【王と亜人族の子供たち】【二】
しばらくするとまた兵がこちらへ走ってきた…。
かなり息を荒く膝に手を置いて整えるが甲冑を着たまま全力で走ったせいか今にも倒れそうだ。
シエル:「え〜と…大丈夫ですか?」
兵:「は……ヒュゥゥ……ヒューゥゥ…はい…だい…じょぶです……。」
俺たちが兵を見て心配していると後から男性が一人歩いてこちらへ向かってくるのが見えた。
ノルン:「ん?誰かこっちに来るね、兵隊さんあれはどなたですか?」
兵:「ヒュゥゥ…ヒュゥゥ…あ、あの方は…ですね……」
???:「いやはや、うちの兵がお恥ずかしい所をお見せしてしまったようでハハハ……まったく、エルトこの方達に名はしっかり名乗りましたか?」
エルト:「も…申し訳ありません…まだ…です…」
???:「おっと、また叱られてしまいますよ?しっかり名を名乗りなさい。」
兵は深呼吸をした後俺たちに敬礼をし大きな声で名を名乗った。
エルト:「大変申し訳ありません!私はロンブルク兵団新兵ネルフォンス・ラミ・エルトと申します!ハァ…ハァ…」
シエル:「おぉ〜かっちょいいね〜パチパチ〜」
デイン:「俺も拍手するべきなのだろうか…」
レイン:「なわけねぇだろ…?」
マキシス:「失礼、それで貴方は?宜しければ名を」
マキシスは若い青年に名を聞いたがすでにこの青年が誰かをわかっているかの様に優しい視線を彼に向けていた。
ロンディネル:「大変失礼致しました。私はこのロンブルク魔法国国王"メスティス・アルト・ロンディネル二世"と申します。以後お見知りおきを…。」
若いとは聞いていたがまさか自分達と同じくらいの歳の若さでここまで礼儀正しい国王をかつて見たことがなく、目の前に立っている青年が依頼の国王である事に俺は驚きが隠せなかった。
ノルン、シオン、レイン達も同じく名を聞いて驚いているであろう表情で固まっていた。
マキシスはニヤリと笑ったあと地に膝を着き話し始めた。
マキシス:「やはり…大きくなりましたなローディぼっちゃん」
ロンディネル:「その呼び名、懐かしいです。幼き私に剣術を乞うて頂いたこと忘れもしません王子。」
デイン:「やはり、噂には聞いていましたがここまでお若いとは、我が父ベルトと誓いを立てて頂き感謝しています。」
ロンディネル:「あなたは…、ナルビスタ王家の第二王子ですか!?いや、こんな所でお会い出来るとは…私こそ光栄です。貴方のお父様は私と似た思想をお持ちで、争いを好まず人を大切にされている。あなたの国と同盟を組めた事をこの上なく感謝しています。これからも良い関係を保っていけるよう私も努めてまいります。」
シエル:「なんかすごい会話してるね、俺はついていけないや…アハハ。」
ロンディネル:ー ん??ー
ロンディネルはシエルを無言で見つめたまま黙る。それに気づいたデインはロンディネルにシエルを知っているか聞くがロンディネルは顎を指でトントン叩きながら、ん〜と黙っていた…。
ミリス:「シエル顔見知り??」
シエル:「アハハ……だとしたら俺かなり失礼なんだけど……。」
ロンディネル:「貴方様……我が父と面識はありませんか?父の書録(しょろく)に記されたヴェルラトの王に容姿が似ている様な気がしたので……じっと見てしまいました…申し訳ありません。」
レイン:「ヴェルラト??聞いた事のない国だな…シオン知ってるか?」
シオン:「ん〜、、知ってるような知らないような……。」
デイン:「父の口から一度聞いたような……」
ロンディネル:「すいません。話がそれてしまいましたね…ここではなんですので一度城内へ行きましょうか。エルト、この方達に絨毯(じゅうたん)を、くれぐれも無礼の無いようお願いしますね。」
エルト:「はい!!お任せ下さい!」
ロンディネルは優しく微笑みながらシエルに囁く。
