亜人村編

【王子の願い】【一】


デイン達の捜索依頼から二月(ふたつき)が経った……。

ノルンはロキシルが出したギルド入団試験を受ける事になり、この日ようやく息がつける日を迎えていたのだった…。


ロキシルが課す入団試験とは


・人体、その他種族の体の仕組みや生態を学ぶ試験


・各武器の扱い、その適正の試験


・各国の法学試験


・単独での依頼試験(ロキシルの選んだ異なる依頼をどれだけこなせるかを試される)

がありこの全てを達成する事が入団する条件になるのである。



ノルン:「はぁぁ~……やっと……終わった……。」


シオン:「ノルン!!お疲れ様!」


シオンはノルンを強く抱きしめる。

抱きしめられたノルンは苦しそうだったがその優しさに癒されるようにシオンに笑顔を向ける。


ノルン:「んん~!もう~くるしいよぉ~シオンンン……えへへ」


レイン:「ん〜人体、魔物、その他種族の生態学はほぼ高評価、武器の扱いはダガーが上級取得、その他はまぁまぁだが……」


ミリス:「でも鎖鎌(くさりがま)は中級じゃないの…!ここではシエルとアルフォスくらいじゃないかしら。」


突然レインの真横に来たミリスにレインは顔を真っ赤にしつつなんとか平常心を保つ。

それに気づいたミリスはクスクスと笑ってそんなレインを見つめる。


シオン:「法学難しかったでしょ!私も結構時間かかったもん~へへ〜」


ノルン:「シエルが一生懸命教えてくれたから良かったけど、最初まったくわからなかったからかなり焦っちゃった……。」


デイン:「依頼試験は……ほう…かなりすごいんじゃないか?依頼達成が二十のうち十八とは……よく頑張ったものだな……。」


ノルン:「潜入と毒殺だけ無理だった……」


デイン:「仕方ない、だがこれだけ達成出来たんだ、誇るべきだろう。」


ギィィィ……


皆:ん??


扉が開く音がし、皆がその方向へと首を向ける。

団長室からロキシルとイナンちゃんが出てくるとロキシルは申し訳なさそうな顔でノルンの前へと立った。


イナン:「ノルンさん全ての試験お疲れ様でした!本当はこっちが先なんですが……まったくロキシルさんたら、よく文句も無く受けてくれましたノルンさん。」


ロキシル:「ハハハッ……ノルンほんとすまなかった、ここ最近うちのギルドに入団する奴なんかいなかったもんだからすっかり忘れていた、にしてもほんとよく頑張ったな!当分はゆっくり休んでくれ。」


ノルン:「はい!ありがとうございますマスター」


デイン:「ん?誰か戻ってきたな」


酒場に繋がる階段からドタドタと降りてくる音が聞こえると戻ってきたのは疲れきった表情で息を整えるシエルだった。


シエル:「ふ〜、戻ったよ~……?、お!ノルン終わったのか!」


ノルン:「シエル依頼お疲れ様!ついさっき終わったよ!」


シエル:「よく、がんばったな…どこも怪我してないか?体調も悪くないかい?」


ノルン:「うん!疲れは凄いけど…怪我もしてないし元気だよ!…えへへ」


ノルン:ーもう、お父さんって昔からほんと心配しすぎ………ー


シエル:「良かった。……あ!イナンちゃん!はい、依頼報告書、今日だけで三件完了!」


イナンちゃん:「ありがとうございますシエルさん!

シエルさんも今日はもう依頼がないのでゆっくりしてくださいね?」


シエル:「いやぁ〜流石に疲れたちゃった!

イナンちゃんがそう言ってくれるなら休もうかな、ありがとう!」


シオン:「ねぇねぇ!せっかくだからノルンの試験達成のお祝いしてあげない?みんなで!」


シエル:「お!いいね~みんなでこの街ノルンとまわろう!」


ミリス:「いいじゃない!ノルンは大丈夫かしら?」


ノルン:「うん!大丈夫だよ!みんなが連れていってくれるなら、絶対行きたい!」


レイン:「ノルン、元気よく応えてるが街はかなり広いぞ?」


ノルン:「ふっふ〜ん、この期間で体力鍛えられたから大丈夫!!」


レイン:「お…おう、そうか…なら行こう」


疲れきった表情をしていた先程までと違い、目を輝かせ今すぐにでも行きたいと訴えかけるノルンにレインは少し驚いていた……。

ノルンは若いからとレインは心配していたがここ最近でかなり鍛えられた事にノルンに対する期待が上がっていく事の驚きと女だからと決めつけるのはいけないとレインは考えを改める。


