第2.5話 学問への通告
ある春が来ようとしていたころ、シーカが慌ててサイキのいる執務室へ駆け込む。
「兄貴!これ見てくれよ!」
「なんだなんだ、騒がしい。どれ見せてみろ」
サイキは少々興奮気味なシーカをなだめて渡された資料を目に通すとサイキは目を輝かせながら喜んだ。
「おい、シーカ。これはまたとないチャンスだぞ。いますぐシラゴとロドクを呼んで来い!」
シラゴとロドクは自室で待機していたところに兄であり、≪ポリゴンファクトリー
=PF≫の社長であるサイキから緊急の呼び出しを受けたのだ。2人は何か自分たちに大きな仕事を任せられるのではないかと、または大きな案件が来たのではないかと胸を躍らせていた。
執務室につくとウキウキ状態が隠せない2人にサイキは笑みを浮かべていた。
「シラゴ、ロドク。今日はお前たちに大事な話があってきたんだ。よく聞いてくれ」
2人はまだかまだかと心躍らせて待っていると、サイキが口を静かに開いた。
「お前たちには学校へ行ってもらう」
突然のことだった。2人はぽかんとしていたが、ロドクが質問をした。
「えっそれって人間に変装して潜入してってこと?それなら……」
「違う。政府の活動の一環でね。識字率向上のために人外つまり俺たちのようなのに学習の機会を設けてくれるんだ。そこでお前たちに要は学校行ってほしくてな」
「学校行きたかったんだぁ。行っていいの?サイキ兄ちゃん」
「もちろんだ。勉強頑張れよ、ロドク。それにシラゴもな」
嬉しそうなロドクと対照にシラゴはどこか不満そうであった。
マリドニアでは近年まで人外が学校に通うことは難しく、読み書き計算ができない者も多かった。革命そして戦争を経て人外たちに就職の門戸が広がり、学習の機会を与えるとのことで人外の若者に夜間中学を開校するという施策だ。
ロドクは前々から学校に行きたがって吐いたが学習の機会がなく独学で勉強をしてきたのだったが、シラゴの方はというとなまじ腕っぷしあるのと学ぶことに対して意欲が低かった。
「俺は学校に行かなくてもいいし。創業当時から一緒にやってきたじゃん。今更学校なんて行く意味がないよ。」
シラゴは行く意欲が低かった。本人が言うには今まで兄のために頑張ってきたのに急にはしごを外されたような感じがして悔しいという思いがあるし、読み書きも最低限あればいいと思っているのだ。
「これから社会が安定してくる。そこで必要となってくるのは学問だ。俺たちができなかったことをお前たちがやってほしい。会社のことは気にするな。俺とシーカで回せる」
諭すサイキにシラゴの雰囲気が悪くなった。
それを察したのかロドクがシーカの陰に隠れる。シラゴは不機嫌なまま続ける。
「2人で回していくなんて無理だよ!俺は行かないから」
「シラゴ、お前は外の世界を見てこい。それだけでもいい経験になる」
シラゴからしてみれば売り言葉に買い言葉なのだろうシーカとサイキの前で言ってはいけない言葉を口にした。
「情報屋なんでシーカ兄さんでもできるだろ。それにシーカにい……」
その時だった。サイキがシラゴの首根っこをつかんで頭を地面に叩きつけた。
「それ以上のことを言ってみろ。行ったらお前を弟としてみない」
今までにない冷酷そうな顔でサイキはシラゴを見つめた。サイキの手は徐々に強くなりシラゴの首を絞め始めたのだ。
「サイキ!やめろ俺は気にしてない。手を放してやってくれ」
シーカがロドクの手を握りながらおそるおそるサイキに行った。サイキは表情を変えずにシーカの方へ目をやった。
「ダメじゃないか。こいつはバカだから情報屋の重要性がわかってないんだ。だからこそ学校に行かせないと」
シーカはこの状態の兄を見て説得は無理だと悟った。サイキは少し考え込んだ後、シラゴとロドクを地下室へ連れ込んだ。
普段は物置か標的を拷問したりする地下室だが、シラゴの首根っこを掴んだサイキがシラゴを放り込んだ。
やっと自由になったシラゴは立ち上がった。体勢を整えようとした時、兄サイキから強烈なキックが飛んできたのだ。
「どうした?立ってみろよ」
サイキがジャケットを脱いで臨戦態勢をとる。すかさずシラゴに殴りかかる。シラゴも反撃しようとしたが、遅かった。
サイキはシラゴに馬乗りになり、10分間にわたって殴り続けたのだ。
「いいか、シラゴ。俺たちの仕事に必要なのは腕っぷしじゃねえんだ。信頼が大事なんだ。それを知らないやつにいっしょに働く気はねえからとっとと学校行って了見広めてこい」
吐き捨てるようにサイキはジャケットを着て地下室を上った。
シーカは救急箱をもってシラゴに黙って世話させた。ロドクは兄が怖くて殴り続けている途中で逃げ出していった。
数日後、黒い詰襟を着たシラゴとロドクが
「「いってきます」」
と言って登校していった。
サイキとシーカは登校する弟たちを見送りながら2人の兄たちは仕事に戻った。
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