【王子の願い 】【二】


暖かい……何か優しく包まれる様な感覚にまるで体が浮いているようだ……。


???「シエルのおでこ……あったかい〜、早く起きないかなぁ……」


額に優しく当てられた何かに人のものだと理解する。


シエル:ーシスナ……?ー


シスナ:「早くしないとおでこ真っ赤になっちゃうよ〜、起きて〜」

シスナは自分が起きてないと思っているのか囁くように一人で話している。

起きて目を合わせたい気持ちと、少し意地悪したい気持ちが責めあっている。

そんな事を考えていると勝手に口がにやけてしまい

シスナがそれに気づく。


シスナ:「ん?あぁ〜寝たふりしてるでしょ?」


口をもごもごさせ耐えきれず起き上がってしまう。

シエル:「ぷはぁ〜!!もう何してるんだよシスナ!」


シスナ:「別に?なにもしてませ〜ん」

シスナは突然自分の事を見て笑い出す。


シスナ:「フフ……んフ……アハハハ!」

どうしてシスナがこんなにも嬉しそうに笑っているのかは自分では分からないが、シスナの笑った顔は自分の気持ちを軽くし癒しを与えてくれる。


シスナ:「どうしてそんなにおでこが赤いんでしょ〜!真っ赤だよ?アハハ!!」


シエル:ーいやいや、あなたの仕業でしょうが……ー


俺は無言でシスナの頬を優しく引っ張る。

するとシスナは抵抗せずムスッとした顔でじっと俺を見つめていた…。


シスナ:「ん〜、すぐほっへひっはるぅ〜…はか!」


シエル:「アハハハ!変な顔〜!」


シスナ:「はか!シエルのいじわるぅ!!」


やはりここでシスナと過ごす時間は大きな幸せを感じる。

外の世界にいる時とは比べ物にならないほど、優しく包まれるこの空間に、俺は疲れというものを感じない。

シスナの頬を存分に引っ張ったあとシスナは横に座り

無言でなにか言いたそうにしていた。

というよりそんな事よりも引っ張りすぎたのかシスナの頬が真っ赤になっていた。


シエル:「アハハハ!あれれ〜その真っ赤なほっぺはどうしたのかなぁ〜??」


シスナ:「私だって怒るんだよ!ばか!」

そういうとシスナは俺の頬を力ずよく引っ張ってきた。

シエル:「いだだだだっ!!ごめん!ごめんってば!!いだぁ〜!」


お互いに頬が真っ赤である……。


シエル:「はぁ〜痛かったぁ〜……シスナは大丈夫かい?痛くない?」


シスナ:「えへへ、私は大丈夫だけど……シエルはかなり痛そうだね、なんかごめんね……」


頬がかなりヒリヒリするがまぁ仕方ないと意識しないようにした。


シスナ:「なにか、私に言うことはありませんか?」


シエル:「また会えてよかった。ずっと待ってたよ」


シスナは顔を赤らめ下を向き、少ししてなんとか平常を保てたのかまたじっと見つめてくる。


シエル:「あれ?違う?」


シスナ:「……ぅ……嬉しいけど……違くもないけど……違うの!もっと大事な事!」


シエル:「アハハ、どっちなんだろう……ん〜何かあったかな、いろんな出会いがあった事とか?俺が多分一回死んじゃったこととか〜」


シスナ:「そう!それ!」


シエル:「ん?どっち?」