レイン: ー良い顔つきになってんじゃねぇかノルン、俺も負けてられないなー


レイン:「まぁ、無理するなよノルン。」


ノルン:「うん!ありがとうレイン」


イナン:「皆様お気をつけて行ってきてください!」


ロキシル:「くれぐれも問題起こさねぇようにな?特にシエル!お前の事だからな?」


シエル:「はいは~い!わかってるって!んじゃっ、いってきまーす!」


ロキシル:「ったく…あぁ、イナンちゃんも今日は休んでくれ、いつもすまないね」


イナン:「いえ!お仕事大好きなので!、お言葉に甘えてゆっくり休みますね。」


ロキシル:「ほんと助かるよ。さて……俺は色々整理するかね~」

ロキシルは頭を掻きながらまた団長室へと戻って行った……。


ギルドから出ると皆で相談し、この街に詳しくないと言ったノルンにこの街を紹介する為一緒に街を観光する事になった。


ノルンに行きたい場所を聞きその目的の場所へとシオンとミリスがノルンを引っ張っていく。


そして一番始めに訪れたのは服屋だった。

数多くのドレスや服を取り揃えた街一番の店、

他所から来た者も必ず立寄ると言われる程名の知れた場所である。


シオン:「ここのお店凄いよね!オシャレだし下に着る服もすごくいいの!」


ノルン:「こ……こんなに……私選べないかも……あ!これすごくいい!可愛いぃ~!」


ミリス:「あら!これとかノルンにとっても似合いそうだわ!」


楽しむ三人を遠目に男三人は退屈そうにしていた。


シエル:「楽しそうだね~、俺は普段から服装変わらないからあんまり興味無いんだよね、アハハ」


レイン:「服であんなに盛り上がれるもんなのか……?なんかすげぇな……」


デイン:「俺にもよくわからん、女とは不思議なものだ……」


シエル:「あ、デイン…マキシスは?また鍛錬?」


デイン:「いや、用事があるといってどこか出掛けている。」


シエル:「そっか、夜には一緒に祝えたらそれでいいや!」


デイン:「そうだな、戻ってきたら伝えておこう。」


レイン:「お…次行くみてぇだぞ~」


シエル:「結構早かったね、急いで着いていかないと!」


服屋から移動し次は武器と防具が売っている鍛冶屋に来ていた。


次はノルン達が店を早く見終わり退屈そうにシエル達を待つ。


デイン:「レイン、この剣はどうだ?見たところこの剣を打ったのは恐らくかなり腕の経つ職人だろう……。」


デインの言葉に一人の若い職人が反応する。


若い職人:「お?あんたいい目してんな、こいつはロルコッツのドワーフが打った剣だ、ドラゴンの皮膚だって耐えるだろうさ。」


レイン:「ドラゴンの…皮膚にも……すまない、これを頂けるだろうか。」


若い職人:「あいよ!ちょっとまってな……」


シエル:「職人さん、ちょっとこの剣見てもらえるかい?錆びてるのか鞘から抜けなくて…アハハ」


ハディス達との戦闘で剣が抜けなかった事を思い出し

いい機会だからと職人に見てもらうことにし、剣をもう一人の職人に渡した。


年老いた職人:「ええ、少し見せてもらえますかな?」


シオン:「男って静かに買い物するよね……」


ミリス:「楽しいのかしら…?」


ノルン:「すっごく真剣だね…」


年老いた職人:「ふんふん…ん?!これは……」


シエルから渡された剣を見た職人は突然声に出来ないほど驚いた表情をする。

まじまじと剣の隅々を見て剣を持つ手を震わせた職人は眼鏡を指で持ち細かく目を通す……。


年老いた職人:「お…おい!ちょっと来てくれ!!」


若い職人:「あ?どうした…、今あそこのお客さんの剣を……お…おいこりゃ本物か!?」


年老いた職人:「お前さんこの剣をいつから……?!」


シエル:「いつからって…ずっと持ってるけど……」


