番外編〜ある日の依頼〜【動き出す者たち】
アイリーンから調薬された万能薬を受け取り、ユウト達を見送ったあと、ペトルと共にギルドへと戻ってきていた。
ペトルと手を繋いで階段を降りていると、自分が父親になったような気持ちになり、無意識にペトルの頭を撫でていた。
シエル:「どうだった?ペトル…楽しかったかい?」
ペトル:「うん!!すっごくたのしかった!!」
シエル:「良かった!後はここで俺と約束をして俺とはお別れだ…ペトル。」
ペトル:「ばいばいしても…シエルおにぃちゃんもまたあそんでくれる?」
ペトルの問いにどう答えていいか分からなかった…だが自分の感情とは嘘をつかないものだと不思議と思い知らされる。
シエル:「もちろん!俺とペトルはもう仲間だからね!また会う時まで、元気でいるんだぞ?」
この言葉は決して"嘘ではない"…そう自らの心に念じた。
いつも思う事がある……。
こうして自分達アサシンに対し誰とも変わらない接し方 をしてくれるペトルやクラノース村の人達……この関わりを無くしたくはないと、だが"秘密"という物は必ずバレる、誰かからは思い出せないがそう教わった事だけは覚えている。
もし俺たちアサシンとの関わりで大切な誰かを失うのであれば、慕われようが愛されようが関わりを絶つしかないのだと現実を受け入れるしかない……。
この国がアサシンを厳しく禁忌としているのは、要らぬ争いを避ける為というのは嫌という程わかっている。
しかし、やはりその事に納得出来ていない自分自身に
こういう時どうしていいのかと答えに迷いが出てしまうのだった…。
ペトル:「うん!ぼくはずっと、ずぅ~っとげんきだよ!!」
しかしそんな考えなどどうでもいいのだと、この瞬間のペトルの表情に自分の言った言葉は間違っていなかったんだと素直に受け入れることができた。
しかし階段を降りギルドへ着いた時、自然とペトルの手を離しイナンちゃんへと声をかける。
シエル:ーだめだ……でもだめなんだ……俺の我儘(わがまま)で犠牲を出すくらいなら、ここでケジメをつけろ……ー
シエル:「ただいま!イナンちゃん!」
ペトル:「ただいまぁー!」
イナン:「シエルさん!ペトルくん!おかえりなさい!」
こんな辛い気持ちでも、依頼から戻るといつも素敵な笑顔で迎えてくれるイナンちゃんは何度見ても心が浄化されたような気持ちになってしまうのはとても不思議な気分になる。
この時の為に依頼を成功させていると言っても過言ではないほどに…。
シエル:ーあぁ…この笑顔…守りたい。みんなこうやって自然に笑えるように…なればいいのに…手続きが終わるとペトルはまたいつもの生活に戻ってしまう…でも俺にはまだどうする事もできない、この現実がいつも俺を苦しませるー
イナン:「…?シエルさん大丈夫ですか…?」
シエル:「…?!う、うん!大丈夫!アハハ!」
イナンちゃんは突然受付から出てきて小声で話しかけてきた。
イナン:「シエルさん、無理に笑おうとしなくていいんです。寂しいのは私もですから…えへへ、見てくださいペトルくんの満足そうなあの表情を、シエルさんはまた三人救っただけじゃなく、一人の子供をあんな笑顔にしたんです。今はそれを喜んでくださいね…!」
イナンちゃんの声を間近で聞けて耳が幸せだったが、そんな事より、イナンちゃんは自分が思っていたより
ずっと、いつも気にかけてくれていたんだということに、とても嬉しい気持ちになる。
こうやってイナンちゃんが少しづつ大人になっていく姿を見ていると酒場の店主には申し訳ないが喜ばしく思う他ないと親のような気持ちでイナンちゃんを見てしまう。
イナン:「それでは!ペトルくんここに名前を書いてくれるかな?」
ペトル:「うん!わかった!このたくさんのもじはなんなの?」
イナン:「それはね、私たちとのお約束をちゃんと守ってね!って書いてあるの。」
ペトル:「うん!ここにきたことも、シエルおにぃちゃんとたんけんしたことも、ぼくだけのひみつにするよ!!」
イナン:ーシエルさん、しっかり名前まで覚えてもらっちゃって…よほど楽しかったんだろうな~ー
イナンは無言でシエルに視線をおくった。
シエル:ーいやぁ~イナンちゃん……そんな見られると恥ずかしいなぁ~アハハ…ー
ペトル:「はい!かけたよ!」
イナン:「ありがとうペトルくん、それじゃ手に入れたお薬をおとうさんとおかあさんに飲ませてあげてね。」