シスナ:「シエル……一度死んじゃったでしょ、私……すごく心配したんだから!!」


シエル:ーあれぇ……なんで知ってるんだろう、すごい能力だな……ー


シスナ:「私、"ずっと傍で見てるんだからね"!」


シスナの言葉に大きな疑問を感じたがあまり追求しない方がいいと思い、笑って誤魔化す。

しかしシスナはかなり怒っているのか俺から視線を外そうとはしなかった。


シエル:「どうやって見てるのかは分からないけど、シスナに誤魔化しは通用しないね。ごめん、心配させてしまって…あの時はかなり油断しちゃったんだ…なんでだろう…。」


シスナは優しくー色々教えて?シエルが思ったことーと言ってくれた。

俺は考えた、まだ自分の頭の中でも整理が付いていなかったが、シスナに話せばなにか分かるかもしれないと思い自分の思ったことをそのまま話す。


シエル:「俺の仲間と俺を襲ってきた奴がね、おかしな話かもしれないけど、昔の俺を知ってるみたいだった……でもそれが俺の過去なのかは分からないし、違う人物で俺は無関係なのかもって……でも、あの怒りは俺に向けられてたからどうしても間違いだとは思えなくてね……敵意はあったけど、その中にほんの少しだけ悲しさを感じたんだよ……。」


シスナ:「うん……、いいよ続けて?」


シエル:「最初は本気で殺ろうと思った、けどその時に俺は知りたいと思ったんだ、もし、仮に俺の過去を本当に知っていたとして、俺がその過去に深く関わっているんだとしたら…ここで終わらせたくは無いなって思ってさ……そう思うと勝手に手加減しちゃってて、まぁそのまま殺されちゃったよね…アハハ。」


シスナ:「シエルはどう思う?自分の事……」


シスナの問かけになにも言えず、少し無言で考える……。


シエル:「そうだね…俺は今の自分しか知らない……もちろん今の自分が好きだけど、過去の自分が大罪人であったとしても俺は真実を知りたいかな……。」


シスナは優しく微笑み、話し始める。


シスナ:「大丈夫。きっとそのうち分かるから、でもねシエル、今は…今の自分を大切にしてほしいな……これは私からのお願い。もう死んだりしないで?今はなにも考えず、自分が正しいと思う道に進めばいい。だからこれ以上自分を疑わないで……約束してくれる?」


シスナの強い眼差しは不安を感じさせないほど強く、たくましく感じ、自分の中でのしかかっていたなにかが無くなった気がした。

気持ちが楽になり、シスナの言うとおり今は深く考えるのを辞めようと思った。


シスナ:「シエルはこれからどうしたい?」


シエル:「色々あるよしたいこと!争いを終わらせたいし、これからを生きていく子供(みらい)達を守っていきたい。その為にアサシンをしてるんだから!俺の正義を貫いていきたいかな。」


シスナ:「すごくいいと思う!私応援してるね!ずっと見守ってるから……。」


シエル:「ありがとう。シスナ」


シスナは優しく微笑んだ。

しかしどこかシスナにも寂しさを感じたのは気のせいだろうかとシスナを無言で見つめているとーん?ーと不思議そうな反応だったのでーううん、なんでもないーとシスナに伝えた……。