若い職人:「あんたこれがもし本物だって言うならあんたはいったい……何者なんだ?」


シエル:「何者って聞かれても…ただの冒険者かな」


ミリス:「デイーン……まだかしらぁ~?」


デイン:「もう少し待ってくれないかミリス、すまない」


ミリス:「わかったわ~」


若い職人:「そ、そんな…この時代に存在しているなんて、信じられんが…あんたこの剣は銀狼(ぎんろう)の剣って言ってな…剣を打つ者なら知らねぇ奴はいねぇくらい、誰も打つことの出来ない剣だ、何百年も昔に魔族と闘った戦士の一人がこの剣を持ってたって話なんだが……恐らくもう生きちゃいねぇだろうな」


シエル:「ん〜なんで俺が持ってるんだろう……よく分からないけどそんな凄い剣なら大切に持っとくよ!」


若い職人:「す、すまねぇ!おれぁあのお客さん待たせてる!兄ちゃんまた機会があれば見せてくれ!」


レインの武器を整えに若い職人は走って裏へと入っていった。


年老いた職人:「あんた、この剣は絶対に手放すんじゃないぞ?、いいかい?この剣は強い悪を前にしたとき抜けると言われておる、まさに魔を断ち斬る剣なんだ…それ以外では抜けないと伝えられている。あんたにはきっとこの剣を持つ理由がある。なにかはわからんが、絶対にだ、わかったかい?」


シエル:「う、うん。約束するよ……。」


シエル:ーこの剣を持つ意味……か……ー


レイン:「シエル、こっちは終わったぞ?大丈夫か?」


シエル:「うん!もう大丈夫、行こうか!」


歩きながら自分がこの剣を持つ意味を深く考えた……しかし目覚めた時からずっと傍にあったこの剣は、ロキシルが自分に与えたものだと思っていた、しかし思い返せばロキシルからはこの剣についてなにも言われたことが無い事を思い出す。

なぜそんな凄い物を自分が持ち、いったい誰に与えられたのか…その謎だけが頭を埋め尽くす……。


ノルン:「シエル大丈夫?なんかすごい険しい顔してたけど……なにか心配事?」


シエル:「ん?ああ!ごめん!なんでもないんだ、ちょっと考え事してて、アハハせっかくのお出かけなのにごめんね……!」


ノルンは優しく微笑みー大丈夫ーと言ってくれた。

今はノルンの為に考えるのはよそうと、頭を軽くする。


ノルン:「わぁ……大きな建物……」


シオン:「ここがこの大陸で一番大きいって言われてる学校なの、主に魔法使いのね!」


ミリス:「"マーリナス国家魔法学園"ね、この国が出来た時に大賢者が建てたそうよ?まぁあくまで噂だけどね」


ノルン:「大賢者……私が知ってるのは"一人"だけかな……」


ノルンは門の中心にある男の像を見上げて

ー私が知ってるのは女性なんだけどねーと呟いた。


シオン:「大賢者か~、私達アサシンにとっては一番の天敵かも!」


ミリス:「そうね、確かに…出来ることなら敵にはなりたくないものね!」


シエル:「レインレイン、見て見て!なんか書いてある」


レイン:「んだよ……すげぇな、この学校物凄く昔に出来たんだな」


デイン:「創設者……王に仕えし大賢者マーリーン、俺の国にあった龍の騎士団の書にこの名があった気がするな…。」


レイン:「龍の騎士団か……俺も聞いた事はあるな」


シエル:「マーリーン……」


脳内に謎の空間にいた時のことを思い出す。

見ず知らずの男が言っていた言葉が脳裏をよぎった。


???:「これから先必ず大きな壁にぶつかる、その時は"リンリン"に会うんだ...必ずお前を助けてくれるはずだ...上手く身を潜めて生きてるのは確かなんだ、いいか?忘れるなシエル..."お前は一人じゃない"。」


シエル:ーリンリン……だめだ……なにも思い出せない、そんな人物に会った記憶も…いつ会ったのかすらなにも思い出せない……ここ最近、俺の周りでなにが起きてるんだ……俺っていったい…ー


