第11話 PFの行く末
仕事でしくじってしまった。サイキは脇腹に痛みと熱を帯びながら夜のベールストリートを駆け抜けていった。
物陰に隠れ、急いで応急措置を行う。サイキの中には捕らえられたシーカの救出策を練っていた。
遡ること数時間前、サイキとシーカはギルドの仕事で密造酒や密輸品の受け渡しの仕事を請け負っていた。最初こそはうまくいっていたものの突然他のギルドから襲撃を受けたのだ。
サイキたちが懇意にしていたギルドは敵が多く奇襲のリスクもあったのにもかかわらずだ。敵は密輸品を押収しサイキたちを襲撃しようとしたがそこはギルド、速やかに応戦したもののシーカが攫われ、サイキも大怪我を負ってしまったのだ。
処置を終えたサイキは直ちにシーカ救出に向かう。幸いシーカをさらった連中はそこまで移動しておらずサイキは怪我をおして潜入した。
物陰に潜みながら密かにシーカにコンタクトをとる。運が良いのか本人の耐久力が功を奏したのかシーカはかろうじて意識があった。
シーカは相手に悟られないよう少しずつ動く。シーカが拘束されていなかったのが幸運だった。サイキはシーカを掴み急いで逃げることができたのだ。
事務所に帰ったサイキは急いでシーカの傷を手当てした。騒ぎを聞きつけたロドクが起きてきて治療に参加してくれた。シラゴも起きてきておっても見張りを務めてくれた。
シーカの傷は思ったよりも深くそして多く病院に行き1日だけ入院することとなった。
病院のベッドで寝ている弟を見てサイキは考えた。
弟には真っ当な道を歩んでもらいたい。そう思っているとシーカが目を覚ました。
「目を覚ましたか。よかったよかった」
「兄貴……すまない」
「別にいい。なあ、シーカ。俺たち足を洗わないか?」
シーカは驚いてベッドから飛び起きた。しかし痛みですぐ床に潜り込んだ。
「失敗したなんて、別に今日が初めてじゃないだろ?俺たちは運がいいだけだよ。」
それに……と続けて言いそうになったがサイキの顔は真剣だった。シーカはそんな兄を見て少し考え込んでぽつりとつぶやいた。
「今更足を洗ったところで俺たちが受けてきたことは消えない。兄貴ならできるけど俺には少し難しいかな?」
「難しいってもしかして親父のことか?」
「兄貴の口から親父のこと出るなんて初めてだな」
シーカは静かに語りだした。サイキたち兄弟の父親は王室直属の暗殺集団の一員でサイキとシーカは幼いころから戦闘訓練や諜報訓練をさせられていた。もっともシラゴとロドクはシーカと年が離れていたため、訓練にほとんど参加することはなかったが。
シーカは幼いころから体格に恵まれず、戦闘の才能は父からみたらないも同然だったため諜報訓練ばかりやらされていた。
「あのクソ親父。小さい俺に色んな事させてたんだぜ。特に房中術?ってのを叩き込まれたのは今でも覚えている。実践と称して親父の知り合いに……」
「もうやめてくれ。」
サイキは弟の受けた所業に吐きそうだった。自分の知らない所で弟が鬼畜の所業を受けていたからだ。シーカがこれでもまだ兄である自分に言える範疇のことを話しているのだという。
「俺はもうどうしようもない。でも兄貴が足を洗いたいってなら応援する。それにシラゴとロドクは親父のことをよく知らない。弟たちには平穏に暮らしてほしいんだ」
「シーカ……俺も小さいころから親父の下で殺しをやってきた。俺は足を洗うことはできても血に染まった手は消えることはないと思っている」
「まあそうだよな」
「シラゴ達に関しては俺たちが全力でサポートしよう。俺たちと同じわだちを踏まないために」
「なあ兄貴?」
「なんだ?シーカ」
サイキは優しく答える。
「兄貴、一緒に地獄へついて行ってくれ」
サイキは弟の手を強く握りながら答えた。
「ああ、あれもそう思っていたところだ」
病院からの帰り道、サイキは考えていながら道を歩いていた。自分は弟たちの為なら手を汚すことだって厭わない。そんな自分をシーカはついてくる。
2人ならなんだってできる。弟たちが日の当たる生活を送らせるために俺たちは危険を顧みない。
だってそれしか生き方を知らぬのだから。
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