ロンディネル:「彼は入隊してまだかなり浅いので大目に見てあげてください。」
シエル:「俺達はそんな意地悪じゃないですから!それより絨毯って?」
ロンディネル:「ハハハ、見ていただければわかりますよ。」
そう言うとロンディネルは指を弾いた後一瞬で姿を消し俺達は驚く。
そのまま立ち尽くしているとエルトが大声で俺達を呼んできたのでエルトの元へ向かうと…
そこにあったのはなんの変哲もないただの絨毯だった……。
エルト:「では!これに乗ってください!危ないのでしっかり掴まってくださいね!」
エルトが言う危ないという言葉の意味がまったくわからず、立ち止まっているとエルトが急かしてきたのでとりあえず絨毯へと乗ってみることにした。
他の仲間達も不思議そうな顔をしながら絨毯の上へと乗った。
エルト:「それでは城までこの絨毯が案内してくれます!少しの間ですが上から街の景色をお楽しみください!私も急いで駆けつけます!」
一同:ー上??ー
エルト:「ヒュエルマ!」
エルトがなにやら呪文を唱えると突然絨毯が浮き上がり高く上空へと飛んだ。
シオン:「うううううわぁぁ…こわいこわいこわい!すごい不安定なんだけど!?」
ミリス:「これはなにかしら!不思議な魔法だわ!アハハ!兄様!こんなの初めてじゃないかしら!」
デイン:「屋根に登ったりする高さとはまた違うな…ダメだ…少し怖いぞ…」
シエル:「うわぁぁ!すごいや!浮いてる!絨毯が浮いてるよ!アハハハハ!!」
マキシス:「俺の体重だけじゃなくて全員の体重でもビクともしねぇな!この国の魔法はこんなに進歩したのか!フハハ!こりゃおもしれぇ!」
ものすごい高さまで上がった絨毯から見る街の景色は壮観(そうかん)で、この高さでも街の奥が見えないほどの国の大きさに圧巻されていた。
レイン:「しぬぅ…絶対死ぬぞこれ…落ちたら終わりだ……。」
ノルン:「こんな高さ初めて!怖いけどすごーい!!」
シエル:「てか動かないね…」
エルト:「あ、忘れてた…すいませーん!今動かしまスゥゥゥ!!ナービィーパル!!」
レイン:「?あいつ、なんか叫んでないか?この高さじゃ聞こえないな…」
シエル:「?今動かすって…言ってるよ??」
デイン:「!?聞こえたの…かぁぁぁ!?!?!」
シエルがエルトの声が聞こえたことに驚くデインを他所に急に絨毯が動き始め全員が声を荒らげる。
一同:ーうわぁああああ!!!!ー
ひぃぃいいい!
キャァァァァ〜〜!
シエル:「おっほほ!すごいすごい!!んじゃこりゃぁ!」
街の遙か上空を飛び城へと真っ直ぐ飛ぶ絨毯。
街には多くの人が歩いているがものすごく小さく見える…。
街の至る所で魔法が使われ色とりどりに輝く景色はこの国でしか見られないだろう…と見とれてしまう。
シエル:「あ、エルトだ…めっちゃ走ってる…。」
レイン:「あいつ倒れるんじゃないか?てかあいつは乗せて貰えないんだな…。」
デイン:「恐らく客人専用なんだろう。俺たち意外この絨毯に乗る者は見当たらないしな。」
シエル:「お〜〜ぉぉい!!エールトォォォ!!」
レイン:「馬鹿…聞こえるわけねぇだろ!」
シエル:「エルトォォォ〜遅いぞ〜!もっと走れぇぇ〜!アハハ!」
マキシス:「フハハハ!!シエルはおもしれぇな!!」
レイン:「甘やかすな!ったく…こいつといると飽きねぇよ…」
シオン:「ノルン怖くない?」
ノルン:「うん!すっごく楽しい!依頼って事忘れちゃいそうになるくらい!」
ミリス:「こんな大人数でしかもこんな綺麗な国に来れるなんて、あなた達と組めてとても嬉しいわ!」
シエル:「必ずあの王を守り抜こうな……みんな」
そう言うとみんな自信と強い決意を感じる表情で頷いた。
少しして城の門前へと降り別の兵に中へと通された。
すると遠くから知っている声が聞こえてくる。
