第8話 お疲れ、社長
天気の良いある日、ロドクとシラゴが商店街で買い物していた。
サイキから会社の事務用品と生活用品を買い出しにいってこいと言ってきたのだ。
買い物をし終えた2人は帰路に就く途中で商店街にある広告に目が留まった。
『力漲るエネルギー! スーパードリンク新発売!』
ロドクは最近飲めば眠い深夜も朝のようにバリバリ働けるサラリーマン御用達の飲み物として最近流行りだしたものだ。
ロドクも一度飲んでみたものの、まずかったが朝まで眠ることができず、お昼にどっと眠気が襲ってきたのであれ以来健康に良くないと思って飲んでいないのだ。
だがシラゴはすこしばかり物欲しそうな顔をしてつぶやいた。
「今どきこんなのはやっているんだ~俺も飲んでみようかな」
ロドクはそんな兄にあきれながら自分のスーパードリンクののレビューしながら軽くいさめてきた。
「あれはまずい味だぞ。それにあれは寿命の前借りなんだ。あれを常用する奴なんてどうかしてるぜ」
そう軽口をたたきながら、家のドアを開けると……
「おう、買い出しご苦労さん。事務用品は机の上に置いといてくれ」
なんとスーパードリンクを片手に目にクマを作ったサイキが出迎えてきてくれたのだ。
ロドクがサイキの向こう側に目をやるとドリンクの缶が10本ぐらいおいてあった。
寿命の前借りどころではない。現在進行形で寿命を削っているではないか。
「兄ちゃん。そんなまずいやつ飲んで大丈夫なの?たくさん飲んだら体に悪いよ」
サイキは弟の心配をよそに手に持っていた缶の残りを一気に飲み干した。
「これがなきゃ仕事やってられないんだ。シーカも飲んでいるからいいだろ」
シーカもたいがいであった。
ロドクとシラゴは日用品を倉庫に入れながら小声である相談をした。
最近、サイキが寝ているところを見たことがないのだ。この前なんて夜遅くサイキの部屋から物音がしたと思えば、コバエ1匹に対しブチ切れたサイキが両手を刃に変形させて大暴れしていたり、インクの入った水を誤飲して吐きながら執務室から飛び出ていったりとシラゴは心配していた。
このまま倒れてしまうのではないかと思っているシラゴにロドクはあることを閃いた。
無理やり寝かそうとするとサイキはシラゴよりも喧嘩が強いのか逆に返り討ちにされてシラゴがベッド行になったことがあるのだ。
シラゴが悩んでいるとロドクがリンゴの袋を持ってきてこう言った。
「そうだ!きのうリンゴ沢山もらったからなんかお菓子でも作ろうよ」
お菓子の作戦はいいものだろシラゴは思った。サイキは最近昼食も夕食も疎かにしがちだ。お菓子を食べておなか一杯になれば眠くはなるんじゃないかと考えたのだ。
わが弟ながら良い作戦を思い浮かべたものだ。
台所に立った2人はレシピ本をみてアップルパイを作ることに決める。ロドクは家族の食事を作っているのだが、スイーツに関しては全くと言っていいほど初めてであった。
レシピ本を確認して2人は最初の壁にぶち当たった。
「バターと砂糖の量が多すぎる。最近砂糖とバター手に入りにくくなっているんだぞ!??」
「食べる前に兄さんが聞いたら卒倒しそうな量だね。やっぱ別のやつにしない?」
「いやここまで来たら引き下がれん!砂糖とバターの量は減らす。腹に入れば同じだ。」
ロドクはスイーツづくりにあるまじきレシピ本に背いてパイを作り始めた。
その報いが不格好なパイの形として現れたのだ。
リンゴの香りはかろうじてしており、その匂いにつられてサイキが台所にやってきた。
「おまえら、何やってんだ?いくら休みとはいえ……」
「あっ、兄ちゃん。これは……その……」
2人が目を泳がしているとサイキは奥にある不格好なパイに目をやる。
サイキは弟たちを押しのけ小さくて焦げかけたパイを手に取る。
「これは俺のために作ってくれたのか。ありがとうなロドク、シラゴ」
サイキはパイを持って部屋にもっていってしまった。おそらくあまりおいしくはないはずだ。
それでもサイキは「おいしかった」と礼を言うだろう。
部屋に行こうとするサイキにシラゴが声をかけた。
「兄ちゃん。それ食べたら寝てよね!約束だよ」
サイキは困ったように笑いながら
「わかったよ。心配させて悪かった。お前たちもそこ片づけたら早く寝るんだぞ」
そういってサイキは部屋に入っていった。心配するつもりが逆に気を使わせてしまった。
2人はなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
ロドクたちが寝るときドアのノックオンが響いた。
サイキからだった。
「もう寝るところか?昼間のアップルパイ美味しかったぞ。バターとか砂糖は気にしなくていいからまた作ってくれよ」
と言い残し、部屋を後にした。
そのあとサイキを寝かす作戦はお菓子ではなく酒をあげてよって寝かす作戦にシフトすることとなった。
スーパードリンクはシーカが飲み、「飲みすぎだ」とサイキからチョップを食らい、シーカはベッドへ直行することとなった。
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