【優しい出会いと…】
レイグと強く握手を交わした後わざわざ来てくれたからと亜人族(ペティーシャ)の料理を振舞ってくれた。
オリタルに生息する魚類のサラダや魔物の肉をこんがり焼いた料理がずらずらと運ばれてくる。
そんな料理を味わいながらレイグの横に座り、他の住民達との会話も楽しむ。
レイグ:「いやぁ〜しかし、アイル達とシエルが出会ったのはなにか強い運命を感じるな!」
村人:「あんたの様な人をずっと待っていたんだ!いやぁ〜頼りにしてるぜー!」
シエル:「アハハ...アハハ...どうも。」
アイル:「……。」
黙るアイルにミーシアが裾を掴んで何か言いたげな顔をする。
アイルが「どうした?」と聞くとミーシアは「正直に言わなくていいのかな…」と不安気に答えた。
アイル:「わかんね...不安なのは、あの兄ちゃんがずっと隠してくれるか…ってことだな…」
シエル:「ん〜…?なになに??俺が本当の事話すか不安なのかい?」
突然背後に現れたシエルに二人は寒気が走る。
アイル:「いっ!!いつの間に!!?兄ちゃんさっき父さんの横にいただろ!?」
シエル:「あんだけ視線感じたらそりゃ気にもなるさ」
ミーシア:「シエル兄ちゃんは本当の事言わなくていいと思う?」
ミーシアはどうやら隠し事は得意ではないらしく、
親に嘘をついていることを心苦しく思っている様だった。
シエル:「俺は隠したままでもいいと思う。でも悪いことをしたと思ってるなら、正直に話すべきだとも思うよ...。
大切に育ててくれた親にミーシアはどうしたらいいと思う?まぁ、一つ教えてあげれるとしたら、生きてる者は皆、自分が悪いと分かっていながらも時々嘘をつかないといけない時がある。
でもその嘘は大切な人を守れる時と傷つけてしまう時があるんだ…。その選択は他人じゃなく、自分で決めないといけないんだミーシア。そだよね!?アイル〜」
アイル:「うっ……なんだよ…俺に聞くなよな...、てかミーシア!兄ちゃんの事シエル兄ちゃんって呼ぶのやめろよな!兄弟みたいだろ!?」
アイルは恥ずかしいのか顔を少し赤らめてミーシアに訴えた。しかしミーシアは何が悪いのかと強気の態度に出る。
ミーシア:「だって!優しいお兄ちゃんって感じがするもん!!シエル兄ちゃんはシエル兄ちゃんだよ!」
シエル:「俺が兄弟じゃ嫌かい?どうなのさ〜??」
アイル:「うぅ……。べ…別に!で、でも!ミーシアの兄は俺だかんな!!俺だってミーシアに優しく...してるし...多分...。」
シエル:「なんでちょっと自信無くすんだよ...」
家族であり妹であるミーシアに対してアイルが兄としてのミーシアを守るという強い意志を感じ、少し微笑ましく思ってしまう...。
今までも、きっとこれからもアイルはミーシアを大切にする兄として生きていく覚悟を感じた俺は、アイルにある提案をしてみる事にした。
シエル:「なぁアイル...。」
アイル:「?...なに?何考えてんのさ...」
シエル:「そんなにミーシアが大切なら守る力を手に入れたくないか?」
アイル:「守る...力...。」
シエル:「俺はここにずっといる訳じゃない、そしたらもし悪い奴が現れた時ミーシアを守るのは父親のレイグや他の大人達だけかい?」
アイル:「子供の俺にたたかえって言うの?...そんなの大人のやる事だろ!?俺は....父さんみたいに強くなんかなれないよ...。」
シエル:「...、よし!ちょっとついておいで!」
二人:ーうわっ!わぁぁ〜!ー
アイル:「どっ!どんな力だよ!!」
