第3話 Bitter-Sweet(3)
「じゃあそっちから攻めてみようか。 確かにこっちを先に印象付けた方がいいかもしれない、」
真太郎は高宮が直した資料を見てそう言った。
「いや、でも。 映画の方はようやくスポンサーからもオッケーが出て、」
志藤が食い下がった。
「大丈夫です。 この前志藤さんが完璧にプレゼンしてくれましたから、」
真太郎はにっこり笑った。
そう言われると
引かざるを得ない。
「じゃ。 そういうことで。 会議の進行は僕がさせていただきます。 その時に説明しますので、」
高宮はいつものように冷静にそう言って部屋を出た。
「ったく。 ほんまに生意気なやっちゃ、」
志藤は思わず口をついて出てしまった。
真太郎は笑って
「高宮くんは本当に頭が良くて、常に2手3手先を考えてます。 僕が気づかないような・・こういった会議の進行の順番にも気を配って。 些細なことですが重要なことです。 本当に彼がいてくれてよかった。 僕はどれだけ助けられているかわかりませんよ。 『NC』の方もムリを言って彼に一緒にやってもらってる状況ですし、」
資料をファイルに挟み込んだ。
『NC』とはホクトが経営するホテル業の別会社。
こちらも北都が取締役社長を務めていたので、この成り行きで真太郎がその仕事を継いだ。
もともとこちらにいた北都をサポートしてくれていた社員が健康上の理由でやめてしまってからは、高宮がその仕事もするようになった。
実際、真太郎よりも『NC』に関しては高宮の方が実情をわかっている。
突然のことで、エンターテイメントの仕事で手一杯だった真太郎に代わって高宮がNCの仕事を代わりにしていたこともある。
もちろん志藤にもそのことは十分にわかっている。
「にしても。 ほんまに腹立つっていうか。 涼しい顔であんなん言うとこが!」
悔し紛れにそう言うしかなく
真太郎も思わず笑ってしまった。
「ほんっとに高宮さんって事業部の加瀬さんと夫婦なんですかあ?」
今さらながらみたいな質問を麻里が萌香にぶつけてきたので、会議のためのお茶の支度をしながらも
「え?」
少し驚いたように彼女を見てしまった。
「どう考えても。 ぜんっぜん想像できないっていうか。 加瀬さんってめっちゃ天然もいいトコじゃないですかあ。 びっくりなくらい。 あの高宮さんと、いったいどーなっちゃってこうなっちゃってるのか、」
あまりに素直な質問に
「まあ、みんなそう思うわよね。 でも。 ああ見えて高宮さんってすっごく情熱的というか。 彼の方からすごいアプローチをして彼女とつきあってもらったんだから、」
萌香は苦笑いをしながらそう答えた。
「え~~??? ますます不思議! 高宮さんって。 ドSって感じじゃないですかあ、」
ドSとまで言われて、萌香はまた笑ってしまった。
じゃなくて。
彼は完全に
ドMかも。
萌香はそんな風に思ってしまった。
いつもいつも
夏希に振り回されながらも
どこかでそんな自分を楽しんでるような。
それがまた
普段の彼とあまりのギャップでおかしくて。
これまでの二人の経過を知る萌香には、
あの夏希にドはまりしていく高宮の姿が微笑ましくさえ思えていた。
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