エルト:「みなさぁ〜〜ん……ヒュい……ヒュイィィィ…ご…ご無事で……。」
シエル:「お!エルト!お疲れ様!」
エルト:「はぁ…はぁ…ど……どうも……。」
兵:「もっと鍛えねばなエルト!んっん゛…ではご客人方、どうぞこちらへ、王がお待ちです。」
王の間へ通された俺たちは城内の美しさにも驚く。
空が見える天井に、大きく煌(きら)びやかなクリスタルのシャンデリア…。
相当大切にされていなければこの城は成り立ってはいないだろうと王と国に対する民の愛が感じられた。
ロンディネル:「絨毯はいかがでしたか?気に入って頂けていれば良いのですが。」
シエル:「凄く気に入りました、この国の魔法は素晴らしいですね。」
デイン:「噂以上にこの国は進歩しているのですね。とても良い経験をさせて頂きました。感謝いたします。」
ロンディネル:「有り難きお言葉。こちらこそ感謝致します。」
ロンディネルにーどうぞこちらへーと長い机の席へと案内され、席に着くと奥の扉から下女(げじょ)達が次々に料理を持ってきた。
ロンディネル:「かなりの長旅だったでしょう、お話の前に食事としましょう。ぜひ我が国の民達が育てた自慢の食材を堪能してください。」
シエル:「そ、そんな丁重に…有り難く頂きます。」
物凄く豪華な料理を前にヨダレが止まることを知らず勢いよく口へと運ぶ…。
ロンディネル:「あ、そうでした。先程から皆さん私に丁寧な言葉を使っていただいてますが、私はあなた方に守って頂く側…守られる側の私にそのような偉い立場は相応しくありません。どうか友人のように接していただけると嬉しいです。」
そう言われるもこの国の王であるロンディネルに対してそんな軽い話し方ができる訳がなく、俺達は困惑してしまう。
するとデインが気を利かせて先陣を切ってくれた。
デイン:「彼がこう言ってくれているんだ、ご好意に甘えよう。よろしく頼むロ…ロンディネル…。」
ーよく頑張った…デインーと内心助けられたことに安心する…。
ロンディネル:「よろしくお願いしますデイン。」
ロンディネルは嬉しかったのか先程より軽い表情で笑っていた。
その後食事が終わり俺達は座ったままロンディネルの話を聞くことにした。
ロンディネル:「サンメルトは私が幼き頃からの大切な友人…今回の件で彼に恩をつくってしまいました…、それにしてもまさかリオル王に剣を向けられるとは、困ったものです。ですが私はあの同盟を断ったこと、決して後悔はありません。この国の王として、民を危険に晒すことは我が命を差し出してでも許しません。」
シエル:「どの国の王も"ロンロン"みたいな王だったらいいのにね、その意思はなによりも民を守る強い盾になってるよ!」
レイン:「ロ?!ロンロンってお前…!さすがに…」
ロンディネル:「アハハハ!ハハハハハ…いや〜シエルさんは面白いお方だ、そのように私を呼んでいただけるのはきっとシエルさんだけです。」
シエル:「それはよかった!ロンロンもさ、俺の事シエルって呼んでよ!」
ロンディネル:「わかりました。仲良くして下さいねシエル。」
シオン:「ロンディネルさんはどうして王会に出席しなかったの?」
ロンディネル:「聞かれると思っていました。"王会"……かの大陸でとてつもない規模の権力と武力を持ち、恐れられているデイモアール帝国皇帝"デズラエル・アスモ・デイモス・アズバンデイモア"……彼が王会の全ての決定権とされ、意義のある者は消されてしまう…そして王会での誓いとして討論と答弁に真実を答えなかった者、偽善虚言を申した者は永久に追放され自らの国の王権の剥奪だけでなく、帝国での奴隷として、命尽きるまで強制的に労働を課せられるのです……。あれは各国の王が話し合い、世界を変える為とうたっていますがあんなの皇帝の恐ろしさを見せつけるだけの集会です……父はあの者に逆らい…殺されました…。だから私は王会を断ったのです…すいません、少々興奮してしまいましたね…。」
