14.浄化魔法の発動と怪しい冒険者
魔力を聖魔法に変換させる授業は一週間ぐらい続いた。私は二日目で完璧に聖魔法を発動できるようになり、周りは三日目ぐらいから聖魔法を少し発動できるまで進歩した。
それから個々に練習を積み重ねて、なんとか全員が聖魔法を発動できるようになった。だけど、聖魔法が発動できるようになっただけで五大系統魔法を発動できようになったわけではない。
これから五大系統魔法の勉強が始まった。
「みなさんが無事に聖魔法を発動できて喜ばしい限りです。では、前に言った通りに浄化魔法から学び始めましょう」
教壇に立ったシュリムが授業を進めて、皆真剣な顔でシュリムの話を聞く。
「浄化魔法は大きく分けで二つの働きがあります。悪しきものを……瘴気を浄化させる働き、魂を死後の世界に送る働き。一つの魔法で二つの働き方がありますが、魔法を発動させる時も祈り方が違います」
「どんな風に違いますか?」
「瘴気の浄化の時は悪しきものを払う心を持って、魂を死後の世界に送る時は魂が安らかな眠りにつくように……そんなことを考えながら浄化魔法を発動させます」
働きが違えば、祈り方が変わってくるのは分かる。適した対応と取らないと、結果が得られないだろう。
「独自で祝詞を考えてもいいでしょうが、ここでは例を出しておきましょう。瘴気の浄化を行う時は『神よ、悪しきものを払い清浄なる息吹を与えたまえ』。魂を死後の世界に送る時は『神よ、無垢なる魂をお送りします』と、言う事にしましょう」
「はい! 祝詞が長い方が効力は強くなりますか?」
「なる場合とならない場合があります。必要なのは祈りの力ですから、祝詞は祈りの力の補助動作と言ったところですからね。祈りの力が強ければ、祝詞はなくても大丈夫ですし」
結局、重要なのは祈りの力という訳か。祝詞があったほうが分かりやすいが、ない方がスムーズに魔法を行使できるだろう。今後のことを考えると、祝詞がなくても聖魔法を発動できるようになったほうがいいのかもしれない。
「浄化魔法が使えるようになったら、実習に外に行きますのでそのつもりでいてください」
「でも、僕たちは魔物と戦えないですよ」
「その辺りは大丈夫です。冒険者を雇っていますので、魔物に襲われても冒険者がなんとかしてくれるはずです。それに、依頼する冒険者は何度も依頼している信頼における人たちなので安心してください」
実習か……本格的に外に行く前に外を体験できるのはいいな。冒険者っていうのは漫画やラノベに出ていたアレと同じような人たちか? なんだか信用できないような気がする。
「では、実習に向けて浄化魔法を使えるようにしましょう。始めてください」
シュリムのその一言でみんなは祝詞を唱えて魔法の発動を始めた。
◇
浄化魔法の仕組みはこうだ。自分の魔力をまず聖魔法に変換して、その聖魔法に浄化の力に変える。変換と変異の二つの作用を行わなければいけない。
二段階を踏まなければ魔法は発動しないので、習い始めは誰も成功しなかった。祈りの力がもっとも重要なので、祈り方を熟知していない内は中々発動までこぎつけない。
私もはじめは全く発動できなかった。それでも、自分で祈り方を工夫していくと少しずつ新しい力を感じることができた。やはり、前の世界での祈りの経験が役に立っているというのだろうか?