ミーシア:「持ち上げられてる...すごい...」
アイルとミーシアを両手で抱えレイグの家から出ていこうとするとレイグが不思議そうに呼び止める。
レイグ:「お?シエル、二人連れてどっか行くのか?」
シエル:「ちょっと見せたい物があってね!少し二人を借りるよ!」
レイグ:「見せたい物??ん〜まぁ良く分からんが気をつけてな、あ!それと二人を連れていくなら"ヘレナ"も連れて行ってあげてくれないか?俺の弟の娘なんだが...色々あって引きこもっててな...俺の家からそう遠くない、二人に聞いて会ってみてくれ。わがままをいってすまないな。」
シエル:「ヘレナか...うん!わかった!じゃ!また後で!料理ありがと!!とっても美味しかったよ!」
家から出て二人を下ろしヘレナの家へと案内してもらった。
二人から聞くにヘレナという少女は目の前で両親を殺され、それ以降、聴力がほとんど無くなり、声が出せなくなってしまったらしい。
アイル:「ヘレナは大人しいけどすっごく人見知りなんだ、あんま怖がらせんなよ?」
シエル:「うん、気をつけるよ...アハハ。」
ミーシア:「ヘレナー、起きてる?ちょっと出てきてほしいの〜」
ミーシアはヘレナを呼びながら中へと続く紐を何度も引っ張った。
すると、静かに扉が開き、開いた扉の隙間から茶色い猫種の耳を覗かせた。
ゆっくりと顔が出てくると俺を見た途端にまた扉の奥に隠れてしまう。
シエル:「えっと...どうしよ...。」
ミーシア:「私ちょっと呼んでみるね...。」
ミーシアは中へと入り、しばらくするとヘレナを外へと連れてきてくれた。
シエル:「初めまして、君がヘレナかい?」
腰を低くしヘレナに視線を合わせるが緊張しているのかすぐにミーシアの後ろへと隠れてしまう。
アイル:「兄ちゃんなにしてんだよ、ヘレナは耳が悪いんだってば。」
シエル:「あ、そうだった...ごめん。」
シエル:ーん〜、最近やってなかったけど...試してみるかー
シエル:「アイル、ヘレナ手話は出来るかい?」
アイル:「うん、出来るよ?俺たちも手話でヘレナと話してるし。」
シエル:「すまないミーシア、ヘレナに手話でちょっと近ずいてもらえないか聞いてくれるかい?」
ミーシアはーうん!ーとヘレナに手話で説明してくれた。
するとひょこっ...と後ろからヘレナが顔を出し、ゆっくり...ゆっくりと近ずいて来てくれた。
目の前まで来てくれたヘレナに手話で「少し頭を触ってもいいかい?」と聞くと、ヘレナは首を縦に振って返事をしてくれた。
ヘレナに「怖がらないで、痛くしたりしないから。ゆっくり目を閉じてごらん」と伝えると、ヘレナは恐る恐る言う通りに目を閉じてくれた。
ゆっくりと優しくヘレナの頭に手を置き、心に入り込む。
シエル:ー聞こえるかい?ヘレナ...良かった成功したみたいだ...。聞こえてたら返事して目を開けてくれー
ヘレナ:ー......どう...して...お兄さんの声が......聞こえる...ー
ヘレナは驚いて目を開ける。
そのまま驚いた表情でじっと俺を見つめていた。
自分に何が起きたのか理解できていないのか、何度も声が出せるか試そうとするがかすかに掠れる声が出るだけだった...。
アイル:「おい!ヘレナになにした!?」
シエル:「すまない、少し静かにしていてほしい。」
シエル:ー驚かせてしまったね...ごめんね、今ヘレナの心とお話してるんだ。不思議だろ?ー
ヘレナ:ー...聞こえてる...でも声はでない......心の...こえ?...心で...お話してるの...?ー
