第10話 若者たちの春

 あるうららかな春の日の朝、ルディス駅には田舎から地方からと大勢の若者が汽車に乗ってやってくる。


 理由は様々でルディスの大学へ進学する者もいれば就職する人、もしくはわけあって家や村から出てきたという者もいた。


 蒸気機関車の登場により、大人数の輸送ができ、遠い地方からルディスまで馬車に比べて短時間で人を運べるようになった。


 事務所では早朝からサイキはおろしたてのスーツを身にまとい、帽子をかぶってルディス駅へと足を運んだ。


「シーカ、約束の時間だ。いってくるよ」


「行ってこい。兄貴」


 一方ルディス駅ではある3人の若者が談笑しながら汽車から降りてきた。


 エルフのスレー、人間のエディン、影人のバルディンの3人の若者はそれぞれ事情があって田舎にいづらくなり、首都まで来たのだ。


 田舎でくすぶっていた時、シーカと名乗る異形頭の青年に出会った。年も近いし、なにより都会から来たシーカはスタイリッシュに見えて話も面白いし都会で流行っているレコードをくれたのだ。


 シーカが言うには都会では仕事がたくさんあり、選び放題なのだという。さらにルディスにはたくさんの種族が多く住んでおり、人の目をあまり気にしていないのだ。彼から楽しい話を聞いた若者たちはシーカについて行っていこうと決めたのだ。彼はある事業の営業であり、スレーたち若者たちの力が欲しいと思っていたのだ。


 3人は都会で働けると思いその日を待った。


 ルディス駅内を散策しているとサイキを見かけた。3人は社長自ら迎えてもらって有頂天になっていた。


「は……はじめまして」


「はじめましてこんにちは。君たちがシーカの紹介だね」


 彼らの目からしたらサイキは輝いて見えた。サイキは優しい顔をして3人を連れて駅を出た。


「仕事の前にお茶しようか。そのあとに仕事をしよう」


 サイキたちは純喫茶のお店に入った。サイキはフルーツのサンドイッチを頼んだ。若者たちはびっくりした。男が1人で甘いものを頼むなんて田舎じゃ考えられなかったのだ。スレーたちは遠慮しがちにトーストセットを頼んだ。一番安いセットメニューだ。


 4人は一緒に軽食をとった後、サイキがせっかくのルディスなのだからということで映画館に連れて行ってもらった。


 映画はアクション映画で初めての活動弁士に迫力のあるフィルム、田舎の村じゃ考えられない娯楽の情報が3人の頭を覆った。


 朝から美味しいものを食べ、映画を見た若者3人はすっかり都会人気分になっていた。


 上機嫌になった彼らを見てサイキはごほんと咳ばらいをした。


「そろそろ仕事に入ろうか。少し歩くけどいいかな」


 サイキは3人を連れ人気のない倉庫までやってきた。さっきまでの煌びやかさとは打って変わって、どこか恐ろしく感じる。でも初仕事なのだから勇気を出さなきゃと思っていたら、サイキは倉庫の扉を開けた。


 そこにいたのは長い口を釘で刺され、手足を縛られた竜人が置いてあった。


「あ……あの、サイキさん?彼ケガしてますよ?」


「ああ、そうだな。お前たちはこれからコイツを始末してほしいんだ」


 サイキは倉庫の隅においてある鈍器を3人に渡した。


「やって」


「い……嫌です」


 サイキのさっきまでの笑顔が消え、冷酷な顔になった。


「せえっかく仕事も飯も用意したのにやらねってのはどういうつもりだ!あぁん?」


 サイキの豹変ぶりに怖くなった3人は半ばいや大分脅された形で竜人を殴った。


 生き物を殴るのはこれが初めてで嫌悪感が勝ってしまった3人は隙を見て逃げ出してしまった。


 しかし見張りとして立っていたシーカが発見し3人を拳銃で脅した。シーカは通信魔法で連絡を取りながら竜人の頭を鉛玉で打ち抜いた。何の感情も見せずに処理したシーカを見てあの田舎で見たシーカとは違くて恐ろしくなった3人は意識が闇へと落ちた。


 3人が目を覚ますとなぜか山中にいた。手元にはスコップが3人分。近くの丘にはサイキが立っていた。


「いやーさっきはごめんね!脅かしちゃって。失敗は誰にもある。仕事はこっちでやっといたよ。」


 サイキは優しげな声で3人を見下す。


「だからね3人には穴掘ってその死体埋めてほしいんだ!できるよね?」


 3人は穴を掘り始めた。逆らえばあの竜人と同じような目に遭わされるかもしれない。びくびくしながら穴を掘っているとエディンが小声で


「よかった。チョロ」


 その一言がサイキは聞き逃さなかった。サイキは光攻撃魔法でスレー、エディン、バルディンをハチの巣にした。


「許すとはいったがナメていいことじゃねえんだよ。田舎者風情が」


 サイキが吐き捨てると後ろからシーカが来た。


「兄貴、せっかくの若者もう死んじゃったの?ごめんもっといい人材見繕って来ればよかったよ」


「いや、お前のせいじゃない。いままで楽をしすぎてたんだ。人の使い方ができてないだけだ」


 シーカとサイキはやれやれといった感じで血塗られたスコップを持って4体の死体を埋め始めた。

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