シエル:「一人で戻れるかい?ペトル…」
ペトルは少し悲しそうな表情をした後、またにっこりと笑い無言で頷いた。
シエル:ーなんだ…気づかないうちにペトルは少し成長してたんだな、なんか感慨深いな…ー
その後ペトルは決して振り返ることなく階段を上り酒場の扉から戻って行った……。
シエル:「ふぅ~、色々あったけどなんとか無事依頼達成したや!あ!そういえばイナンちゃん、報酬は?」
イナン:「あ!そうでした!はい、シエルさん!」
イナンちゃんから渡されたペトルの報酬は決して想像出来るものではなかった。
ペトルの宝物はペトルが産まれた時に親が渡したであろうペトルと親の名前が入った綺麗な宝石のペンダントだった。
イナン:「どんな辛いことがあってもペトルくんの親御さんはペトルくんにとっての宝物なんですね…。素敵なお話だと思いませんか?」
シエル:「あぁ、ずっと大切に育てられてきたんだ…あれだけ必死に助けようとする意味がようやくわかったよ。これからは俺が大切に身につけるとするかな!」
イナン:「なくしちゃいけないんですからね?なくしたら怒ります!」
シエル:「イナンちゃんの怒った姿も見てみたい気はするけど~絶対なくさないよ、大丈夫。」
イナン:「私との約束です!」
シエル:「あぁ、約束する」
ギィ~……
シエル・イナンーん??ー
保管庫から出てきたのは誰かと思いきやロキシルだった、ロキシルは眠そうに頭を掻きながら大きなあくびをしていた。
ロキシル:「おぉ、戻ったかシエル……どうだった?初の子供からの依頼は。」
シエル:「いろいろ学べた気がするよ!こんな国でも、みんな…強く生きてるんだ。」
ロキシル:「そうか…いい事を学んだな、その事を忘れず、これからも依頼に励め?てなわけで!早速だが~、打ち合い行くぞ?」
シエル:「はぁ~……はいはい、わかりました~」
イナン:「頑張ってください!シエルさん!」
シエル:「うん!余裕だよ!えへへ!」
イナン: ーそうやって無理して笑って……もう、馬鹿な人……でも…そういうどんな時も優しい笑顔を向けてくれるあなたに、私は憧れてしまうんですよ……シエルさんー
イナンはロキシルと共に階段を上がっていくシエルに
優しい視線をおくっていた……。
ペトル:「ただいまぁ~!」
・・・・・同日
アルラーク大陸北部にあるー"デイモアール帝国"ー
城内……。
大きな玉座に手を掛け座る皇帝がそこにいた……。
名を"デズラエル・アスモ・デイモス・アズバン・デイモア皇帝"
アルラークとその他の大陸の数国を支配し、頂点に君臨する者。
大臣:「デイモア様、各国から"王会"への承認がとれました…如何(いかが)なさいますか?」
デイモア皇帝:「不参加国は……」
大臣:「ふ…不参加国ですか……そ、その……」
デイモア皇帝:「不参加国はと……聞いておるのだ……」
大臣:「ははははいぃぃ……ふ…不参加の国は以前と同様、サミシュティア精霊国……ロンブルク魔法王国、ドラグラス竜帝国……以上の三国です……。」
デイモア皇帝:「ふっ……馬鹿な精霊共と竜王共などどうでもよい、ロンブルクか……よくも堂々と断れたものだな……まぁいい……風が吹けば吹き飛ぶような小さき国、気にする必要もなかろう……」
大臣:「すでに参加国には王集状(おうしゅうじょう)を手配しております。期限は…どうなさいますか?」
デイモア皇帝:「二月(ふたつき)後だ……我が王となった日にしようではないか……フハハハハッ!!!」
大臣:「ははっ……あははは……」
デイモア皇帝:「なにが可笑しい……?申せ……なにがそんなに可笑しかったのだ……?」
大臣:「……い…いえ……な…なな…なにも可笑しくなど……ご…ごご……」
デイモア皇帝:「我を笑うか……よいぞ……死して尚笑うがいい……」
大臣:「……へ……?」
ブゥゥゥ……ン………グッジャァァァ……
大臣の体が一瞬で吹き飛び、辺り一面に血がひろがっていた。
デイモア皇帝:「穢(けが)れておる……あぁ…神よ……」
・・・・・それから二日後
参加国に王集状が届き、各国の王が王会に参加するべく、
デイモアール帝国へと向かう準備に入った……。
王集状が出されたその日・・・・
ーサミシュティア精霊国にてー
この国を代表するエルフの女王"サミリュエル"、
大精霊"シルフィール・ロイティア"は生命(いのち)の間で話をしていた……。