シエル:ーそう、ヘレナの心は話せるようで安心したよ...。まだ深く閉じこもってなかった....ー
ヘレナ:ーお兄さんが...ミーシアが言ってたシエルお兄ちゃんってひと?ー
シエル:ーうん!シエルって言うんだ、よろしく、ヘレナ!素敵な名だ...ー
ヘレナと心で会話しているとアイルとミーシアは何がどうなっているのか困惑し、首を傾げて俺とヘレナを見ていた。
アイル:「何してるんだ...ずっと黙ったままで...」
ミーシア:「わ...わかんない...。」
ヘレナ:ー...シエル...シエルお兄ちゃん...ー
シエル:ーアハハ!なんか恥ずかしいな〜、これで俺とは心でいつでも話せるから、これからたくさんお話しような!ー
そう伝えるとヘレナは先程までとは違い、表情が軽く、とても嬉しそうな表情に変わっていた。
ヘレナ:ーシエルお兄ちゃん...!ヘレナ、誰かとこうやってお話するの...ずっと...ー
突然ヘレナの瞳から涙が零れ落ち、嬉しかったのか突然強く抱きついてきた。
シエル:ーアハハ...喜んでくれてよかった!とっても素敵な声じゃないか!ヘレナが声を出せるように協力する、一緒に頑張ろうなヘレナ!ー
ヘレナ:ーうん!ありがとうシエルお兄ちゃん!ー
アイル:「...な、なんなんだよ...いきなり泣いたと思ったら...次は抱きつきやがった...。」
ミーシア:「すごい...シエル兄ちゃんすごいよ!!みんなが知ったら絶対びっくりするよ!!」
シエル:ーあ、忘れるとこだった...ヘレナ、少し俺と一緒に着いてきてくれないかい?、今からアイルにとっておきを教えてあげるんだ!どうかな?ー
ヘレナ:ーうん!ヘレナも一緒にいく...!ー
ヘレナの頭を撫で...立ち上がろうとすると、ヘレナは抱きついたまま離れようとせず、とても嬉しそうだったので、抱きつかれたまま移動することにした...。
ヘレナを抱っこしたまま村近くの広い草原へと移動しアイルに話しかける。
シエル:「さあアイル少し授業をしようか、さっきアイルは守るのは大人がすることって言ってたよね……?その考えに変わりは無いかい?」
アイル:「な……ないよ……」
シエル:「よし、じゃあある場面を想定しよう、村の外から魔物が襲ってきて大人達は魔物を倒しに向かう……隠れていたアイル達の前に一匹の魔物が現れてしまう。さあどうする?」
アイル:「え……大人は俺たちを守れてないじゃん……どうしようもないよ……」
シエル:「傲慢だな〜、アイルは大人ならなんでも出来ると思っているのかい?」
アイル:「うん、そうだよ……俺たち子供ができないことなんでもできるだろ、じゃあ魔物だって倒せないと大人じゃないよ!」
アイルは恐らく父親のレイグを見て育ったからか、大人であれば皆、父のように強いと思い込んでいるみたいだ……。
しかしそんな英雄譚は甘い考えだとアイルに教える。
シエル:「アイル、大人だって、騎士だって自分より強い存在には敵わない。いざ守るべき存在が危機になった時、勝てる力がないと自分も家族も守れないんだ。」
アイル:「じゃあ……大人だってみんな強いわけじゃないの?だったらどうやって生きていくのさ!大人になっても殺されちゃうんじゃなにもできないじゃん!……兄ちゃんもそうなの…?」
シエル:「うん……俺も仲間をたくさん失ったよ……俺が弱かったから、だから何度も、何度も強くなるんだ、もう失わないために……。」
