第7話 俄然、やる気が湧いてきた

 「絵麻」


 耳元で呼びかける。内心は恥ずかしがっていると思うが彼女は表に出そうとしない。そんな様子に自然と頬が緩む。絵麻のこういう強がりなところが良い。


 俺は特に何もしない。名前を呼んだきり一言も喋らない。ただ、絵麻を抱きしめる。痛くない程度に力を込めて抱きしめる。


 それ以上何もしてこない俺に痺れを切らした絵麻が「......もっとこう、他にないのかしら?」なんて聞いてくる。


 「どういう意味?」


 俺が聞くと絵麻のポーカーフェイスが崩れる。顔が真っ赤だ。可愛い。


 「だからっ!その、私がしたみたいな......」

 「それだけでいいの?」


 ひたすら前を向いて壁に穴が開くほど見つめていた絵麻が物凄い勢いで振り返る。顔が近い。そして、赤い。


 これ以上は可哀想に思った俺は絵麻の頬に手を添える。どちらのとは言わないが頰が熱い。


 「目、閉じて」

 「うん。楓がそんなにしたいなら......」


 絵麻がそんなことを甘えた声で言う。目を瞑っている絵麻からはいつもの棘々しさを感じない。そんな絵麻に唇を重ねる。


 心臓の音がうるさい。これはどっちの心臓の音なのだろうか?もし、絵麻の心臓の音なのだとしたら嬉しいな。私のキスにそれだけドキドキしてくれてるってことだし。


 一度、顔を離す。絵麻の紅潮した顔が私を見つめる。その顔を私以外に見せないでほしい、なんてことを考えてしまうほど愛おしく感じる。


 私が目を閉じると絵麻の方から二回目の口付けをしてくれた。私が頭を撫でると小さく震えるところが本当に可愛い。


 ちなみに、二回目のキスはお互いの息が切れる限界まで続いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 三回目のキスをしながら「絵麻は何回しても、キスに慣れないなぁ」なんてことを考える。抱きしめ合いながら口付けを交わし合うこと、およそ二十分。俺が舌を入れようとすると、逃げるように身を引いてしまった。今日はそこまでするのはダメらしい。


 残念......。


 「絵麻、今日はここまで?」


 俺がそう聞くと「......続きは、明日。学校から帰ってきてから。多分、みんなと仲良くする楓に嫉妬しちゃうから、そのあとで......」なんてことを言ってきた。


 どうやら、今日の続きがあるらしい。そして、明日は嫉妬モードの絵麻に会えるらしい。


 なんだか、学校が楽しみになってきた。


 俄然、やる気が湧いてきた。


 

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TS転生した俺が身体で稼いでいることを知ったら幼馴染が病んじゃった 冬織神 歌檻 @kaori0huyuorigami

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