第3話 映画を観に行こう
「サイキ兄さん、映画のチケット貰ったんだ」
シーカが執務中のサイキの机にチケットを置いた。
チケットを一瞥した。
チケットはホラー映画だった。
「ホラー映画って・・・お前大丈夫だろ。友達を誘って観に行けばいいじゃないか?」
「兄貴もう忘れたのか?俺明日から地方へ出張するって。帰ってくる頃にはチケットの有効期限が過ぎちゃうよ。だからこれらは兄貴が使ってくれよ。」
サイキはああそうだったという顔をしながらチケットを受け取った。
チケットは2枚、だれを誘うかと思索しているとシーカは
「隣の小間物屋さんのお嬢さんのリーナちゃんでも誘いなよ。あっ俺は明日早いからもう寝るからな!」
とそそくさと出ていった。
一人取り残されたサイキはチケットを見ながら小さくため息をついた。
数日後サイキは連れを伴って映画館に来た。
小間物屋のお嬢さんのリーナではなく・・・弟の三男のシラゴであった。
「兄さん・・・おれホラー嫌いなんだけど・・・?」
まるでリーナさん誘えば・・・という顔で兄のサイキを見る。
サイキはバツが悪そうに顔をそらした。
「む・・・向こうにも、つ・・・都合があるだろ?」
「数日猶予あったよね。チケットの期限もまだあるわけだし」
「いきなりお隣さんから映画観に行きませんかなんて言ったらドン引きされるしそれにホラー映画ならお前のビビり克服できそうだなって」
もはや開き直りである。
そんな兄を見ていたら
(これ、意地でも連れてくタイプだなって)
と思ったのかシラゴは観念した。
映画館に入りチケットを差し出す。
こんな真昼間から大の男が映画を観に行くというのが受付嬢の目には好奇なものであった。
館内の売店でサイキは2人分のポップコーンを買う、これから起きることへの罪滅ぼしなのだ。
席に座り、しばらくポップコーンを食べていると活動弁士が登場し映画は始まった。
そこからの2人の怯えようはすさまじくホラーな映像にシラゴはビビったかと思えば隣のサイキはもっとビビッてシラゴの腕にしがみつこうとした。
弁士のおどろおどろしい演技に大男であるはずのシラゴはすっかり縮こまってしまい、その隣には弟の左腕にしがみつく情けない兄の姿があった。
スクリーン越しのホラー体験2時間体験した2人はすっかり意気消沈したかのような表情だった。
館内の休憩席で2人は憔悴した顔で感想をぼそぼそと呟いた。
「怖かった・・・」
「夢に出る・・・」
他の客たちもよほど怖かったのか次々と青い顔でぞろぞろと出てきた。
残ってたポップコーンをもそもそと食べた後、家に帰るために館内を出た。
帰路につく途中、サイキはまだか細い声で言った。
「なんか・・・今日はいろいろと悪かった。」
「気にしないで兄ちゃん。ロドクとシーカ兄ちゃんなら平気だったし・・・」
「ロドクも運が悪い。今日に限って工場の手伝いがあるんだ。今日ぐらいしか2人休みなかったしな」
「明日から仕事だし頑張るよ兄ちゃん。」
「そうだな。」
明日に向けて少し立ち直ったその時、聞きなれぬ声が2人の耳に入った。
「ポリゴンファクトリーのサイキか?あんときはよくも・・・」
みすぼらしい角人がナイフをもって突っ立っていた。
「ああ、リンドさんじゃあありませんか。あの時はお・・・」
「お前らのせいで俺は離婚する羽目になったんだぞ!!!内偵なんて卑怯なマネしやがって!会社にも横領と不貞で首だ!責任取りやがれ!」
「あなたねぇ・・・自己責任でしょその横領と不貞は恨むなんて筋違いなことしないでくださいよ。せっかくの休日に迷惑です。」
毅然と返すサイキ。
もうすでに仕事モードに入っていった。シラゴもサイキを守るために臨戦態勢をとる。
その気づいたのかリンドと呼ばれた男はナイフを振りかざす。
その時サイキのジャケットの内ポケットから拳銃を取り出しリンドの脚をめがけて発砲した。
撃たれて倒れこむリンドの頭にすかさずサイキは弾丸を撃った。
そしてピクリともリンドだったものは動かなくなっていった。
サイキは銃をしまいシラゴに告げた。
「馴染みの『掃除屋』に連絡してくれ。あと・・・」
「あと・・・?」
「やっぱり生きている人間のほうが怖いよな!」
さっきまでの冷酷な顔つきとは違い、弟に向ける朗らかな表情をサイキは浮かべていた。
どっちが怖いのやらろシラゴは思いつつも『掃除屋』に連絡した。
1ヶ月後、出張から帰ってきたシーカに映画の件について話した。
「そんなに怖かったのか・・・兄貴の怖がる顔見たかったな。」
「笑い事じゃないよ兄さん。」
「そうだ夜に例のホラー映画まだやってるみたいだから、もう1回いくか?」
「お断りします」
ホラー映画はしばらく見たくないなと思うシラゴであった。
補足:この話は4人兄弟が話によってその話の主人公という形をとっています
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