ル……シエル……


シオン:「ねぇシエル?……大丈夫?」


シエル:「……え?ど、どうしたシオン」


シオン:「どうしたもなにも、シエルず〜っと上見てぼーっとしてたから心配で、みんな先行っちゃったよ?当分打ち合い休んだら?無理しすぎなんだよ…。」


シエル:「そうかも……しれないね、ごめんシオン…ありがとう。」


シオン:「私はなにもしてないよ?仲間だもん、心配して当然。」


シオンは頬を膨らませて怒った表情をしたがすぐににこっと優しく微笑み、ー"自分を大切にしてね" ーと一言言った後ノルン達を追いかけていった。


シエル:「今夜はゆっくり休もう……きっと疲れてるんだ……」


その後、一般民も入れる魔法学園内の書庫へと来ていた…。

広く、大きな書庫を見渡し、興奮したノルンは大きな声を出す。

ノルン:「ひろーい!こんな大きな書庫見た事ない!」


ノルンの大声にムッとしたのか険しい顔で管理人が近ずいてきた。


書庫の管理人:「オホンッ……んっん゛…静かにして頂けますかな?」


ノルン:「あ……ごめんなさい、、」


書庫の管理人:「あなた、初めて目にする方ですね、この学園にご興味あって?」


ノルン:「あ!いえ、珍しい書庫があるとお聞きしたので気になって……」


書庫の管理人:「そうでしたか、ではせっかくですので、私が歴史あるこの書庫についてお教えしてあげましょう。」


ノルン:ーえ……なんで!?ー


一方シエル達……


四方八方本で埋め尽くされた空間に囲まれ、普段とは違う異空間に珍しさを感じていた。


デイン:「久しいな、ここに出入りするのは。」


レイン:「デイン本とか読むのか??」


デイン:「まぁな、父によく読み聞かせて貰っていた。本は人の知識だからな、読んでいて多くを学べる。」


ミリス:「兄様は昔ずぅ〜っと本ばかり読んでたものね、まったく私と遊んでくれなかった思い出しかないから本は嫌いだわ…。」


レイン:「そ、そうなんだな……」


シオン:「シエルみてみて!この本しってる?」


シエル:「これは?ん〜読んだことないな、どんなの?」


シオンが棚から手に取ったのは【道化の王物語】と書かれた本だった。

この国の子供にはよく知られているらしく、一説ではこの国の歴史に関わりがあるとの事だった。


シエル:「へぇ〜興味深いね、この本ちょっと見てみようかな。」


シオン:「じゃあノルンにもみせてあげようよ!……ってあれ?ノルンは?」


一方ノルンはというと……


書庫の管理人:「創設者であられます大賢者マーリーン様は…………」


ノルン:ーぁぁぁぁぁ!!この人の話長すぎるよぉぉ……誰か助けてっっ!!ー


数十分後…………ー


書庫の管理人:「という訳なのです、以上がこの書庫の歴史となります。ご満足頂けましたかな?」


ノルン:「は……はひぃ……物凄く満足できました……」


書庫の管理人:「左様で、ではこの書庫をお楽しみください。くれぐれもお静かに……」


・・・・・ー


シオン:「…あ!ノルン!どこいって……たの?って大丈夫??」


ノルンに出会ってから初めて目にする疲れきった表情に俺とシオンは困惑した。


シオン:「あらら、可哀想に…そんな事が」


シエル:「よく最後まで聞いたもんだね、偉いよノルン……アハハ…。」


ノルン:「えへへ……もっと褒めてぇ……あ、ところでシオン私の事探してたみたいだけど、どうしたの??」


シオン:「あ!そうそう、ノルンにこの本知ってるか聞こうと思って」


ノルン:「【道化の王物語】?ううん、知らないかな、初めて見る」


シオン:「じゃあ読んであげるね、シエルも聞いてて!」


シオンは大きな本を広げると息を整えゆっくりと読み始めた。


これは遥か昔のお話・・・


ある大地にそびえ立つ、大きな大きなお城のある国がありました。

そんなお城にはなんと若い女を食べ、男を奴隷にして長く、それは長く働かせては民から恐れられ、支配している悪い王様がいました。


王は言いました「我に抗う者など、この大地には誰一人としておらんのだ!がっはっは!」


誰も王に逆らう事は出来ず民達は地獄のような毎日を過ごしていたのです。


そんなある日、突然お城の兵達が大きな声で騒ぎはじめました。


兵は叫びます「大変だー!大変だー!」

街の民達は何事かと心配になり、外へ出てお城を見ました、すると突然お城の頂上から大きく笑う声が聞こえてきたのです。