アイル:「強く……兄ちゃん、俺も強くなれるの?大人じゃなくても守れるようになる?」
シエル:「ああ、もちろん!魔物が襲って来た時アイルに守る力があれば倒すことは出来なくても、時間を稼ぐことはできる。その方法を教えてあげよう。」
ヘレナを下ろしミーシアと一緒に見ているよう伝え、アイルに戦術を教える。
相手の視線や行動の基準、相手の動きを観察し何処を狙うか等……さすがに殺し方は教えなかったが、
致命傷を与えられる程にはかなり教えこんだ。
アイルの覚えがかなり早く、数時間後には落ち着いて狙う箇所を当てて来るほどだった。
あくまで予想ではあったが、亜人種は猫種や狼犬種の個体と人族の細胞が混合している為、通常の人族にはない能力が備わって発達が早いのかもしれないと仮説ができた。
シエル:ー戻ったらデインに聞いてみよう……亜人族(ペティーシャ)か…面白い種族だな〜ー
シエル:「よし!アイル、今日はここまでにしよう。日もくれそうだし村へ戻ろうか!」
アイル:「ハア……ハア……まだまだ……動けるよ!」
シエル:「元気だね〜アハハ!でも無理はいけない、体を休めるのも大事だよアイル。」
アイル:「え〜……わかったよ。」
シエル:「お待たせミーシア、ヘレナ!ちょっと退屈だったかな……」
ミーシア:「ううん!ヘレナといっぱいお話できたからすごーく楽しかったよ!」
シエル:「よかった!...ん?」
ヘレナが服を引っ張る
シエル:ーヘレナも楽しかったかい?ー
ヘレナ:ーシエルお兄ちゃんおつかれさま!ヘレナずっとお話してた、楽しかったよ!アイルもすごかった!エヘヘ……ー
シエル:「良かった……」
耳をピクピクさせ微笑んでいるヘレナが可愛くて仕方なかった……。
無言でヘレナを撫でているとアイルが石を当ててきた。
アイル:「おい!なにニヤついてんだよ!!ヘレナも今は俺の家族なんだぞ!!ばーか!!」
シエル;「いつつ……別に食ったりしないよ!俺をなんだと……」
シエル:ー仕方ないだろ〜…ヘレナがかわいいんだから、、ほっぺ触りたいな……ー
そんなことを思っていると突然顔を真っ赤にしたヘレナが服を引っ張ってきた。
ーん?ー
ヘレナ:ーうう……恥ずかしいよ……シエルお兄ちゃん……ー
やってしまった…ヘレナには心の声が丸聞こえなんだった……。
ものすごい罪悪感にヘレナの顔が見れず、俺は悶絶(もんぜつ)する...。
こんな小さな少女にこんな恥ずかしいとこを見せるのはこれが最初で最後であってほしいと心底思った…。
そんなことは関係ないとばかりにヘレナはまた抱きついてきたので何事もなかったように優しく抱き抱えた。
ヘレナ;ーシエルお兄ちゃんの背中……おっきくてあたたかい……おちつく……ー
シエル:ーやめてぇぇぇぇ……!恥ずかしくて消えちゃいそう……ー
心で叫んでいるとヘレナは嬉しそうにーエヘヘ……ーと笑っていた……。
少しして村へと戻るとレイグが出迎えてくれた。
せっかくだからと泊まっていくか聞かれたがさすがに戻らないと叱られてしまうのでまた来ると言ってその場を後にする...。
アイル:「またな!兄ちゃん!!」
村の人たちに礼をし、街へと戻ると丁度シオン達が広場に集まっていた...。
レイン:「お、やっと戻ってきたか...どこいってたんだよ..?」
デイン:「どこを探してもいなかったから流石に心配したぞ...?」
シオン:「心配はしてないけど...おかえり。」
あれ...なんかシオンが冷たいような...。
怒っているか聞いたがー別に...ーと言われなぜか俺と視線を合わそうとはしなかった...。