シオン:「そんなことが……」
ノルン:「皇帝…力だけで…酷いね…。私はそういう存在が許せない。」
ロンディネルの怒りを感じる表情と口調にただならない恐怖を感じ、この広い世界に君臨する皇帝の存在に俺達は息を飲む……。
しかしその皇帝こそがこの世界に争いを生み、多くの命を奪っている元凶に俺はそう遠くない未来、きっと相対するのだろうと拳を強く握った。
シエル:「いつか…必ず…俺がそいつの首をとる……。今を生きる者たちの為に。」
レイン:「その時は俺も横にいさせろよな?」
デイン:「面白い…それができるのが俺達アサシンだ…」
マキシス:「ハッハッハ!!最高じゃねえか!いい目標だぜ!」
ロンディネル:「あなた達を見ていると不思議と本当にそんな事が可能なのかもしれないと…夢を見てしまいますね。あなた達は他のアサシンとは違いこの世界に正しい光を与えてくれそうだと思うと、なんだかわくわくしてしまいます。 」
シオン:「私たちも三人でみんなを手助けしようね!!」
ノルン:「うん!その時はもちろん!」
ミリス:「そんな大きな手柄を立てれたらお父様にたくさん褒めていただけそうだわ!」
ロンディネル:「その時は我が国も参加致しましょう。ぜひお役に立ちたい。」
シエル:「じゃあ絶対にロンロンを守らないとな!まずはこの依頼を達成だみんな!」
???:「騒がしいと思えば…えらく盛り上がっておりますな…王よ。」
突然階段から降りてくる小太りな男性にロンディネルは少し申し訳なさそうな表情をした…。
ロンディネル:「おっと…これは大臣、私は今客人と食事をしていたところです。なにかご迷惑でも?」
大臣:「客人?はて…そんなお話今知りましたな?この方々は?」
ロンディネル:「王会が終わるまでの間私を護衛して頂く方達です。くれぐれも御無礼の無いようお願いしますね大臣。」
大臣:「左様でございますか…。失礼名を名乗っておりませんでした。私は軍務大臣をしております"ベリアルト"と申します。以後お見知りおきを…。」
デイン:「大臣殿でしたか、騒がしくしてしまった様で…決して邪魔にならぬ様王をお守りさせて頂きます。」
大臣:「ふむ、あなたなかなか出来る口ですな?どこかの王貴族の産まれですかな?、というより王よ護衛であれば我々には優秀な騎士団がおるではありませんか、こんなわけも分からぬ者達に頼る事はないのでは?」
ロンディネル:「口を慎みなさい大臣。申し訳ない皆さん、大臣の御無礼をお許しください。」
大臣:「御無礼…ですか、はっ、まったく王は優しすぎるのです。だからリオル王なんかに狙われてしまうのですよ?もう少し考え方を変えるべきではありませんかな?お父上も貴方のように争いから逃げていたからあんな目に……。」
ロンディネルは机を強く叩き大臣に声を荒らげた。
ロンディネル:「いい加減にしなさい大臣!!今は貴方の話を聞く時間ではありません。今すぐ部屋から出ていきなさい。」
大臣:「少々言いすぎましたな…御無礼を…。」
???:「王よ…珍しく声を荒らげてどうしたのですか……?大臣〜あなたは少々"面倒な"所があるんですよ…。なにをそんなに怒っているのです?…ん?誰だお前ら…。」
シエルーレイン:ーー!?!?ー
シエル:あいつ……あいつは……!
レイン:ー嘘……だろ……。
シエルとレインの視界に映ったその男は二年前とは見た目が少し違うが二人には忘れることも出来ない因縁の相手……"グラーシャ・ラボラス"だった…。
ラボラス:「何だか"面倒な事"になりそうだな〜おい…。」
王と亜人族の子供たち【三】へ続く……。
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