「ハッハッハッハッ!!さぁ民よ!踊れ!騒げ!歓喜せよ!王の首はここにある!さぁ踊れ!騒げ!」


驚くことに大きく笑う者の手には王の首があったのです……。


王の死に民は喜び、街中が騒ぎだします。


兵は怒ります「静まれ!静かにせんか!」

怒鳴る兵に民は抗い石を投げる者もいました。


するとお城の扉が開き、中から若い男と四人の騎士が出てきました。


男は言います「剣を捨て降参しなさい、抗う者は抗ってみなさい。」


その言葉を聞いた兵達の中に抗う者は一人としておらず、揃って剣を捨てその者達に膝を地につけ降伏したのです。

それに続いて民も地に足をつけ、その者達にひれ伏しました。


そして男はこう言ったのです。

「頭をあげなさい、この国の民は救われたのです。もう苦しまず笑って過ごしなさい」と……。


それからというもの国は益々(ますます)良くなって賑わい、民達が安心して暮らせる王国となっていったのです。


そんなある日、国の皆で集まり、全会一致で若い男をこの国の王にすることにしたのです。


若い男は毎日のように民に優しく接し、楽しそうに笑っていました。

そんな姿を見て民たちはこの人なら……と誰一人として反対する者はいませんでした。


民の代表が若い男に告げます。

「この国の王となってくだされ、それがこの国の者たちの願いです。」と


若い男は言います「私が王になるならこの国をどこよりも大きくしましょう、多くの民をこの国へと呼び、皆で富を築こう。」

その言葉に民達は涙を流し、互いに皆喜んだのでした。


その日の夜、王となった男は宴を開きます。


皆、笑って踊り、酒を飲み干しました。


民と騒ぐ王を見て小さき子が言います「王様はまるで道化さん!いっぱい笑って泣いて怒って、不思議だね」


それを聞いた王は大きく笑いこう言います

「アハハッ!では私は道化の王だ!」

その言葉を聞いた騎士達も共に笑い、民も一緒に一晩中笑いあったのでした……。


王は大笑い、嬉しかったのか民たちに王はこう言います。

「私は皆がずっと笑えて暮らせるようこの国の道化でいよう!そして悲しむ時は共に悲しもう」と、


そしてその名は瞬く間に知れ渡り、大きな影響を及ぼしていったのです。



そして道化の王様は毎日毎日、民達と幸せに暮らしていくのでした……


・・・・・・パッタ……


読み終わったシオンはゆっくり本を閉じる。


シオン:「ってお話なの」


シエル:「こんな本があったんだ、知らなかったや」


ノルン:「本の絵に描かれた王様、紅髪だけどシエルみたいに髪は長くないね!」


シオン:「シエルのお父さんだったりして!」


シエル:「お父さんか!だったら嬉しいかな、アハハ…」


本を読み終わり二人と話していると静かにゆっくりと管理人が背後から近づいてきた。


書庫の管理人:「おや?あなた達、珍しい本をお読みで?」


ノルン:「管理人さんこの本って誰が描いたんですか?名がどこにも書かれてないんですけど…」


書庫の管理人:「その本を描いたものは分かっておりません、一説では別の世界から来た旅の者が描いたと云われていますが…。」


シエル:「でも、書かれている文字はこの国の文字ですよ?」


書庫の管理人は軽く笑い本を手に取った。

書庫の管理人:「これはこの国の書記が描いた本人から事の意を聞き書き写した複製本です。

ですのでこれは本物の暦書では無く物語になっています。ですが、せっかくですので特別に拝見されますかな?」


シオン:「え!?本物があるんですか!?」


書庫の管理人は鋭い目付きで静かにするようシオンに目線を送る。


シオン:「あ…エヘヘごめんなさい……。」


書庫の管理人:「んっん゛……ではご案内しても宜しいですかな?」


俺たち三人はーはいーの二つ返事をし、案内してもらう事となった。

厳重に管理された部屋へと来た俺たちはその部屋にたった十数冊の本しか無いことに驚く。


ノルン:「あれだけ本があって、ここにあるのはたったこれだけなんて、ここにある本はそれだけ貴重って事?」


書庫の管理人:「えぇその通りです。ここにある物は"外に出してはいけぬ物"ばかりですので、本来は誰も入れないのです。」


シエル:「?……じゃあ俺たちをどうして中に?」


書庫の管理人:「なぜでしょうか、私でも不思議ですが、あなたを一目見た時なぜかそうせねばならぬと意志が勝手にそうしたのですよ。ふふっ…まぁあまり気になさらないでください。」


