13.聖魔法の発動

「みなさん、聖魔法の取得おめでとうございます。去って行ってしまった人たちのことは残念ですが、きっと神が違う道を用意していたのでしょう。それぞれが担う役割が違っただけに過ぎませんから、深刻に考えないようにしましょう」


 一つの教室に聖魔法を授かった神官見習いたちが集められた。教壇にはシュリムが立っていて、みんなに言葉を投げかけている。


「では、今日より本格的な聖魔法を学ぶことになります。まずは、聖魔法がどんな魔法であるかを学びましょう」


 とうとう、聖魔法に関する授業が始まった。みんな真剣な顔になり、聖魔法を学ぼうとしている。


「聖魔法に必要なのは魔力と祈りの力、二つの力が合わさることで発動する魔法です。魔力は説明しなくても分かりますね、祈りの力というのは魔法の詠唱に似ているものです。口で唱えたり、心の中で唱えたりとやり方は様々あります」


 そう、私も思っていた。魔法の詠唱と祈りは似ている。違うところと言えば詠唱で必要なのは言葉の羅列だが、祈りは思いの力が必要になるということだ。


「聖魔法は幅広い系統の魔法を使えることは前にお話しましたね。攻撃、防御、支援、回復、浄化。中でも浄化の魔法は聖魔法独自の魔法となります。浄化魔法とはアンデッドや瘴気を浄化するのに必要です」

「アンデッドは分かりますが、瘴気ってなんですか?」

「瘴気とは魔物を強化させたり、自然を腐らせたり、人を病にしてしまう空気のことです。瘴気はこの世界、いたるところで発生して我々を困らせています。その瘴気を浄化するのも神官の役目と言えるでしょう」


 そういうのが漫画やラノベであった。人を害する空気はこの世界にもあるんだな。そういうのを浄化するのは聖女の役目だったりしたが、ここでは神官の役目になっている。


「浄化魔法は神官やその上位職の者しか使えません。瘴気やアンデッドに対抗できるのは我々しかいないということになります。まぁ、アンデッドに関しては他にも方法があるにはありますが、現実的な手段ではないでしょうね」


 アンデッドは砕かれた魂が体に残っているから、それで動いていると言っていた。だったら、動けなくするためには体を細切れにすればいいだけだろう。そんなことを好き好んでやるよりは、浄化魔法を使った方がいいのか。


「なので、神官見習いのみなさんには浄化魔法は必ず覚えてもらいます。教会に属するにしても、外に出ていくにしても、浄化魔法は必要になるでしょう」

「教会に属する人はどんな時に浄化魔法を使うのですか?」

「教会には様々な依頼が来ます。瘴気の浄化、死人をアンデッドにさせないための魂送り、アンデッドが発生した時の浄化依頼。教会に属しているからといって、ずっと教会内にいることはないでしょう」


 教会には属さないつもりだから、この辺は聞き流してもいいだろう。


「外に出る人、冒険者となる人たちも浄化魔法は必須です。行く先々で浄化魔法が必要になってくる場面が多々あるでしょうし、依頼だって舞い込んできます。倒された魔物がアンデッド化して二次被害も多発していますから」


 アンデッドを倒すには浄化魔法が必要だから、私には必要な力だ。だから、浄化魔法はしっかりと取得したほうがいいだろう。


「なので、まず初めにみなさんには浄化魔法を覚えてもらいます。とても重要な魔法ですから、みなさんしっかり学んでくださいね」


 シュリムがそう締めくくると、教室内から返事が返ってくる。


 ◇


 早速、浄化魔法についての授業が始まった。


「浄化魔法とは悪しきものを払い正常に戻す力です。それと同時に魂を送る力も持ち合わせています。瘴気を浄化したり、死人やアンデッドの魂を送るのが主な力の使いどころでしょう」

「じゃあ、聖魔法を授かった私たちはもう使えるのですか?」

「聖魔法にあるそれぞれの系統の魔法は聖魔法を授かっただけでは発動しません。ここでは、浄化魔法を発動させることを学びます」


 発動させるのに違うギミックが必要だということだろうか?


「自身にある魔力を祈りの力によって聖魔法の属性に変換させて発動します。まずは、魔力を聖魔法に変換するところから始めましょう。みなさんの心の中にある祈りの言葉を使って、聖魔法を発現させてください」

「どんな言葉がいいですか?」

「決まった言葉はありませんが『神よ、我が魔力に祝福を与えたまえ』でいいでしょう。白い光が出てきたら成功です。さぁ、祈ってください」


 決まった祈り方はない、だったらいつもやっているやり方でいいだろう。手を組んで、少し俯く。深呼吸をして心を落ち着かせると、心の中で祈りの言葉を唱える。


 神よ、我が魔力に祝福を与えたまえ。


 心の中で唱えてみたけれど、何も変化はない。体の中も魔力が聖魔法に変換された違和感があったわけではなかった。これは……祈りの力が足りなかったせいか?


 もっと、思いを籠めないといけない。心から望まなければ、きっと魔力から聖魔法への変換はできないだろう。雑念も払って、それだけを考えないとダメだ。


 私は先に心を整えた。無心になり、神様に祈りを捧げる準備をする。そして、心の中が空っぽになると、手を組んで目を瞑った。深呼吸をして心を落ち着かせると、祝詞を唱える。


「神よ、我が魔力に祝福を与えたまえ」


 すると、体に違和感を覚えた。……これは魔力? 自分の体にある魔力が変異しているような感覚だ。その魔力は手に集中していくと、温かい感覚になる。


 ふと、目を開けてみると、手が薄っすらと白く光っているのが見えた。まだ弱弱しい光は少し光ったと思ったら、すぐに消えてしまう。


 きっとあれが聖魔法だ。少ししか発動しなかったけど、魔力を聖魔法に変換することができた。この調子で……。


「すごい! 今、少し白く光ったよね!」


 隣にいたリットが声を上げた。すると、周りがざわつきだして、みんなが注目する。


「流石だわ! 聖女の力なのかしら?」

「ふふっ。聖女の力とは関係ありませんよ」


 リットの言葉にシュリムが微笑んで答える。


「ユイさんの祈りが通じたから、魔力が聖魔法として発動したのです。やはり、日常的に神に祈りをしていた人は他の人とは違いますね。祈りの意味を無意識に理解しています」

「じゃあ、今ユイが発動できたのは……毎日の祈りのお陰?」

「そうですよ。ユイさんは長い年月、神に祈りを捧げていました。その月日がユイさんをこれほどに早く聖魔法を発動させたのでしょう」


 私がやってきた祈りはそんなに大層なものじゃない。ただ、普通に毎日の無事を感謝していただけだ。そのやり方がここでも通用したということだろうか?


「ユイさん、あなたはどんな風に祈りましたか?」

「心を静めて祈っただけ」

「そう、大切なのは心を静めること。雑念があったら、祈りは届きません。神への祈りを捧げる時は純粋な思いでなければいけません。みなさんもユイさんを見習いましょう」


 シュリムの言葉に神官見習いたちは頷き、祈り始めた。


「お邪魔をして申し訳ありませんでした。さぁ、続けてください。今のはちょっと発動しましたが、今度はそれを持続させてみましょう」


 そう言ってシュリムは離れていった。確かに今のは発動したとは言えない。ちゃんと持続して発動させるようにしないといけないだろう。


 でも、手ごたえはあった。私は再度心を静めていく。今度はもっと持続するように……。

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