シエル:「突然いなくなってごめんシオン。ちょっと色々あってね、それに...ちゃんと依頼に関係あることなんだよ...?そんなに怒らないでくれないかい?」
シオン:「...シエルだから大丈夫だとは思ってるよ...でもいきなり消えるのだけは辞めてね...?」
ノルン:「シオン...すごく心配してたの、それは分かってあげてシエル。」
シオン:「ちょっ...言わないって言ったのに〜!」
ノルン:「えへへ、ごめん。」
マキシス:「んで?依頼に関係あるって話はなんだ?シエル。」
皆にアイル達の出会い、村の事、話せることを全て話し、ここに戻ってきたことを伝えた。
レイン達はいなくなった者の年齢や職業を聞いて回ったところ、健康な者、魔力の高い者が相次いで消えたという情報を手に入れていた。
デイン:「まさかレインとシエルの因縁の相手が...あの王に仕える奴が話に出てきた錬金術士だったとは...。」
マキシス:「そいつがあそこにいるってのか...道理で気に食わねぇ奴だった訳だ...。」
ミリス:「大量虐殺をした奴が足を洗う訳無いものね、絶対なにか企んでるはずだわ。」
ノルン:「とりあえず今は日も沈んできたし、一度城へ戻らない?」
シエル:「そうだね!そうしようか!」
とりあえず場内ではラボラスにあっても平常を保つよう気をつける事にし、依頼に関係しているかを調べる事にした...。
ロンディネル:「皆さん、ご無事で...、よく戻ってきてくれました。街はいかがでしたか?気に入って頂けましたか?」
シエル:「ロンロン!わざわざ出迎えてくれるなんて...ありがとう!この国はほんとに綺麗だね、皆優しいし、見たことない物もいっぱいだし!」
デイン:「良い国だ、ロンディネルが守っているこの国を...なんとしてでも守りたくなった。」
ロンディネル:「そんな言葉を言って頂けて光栄です。今日はお疲れでしょう、皆さんに部屋をご用意しているのでゆっくり体を休めてください。」
シオン:「部屋まで...宿とるつもりだったのに...」
ノルン:「ロンディネルさんどれだけ寛大なの...」
ロンディネル:「いえいえ...、我が国の宿もとてもいいのですが皆さんにはお部屋を用意するのがせめてもの礼だと思いましたので。」
レイン:「有難く泊まらせてもらおうぜ?城内の方がロンディネルを護衛しやすいしな、相手が"城内にいない"って保証はないんだからよ...?」
レインの言葉にロンディネルは少し険しい顔をするが、その言葉を受け止める覚悟が既にあったようだ。
ロンディネル:「...レインさんの言う通りです。あまり考えたくはありませんが...今は疑った方が見の為なのは確かです。」
シエル:「すまないロンロン、もし城内で見覚えの無い者がいたら教えてくれないかい?」
ロンディネル:「わかりました。私も皆を認識している訳ではないので、よく見ておくようにしてみます。」
シエル:「ありがとう。」
デイン:「今日はひとまず休もう。なにかあればすぐに談話室へ集まろう。」
皆ー了解!ー
ロンディネルが用意してくれた部屋へと下女に案内され、全員に各部屋が用意されている事に驚く俺達...。
シエル:「こ...こんなにいい部屋が一人ずつあるなんて...」
レイン:「う、嬉しいけど...さすがに気が引けるな...」
デイン:「男四人で寝るのも嫌だがな...」
マキシス:「ハッハッハ!俺は構わねぇぜ?」
シエル:「やだよ!マキシスデカいし!!」
一方女子組...