その後はシスナと会うまでにあった話を色々して分かったことがいくつかあった。

シスナは俺の行動全てを見ている訳ではなく、なにか危害があるとシスナには見えるようになるらしい、

それと不思議な話だが、俺の心や身体の状態が分かるらしく、まるで魔女の様だとも思ったが恐らく違うだろうと互いに笑いあった。


シスナ:「その子、その後はどうなったの??」


シエル:「後々見に行ったら親の病気が治って楽しそうに暮らしてたよ、本当に良い依頼だった。ああやって子供の笑顔を見るとこの職業にやりがいを感じるよ。」


シスナ:「いい出会いだったんだね、シエルのお話聞いてるとね、まるで一つの物語みたいに思えてすごく楽しいの!だからまたいっぱいお話してね」


シエル:「うん、約束だね!またたっくさんお話しに来るよ!」


シスナとたくさん話した後前のようにおやすみと言って俺はまた眠りについた……。


シスナ:「またね、シエル……。」


・・ー・・・・ー


シオン:「シエルー!!早く起きて!!」


シオンの声に飛び起き、シオンの方を向くとシオンはなにか焦っているようだった。

説明はされずとりあえず来てと呼ばれ急いで服を着替えた。

シオンの後をついていきギルドの中に入ると皆が一人の男を囲んで立ちつくしていた……。


イナン:「あ…!シエルさんこちらへ……」


ロキシル:「眠ってたとこ起こして悪いなシエル、緊急事態だ。」


ロキシルの奥に立つ男をよく見るとこの国に住むものなら知らない者はいないだろう。

驚くことにそこに立っていたのはこの国の王子

ー【パルテナス・エラ・サンメルト王子】ーだった……。

緊急事態……言葉通りだ……王国には極秘で組織されているこのギルドに王の一族が来ているのだから……。


シエル:「……あ、貴方は……」


サンメルト:「驚かれても仕方ないでしょう……私もここの存在は噂程度でしか信じてませんでした。まさか本当にあったなんて……。」


・・・・・・ー少し時は戻り……


イナン:「ロキシルさん!今日もいい天気ですね!お父さんも喜んでました。」


ロキシル:「今日も忙しくなるといいな、まぁ平和な依頼だと尚嬉しいが……」


イナン:「そうですね、あまり暗殺等の依頼が来なければもっと嬉しいですね……。ずっと平和だったらいいのに……。」


トタンッ……トタンッ……タタ……

階段から静かにボロいマントを羽織った男が降りてきた。

そしてその者を見てロキシルは顔をしかめる。


イナン:「ようこそアサシンズガーデンへ!ご依頼ですか?入団ですか?」


???:「依頼をお願い出来ますか?」


ロキシル:「すまない、そのフードを取ることは可能かな?……顔を確認しなくてはいけない決まりでね。」


イナンはそんな決まりがあったのかと聞こうとしたがロキシルは指を立て静かにするよう指示した。


???:「まさか貴方だったとは……驚きが隠せません。王国騎士団団長……鬼神のロキシル殿。」


ロキシル:「はぁ……今日は最悪な日になりそうだ……。フードを取れサンメルト。」


ロキシルに言われ、フードを取ると金髪が目立つ若い王子だった事にイナンは血の気が引き、ロキシルは大きくため息をついた……。


そして今に至る……ー


シエル:「貴方がここにいるってことは俺たちは王の元へ連れて行かれるのか?どうなんだロキシル。」


ロキシル:「さぁな、それはこの王子様に聞いてみなきゃわかんねぇな。用を話せサンメルト……」


サンメルト:「単刀直入に言います。まず私はここに貴方達を脅しに来たのではありません。依頼をお願いしたくここに出向いたまでです。」


レイン:「依頼……王子が?なんか恨みでもあんのか?」


サンメルト:「恨み……まぁ恨みはありますが今回の依頼とはあまり関係ありません。」


シエル:「貴方の依頼教えてください。」


サンメルト:「皆さんは二日後に行われる王会の事はご存知ですか?」


デイン:「王会か……そういえば街が騒がしかったな。もうそんな時期だったか。」


シエル:「王会……まぁ情報はありましたけど…。」


サンメルト:「その王会の不参加国の一つ、ロンブルク魔法国の王【ロンディネル二世】の命が狙われている……依頼は"彼の護衛"です。」


デイン:「ロンディネル二世だと!?あの方はまだ王になって浅い、命を狙われる様な事はしていないはずだ!俺の故郷と同盟も組んでいるんだぞ、そんな事をすれば大きな争いがまた増えてしまう……!」


サンメルト:「ナルビスタ・ダイル帝国第二王子ナルビスタ・ダス・デイン王子、貴方の仰る通りこのままでは本当に争いが起きてしまうのです。」


ロキシル:「随分デカイ話だな、誰がその王の命を狙ってるってんだ?」


サンメルト:「……私の父です。」


一同 ー!?ー


シエル:「嘘だろ……王が戦争を起こそうとしてるっていうのか……」


マキシス:「あまりいい噂を聞かなかったが、まさか暗殺まで企てているとは……王として許されぬ愚行だ!」


サンメルト:「父は国の代表として王会に出席します。その際に恐らく同盟国を増やす為反対する国を潰そうと企んでいるんだと思います。しかし、私は彼とは古くからの友人……そんな事父であろうと見逃せるはずがない……!!私は聞いてしまったのです。彼を消す為に既に何者かに依頼を出し、向かわせていると言う話を……」