管理人は一つの本を手にし俺達に手に取るよう渡してきた。


書庫の管理人:「この文字はまだ誰も解読出来ていないのです、貴方はこの文字が読めますか?」


シエル:「え〜と、なんだろうこの文字、不思議だね?」


本には見た事のない文字が並んでおり、読めないと思ったがなぜか自然と気づいた時には口に出して読んでいた。


シエル:「失った王の真実を私がここに記す。

著者【柊 亜留兎】……」


ノルン:「ヒイラギ、アルト??どこの人だろう、珍しい名前だね?」


書庫の管理人:「私の目に狂いは無かった……これを読んだのは貴方ともう一人、この街へとやってきた冒険者もこの文字をすらすらと読み始め驚いていました。」


シオン:「シエルって古代文字読める程博識だったんだ……」


書庫の管理人:「いえ、古代文字ではないのです。研究を重ねていくうち、この世界のものでは無くこれは異界の文字であるという結論になったのです。」


ノルン:「ってことは、この世界のどこにも存在しない文字って事?」


書庫の管理人:「えぇ、最初は龍神族のモノかとも考えられましたがそれも違ったと言われています。」


ノルン:「この本を読めば……なにかわかるのかな……」


書庫の管理人:「紅髪の貴方、最後まで読めますか?」


シエル:「あ、あぁ…読めるよ、ーこの国の王に何があったのか、全てをここに記す。四騎士を従え、龍の騎士団が仕えし王の名を忘れないでくれ王の名を……ヴェル……」


コンコンコンコンッ!


突然誰かが扉を強く叩く、すると管理人を呼ぶ声がし扉を開けた。


書庫の管理人:「どうなされたのです?そんな急いで……。」


若い女性:「学長がお呼びです。至急学長の元へお願いします……ハァ…ハァ……。」


書庫の管理人:「申し訳ありません。またの機会にしましょう。」


シエル:「いえ、大丈夫ですよ!また時間ある時に来ますから!アハハ……」


そのあとすぐ部屋から出てデイン達と合流し、事の説明をデイン達にしながらまた街を案内した……。


デイン:「惜しい事をした……その場に俺もいれば……」


シエル:「また一緒に顔だそう、その時はデインも入れてもらえるよ!」


デインは余程悔しかったのか、ー次は必ず頼むーと真剣な眼差しで伝えてきた。


ミリス:「レイン久々に一緒に出掛けれてとても楽しかったわ!貴方と街を歩くことなかなかないものね」


レイン:「あぁ、ものすごく有意義だったよありがとうミリス。」


ミリス:「そう言って貰えてとても光栄だわ。」


シエル:「たっだいまぁ〜!」

日も暮れ、酒場へと戻った俺たちは丁度良くマキシスと合流し、そのままノルンの祝杯を上げ部屋へと戻っていった……。


ノルン:「今日はありがとう、シオン!ミリス!」


シオン:「今日は三人でお泊まり会!色々話そ!」


ミリス:「シオンの部屋はいつ来てもいい匂いがするわ、こんなボロ部屋が城内の様に感じるわ!」


シオン:「え〜?大袈裟(おおげさ)だよ〜」


一方……シエルー


頭の中で色んな事が回り回っている……

ここ最近の襲撃やノルンとの出会い、そしてユウトや

レインと出会った時の王の言葉……そして暦書に記された名……なんであの複雑な文字を読めたのか自分でも分からなかった。

過去に読んだ覚えも、学習した訳でも無い……

にも関わらずあの本を読むことが出来た。

俺ともう一人、あの本を読めた冒険者って……いったい誰なんだろう……と考え事で頭を埋め尽くされ、

気づくと深い眠りに落ちていた……。



【王子の願い】【二】へ続く……

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