第4話 飲み物には気を付けよう
「どうか、お金だけでも返してもらえるようにできませんか?」
ポリゴンファクトリーの応接エリアで身なりの良い小太りの男性が何度の何度も頭を下げている本人は必至なのだろう。
だが対応しているサイキ含め、だれも同情をしていない。
むしろ笑いをこみ上げそうなのを必死に堪えているのだ。
もちろん大事な大事な商談なので実際に笑ったりはしない、しかしこの男の被害があまりにも兄弟たちから見ればあんまりにも滑稽だからだ。
この男が受けた被害というのがバーでの詐欺だからだ。
話を聞くに、男は興味本位で少々怪しげなバーに入ったのだという。
2件目ということもあり、酔いも回っていて自分なら大丈夫だろうという謎の全能感に包まれていたらしい。
そのバーには獣人の女店主がいて店主自らお酌をしてもてなしてくれたらしい。
その時だった急に眠気がして倒れるように意識を失ってしまって気が付いたら路地裏で財布からすべての現金が抜き取られていた・・・というのだ。
同行していた男の部下たちは泣き寝入りを決めたが男本にはどうしても許さずかといって警察に相談すれば家族や会社に裏のバーに出入りしていたことがばれてしまう。
男の職業は誰もか知っている大手企業の役員で妻子持ちだ。
大事にはしたくないかといってこのまま泣き寝入りするのは自分自身許せるものではないとそこで目を付けたのが俺たちポリゴンファクトリーというわけだった。
サイキは男の表情を見て少々法外な値段といえるものを提示した。
せっかくのカモを逃すわけにはいかない。金が絡んだサイキは時折恐ろしく見える。
男は値段を見て一瞬戸惑ったが、もうここしか頼れる場所はないとわかっているのか半分を前払いで支払ってくれた。
サイキはこれでもかという営業スマイルで
「必ずやお金を変えさせてやります」
と男の手を握って微笑んだ。男は希望の光を見つけたとばかりに顔を輝かせながら事務所を出ていった。
「さーて、作戦会議を始めるぞ」
先程の笑顔は消え失せ、汗まみれの手をぬぐいながら真顔で言った。
「しっかし、良い金ズル捕まえたものだ。前金だけでもこんないい額だ頑張りがいがあるね」
シラゴも嬉しそうに契約書を見る。
しかしシーカはどこか厳しそうな感じでメモ帳を開く
「決行時期、ギルドの手伝いの日とかぶってねえか?」
「「「あ」」」
サイキは浮かれ顔からしまったという顔になった。
決行しようとしていた日はギルドの法律的によろしくない下請けの日とかぶっているのだ。
ギルドの命令に逆らうわけもいかず、かといってせっかくの太客を逃すわけにもいかず、悩むサイキにシーカはどこかあきれた感じを見せ名からある提案をした。
「俺とロドクで例のバーに行く、兄貴とシラゴでギルドの仕事すればいいじゃないか」
「それなら俺とシーカでバーに行って2人にはギルドの方をやったほうが・・・」
「どうせギルドの方には幹部なりファミリーがいるんだ、弟たちだけだとそっちのほうが不安だろ。
ここはうまく分担してくれ、社長」
さっきまで金に目がくらんでいたサイキは少し恥ずかしくなった。
シーカのいう通りだ。
請け負った仕事達はすべてこなさないといけない。
それにシーカがいるなら安心できる。
「わかった。俺とシラゴでギルドの方へ行く。終わったらすぐにそっちへ合流するそれでいいな?」
「「「了解」」」
その時シーカは毎日見ているはずのロドクをまじまじと見た。
まるで見定めするかのように。
「ロドク・・・お前身長高いし、顔もいいから潜入やってみるか?俺がフォローするから」
「シーカ!本気で言っているのかロドクにそんな危険な事させられないだろう?」
サイキは慌ててシーカを制する。
そういつもなら潜入はシーカが担当することとなっていたのだ。
サイキがそういう態度をとってくることを想定してたのかシーカは続ける。
「俺が潜入するとしてロドクは俺のフォローができるのか?それに今回は女主人とっ捕まえて金返させないといけないしどうしても人手がいる。
潜入は1人ではできないんだ。それにロドクにもいい経験になる。いざというときは俺が動くからいいじゃないか。」
