には沢山の魔物が生息していて、外に出てくる人間を見つけると襲い掛かってくる。そのため、戦う能力がない人が外に出ることはめったにない。
だけど、私たち神官見習いたちは魔法の効果を確かめるために外に出なければいけない。魔物と戦う力がない私たちは、魔物と戦うことを専門に扱う冒険者たちに守られながら塀の外に出た。
「この辺りの魔物は事前に狩ってあるから、数が少なくなっている。とは言っても、いつどこかで襲ってくるか分からないから気をつけろ」
「守りやすいように一塊になって移動して欲しい。大きな音も出すなよ、魔物が潜んでいたら襲われてしまうからな」
「もし、魔物が現れたら私の防御魔法でみなさんを守ります。だから、落ち着いて行動するように」
シュリムの防御魔法があれば、私たちを守ってくれるだろう。ただ、私たちの敵は本当に魔物だけなのか? そう思わずにはいられなかった。
森の中で冒険者たちは私たちを守るように取り囲み、周囲を警戒してくれている。だけど、その様子に違和感を覚えた。みんな、同じ方向を何度も確認していたんだ。魔物がどこからか来るか分からないのに、その一点を何度も見ているのがおかしい。
しかも、それは進んでいる方向。そっちに何かあるのか分かっているような感じだ。用意したアンデッドを気にしているのか、それとも違う理由があるのか……とにかく冒険者の様子がおかしかった。
それに、冒険者同士でアイコンタクトをしている。その時の目が酷く冷たいように見えた。その目で時折、私たちを見るのも気になる。依頼主が連れてきた守るべき存在なのに、そんな目で見ていないように感じる。
獲物を見る目といい、酷く冷たい目といい……この冒険者たちが目的以外の何か別の目的があるようにしか思えない。それがなんであるか分からないから、どんな行動をしていいか分からない。
私ができることと言ったら、冒険者たちがおかしな行動をしないか見張ることくらいだ。あとはシュリムに違和感を伝えるべきか悩むところだ。
シュリムはこの冒険者たちとは何度も依頼をしている仲だ。だから、きっと信頼をしているはず。その信頼を疑えと言って、素直に疑うとは思えない。でも、神官見習いたちを守るためにはシュリムの防御魔法は必須だ。
そのシュリムが何らかの方法で防御魔法を展開できないことになると一大事になる。だったら、シュリムに何かが起こった時のことを考えて、私が行動をするしかない。
もし、私が冒険者で私たちを何らかの目的で狙っているなら、一番強そうなシュリムを初めにどうにかするはずだ。その時のために、私はシュリムの傍にいよう。
「おや? ユイさん、何か用ですか?」
「別に……」
「もしかして、魔物が怖いのですか? 大丈夫です、私の防御魔法があれば魔物は手出しはできませんからね」
呑気なものだ。襲ってくるのが魔物じゃなくて冒険者だったらどうするつもりなのだろうか。でも、これでシュリムに何かあった時、釘バットで応戦できる。いざという時の身体強化の魔法もある。戦い慣れた冒険者には対抗できるだろう。
私たちは森の奥へと進む。どれだけ進んでも、冒険者たちは足を止めることはない。目的地が森の奥だということを示している。アンデッドを用意するなら、森の奥に用意するのはおかしい。
前を進むシュリムも不思議そうな顔をしている。きっと以前はここまで奥まで来ることはなかったのだろう。その表情は奥に進むと険しくなってきた。
「あの……本当にこんな森の奥にアンデッドを用意したのですか?」
「あぁ。今回は森の浅いところで用意できなかったんだ。大丈夫だ、この奥にアンデッドを用意してある」
「ですが、こんなに奥だと……」
「魔物心配はするな。ちゃんと、事前に狩ってあるから数は少ない。全然魔物が現れないだろう?」
「そうですが……」
シュリムも怪しいと思い始めたみたいだ。これは、言うチャンスか? 冒険者から離れたところを見計らい、私はシュリムに話しかける。
「ねぇ、この冒険者たちは怪しい」
「怪しいと言っても……この人たちは私たちを守るために」
「それが本当かも怪しい。この人たちを本当に信用していいのか?」
「でも、以前はちゃんとしていて……」
「前は前、今は今。この人たち、私たちが思っているような素直な人たちには思えない」
シュリムは難しい顔をして考え始めた。これで疑いを持ってくれればいい、そしたら少しはやりやすい。あとはいつ、行動をするかだ。
そのまま森の奥へ進んでいくと、開けた場所に来た。その広い場所には用意されたアンデッドのゴブリンの姿は見えない。その代わりに数台の馬車が用意されていた。
「この馬車は? あの、一体これは?」
まさかこんな場所に馬車があるなんておかしい。シュリムが近くにいた冒険者に近寄った、その時だ。冒険者は勢いよくシュリムに掴みかかり、ナイフを首に当てた。
「なっ!?」
驚くシュリム。その光景を見ていた神官見習いたちは悲鳴を上げた。
「黙れ!!」
リーダーのボルトの怒鳴り声が響いた。みんな口を噤み、ボルトに視線を向ける。
「ようこそ、間抜けな神官見習いたち」
ボルトは下卑た笑みを浮かべながら私たちを見た。
「まんまと引っかかってくれて、仕事がやりやすくて良かった」
「これはどういうことですか!?」
「俺たちはこの時をずーっと待っていたんだ。やりたくない依頼をこなして、信頼を獲得して、仕事をやりやすいようにな」
周りの冒険者たちは武器を手に取ると、それを私たちに向けて脅し始めた。それだけじゃない、馬車の影から武器を手にした大人が出てきた。どの人も下卑た笑みを浮かべて、私たちを狙っているようだ。
「前から狙っていたってことだよ」
「前から……」
「神官は聖魔法が使えるからな、高く売れるんだよ」
「売る……? あ、あなたたちは初めから私たちをその目的で?」
「ようやく理解したか、遅いんだよ。そうだよ、俺たちは初めから神官見習いを奴隷にするために近づいたんだよ」
戸惑うシュリムにボルトは丁寧に言い聞かせた。そのお陰で状況が飲み込めた。
この冒険者たちは初めから私たちを捕まえるためにここまで呼び寄せたみたいだ。しかも、ご丁寧に事前の調査を終わらせて、機会を伺って慎重にことに運んだ。
きっと、私たちの中に戦える人物がほとんどいないことも調査済みなんだろう。だから、あんなに隙だらけで余裕な表情を浮かべているんだろう。
唯一、攻撃や防御魔法を扱える人物を押さえておけば、あとは私たちを捕まえるだけ。本当に簡単な仕事だ。簡単に信用したシュリムに落ち度がある。神官養成学校はどんな管理体制をしていたんだ。
突然の状況にみんなは怯えて、固まっている。そこに冒険者たちが近づいていく。
「くっ、この子たちを奴隷になどさせません!」
「残念だったな。もうお前たちは俺たちの手の中さ」
シュリムが抵抗しようにも、首筋にナイフを突き立てられているのでどうすることもできない。でも、シュリムの魔法がないとみんなを守れない。ということは、私の出番か。
「お前ら、神官見習いを捕まえろ!」
ボルトが叫んだ、その時。私はシュリムを捕まえている男の後ろに回り込み、力いっぱいその頭を釘バットで叩いた。
鈍い音が響くと、男は膝から崩れ落ちる。悪いけど、全て思い通りにはさせない。
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