第3話

今日は空は眩しいくらいの快晴、4月ならではの肌寒さと温かさ馬車の窓から日向の光が入りちょうど良いくらいの温かさだ。門出には丁度良い天気だ。そして凉籃は今馬車に乗っていた。その馬車はお父様とお母様の根回しらしい。

 (大方、鳳凰家の意地を魅せたいのでしょうね。賭け事の代償で自分の娘を嫁がせる時点でたかが知れてると思うのだけどね)

 凉藍は内心で実の両親の悪口を言いながらありがたく馬車を使わせてもらっている。その馬車の乗り心地は極め最高だ。座席には固すぎず、柔らかすぎず丁度いいクッションが着いておりとても極楽だ。その上、程よく揺れる座席にパカパカと馬の歩く音が聞こえてくる。本当ならこのまま眠っていたかった凉藍だが、凉藍の対面には新人のメイドを装った幸宮が座っていた。そのためそれは叶わなかった。凉藍を特に嫌っていた使用人長である幸宮が凉藍に着いて行くのを両親が止めないはずがないそう考えた凉藍は真剣に考えた。

 (何故なのかしら?まぁ、大方お母様が何か幸宮に命令したのでしょうね)

 凉藍は幸宮の顔を伺っていた。幸宮は凉藍の方を一切、見ようとしない。そんな幸宮に凉藍は恐ろしくなり何も言えなくなっていた。そしてしばらくの間、互いに沈黙な時間が続いていた。気まずい、それ以上でもそれ以下でもない状態だった。


「ねぇ、幸宮?貴女は使用人長ですよね?」


「えぇ、そうですよ」


「なら、なぜ私なんかと一緒にいるのですか?」


「それは……」


 幸宮は何か意味深に言い淀む。いつもの幸宮なら、「うるさい、貴女が聞いて良いことではないわ!!」と言い凉藍を折檻し口汚く罵っているだろう。だが、今の幸宮にはそんな様子は全くと言って良い程になかった。寧ろ、その逆で凉藍を大切にしているような目をしていた。その変わり身に凉藍は僅かに困惑し、折檻された時以上に後悔をした。

 (幸宮の様子から見た感じお母様の命令ではなさそうなのよね)

 それでも凉藍は、少しの疑問があった。それは何故自分の母、由里が居ない今も尚敬語と様呼びをしていることだ。

 

 「あ、あの幸宮?む、無理して話さなくてもいいんですよ?出来たら聞きたかっただけですから!」


「いえ、貴女様のためにも話させてください」


「…私のため?よく分かりませんが、本当に無理のない程度にしてください」


「ハイ!」


 元気よく答える幸宮を見て凉藍は幼い頃の幸宮が凉藍の専属使用人だった時のことを思い出していた。その時から凉藍は亞奇富や冷河に虐めは存在してはいたが、その時はまだ由里という味方がいたためまだマシだった。

 あれは凉藍がわずか五つだった時、由里と買い物へ行った時に途方に暮れた幸宮と出会った。そして凉藍は、由里にお願いして僅か14だった幸宮を連れて専属使用人になってもらったのだ。だが、凉藍が10にだった頃その時から凉藍の立場が弱くなり幸宮と離れることになりその2年後には幸宮との接し方が専属使用人の時のは比べ物にならないくらいに壮絶な関係へと発展した。専属使用人から凉藍の上司になり、凉藍を虐めながら凉藍に家事をさせていた。

 (あの時は辛かったわね。もう慣れたけど)

 凉藍がそう物思いに耽っていると、幸宮が己の着物を強く掴み震えながら下に俯きながら話し始める。


「実は、私は!もう限界だったのですっ!…そんなこと貴女様の苦しみには遠く及びませんが、私はあの家にいることが嫌だった。…私の命の恩人である凉籃お嬢様が酷い扱いをされているのを見るのも、奥様達に命令されてお嬢様に酷いことを言ったり折檻するのも!……それに初めてお嬢様に酷いことをした時のお嬢様の顔を見た時なんて…心苦しかったです。被害者面をしている、虫のいい話だということも…自分が悪いということも。ですが、これが私の本音なのです。私を許せないなら許さなくてもいいです。それだけのことを私は致しましたから。貴女様がしてくださったご恩を仇で返した。それは事実。だからこそ!私は貴女様に罪滅ぼしをしたいのです!…それだけは許していただけないでしょうか?」


 幸宮の身体は酷く震えており、目からは大粒の涙がボロボロと落ちて着物が染みになっていた。凉藍は彼女…幸宮は恩を仇で返すような真似をされた。それは事実である。それはそうだ、普通なら罵り自分と同じことをしようとするだろう。だが、凉藍はそう思えなかった。何故なら、彼女とて己が可愛いのだ。それは当たり前のこと。それは凉藍が1番知っていることだ。

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