弟にここまで言われてしまえば反論するのもプライドが廃る。
ここは飲むしかないのだろう。ロドクは兄から大役を任されて先程のサイキのような浮かれ顔をした
「任せてよ!シーカ兄さん!ボク顔かっこいいしイケメンだからさきっとうまくいくよ」
「やる気はいいが羽目は外すなよ」
弟たちにここまで支えられながらサイキは心の中で己を恥じるのであった。
日が暮れるころ、ロドクとシーカはスーツに身を包み事務所から出てきた。
2人は軽い談笑をしながら電車を乗り継ぎ、例のバーの手前へと到着した。
シーカは店の人間に悟られないようにロドクにある小瓶を渡した。
ロドクも出されたそれのふたを開けて一気に飲み干す。
飲んだことを確認したシーカは弟の影にすっと潜り込んだ。
ロドクは店に入った。
バーの内装はどこにでもあるようなモダン調な作りであった。
ロドクは手ごろなカウンター席に座った。バーテンダーに度数の低い酒を頼んで飲んでいると例の女主人がやってきた。
「いらっしゃい。この店は初めて?」
犬の獣人なのに猫なで声で口説いてきた。
彼女からしみればロドクは世間知らずの坊ちゃんが夜遊びしに来たものと思っていたんだろう。
シーカはロドクにあえて上等なスーツを用意した。身長は高いものの、まだ幼さが残るロドクにいい服を着せれば世間知らず風の坊ちゃんに仕立て上げたのだ。
こちらの思惑通りに引っかかってくれてシーカは内心こぶしを挙げたがすかさず弟のフォローに入る。
女主人はロドクに何度も口説きながら度数の高いお酒を差し出してきた。
出されたお酒をロドクはどんどん飲んでいく。
しばらく飲んでいると影の中にいたシーカが声をかける。
(そろそろ頃合いだ。寝たフリしとけ)
ロドクはシーカの言うとおりにお酒が回ったふりをしてソファにもたれかかった。
その時を女主人は見逃さなかった。
寝たふりをしたロドクを抱え、路地裏のごみ捨て置き場に置いたその瞬間、ロドクが4つの目をすべて開き、素早く起き上がり、女主人に蹴りを入れた。
獣人の主人は嗚咽を漏らしながら、後ずさった。
「な・・・なんで・・・?」
「人の飲み物に薬は入れちゃだめだよ?ねぇシーカにいちゃん?」
ロドクの影からシーカが出てきて、獣人を思いっきりぶん殴った。
続けざまににロドクも獣人が立ち上がれなくなるまでそこら辺の鉄パイプを使って何度も何度も殴った。
シーカもそこら辺のレンガや金づちでなぐり続けた。
獣人の体は青あざや内出血の後、骨が折れただろう痕が生々しく残っていた。
シーカは獣人の髪をつかんで見下すように言った。
「あんたが卑怯な手でかすめ取った分取り返すことになってんだ。これ以上その面と鼻が使い物になるうちに念書にサイン書いてくれよ。」
獣人は痛みのあまりか失禁して気絶してしまった。
シーカは獣人の服からカギを取り出しロドクを引き連れ店の裏口へ潜入し金額分相当の貴金属を盗み出し、店を後にした。
店自体いつでも夜逃げできるようになっているのか従業員の少なく、盗むこと自体は簡単だった。
おそらく警察や追手が来る前に他に都市や国に高跳びするためだろう。盗む側としてはこれほど簡単なことはなかった。
2人が帰路についてるときロドクがシーカに尋ねた。
「あの薬何だったの?全然酔えなかったんだけど」
「ちょっとダチ経由で仕入れたんだ。明日ハラ壊すかもしれないけどな。」
「えーやだよ。そんなやばい薬だったの?あ、そうそうところであの獣人はいいの?」
シーカはメモを取り出しパラパラとめくった。
「あのケモノ女、いろんなとこにて出してぼろ儲けしてたらしいな。遅かれ早かれヤバいところの恨みを買って海の藻屑になってたさ。俺たち運がいいぜ。まあおまえはこれからハラ壊すけどな。」
「兄ちゃん!他人事みたいに言わないでよ!」
「はっはっはっ、これからは飲みたいなら家でほどほどに飲んどけよ。」
2人の会話は夜の深みに沈んでいった。
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