サミリュエル:「大地が騒いでおるな…今回の王会、なにか妙だ……。」
シルフィール:「人族はまだ争うのですね……どうしてなにも学ばぬのでしょうか、あのお方が姿を消してからもう100年は経ちます、そんな中私たちの前にあの娘が現れた……。」
サミリュエル:「ノルンは無事辿り着けただろうか…」
シルフィール:「きっと大丈夫です。あの娘はあのお方に似てとても強い意志を持っていますから、最初見た時はそれは驚きましたが、まさか娘(むすめ)だとは……」
サミリュエル:「ノルンは私たちの"未来"だ…"運命を背負いし者"……必ずあの方に会って貰わなければ。」
シルフィール:「恐らくですが、今回の王会であのお方の存在を誰かが口にするはず…皇帝はそれを恐れている。」
サミリュエル:「かつて……というより今も尚あの方以外成し遂げた事の無い"楽園(エデン)"を築き上げたのだからな、あれこそまさに革命と言えるだろう。
この世界でたった一人…アサシンでありながら王冠をその手にし、"道化の王"と呼ばれ、悪に恐怖を…救いを求める者達には大きな優しさを与えたのだ…。」
シルフィール:「ですが今では龍の騎士団の存在すらどうなったか…大賢者様も今どこで何をされているのか私にもわかりません」
サミリュエル:「あの時……いったいあの方やあの者達になにが起きたというのだ……どうか…この世界に再び楽園(エデン)を…戻ってきてください……主よ」
一方…ある建物内では・・・ー
エレボロ:「ハディス、なんか騒がしいが~なにかあんのかぁ~??」
ハディス:「知らん…俺達には関係無いことだろう。」
バァッァン!!!
ベルザスが壁を強く殴るー
ベルザス:「クソッ…クソッ……クソォォォ!!!」
エレボロ:「おいおい~んだよあの馬鹿はよ~、あんな怒ってばっかの奴だったか?お前よくあんな奴迎え入れたな~」
ハディス:「俺が迎え入れた訳じゃない、"あの依頼主"が無理やり入れたんだ……俺はあの野郎を仲間だとは認識していない…。」
エレボロ:「そうかよ……まぁ俺もだけどな~」
ハディス:「……?帰ってきたか……」
突然ハディス達の前に三人の姿が現れた。
???:「はぁ~~疲れたぜ~」
??!:「姉ちゃん!姉ちゃん!さっきの女美味かったな!な!?美味かったよね!」
?!!:「あんた……うるさいよ……」
エレボロ:「よぉ~三姉妹ぃ~お疲れのところわりぃ~んだが、お前らにまた仕事が入ったぜ?お前らだけにだ」
???:「なんだい?最近妙に忙しいじゃないか、お前らはボコボコにされてやる気なくしたのか?ガキの頃の方がよっぽど元気だったぜ?」
ハディス:・・・・・
エレボロ:「おいおい~傷を掘るんじゃ~ねぇよ、あいつあぁ見えても傷ついてんだ…あんま言うなって」
??!:「ああ!また隠してた!ベロラも食べたい!!」
?!!:「いゃ~……これはケルラのぉ~……ベロラはさっき全部食べたじゃん……」
???:「こらっ!ケルラ!ベルラ!ちょっと静かにしててくれ。」
ケルラ・ベルラ:「はぁ~い……」
???:「あんたら本当に"先生"にあったのかい?」
エレボロ:「ん~、まだわかんねぇんだよ」
ハディス:「間違いない……あれは先生だった……だが俺達の知ってるあの人ではなかった……どこか妙なんだ。」
ドゴォォッ!!バゴォォォン!!
壁を殴るベルザスに腹を立てた???は強くベルザスの首を掴み、宙に持ちあげた。
???:「てめぇよ…今大事な話してんだ、黙らねぇと殺すぞ!!」
ベルザス:「ヘヘヘヘ……へへへへへへ!!殺れよ、殺れんならな……」
???:「チッ……いつか殺す」
エレボロは無言で闇の壁を張った。
???:「最初からそうしろ!馬鹿!」
エレボロ:「エハハッ!すまねぇ~」
???:「ったく、なにか分かり次第知らせてくれ…ハディス……あんた…もし先生だったら、殺すのかい?」
ハディス:「……あぁ……」
???:「そうかい……?そういえばヨルムはどこなんだい?」
エレボロ:「あいつはいっつも勝手にどっか行くからな~、別にそこのお兄ちゃんは心配してねぇしいいんじゃねぇか~?」
???:「ったく……で?その次の仕事は……?」
・・・・・
亜人村編ー【王子の願い】へ続く・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます