死の際に何が見えるか。

読破

第1話 キャンパスの生。


死は付きまといます。

生きている限り。


死と生があります。

生まれた時には死が決まっていました。


生きることに拒否権はありませんが。

死ぬことを選ぶことが出来ました。


生きること。死ぬこと。なぜこの間には何も無いのでしょうか?

生きるのも、死ぬのも、嫌なのに何故どちらかを選ばなければならないのでしょうか?


多分、私はこのような深いようで深くないことを、この先ずっと考えて生きていくのだろう。


そう考えます。




~~~~~


春の散り際。


真っ白なキャンパスに桜色の絵の具を零します。ぐちゃぐちゃに塗りたくったそれを見て、私は一頻り満足します。


心の中の形容し難い何かが、絵の具を通じてキャンパスに零れて行くような。キャンパスに汚れをつけることで私の中の汚れが無くなっていくような。


そんな心地の良い気分になります。


このキャンパスも、この筆も、この絵の具も。

全てが、私のこの心を沈めるための、単なる道具。でも私にはそれが心地よいのです。




ですが私の、この心を阻むもの。いや、共感してくるものが現れました。

それは何かと申しますと、人間の欲望の塊、罪の化身、破滅の始まり。

詰まるところ、お金と申します。


このキャンパスは、私の捌け口でした。逃げるための場所でした。誰にも見られないで自分を出せる、そんな場所でした。


ですが、私のキャンパスがお金に変わりました。それが何故か嫌でした。私はそれが好きでありましたが、私のキャンパスがお金に変わるのは好きではありませんでした。


その思いを、形容し難いその思いを、キャンパスに叩きつけました。ですがそれもお金に変わりました。とても気持ちが悪いものでした。


この循環を良しとする私の心がありました。この心は、単純にお金を欲しがる私の心でした。


逃げるための行為が、お金を稼ぐための行為に変わった瞬間でもありました。私は自分自身が嫌いになりました。


だから私はこの行為を絵描きと名付けました。


何故ならこれはお金を稼ぐ行為であり、逃げるための行為ではなかったからです。一緒の行為でないならそれは別の名前が付くのです。


そして反対の物は落書きと名付けました。




絵描きは誰かに評価されました。

そして同時に落書きも評価されました。


何故、キャンパスに塗ったものが評価されて、お金に変わっていくのでしょう。

それが不思議でもありましたし、気味が悪いものでもありました。


同時に私の逃げ場が無くなりました。




逃げ場が無くなった事で私には口癖が出来ました。それは罪深きことでした。それは人間、いや、生物みなに禁忌されるものでした。


「死にたい」


そう口ずさんでしまうのです。

死は皆が禁忌する事でありましたから、私はこの言葉を避けていました。ですが、口にしてみると存外にも、心地の良いものでありました。


私はそれを口癖となるまで、何度も口にしました。その禁忌を隠れて口にする、というのは良いものでした。そして同時に、これは私の逃げ場になりました。


ですが私の禁忌も誰かに見つかってしまいました。私は瞬間、取り上げられると考えました。かと思えば皆はそれに共感しました。


曰く、私の言うことは正しいのだと。私はこれに落胆しました。むしろ出来るなら取り上げて欲しいとも思いました。そしてまた、私の逃げ場が無くなりました。




皆は私のすることに両手をあげて喜びました。そしていつまでも着いてくる様子は、気持ちの悪いものでした。それは一種の宗教のようなものでした。私のすることは何でも褒め称えられるのです。


私は皆が禁忌するものでも、逃げ場となり得ないと学びました。そしてであればと、私は実行に移す事にしました。それは口癖のことです。


ですがこれも誰かに見つかってしまいました。そして私は、また褒め称えられるのかと考えました。これは鳥肌が立つ思いでした。


しかし可笑しなことに、皆はこれをNOと首を振りました。初めてのことでありました。両手をあげることはあっても、止められることは今まで無かったからです。


私の死は望まれてなかったのです。


私はそれが面白く感じ、何度も実行しました。すると皆は、止めるのに躍起になりました。何度目かになりましょうか。突然、私は病院に入れられました。


いや、そこは病院と呼べるものでありましたでしょうか?私には分かりません。そこでは一日三食の食べ物と睡眠が提供されました。真っ白な部屋の中で一日を過ごすだけ、さながらキャンパスの監獄と言いましょうか。


その中で私は絵描きを求められました。ですがそれは、今では一番嫌な事でありました。なので私は嫌だと拒否することにしました。皆は私の言うことに逆らわないと、高を括っていたからです。ですが想像とは反して、私の食事は一回言うごとに、一食ずつ減って行きました。


私は絵描きをするしかありませんでした。ですが、私は少しの反抗として、皆が禁忌する死について落書きすることにしました。


幸いなことに私は何度も死の際を見ました。口癖のことです。なので落書きは数瞬で終わりました。それは黒の絵の具を零しただけ、とても酷いものでした。私はしめしめと思いました。


ですが、これがいけないことでありました。


皆はそれを見るなり、芸術だと両手をあげて賞賛しました。そして皆は私にこのような絵を月に一枚を描くように言いました。


ですがこれは、死の際を見た際に出来たものです。当然、私は無理だと言いました。

すると皆は私に絵描きをさせようと死の際を何度も見せました。拷問でした。


そしてまた、皆が賞賛する落書きが出来ました。一枚出来たら食事を取り、死の際を見てまた描きだす。それの繰り返しでした。




そして次第に私の精神は摩耗してきました。それは目に見えて分かることでした。別に体調に変化があった訳ではありません。私の体調は管理されてありましたし、病気にもなっておりませんでした。


なら目に見える変化とはなんでしょう。答えは簡単です。それは口癖を言わなくなったことでした。「死にたい」と言うことです。


良いことでありましょうか?貴方はどう思いますか?まぁそんなことで私の生活には「死にたい」という言葉は消えました。


ですがそれは、生きたいと思ったから、生きる希望を見出したからではなかったと思います。確か、死ぬ希望が無くなってしまったからでしたでしょうか?


私は無理矢理、生きを強制され。死を禁止されました。それは当然のことです。皆は私の死を望んでいない。私の絵描きを望んでいるのであるですから。




そして私は考えます。キャンパスの監獄の中で。生とは何か、死とは何か。今の私は何処にあたるのだろうかと。


そして結論が出たところであります。多分、私はその中間を漂っているのだと。日々、死を望み。生を拒み。その中で漂っている。




そしてその結論の中で決めたことがあります。


生は「現世」


死は「天国」


と呼ぼうと決めました。ですがこれは名前ではありません。生には生と、死に死と名前があります。なのでこれは私の中だけの仮名です。


貴方は気になっていることがあると思います。じゃあ中間の仮名は何であろうか、ですよね。ですがここまで読んだ貴方なら既に察しが着いてあるんじゃないですか?











中間は「地獄」です。











随分、大層な仮名だと思いますか?私もそう思います。ですが何かの名前を借りなければ、中間のことは呼んではいけないと私は考えます。


名前がついていない物には相応の理由があるのです。なので中間には仮名しか無いのです。生には生と、死には死と名前があります。しかし中間には仮名しかありません。




これは正解だと思います。何故なら変に名前がついてしまうと想像してしまうからです。例えば「りんご」と呼ばれると一瞬で想像してしまうでしょう?そして鼻先でも中間を想像してしまうと貴方は多分、気が触れてしまうと思います。




……。




貴方はこうは思いませんでしたか?じゃあお前は気が触れていないのか?中間にいるなら気が触れててもおかしくないはずだと。


はい。私は多分、気が触れているのでしょう。だからここから先は見ない方がいい。




あぁ!しかし、白紙に文字を書く小説というものは面白いものですね。これは逃げ場になり得ます。しかし、すぐこれも誰かに見つかり、賞賛されてしまうのでしょう。


あぁ勿体ない。


あ、そこの貴方?貴方にも逃げ場はありますか?そうですか。大切にした方がよろしいと思いますよ。それは大切なものでありますから。





しかし、そうですねぇ。私には口癖と同じような習慣があります。貴方にはそれが何か分かりますか?少し時間をあげます。その間にキャンパスの監獄の話を少し。




私が最初に口にした食事はとても豪華なものでしたね。ですが、日が経つにつれてパン屑のようなものになっていきました。


睡眠時には監視がつかれました。日を経つ事に監視の人数は増えて寝苦しいものになりました。


あぁ!お風呂や歯磨きなどの生きるのに不要なものは全て削ぎ落とされていましたよ。


え?拷問のことについて?知らないことがいいことも世の中にはあると思いますよ?まぁ生きることに絶望する程度のことはされましたね。


絵描き?落書き?まぁどちらでも良いですね。拷問です。それは何千人の観客の前で行われました。悪いものが出来上がると、そうですねぇ。その日の拷問が少し、きつくなりました。


まぁ少しです。上限があるでしょう?拷問には。死なないようにしなければ。そしていい物が出来るとすぐに目の前で評価されて、価値あるものとされました。そのお金はどこに行ったんでしょうね?




まぁそんなことはどうでも良いのです。私の習慣について心当たりはありますか?え?分からない?仕方がありません。教えてあげますよ。











私は名付けるのが趣味であります。




そして今、名前をつけようとしてるものがあります。それが何か今の貴方なら分かるはずです。




だからこれ以上は見ない方がいい。貴方のためにもね。見たいのなら止めはしませんが。




私が名付けようとしているものは、生と死の中間のことでございます。だから知らない方がいいと先に述べましたでしょう?今なら間に合いますから、もう見ないでくださいね。











だから、ここから先は誰にも評価されない。私の逃げ場になり得ているはずなのです。ここから先は私の秘密。


生と死の中間の名前?


……。


一応書いておきましょうか。




それは……。






あぁクソ。時間が来たようです。ここからはまた後日書きましょう。




ん?ここまで見ていたのですか?貴方。良かったですね。今回は、大丈夫ですよ。次は分かりませんけど。




あぁ拷問の時間です。
























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死の際に何が見えるか。 読破 @yugu-doku

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