シオン:「す...すごいね...」
ノルン:「目が...目が回るぅぅ〜...」
天井に輝くシャンデリア、大きく白美なベッド、壁一面飾られた花に包まれた広い部屋にシオンとノルンは唖然としていた...。
ミリス:「私たちはせっかくだからロンディネルにお願いして同じ部屋にしてもらったわ!」
シオン:「そんなわがままを...ロンディネルさん、優しすぎるよ...」
ノルン:「お...落ち着かないよ...まるでお嬢様だよぉぉ...」
ミリス:「ふっふーん...!たまにはこういう部屋で過ごすのも大事よ!二人だって立派な女性なの!高貴な時間を過ごさないと!」
シオン ・ノルンーはい...。ー
ミリス:「まずは汗を流すわよ!」
三人は浴場へと移動し三日間の汚れを落とす...。
ミリス:「ほんっとでかいわねシオンのは...」
シオン:「あんまり見ないでよ〜!うわっ!さわっちゃ...」
ミリス:「もっと大きくしなさい!!そして私にわけなさーい!!」
ノルン:ーお父さん...助けて...ぅぅ...ー
一方シエル達...。
シエル:「ここも浴場は別なんだな...。」
レイン:「まぁ、街のは違うみたいだけどな?下女達となら一緒に入れるぞ?」
デイン:「どこぞの貴族の様な事をいうなレイン...下女は命令すればなんでもするがあまり卑猥な事はおすすめしないぞ...」
レイン:「わかってるわ!んなことしねぇよ!」
マキシス:「女はいいよな!俺も一緒に入れるなら入りたいぜ!」
シエル:「俺もマキシスみたいに堂々と言おうかな...」
デイン・レイン:ーやめとけ...ー
皆汚れを流し、部屋へと戻る。
自分に与えられた部屋へと入ると誰かが扉をノックする...。
???:「シエル様...ロンディネル様がお呼びです。王室までご同行頂けますか。」
シエル:「今行くよ!」
扉を開けるとそこには黒髪の幼い下女が立っていた。
その下女の瞳は赤く、表情には感情が無いように見え、黙ったまま俺を見つめる少女を少し奇妙に感じた...。
下女:「なにか...?私をじっと見てますが、ご行為でしたら後でお相手致します。」
シエル:「え?いやいや!そんな事しなくていいよ!ごめん!気にしないで!」
下女:「そうですか、ではご案内致します。」
下女について行き王室へと入る。
中へはいるとロンロンが部屋着で飲み物を入れていた。
ロンディネル:「こんな夜更けに呼んだことをお許しくださいシエル。すこし聞きたい事があったので...。ぜひ一緒に飲みながら話しませんか?」
シエル:「気にしないでロンロン!お誘いありがとう。いい香りのお酒だね!」
ロンディネル:「はい、私の父が好んでいた果実酒です。いい匂いですよね...シエル貴方からも"匂い"がしたんですよ。」
シエル:「...え?匂い?」
突然ロンロンの声色が変わり、空気が重くなる。
グラスをベッド横の机へと置き、閉じていた瞼(まぶた)を開き黄色い瞳が俺を見つめる。
ロンディネル:「さぁ、一つ答えて頂きたいシエル。どうして...あなたから"ペティーシャの匂い"がするんですか?」
亜人族(ペティーシャ)の匂いがついていたのは恐らくヘレナを抱えていたからだと思ったが、それよりも何故ロンロンがこんなにも鋭い眼差しで俺を見るのか分からず言葉に詰まってしまった。
ロンロンは黙ったままじっと俺を見つめる。
シエル:「ふぅ...隠し事はいけないか...この国の王なら近くにある村の事も知ってるよね。街で色々あってね、亜人族の子供に出会ったんだよ。」
ロンディネル:「...?アイルとミーシアのことですか?」
シエル:「?!...知ってるの!?」
ロンディネル:「よかった...。シエルは優しいので心配はしませんでしたが、少し疑ってしまいました。無礼を許してください。」
ロンロンはまた瞳を閉じ、いつもの表情へと戻る。
シエル:「疑われるような行動をしたのは俺の方だよ!謝らないで。ヘレナの事は知ってるかい?」
ロンディネル:「ええ、あの子には辛い思いをさせてしまいました...。私が無力なばかりに...。」