シオン:「でも……だからってどうしてそんなことを!?特になにかしたわけでも……」


サンメルト:「いいえ、彼は父の怒りをかってしまったんです。父は魔法国であるロンブルクに武力同盟として魔法武力を利用したいと考えていました。

しかし、父は同盟を持ち掛けましたが彼は迷うことなくそれを断ったんです……。

彼は誰よりも平和を愛し、争いを避けてきた。

彼は先代からの家訓を強く貫き通しているんです……。

しかしそれを認めたくないのか父は彼に圧力をかけ、国の王として彼が無力だと感じさせた所を再度同盟を持ち掛けようとしているんです。」


ロキシル:「……考える時間は?」


サンメルト:「貴方にこんな事をお願いするのは気が引けますが、今ここで決めて頂きたい。」


シエル:「ロキシル、たまにはわがまま言ってもいいかな?」


ロキシル:「あ?お前はいつもわがままだろうが……はぁ……ったく、んで?報酬は?」


サンメルト:「……!?よろしいのですか!?下手をすればここにいる皆が消されてしまうかもしれないんですよ!?」


ロキシル:「お前は友人を救いたいのか?救いたくねぇのか?どっちだ!腹をくくれ!その覚悟でこの場に来たんだろ。」


王子は強く拳を握り、強い意志を示した。


サンメルト:「報酬はそちらの望む額を出します。それでよろしいですか?」


ロキシル:「フッ……受けた。じゃあ報酬金はそうだな

"13000000"リエス」


サンメルト:「ぅ……わ、わかりました。その額で手を打ちます。」


レイン:「ぶっ込んだな……」


ミリス:「了承するのもすごいわね、私たちもう最後の依頼かもしれないわ……」


ロキシル:「馬鹿言うな、まぁそうしたけりゃ必ず依頼を達成してこい。んじゃパーティーを俺が指名する。」


皆が息を飲む、なにせかつてないほどの大仕事。

王の命がかかった依頼、失敗する訳にはいかない……。


ロキシル:「まぁわかってると思うがまずシエル、そしてレイン・シオン・さっきから黙ってるがノルンお前もだ。」


ノルン:「は……はい!」

ノルン:ーいきなりこんな依頼が来るなんて……足でまといにならないように頑張らなきゃ……!ー


ロキシル:「そしてデイン・マキシス・ミリス。」


デイン:「まかせてくれマスター」

ミリス:「後悔させないわ!」

マキシス:「打ち合いの成果見せてやるか」


ロキシル:「あと二人、おい!隠れてんじゃねぇ!降りてこいアルフォス、ロイ!」


シエル:「偵察班のお出ましね〜、めずらしい」


天井に身を隠していた二人が下へと降りてくる。


アルフォス:「なんで俺らなんですか…」

ロイ:「まぁまぁ兄ちゃん、せっかく指名貰ったんだし頑張ろうよ、、」


アルフォスー多種武器の使い手であり元々は暗殺専門だったが偵察に長けていた為偵察班として活動している。


ロイーアルフォスの弟で戦闘は出来ないがサポートにおいては随一の団員である。


ロキシル:「以上が今回の依頼パーティーだ。依頼の達成と全員の帰還が条件だ…わかったな?」


一同が気を引き締め返事をした。


ロキシル:「神の加護あらんことを…頼んだ」


サンメルト:「どうかご無事で…。」


俺たちは依頼の場所、東に位置する水神の大陸オリタルにあるー"ロンブルク魔法国"ーへと向かう準備に入った……。



【王と亜人族の子供たち】へと続く…。

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