まぁ、役に立ったんならそれでいい。少しずつコツを掴んでいくと、浄化魔法の発動の兆しが見えてきた。あともう少しだけど、焦らないでじっくりと時間をかけて発動していく。
「神よ、無垢なる魂をお送りします」
心を静めて、浄化魔法を発動させる。すると、いつもとは違う光の輝きが手に宿った。これは……新しい力だ。その光はしばらく輝くと静かに消え去る。
すると、拍手が聞こえた。
「素晴らしい。今、浄化魔法が発動しましたね。そのやり方を忘れない内に、何度も練習すればいいでしょう」
シュリムの言葉に教室が沸いた。みんなが私の周りに詰めかけて、催促をしてくる。
「発動できた時、どうだった?」
「さっきのあんまり見えなかったから、近くで見たいな」
「ユイちゃん、浄化魔法ができたんだって? 見せて、見せて!」
人に囲まれた状態で集中できるはずがない。けど、これも修行の内か。私はさっきと同じように心を静めて、祝詞を唱えて、浄化魔法を発動させる。すると、手がさきほどと同じように光り輝きだした。
すると、周りがその光を見て声を上げる。
「今の光は先生が出した光と同じだったぞ!」
「凄い、凄い! どんな風にやったのか、教えてー!」
「これは魔法を発動したご利益ありそう?」
魔法が発動できたことを素直に驚く神官見習いたち。先に魔法が発動できた嫉妬や妬みはないのだろうか? そんなことを思いながら離れるように威嚇をするが、全く効いていない。
適当にあしらった後、先ほどのコツを忘れないように再び浄化魔法を発動させる。うん、上手に発動ができたと思う。この調子で練習を重ねて、問題なく発動できるようになろう。
◇
それから私は浄化魔法の発動の仕方を練習し続けた。一日経つごとに浄化魔法はスムーズに発動できるようになり、シュリムと変わらない発動速度までに上達した。
私に遅れて、他の神官見習いたちも浄化魔法を発動していく。一人、また一人と浄化魔法を発動できるようになり、その度に盛り上がっていた。
聖魔法の時と同じくらいの日数をかけながら、全員が浄化魔法を発動し終えた。聖魔法さえ授かれば、あとは時間をかければ誰でも聖魔法を発動できるようだ。
全員が聖魔法を発動できるようになると、今度は実習に出るらしい。実際に外に出て、アンデッドを浄化させるみたいだ。シュリムはみんなの前で話し出す。
「これより、アンデッド浄化の実習に行きたいと思います。さまよっているアンデッドを探すのは一苦労なので、先に冒険者のみなさんにアンデッドを用意してもらいました」
今の状態で私たちがアンデッドを探すのは困難を極めるだろう。だから、冒険者の力を借りてアンデッドを用意したらしい。話からすると意図的にアンデッドを作ったような口ぶりだ。
「外の実習地にアンデッドがいます。一人一体、浄化魔法が行使できるように用意してもらいました。実習中は周囲に魔物が寄り付かないように冒険者たちには見張りをして貰いますので安心してください」
私たちにはまだ魔物戦えるだけの力はない。そんな状態で魔物と戦闘になれば、生きて帰れる保証もない。だから、不安だ。どうせなら、他の力をつけた状態で実習に行きたかった。
「では、冒険者たちを紹介しますね。鉄の刃のみなさんです」
シュリムの言葉に冒険者たちが教室に姿を現した。男性が五人、女性が二人の七人だ。
「鉄の刃のみなさんに依頼をするのは三回目になります。前の二回とも安全に実習ができていたので、信頼における人たちです」
私はその冒険者たちを観察した。どの冒険者たちも作り笑いをしていて、どこか胡散臭い。取り繕っている感じがひしひしとして、とてもじゃないが信頼における人物には思えない。
「はじめまして、神官見習いの諸君。私は鉄の刃のリーダー、ボルトだ。今回のためにゴブリンのアンデッドを用意した。存分に聖魔法を駆使して、実習に励んで欲しい。その間、危険なことからは我らで対処しよう」
リーダーと言ったボルトはみんなを見回した後にそういった。その時の目、まるで値踏みするような視線だった。まるで獲物を狩る前の下調べといったところか。
他のメンバーの人たちも私たちを値踏みするような目で見ていた。気持ちの悪い目だ、前の世界で良く見た目だ。とてもじゃないが、この人たちが私たちを守ってくれるとは思えない。
この実習……何が起こるか分からないな。
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