シエル:「アイルから聞いたよ、何があったか詳しく聞かせてくれないかい?ロンロン。」
ロンディネル:「一年前、父が星となって私が王を継承した時でした。デイモア皇帝に命じられ派遣されてきたのがベリアットと大臣でした。なんでもリオル王が父との約束で私の手助けとしてとの事でした。
ベリアットと大臣には色々助けられたのでとても感謝しているのです。
ですがある日突然騎士団長であったレイグが民を傷つけたと報告が入り、ベリアットがレイグを牢に入れました。
私も反対したのですが、後に傷つけられた民が私の前に現れ叫んだのです。ー「あいつが!!あいつが私の腕を斬ったんだ!!」ーと...ですがレイグはそれを否定し今も私はそれを信じています。
民達が騒ぎ死刑するよう声を上げたのですが、なんとしてでも守りたかったので私が追放処分を言い渡したのです。そしてペティーシャを皆国から追い出し、私があの村を用意したんです...。」
シエル:「そうだったんだ...そんなことが。でも父親を慕っていたリオル王が今はロンロンを狙っているなんてね...酷い仕打ちだ。」
ロンディネル:「仕方ないんです。どんな理由でも、私の国の魔法を武力に使うなんてことだけは...あってはならないのです。」
シエル:「うん!そのままでいいんだよロンロン!人は傷つけ合うために産まれたんじゃないんだから!俺もその思いを貫き通すよ。」
ロンディネル:「フフッ...やはりシエルは似ている。」
シエル:「ん?...誰に??」
ロンディネル:「前にお話したヴェルラドの王です。この世界にたった一人、【楽園(エデン)】を築いたこの世界の王。争いを無くし、善の者には幸福と優しさを...悪には絶望と恐怖を与えた"道化の王"です。その名や伝記は知られていませんが今もなお崇拝している者は消えていない。それほどこの世界にとって大きな存在なんです。」
シエル:「アハハ...俺はそんなすごい存在じゃないかな...ただのアサシンだよ。」
ロンディネル:「嘘ではないようですね、しかし見れば見るほどシエルがそうだったら...と思ってしまうのです。父がよく私に話してくれました。
その道化の王はいつも笑い、民が悲しめば共に悲しみ、平和を愛した王は父にも大きく影響を与えたと...。私も出会ってみたかったと今も思います。」
シエル:「そんな王が...今もいれば...争いなんてないのかもね...、俺も会ってみたいな...そんな存在に...。」
ロンディネル:「父が言っていました。今は世界の流れを見るために眠っているのではないかと、もしかすると"龍の神殿"で眠っているのかもしれませんね。」
シエル:「龍の神殿??聞いた事ないな...」
ロンディネル:「アルラークかバルバザスにあると聞いた事があります。しかし本当に見た者は数少ないのでその存在の有無はまだわかっていないと言われています。」
シエル:「なにもかも謎なんだね...なんか知りたくなってくるな〜アハハ」
ロンディネル:「はい、ヴェルラドの王の話は謎が多くて探究心をくすぐられますよね!...とすいませんシエル、流石にもう休まなくてはいけませんね。」
シエル:「いい話ができてよかったよ!!ありがとう!ロンロンもゆっくり休んでね!」
ロンディネル:「ありがとうございますシエル。遅くに付き合って頂いて、ペティーシャ達の事はくれぐれも他のものには内密にお願いしますね。」
シエル:「わかった。また顔も出すし、もしあの村に危険が迫った時は俺達が必ず助けに行くよ。」
ロンディネル:「そのお言葉、とても心強いです。何から何まで、本当に感謝していますよシエル。」
シエル:「アハハ感謝しすぎだよ!じゃあおやすみロンロン!」
ロンディネル:「フフッ、感謝は大事ですよ!おやすみなさいシエル...」
部屋から出ようとした時ある事を思い出し、ロンロンに聞いてみることにした。
シエル:「あ、そうそうごめんロンロン!ここの下女(メイド)で黒髪で赤目の子は知ってるかい?ここへ案内してくれてさ!後でお礼言いたいんだけど...」
するとロンロンは少し不思議そうな顔をしながら答える。
ロンディネル:「はて...?私がお願いしたのは違う者のはずですが...何か別の用事があって代理されたのかもしれませんね...。ぜひ礼をお伝えしてあげてください。」
シエル:「そっか...、うん!ありがとう!!じゃあおやすみ!!」
部屋を後にし、潜伏スキルを使い気配のする場所へと向かう。
気配は城の塔上からだった...。
外に出ると月が大きく光り、涼しい風が優しく吹く...。
???:「"あ〜あ...バレちゃった"...」
声のする方に視線を向けると、黒髪の少女が屋根に座って足をふらつかせていた...。
シエル:「君...ここの下女じゃないね?それに...?人でもないみたいだけど...?」
???:「せ〜んせっ!覚えてるかな〜?私のこと...それとも記憶無くなっちゃってる?」
シエル:「アハハ...俺は君の先生じゃないんだけどな...ごめん、会ったことないと思うんだけど、人違いじゃないかい?」
???:「そうなんだ〜、やっぱり無くなっちゃってるんだ〜、ちょっと悲しいな...」
シエル:「う〜ん、困ったな...君何者?」
ヨルム:「ヨルムだよっ、せ〜んせ!キャハハ!お兄ちゃんがごめんね、ひっどいよねせんせのこと傷つけるなんてさ、恩を仇で返しちゃうんだから...。」
シエル:「お兄ちゃん??...君もしかしてあいつの...?!」
黒い髪に赤い目...思い当たる節があった...。
デイン達を襲い、俺が相手したあの魔人族の男に似ていると...。
ヨルム:「あ!思い出した?お兄ちゃんやってくれたよね、ほんと大っ嫌い!」
シエル:「兄弟だったなんて...兄弟なら仲良くしないと!お兄ちゃんに伝えてくれないかな、もう襲わないで〜って...」
ヨルム:「無理だよ、お兄ちゃんはせんせを殺すつもりだから、私は邪魔するけどっ!」
シエル:「邪魔?どうして、君は仲間じゃないのかい?」
ヨルム:「む〜!君ってやだ!ヨルムって呼んでよせ〜んちぇ!...それに仲間じゃないよ、私達は家族なの、でもせんせを裏切るなら私は兄ちゃんを許さない...。」
敵なのか味方なのかはまだわからないが、敵に回すと厄介なのは確かだ...。
彼女から感じるとてつもない魔力...それになにか特別な力を感じる。
ヨルム:「せーんせ、安心して?そんな怖い顔しなくても私襲ったりしないから!大好きなせんせ殺すわけないじゃん〜、だって私のせんせだもん。誰にも渡さない。」
シエル:ーこっわ!なにこの娘...俺縛られる?!ー
ヨルム:「キャハハ!せんせ今酷いこと考えたでしょ〜?ひどい!幼かった私を大切にしてくれたせんせを誰よりも愛してるんだから...嘘じゃないよ?」
シエル:「ヨルムは俺を助ける為にここへ?わざわざあんな名演技をしてまで。」
ヨルム:「そうだよ...せんせだけ助ける為に来たの。後の人は知らないけど〜せんせの為なら邪魔な奴ら消しちゃうよ?」
シエル:「俺の仲間に手を出したら許さないよ...ヨルム。」
ヨルム:「せんせの仲間に手は出さないよ!約束!でも助けたりはしないから、私はせんせの物。好きなだけ利用してね。」
シエル:「物...ヨルムを物みたいな扱いはしない、でも協力はしてほしい。裏切った時は俺は敵になるよヨルム。約束できるかい?」
ヨルム:「いいよ!約束する。も〜なかなか信用してくれないんだせ〜んちぇ...いじわるぅ〜。でもそういう優しいとこかわんないね!」
ヨルムが嘘をついているようには思えず、やはり魔人族の奴らとヨルムは俺の過去をなにか知っていると
触れたくない過去にまた触れる考えをしてしまう。
しかし、少しでもなにかわかるならと期待してしまう自分がいた...。
シエル:「俺の過去を...なにか知ってるなら教えてくれないかい?」
ヨルム:「いいけど...後悔しない?」
シエル:「...うん。俺は知りたい...今は本当に俺なのか分からないけど、ヨルムの知ってる過去の物語を知りたい。」
ヨルム:「いいよ...話してあげる。」
【現れた恐怖と絶望】へ続く...。
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